スーパードクターU   作:黒い平方四辺形

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命の番人・その後

●戦後処理

 

一也を抹殺するために日本にやってきていた命の番人の信者らは全員が捕えられ、

重傷だったバレリを除き、すべて犯罪者としてすぐにロシアに送還された。

ただし信者の大半は物理で制圧されているのでまずはだいたい病院行きである。

帝都大学を襲撃した4人のみ精神病院へ行くことになった。

バレリも体が回復次第送還される予定。

いずれもロシア本国で司法に基づき処罰を受けることとなるだろう。

 

ICUに移されたバレリを見ながら、Kとジリノフスキが話をしていた。

 

「バレリは回復次第ロシアに送還するが…

ビクトルを引き続きこちらで治療してもらえるのはありがたい」

 

「しかし教団は全滅したわけではない…まさかこれで終わりではあるまいな?」

 

「当然だ!ロシア当局は本日未明、命の番人に対し一斉摘発に踏み切った!

テロ集団ゆえ特殊部隊が突入したのだが…しかしその必要はなかったようだ」

 

「どういうことだ?」

 

「部隊が突入した時には内部は破壊されており…

さらに教祖やその幹部は既に拘束されていたのだ」

 

「拘束…?いったい誰がそんなことを…」

 

「幹部たちが言っていたそうだ。『黒いマントを羽織った東洋人が』…とな。

ロシア当局はその東洋人には関知しないことを決定した。

いったい何者だったのか…もしかしてドクターK、お前の知っている男…かな?」

 

「オレの知っている男…?まさか…!」

 

Kがそれが何者か考えると、想像できる余地はほとんどなかった。

高い戦闘能力を持ち、黒いマントを羽織った東洋人。

クローンに関わる情勢を知りえる可能性のある人物。

それはおそらく、かつて村井と同じクローン組織に所属し、

しかし行方の知れなくなっているあの男だろう。

 

「親父…生きていたのだな」

 

Kは遠くを眺めながら、別れた父に思いを馳せる。

生きているのならば、いつかきっと会える日が来るだろう。

 

 

 

 

●KAZUYAのAI、人気

 

 

・一也との出会い

 

 

KAZUYAのAIは帝都大学、磨毛の館にあるウマレーターエンジンを使ったコンピュータ内にいる。

一也は磨毛に許可を取り、KAZUYAのAIに会いに来た。

一也がVR内に入ると、読書をしているKAZUYAの姿が見える。

KAZUYAがこちらに気づくと本を畳み、立ち上がった。

 

「KAZUYAさん…なんですね?」

 

「来たか…一也。久しぶりだ、随分と大きくなった。

と言っても、お前はオレと会ったことを憶えていないそうだな」

 

「はい。オレがあなたに預けられたことがあるというのは母に聞いていたんですが…

ちょっと記憶に残ってなくて。すいません」

 

「フッ、あの時のお前は物心がつくかどうか位の年齢だったから仕方あるまい。

あの時は驚いたぞ、麻純が急にお前を連れてきて、しかもオレを父だというんだからな。

お前がオレのクローンだとわかるまでは何事かと思ったものだ」

 

「そ、その節は母が申し訳ないことを…」

 

「気にするな、麻純なりの考えがあってのことだ。

オレも死ぬ前にお前の顔を見られてよかったと思っている」

 

死ぬ、という言葉に一也が反応する。

 

「KAZUYAさん…あなたはKAZUYAさん本人ではなく、それを模したAIなんですよね?」

 

「ああ、オレは磨毛の作ったプログラムだ。

前にイカロスで問題が起こった時、お前も近くにいたろう?その記憶もある」

 

 

 

【イカロス】

磨毛が開発した医療支援ロボット。

高精度のカメラと操作性の高いロボットアームを使用することで、

手で行うよりも遥かに精密な動きを可能とする。

目的は医療における地域格差をなくすことであり、

高い精度で遠隔操作による手術が可能。実用化直前までいったが、

地域格差があることで儲けを得られる業界からの妨害を受けて白紙になった。

このイカロスには操作支援用のAIが組み込まれており、

それが他でもない、KAZUYAを再現したAIである。

 

 

 

 

「ええ…。あの時磨毛先生はAIの改良に向けて、KAZUYAさんの趣味とか好きな食べ物とか、

そういった人間的な情報もインプットして本物のKAZUYAさんを目指すと言っていましたね。

それが実を結んだというわけですか」

 

「それはそうなのだがな…オレが生まれた経緯は磨毛の力だけではない。

あいつが作ったAIをこのウマレーターにインプットした時、

何か不思議なことが起こり…そしてオレが生まれたのだ。

まるで人間そのもの、磨毛もプログラムしていない動きと記憶を持つ。

それがオレ、西城KAZUYAのAIだ」

 

「磨毛先生も知らない記憶を…!?いや、確かに…

オレとKAZUYAさんが会った時の話なんて磨毛先生が知るわけがない…!」

 

「このウマレーターと言うのは不思議な世界のようでな。

トレセン学園では三女神のAIがオレのようにウマレーターの中で生きている。

彼女らはVR内に突如出現した、誰が作ったわけでもなく生まれたAIらしい。

彼女らも同じことを言っていたのだが、オレがこのVR世界に生まれる時…

何かの『魂』のようなものを継承したような記憶がある。

きっとそれは西城KAZUYAの魂だったのだろうな…」

 

「KAZUYAさんの…魂ですか」

 

「だからオレはお前と会えるのを楽しみにしていたのだ、

KAZUYAがお前の成長を楽しみにしていたからな。

遺伝情報は同じでも、オレと違って優しい者たちに囲まれて健やかに育ったお前がどう生きるか、

オレがもしも違う人生を歩んでいたらどうなるか…それを見せてくれるのがお前だ。

一也、お前はKAZUYAではなく『黒須一也』だ。お前の生き様を楽しみにしているぞ」

 

「KAZUYAさん…。任せてください!いつかオレもKAZUYAさんやK先生…神代一人先生のように、

ドクターKと呼ばれる医者になって見せますから!」

 

「頼んだぞ、現実の世界のことはお前に任せ、オレはこのVRの世界で生きていく。

磨毛が言うにはこれから後輩たちへの指導者になってくれと言う話だからな。

そうだ、一也もちょうど在学中か。オレが教える機会があったらしごいてやるから覚悟しておけ」

 

「ちょ…お手柔らかに頼みますよ?KAZUYAさんがどれだけ厳しく育てられ、

どれだけ激しい人生だったかはオレも知ってますからそれを基準にされると…」

 

それから一也とKAZUYAはしばらく談笑をした。

KAZUYAがどのような経験をしてきたのかを聞くのは、一也にはとても興味深いものだった。

KAZUYAも自分とは全く異なる人生を歩んできた一也の話を聞くのは、

たまらなく楽しい時間だったようだ。

さらにKAZUYAはVRの操作に慣れてきたため患者の像を出現させてオペの説明をしたり、

途中からは医学の勉強会のようになってしまった。

 

「ふう…話し込んでしまいましたね。そろそろ帰ろうかと思います」

 

「そうだな、オレはいつもここにいるから用があったらまた会いに来るといい」

 

「そうですね。でもしばらく会えないかな…。

実は今回の事件のことでちょっと思うところがありまして。

オレがどういう存在なのか、じっくりと考えてみたいと思うんです。

母の体が回復したら、少し旅に出ようかと思っています」

 

「旅…か。それもいいものだ。知らない環境を見て回ることはきっと大きな経験となるだろう」

 

「はい、オレもKAZUYAさんや一人先生のように、患者を待つのではなく、

患者に向かっていくような医師になりたいと思っています!」

 

「フ…そういうところはオレと似ているのだな。それとも神代一人の教育の賜物か。

これからの活躍が楽しみだ…。」

 

KAZUYAは遠くを見つめて感慨深そうに言った。

 

「一也、別れる前に一つ言っておこう。オレは、オレ自身の認識では完全にKAZUYA本人だが、

そうはいってもやはりAIであり、西城KAZUYAと別人であることに変わりはない」

 

「は、はい」

 

「だからオレと一也は同じような存在なのだ。

一也はKAZUYAの肉体的遺伝子(ジーン)を受け継いだクローン。

そしてオレはKAZUYAの文化的遺伝子(ミーム)を受け継いだクローンだ。

オレたちの関係をなんと表現すればいいのか難しいところだが…

そうだな、オレたちは『戦友』だ!これからも共に患者のため戦っていくぞ!」

 

「はい!」

 

KAZUYAが差し出した拳に、一也も拳を合わせる。

KAZUYAがほほ笑むと、一也は一礼をしてVRからログアウトした。

ログアウトした一也は、体を起こしながら先ほど合わせた拳を眺めた。

 

「KAZUYAさん。文化的遺伝子で言うならば…あなたはオレの父ですよ」

 

KAZUYAのAIは本人そのものではないが、本物同様の意識を持っている。

医師としての矜持も本物であり、一也は改めてKAZUYAのようになりたいと決意をしたのだった。

 

 

 

・K、KEI、大垣、磨毛一行

 

 

K、KEI、大垣は磨毛に誘われてKAZUYAのAIに会いに来た。

KAZUYAのAIが誕生した時に磨毛とは会話をしているため、

磨毛以外の3人の顔をじっくりと眺めている。

 

「やあKAZUYAくん、色々連れて来たよ。

懐かしい顔と新しい顔だ、存分に眺めてくれたまえ」

 

「磨毛か、連れて来たのは…KEI、久しぶりだな。

随分と落ち着いた雰囲気になったものだ。磯永とはうまくやっていけてるか?」

 

「これ本当にAIなの?まさに兄さんそのものだわ…!

大丈夫、私も幸司さんも元気よ」

 

 

KAZUYAは次にKへと話しかけた。

 

「お前がもう一つのKの一族…神代一人か。

オレの代わりにドクターKを継いでくれたそうだな。感謝する」

 

「いえ、私はKの一族のバックアップのようなものですから。

ずっとあなたのことは知っていました…お会いできてうれしいです」

 

そう言ってKが差し出した手を、KAZUYAも握りしめた。

固く握手を交わす2人。固く固く握手を…

 

「ぬぬぬ…」

「ぐぐぐ…」

 

KとKAZUYAはものすごい握力で互いに握り合う。

同じドクターK、同じような体格と見た目、負けられない戦いがそこにあった。

 

「やるな神代…!Kの名を継ぐだけのことはある…!」

「さすがですKAZUYAさん…!伝説の医師の名は伊達じゃない…!」

 

「兄さんたち何やってんのよ!?子供みたいなことをして!」

 

結局、決着がつく前にKEIが2人を引き離した。

 

 

最後に軍曹こと大垣。

 

「よーおKAZUYA!AIっつっても本物にしか見えねえな!

ここまで本物そっくりだとスワンプマンって奴みたいだぜ」

 

「ふむ…新しい顔と言うのはこの方ですね。

お名前は何というのですか?」

 

「おいコラ!わかってるくせにとぼけてんじゃねえよ!」

 

「ハハハ。申し訳ありません、柳川先生!」

 

「ちげーよアホ!!オレは大垣だ!みりゃわかんだろ!」

 

「フフッ、すいませんつい。軍曹はちょっと老け込みましたね」

 

大垣は少し前から舌癌治療のために抗癌剤を使い、その副作用で頭がハゲてしまっていた。

さらに近ごろは医師連の仕事が増え、その疲れからか髪も白髪が多い。

 

「オレも癌になっちまったからなァ。まあ重症じゃなくてよかったけどな。

オレもお前も磨毛も、みんな癌になっちまって困ったもんだぜ。

現代ではやっぱり癌との戦いを考えて行かないとだな」

 

 

一通り顔を合わせ終え、雑談を始める一行。

 

「それにしても本当に完璧に兄さんそのものね。

磨毛さんが言っていたけれど、記憶も兄さんそのものなんですって?」

 

「そうだよ。僕が入れてない情報も普通に知ってるからね。

サトノ家が言うにはウマレーターに秘められた不思議な力によるものだって話さ」

 

「どうやらそうらしい。ちゃんと思い出せるぞ、KEIがグレていた時のことや、

軍曹が結婚する前は診療所でどんな感じだったかとか…ムグッ」

 

 

KEIと大垣は自分の黒歴史を持ち出され、慌ててKAZUYAの口をふさいだ。

 

「兄さん、余計なことを言うならその口を縫合するわよ」

 

「KAZUYAよ、おめえもオレと同じ髪型にしてやろうか?」

 

「ム…ムググ…」

 

KAZUYAがギブアップだとタップし、ようやく2人が離れてくれた。

 

「ブハッ!ハァ、フー…と言うわけでだ。

オレはKAZUYA本人ではないが、KAZUYAの魂を継承したような存在だ。

本人として扱ってくれなくても構わないが、オレのやるべきことをやりたい。

磨毛とは話してあってな、オレはこれから帝都大学の教育の一環として、

このVR空間を利用した手術練習などの指導に当たろうという話になっている」

 

「いいだろ軍曹?医療技術もKAZUYAくんそのものだったよ。

現実世界に出られない彼が最も活躍するのは教育の分野だと思うんだ」

 

磨毛とKAZUYAの提案に、大垣も賛成のようだった。

 

「なるほどな、オレは構わねえぞ。今度の会議で提案してみるわ」

 

「現実の方は軍曹や磨毛、KEI、そして神代。生きている人間たちに任せよう。

蘇ったオレが言うのもなんだが、人間はやはり生きてこそだからな」

 

話を静かに聞いていたKだが、少し疑問を感じたらしく尋ねた。

 

「あの。KAZUYAさんはAIなんですよね。

それならば先日のイカロスのような医療ロボットに入れば、

現実でも活躍できるのではないですか?」

 

Kの質問には磨毛が答えた。

 

「あー、それね。もちろん僕もそれは考えたんだけどさぁ…ダメなんだよ」

 

「ダメ?」

 

「このKAZUYAくんのAIは生まれが特殊すぎるのか何なのか…コピーとかができないんだ。

だからこのVR空間の中でも常に1人しか存在しない。

しかもデータ転送も時間がかかるから別のコンピュータに移動するのも骨だ。

イカロスに入れることは可能だろうけど、そうするとずっとイカロスに入りっぱなしになる。

それじゃあKAZUYAくんがそこに行く意味は薄いからね、教育方面で活躍してもらおうってこと」

 

「三女神のAIもそういう感じらしくてな、

コンピュータ間の移動もオレ自身の足で走るようなイメージだ。

だから付近の病院であれば短時間で移動もできるが、

遠くの場合はオレを入れたコンピュータを輸送するしかない。

三女神も理想ではAIをコピーして、

トレーニングするウマ娘とマンツーマンで指導したいそうだが、

それが叶わないため苦労しているらしい。

フランス遠征に行ったウマ娘のサポートもできないと残念がっていたよ」

 

「そ、そうなんですか。

それじゃあAIと言うよりも、本当にこのVR世界に生きる人間のような感じですね」

 

「生きると言うとどうだろうな、ここなら病気や老化もないからな。

それを生きていると言えるのかはまた別の話になる。

とはいえまた人に会えたのはうれしい限りだ。

朝倉や高品も活躍しているようじゃないか。いつか会いたいものだな」

 

朝倉と高品。KAZUYAとは特に仲の良かった盟友である。

どちらも世界を又にかけた医師として活躍中。

KEIの働きでKが医師免許を取得した際、その2人も協力してくれていた。

 

「そのお2人には私が医師免許を取得する際にも協力していただきました。

朝倉先生はクエイドにいるのでアメリカですが、

高品先生はドイツ留学からお戻りになったそうですからお会い出来ますよ」

 

「高品の奴なら、連絡したら明日にでもやってきそうだぜ。

あいつもKAZUYAのこと大好きだったもんなァ」

 

大垣はニヤニヤしながらそう言った。

 

KAZUYAたちはしばらく談笑し、4人は帰る時間となった。

 

「それではKAZUYAさん、いずれまた」

「じゃあね兄さん。また会いに来るわ」

 

「ああ、オレはいつでもここにいる。

KEI、大垣、磨毛、神代。皆、一也のことを頼んだぞ」

 

KAZUYAがそう言うと、4人は少し微笑んだ。

 

「お任せください。彼がスーパードクターとなれるよう尽力します」

「兄さん、任せておいて。あの子はこれからも必ず守って見せるわ」

「任せな、卒業するまでビシバシしごいてやっからよォ!」

「フフ、僕は気が向いたらかな」

 

KAZUYAと4人は最後にもう一度あいさつし、4人がVRからログアウトした。

帰る道すがら話し合う一行。

 

「いや、本当にKAZUYAさんそのものですね。

これは帝都大学の戦力もだいぶ増強されたんじゃないですか?」

 

「だなァ。あのリアルなVRシステムにKAZUYAがいれば、

学生たちへの教育精度も相当上がるってもんだぜ」

 

「欠点はKAZUYAくん自体は1人しかいられないことだね。

VRシステムの方はもうちょっと改良したら全国の大学で使用できるようになりそうなんだけど。

ハードはいいがソフトが問題…イカロスの時と繰り返しになってしまったよ」

 

「まぁ、なんにしても兄さんとまた会えてよかったわ!」

 

帝都大学では数か月後、ウマレーターとKAZUYAのAIを利用した教育プログラムが開始された。

優しく、時に厳しく、そして何より神業の技術を持つKAZUYAの指導は、

医師を志す学生の成長のための大きな後押しとなった。

 

一方でKもそれに触発されたのか、弟子を育てることの楽しさに目覚めたとか。

 

 

 

・ドクターTETSUの場合

 

命の番人事件から1週間ほどたったある日、Kの診療所に一台の車がやってきた。

乗っていたのは前髪の長い男。

KAZUYAとは時に争い、時に協力して戦った、浅からぬ因縁を持つドクターTETSUである。

 

「よーう、お邪魔するぜ」

 

「ど、ドクターTETSU…!どうしたんですか急に!?」

 

「よっ、譲介。どうやら生きてるようだなァ。Kの野郎はいるか?」

 

「K先生は出かけてます。何か用ですか?」

 

「大した用じゃねえ。

一也のやつがテロリストに襲われて、お前らもバトったって聞いたもんでな。

くたばったんなら死に顔でも見てやろうかと思ったんだが、当てが外れたようだな」

 

ニヤニヤとしながら憎まれ口をたたく態度の悪いTETSUだが、

譲介は単に自分らを心配して様子を見に来たんだろうと理解していた。

 

「まあ、僕はあなたに鍛えられたテコンドーがありますからね。

とはいっても格闘術持ってるウマ娘相手だと危ないんで道具使いましたが」

 

「道具…スタンガンとかか?」

 

「そうです。電撃はウマ娘だろうが効果ありますからね」

 

「いいチョイスだな、オレも面倒な野郎相手の時は使ったもんだ。

今回の騒動はKAZUYAの叔父のことが原因なんだろう?

もしかするといたんじゃねえか、あのタコ入道…名前は知らねえが、ハゲたヒゲのデカ男」

 

「ああ、いましたよ。一昭さんの部下だっていうジリノフスキさんですかね」

 

「たぶんそいつだな、いたのか!

チッ、オレが現場にいたら流れ弾のフリしてあの野郎に蹴り入れてやりたかったぜ」

 

「知り合いだったんスね。まだ日本にいると思うんで会ってきたらどうです?」

 

「いいよ、さすがにそこまでするのは面倒だ。

まあお前も一也も生きてるようならもう用はねえな。俺は帰るぜ」

 

「勝手な人だなァ…。そういえば知ってます?

なんでも帝都大学のVRシステムに、KAZUYAさんのAIが生まれたらしいですよ。

まるで本人そのものだって話題らしいです。K先生は今日それに会いに行ったみたいで」

 

「…なんだと?」

 

帰ろうとしていたTETSUが足を止めた。

 

「あなたも興味あるんなら会ってみたらどうですか?」

 

「……………………」

 

TETSUはしばらく考えていたが、譲介のほうを向いて言う。

 

「いや、オレはそんなのに興味ねえな。

いくら似てようがAIってんじゃ所詮偽物だろォが」

 

「そうっスか、ずいぶん間があったし興味あると思ったんだけどなァ。

なんせ一也のことを『Kの復活だ!』って喜んでたあなたですし」

 

「…チッ、おめぇも嫌味を言うようになったのか。前のこと蒸し返しやがって。

Kの野郎に預けたのは間違いかァ?性格悪くなっちまったな」

 

「いいでしょ、嫌味の一つや二つ。今日もだけど、あなたは来るのも去るのも唐突なんですよ。

今僕をK先生に預けたとか言ってましたけど、

K先生が迎えに来てくれるまであなたに見捨てられたんだと思ってたんですからね」

 

「フン、おめぇはそんなの気にしねえくらいには根性あると思ってたんだがな」

 

TETSUは悪態をつきつつも内心ではあの時のことを後悔していた。

それと言うのも、TETSUが出て行きマンションに1人取り残された譲介が、

子供のように泣きじゃくっていたということをKから聞かされていたのである。

子供の涙に特に弱いTETSUにはクリーンヒットであり、

ちゃんと説明してやればよかったと心から反省している。

 

「まァ、これからもしっかりとやんな。用事が出来たらまた来るぜ」

 

「あ、あなたも癌なんだし体を大事にしてくださいよ!」

 

「おー、善処しておくわ」

 

TETSUは手をひらひらと振りながら車に乗り込み、またどこかへ消えて行った。

 

「全く、K先生とは別な方面で神出鬼没だよ…」

 

譲介がTETSUを見送った後診療所に戻ると、部屋の片隅に紙袋が置いてあるのを見つけた。

 

「ん、なんだこれ。あの人が置いてったのかな?中身は…お、レトルトカレーだ。

しかも全国ご当地のカレーだな。これはアレか、あの人が仕事で訪れた所のお土産…?

フフッ、それじゃありがたくいただきますよ。師匠」

 

譲介は、TETSUが今も自分のことを気にかけていてくれていることを知って機嫌が良くなり、

いつもよりも勉強に身が入ったようである。

 

 

TETSUは帰り道で1人呟く。

 

「KAZUYAのAIだって?タチの悪い冗談もあったもんだな。

あれほど命の尊さを説いてたおめぇがコピー商品になっちまうなんてなァ」

 

かつてKAZUYAと関わった多くのことを思い出す。

戦ったり共闘したり、助けたり助けられたり。

腐れ縁のような関係だったが、あの時間は悪くないものだった。

 

「まァ、オレはオレの道を行くぜ。

それにおめぇも神代一人も、オレには一也に生き様を見せてくれって言ってたもんな」

 

TETSUは今も闇医者として、だが悪辣ではない裏の医者としての活躍を続ける。

この少し後にティガワール王国から王妃の出産の手伝いを依頼され、

そこに一也を連れ込んで自分の生き様を見せることになるのだった。

 

 

 

 

●アグネスタキオンと磨毛保則の出会い

 

 

アグネスタキオンはテロリストの爆弾のせいで右耳が聞こえなくなってしまったため、

帝都大学の戸倉教授に診てもらうことになった。

しっかりと検査をしてもらった結果鼓膜が破れただけであり、

内耳には問題がないということで軽い鼓膜穿孔閉鎖術を施され終了となった。

その帰りに一つ寄り道をする。

サトノダイヤモンドから話を聞いていた、磨毛の館である。

磨毛がアグネスタキオンと同じようなタイプの研究者だと聞いたので、

せっかくなのでコンタクトを取り、会う約束をしていたのだ。

 

アグネスタキオンが磨毛の館でインターホンを鳴らすと磨毛が出て来た。

アグネスタキオンがウマ娘ということで、

サトノ家との反省を活かして今日もきちんとズボンをはいている。

いくら変人でズボラでも、無意味な怪我をするのはお断りなのだ。

 

「やぁ、君がアグネスタキオンだね。中へどうぞ」

 

「きみが磨毛君かい。お邪魔するよ」

 

中に案内されたアグネスタキオンは、建物内をじろじろと眺める。

ここには磨毛が開発した様々な機器が保管してある。

アグネスタキオンはそれを見て、

似てるといっても磨毛君は私と違って工学系の研究者なんだな、と思った。

 

アグネスタキオンは磨毛に応接室のようなところに案内された。

促されるままにソファに座ると、なんとも妙な感触のするソファだと思った。

 

「随分いろいろな機械があったね。しかもどれも高度なシステムの物ばかりだ。

これを作れるとはさすがに天才と言われるのことはあるね」

 

「そりゃお互い様さ、アグネスタキオンも色々な薬品を作ってるから結構有名だ。

それにサトノダイヤモンドから君のこと聞いてちょっと興味ができてたから会えてうれしいよ」

 

「ハッハッハ、お褒め戴き光栄だ。では親交の印にちょっとお茶を淹れてくるかな。

給湯室はあるかい?」

 

磨毛にお湯の場所を教えられ、アグネスタキオンがお茶を淹れに行った。

その部屋からは何やら、「これ大丈夫かな?」「まあいいか、彼なら」などの声が聞こえる。

一方でアグネスタキオンが席を外している間に磨毛は何やらタブレットを操作している。

 

数分後、ティーカップを持ってアグネスタキオンが戻ってきた。

 

「さあ召し上がれ!この茶葉はねぇ、サトノ家もご用達のいい品物だ!

きっと君の口にも合うことだろうよ!」

 

「お、ありがたいね。僕は面倒だからその辺で売ってるティーバッグしか買わないからな。

それじゃいただきます。…うん、確かにいい味と香りだ」

 

「そうだろうそうだろう。きちんと飲み干しておくれよ」

 

磨毛が紅茶を飲み干すと、タブレットを操作し始めた。

 

「さて、僕がどういう研究をしてるか理解してもらうには体験してもらうのが手っ取り早い。

と言うわけでこれを見てもらおうかな」

 

磨毛がアグネスタキオンに差し出したタブレットの画面には、

何やら人間の身体データが事細かに表示されている。

 

「ほう、このデータは…私のだね?いつの間にこれを?」

 

「今この瞬間さ。この部屋には様々な測定を行える装置が仕込んである。

壁にある装置から君に向かってマイクロ波を放出し、

君が座っているソファに仕込んである受信装置で情報を検知する。

非接触で体内の測定を出来る装置には需要があるからね。

うん、まだ開発中だから簡易的なものだが、右耳以外はどうやら健康なようだよ」

 

「それはまた便利なものだねぇ、私の研究にも役立ちそうだ。

それにしても初手から他人を研究の実験台にするとは…」

 

「フフ、怒ったかい?」

 

「とんでもない、似た者同士だと親近感を覚えていたところさ」

 

アグネスタキオンがそう言った時、磨毛は自分の体の違和感に気づいた。

磨毛はズボンは履いているが、上半身は裸に白衣を羽織っただけである。

なのでよく見えるのだが、自分の腹部が発光しているのだ。

 

「お…!?僕の腹が光っている!?なんだこれ?アグネスタキオン、君の仕業か?」

 

「私の優しささ。磨毛君はどうも寝不足のようだからね、

紅茶の中に、飲むと5時間分の睡眠と同様のリラックス効果の得られる薬を入れておいた。

どうかな、気分がすっきりしているんじゃないか?

副作用として腹部が発光するが、光るだけなので大した問題ではないだろう。

というか普通に服を着ていてくれれば気づきもしなかったろうに」

 

「うーん、確かに体が軽いな。本当に光るだけなら別にどうってこともないし。

流石だなァ。便利な薬を作り、そして勝手に投薬するのもね」

 

「ハッハッハ!効果があるんだからいいじゃないか!

しかしいいねぇ、この非接触の測定装置は。

私は研究の中で被験者の心拍や体温などを計ることが多いのだが…

基本的には許可を得ないと測定できないからね。

この装置ならばそういうしがらみがなく研究できるかもしれない!」

 

「気に入ってもらえたかな。僕も君の薬品は気に入っていてねェ。

僕が飲まされたようなのもいいが、飲むと笑いが止まらなくなる薬とかもあるんだろう?

そういう人の感情に関わるものがちょっと入用なんだ」

 

「へえ、工学系かと思っていたけれどそういうのも興味があるのかい?」

 

「今僕は人間の感情について研究中なのさ。ほら、KAZUYAくんのAIがあるじゃないか。

あれは僕の作ったAIを骨組みにしてはいるが、

あとはウマレーターの何かが作用して自然発生したようなものなんだ。

僕は結構負けず嫌いでね…あれはあれとして、KAZUYAくんのAIは僕自身の手でも作りたい。

そこで今、人間の感情について研究中なんだよ」

 

「なるほどね。それなら私の研究も役立つと思うよ。

どうだろうか、目的が近い部分に関して共同研究をするというのは?」

 

「いいだろう。お互い、利用できるものは何だって利用しようじゃないか」

 

「よし、これからよろしく頼むよ!」

 

磨毛とアグネスタキオンは共同研究の成立を祝って握手をした。

生体系の研究は村井と、工学系の研究は磨毛と。

天才的な研究者を協力者として手に入れたアグネスタキオンの研究は、

今後一層の発展を遂げていく。

 

自分を実験台にしたり、研究のためなら多少の倫理観は取っ払ってある2人。

心なしか、話し方も似ているような気がする。

 

「「ククク…ハッハッハ!!」」

 

2人の笑い声が、磨毛の館に響いた。

 

 

 

 

●新たなるドクターKの誕生

 

 

事件からからひと月半ほどたち、麻純も退院できるくらいに回復した。

手足の損傷は酷いものだったがここでも再生医療技術が活躍する。

Kたちの高い技術と、村井などが培養した皮膚シートなどによって、

ほぼ事件前と変わらない見た目に戻ることができたのだ。

とはいえまだ日常生活をすべて自分でこなせるほどではないため、

家では家政婦を雇って手伝ってもらっている。

今日は一也も家に訪れてきて、親子の時間をゆったりと過ごせる日だ。

 

「母さん、元気になってくれてよかったよ。

あのまま死んでしまったらどうしようかと不安だった…」

 

「一也たちを守るのに必死だったからね。

あなたを守れるのなら死んでもいいと思ってたのだけど…

でもこうして生きて元気になれたのはあなたの手術のおかげよ。ありがとうね」

 

「うん…。オレも少しは立派な医者になれたかな?」

 

「もちろんよ、とても立派だった。

さっき言ってた不安なんておくびにも出さない、いい手さばきだったわ。

でもここで満足しちゃだめよ?K先生のように素晴らしい医者になれるように頑張ってね」

 

「もちろんさ。オレもK先生みたいに…『ドクターK』みたいになりたいから」

 

ドクターK。その名を聞いたとき、麻純は少し視線を一也からそむけた。

 

「母さん、オレはKAZUYAさんのクローンだ。

KAZUYAさんのようになれ、って言ってくれてもいいんだよ?」

 

「そっ…それは…。確かにあなたはKAZUYAさんのクローンだけど、

あなたはKAZUYAさんではなく『黒須一也』よ。きちんと会ったこともないKAZUYAさんより、

あなたを育ててくれた一人先生のようになってほしいと思うの」

 

麻純はクローンの話題を出され、少し言いづらそうに答えた。

 

「母さん、オレね。今回の事件があってから考えてみたんだよ。

『オレはいったい何者なんだ』ってね。もちろん母さんの気持ちはわかってるけど、

オレ自身がオレをどう思うべきなのか。それを考えているんだ」

 

「一也…。」

 

「母さんやK先生、大垣教授たちはオレを『KAZUYAさんのクローンとして生まれているけど、

それはそれとしてKAZUYAさんとは別の、K一族の1人の人間』と思ってくれている。

宮坂さんやライスさんは、『オレの生まれなんてなにも関係ない、

オレは”黒須一也”という1人の人間』と思ってくれている。

譲介やタキオンさんは『KAZUYAさんのクローンであり、そして”黒須一也”という1人の人間』

だと思ってくれている。

どれも間違いじゃないと思うけど、オレ自身はどういうふうに認識すべきなんだろう?ってね」

 

「そうね…。私が押し付けるものじゃないものね。

あなたの存在は、あなたが決めなさい。それがきっと正しい答えだから」

 

「うん、きっと答えを見つけてみるよ。

そういえば…母さんはKAZUYAさんのAIに会いに行ってみる気はない?

AIと言ってもただのAIじゃないよ、本人しか知らないようなことも知ってたんだ。

磨毛先生に話を通せば会わせてくれると思う」

 

「うーん…私はいいかな。KAZUYAさんにとって私は何でもない人間だったし…

それに私の方は冷静でいられる自信がないから」

 

「そっか。まあ気が変わったら相談してよ」

 

「ええ、ありがとう。でも本当に大丈夫よ。私にはあなたがいればそれでいいわ」

 

麻純は一也の手を握った。

一也はKAZUYAと違う、自分の息子。

 

「母さんも無事に退院できたことだし…オレさ、少し旅に出ようかと思ってさ。

いわゆる『自分探しの旅』ってやつかなァ…。1人になって、自分自身を見つめてみたいんだ」

 

一也の言葉に麻純は少し驚いたが、そういうこともあるだろうと納得した。

少し待っていて、とその場を離れると、なにやら大きなスーツケースを持ってきた。

 

「一也が一人前になった時に渡そうと思っていたものよ。

きっと今がその時…。開けてみてちょうだい」

 

「スーツケース?中身って…」

 

一也がスーツケースを開けると、入っていたのは黒いマントとリストバンド。

西城KAZUYAが、神代一人が、西城KEIが身に着けた、Kの一族に受け継がれるその装備。

 

「あなたはKAZUYAさんとは違う人間…でも、それを着けてほしいの」

 

「うん…ありがとう。これを着けて旅をしてみるよ。

オレが、オレ自身に納得ができたら帰ってくるから」

 

「ええ、納得できるまで好きに世界を見てくるといいわ。

でもこれだけは忘れないで。あなたが何者だったとしても…あなたは私の息子だからね!」

 

「うん!母さんはずっと、オレの母さんだよ!」

 

一也と麻純はその日は親子水入らず、楽しく会話をして過ごした。

 

そして1週間後。快晴の空の下、一也は旅に出発した。

黒いマントに身を包んだ、屈強な体の若き医師。

その日、ドクターKの新たな伝説が始まったのだった。

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