あえる ヤれる アイドル『TRK26』全裸生活 作:添牙いろは
それは、何気ない求人ポスターだったはずだ。一応『急募』とは銘打たれていたものの、時給も条件も差し障りないコンビニの深夜バイト――この街のレイトショーにはよく来るので、そのままバイトして始発で帰るのも悪くないか――そんな理由で。
面接についても、最初は穏やかな雰囲気だった。学生のバイトなど珍しくもないのだろう。しかし、最後に。
『えーと、この仕事は守秘義務が厳しくてね』
コンビニ業務に守秘義務? とも思ったが、これも昨今のコンプライアンスの類なのだろう、と軽く受け取っていた。
しかし、バイト初日――
「今日から始めることになった森くんだべなぁ。よろすくなぁ」
のんびりと話しかけてくる先輩は
「……そうそう、あたすは制服着とらんけど、森くんはちゃーんと着んとあかんべ?」
「は、はぁ……」
いや、制服どころか……崎乃平さんは何も着ていない。誇張ではなく、本当に何も着ていない。メガネは掛けているし、頭のお団子――シニヨン、というやつか――髪をまとめるのにゴムなりリボンなりは使っているのかもしれない。あと、靴も履いている。靴下も。本当に、そのくらいだ。
そんな足元を確認して、スーっと視線を上げていくと――モジャっとした下の毛が。とはいえ、濃すぎることはなく、その向こう側の割れ目も何となく影として見て取れる。そして、意外とすっきりしたお腹――ここは年齢が出やすいと聞くし、印象より若いのかもしれない――それは胸にも現れており、垂れてもいないし張りもある。乳輪は――少々年季は感じるが、子供を産んだ後、という感じではない。
「……ほんから……って、森くん、聞いとるべ!?」
「あっ、はい」
崎乃平の裸体に見惚れて耳の方がつい疎かになってしまった。一応、コンビニのバイトは慣れてるから大丈夫だとは思うけど……確かにこれは……業務中のことを外で話してはならない……よなぁ……。
***
初の出勤日ということで、新しい作業が入るたびに説明を受ける。
「ああ、お疲れそんですー」
パンの入荷がやってきた。この時間に来るということは、やはり
「んで、このバーコードを読み込んだら、こっちにはこのハンコなぁ」
腕の動きに合わせて揺れる胸――本人は普通に説明しているけれど……やはり、ピンクの先っぽに意識がいってしまう……!
これは、トラックの運ちゃんもさぞ目のやり場に困っているだろう……と思ったら……ガン見……ッ!? ……ああ、毎日のルーティーンであれば、もうすっかり慣れてるんだろうなぁ。
慣れているだけに。
「やっ……あぁん……♡」
運ちゃんはサイン済みの明細を受け取るついでに、崎乃平さんの胸をひと揉み。いや、ひと揉みというかムニムニコリコリ……乳首まで念入りにしっかりと。完全にセクハラではあるが、当の本人がおっぱい丸出しの全裸なのだから仕方がないという一面もある。何より、揉まれてる本人にも嫌がっている様子がないので……ああ、痴女なんだな。
何となくわかってきたところで……このままだと落ち着かないし、そろそろ質問させてもらおう。
「ところで崎乃平さん。……どうして制服着てないんです?」
一応、言葉選びに最低限の配慮はしたつもりだが。いくら新歌舞伎町が如何わしい街だといっても、警察に見つかったらマズイだろ。社長の愛人が羞恥プレイでもさせられているのか? と思ったが――
「あたすなぁ……実はストリップ・アイドルなんべよ♡」
アイドル――と本人は言っているが……結局、ただのストリッパーなのではないか、という感想しかない。
重要なのはむしろここから。
「ほんでなぁ、劇場の企画で全裸生活ってのに挑戦中なんよ」
曰く、一ヶ月間全裸で生活すること――それも、できる限りいつもどおりに――この街は規格外である。全裸の女性がうろついていたとしても大して騒がれすらしない。
ここのコンビニの店長は崎乃平さんのファンだというが――正直なところ、ファンだというのを口実に全裸生活中の崎乃平さんを誘い込んだのでは、という疑いが濃厚である。例えファンでなかったとしても……崎乃平さんの身体は魅力的だから。
「けど、危なくないです?」
うっかりタガがしまったら、俺だって襲いかねない。だが、崎乃平さんはそんな男を前にしても楽観的だ。
「そこはまぁ、大丈夫よぉ」
いや、楽観的というより――
「あたす……適齢期だべからな♡」
そう言って――崎乃平さんは俺の股間に手を伸ばし――!
「……ッ!?」
これは……確定だ! 崎乃平さんは、間違いなく……痴女……ッ!!
カタくなったところをズボンの上から手触りで確認していく。その中がどうなっているのか――いや、
「元気いっぱいで嬉しいべよ♡」
耳元で痴女が囁くと、そのまま離れて、無防備に――ッ!
「えー……タバコの棚を整理するべかなー……♪」
不自然にお尻を突き出して――これは……明らかに誘っている……!
だが――ここはまさにレジカウンターの中……さっきのような業者も来るし、何より普通に客も来る……事情の知らない部外者が……!
だが、目の前には――
「んー……もう少し、こう、こうだべかなー?」
お尻をくいくいと揺らしながら……崎乃平さんが……チラリとこちらの様子を伺い……視線を確認したうえで再び作業に戻る。素知らぬ顔で、お尻をツンと突き出して。
「ここのカウンター、腰から下は外から見えん高さだべなぁー……?」
崎乃平さん自身は腰から上も裸なのだが。けれど、花子さんはこう言っているのである――俺に、下半裸になれと。そこまで言われたら……もう……もう……っ!
***
崎乃平さんは、業務中に時折三〇分ほど売り場から姿を消すことがある。それは、おそらく店長の相手をしているのだろう。なので、その間は休憩室には近づかないようにしている。例えわかりきったことであっても……店長と穴兄弟である確信は持ちたくない。
ただ、あれから軽く調べてみたが――崎乃平さんの所属している『TRK26』というストリッパー・グループにはそれぞれ個人ファンクラブがあり、店長はそこに入会しているようだ。ならば、公式的にもファンといって間違いないだろう。そして、俺も入会した。穴兄弟かはさておき、同担ということにはなった。
崎乃平さんの出身の地方はいささか特殊で、子供はそれぞれの家庭ごとではなく村全体で育てる、という風習があるようだ。なので、父親にはこだわっていないという。誰の子であれ――しかし、父親がファンであればそれに越したことはない、くらいらしい。そんなスナック感覚で――妊活――子供を欲しているというのだから――都会の人間には理解の及ばない領域だ。もし、先乃平さんが自分の子供を身籠ったとわかったら――迷っているのに、花子さんの押しに甘えて毎晩毎晩、誘われるがままに――そして、今夜も――
「……ウフフ、やーっぱ若いコは元気だべなぁ♪」
それはまるでタイムカードのように。出勤の打刻と共に先ず一回。そして、帰り際も――崎乃平さんのそんな姿を見続けていたら、溜まるものも溜まってしまう。
だが、こんな生活も長くは続かない。崎乃平さんの全裸生活はこの一ヶ月だけなのだから。
「あたすはこのままこの仕事を続けていくつもりだけンど……さすがにシフトは減らすにしても……森くんはどーすっべ?」
朝四時が近づいてくると、崎乃平さんは仕事を終える準備に入る。俺はともかく――崎乃平さんの全裸生活は店の中だけに留まらない。このまま家まで帰らなくてはならないのだから――人の足が増える始発の前に早上がりさせているのは、オーナーもファンだから、ということなのだろう。
ということで、別れる前のひと搾りを済ませたところで――行為や姿を見るにピロートークのようでもあるが、レジを閉じる準備を始めているあたり、やはり俺たちはコンビニでの仕事中なのだと現実に引き戻される。
「俺も同じですよ。辞める理由はないですし……ただ、いまみたいに毎日入ることはないですけど」
だが、そんな通常運転になったとしても――少々心配なことはある。
「ほんなら、また一緒に入ることもあるかもなぁ」
そうなったとき、俺は崎乃平さんを我慢することができるだろうか……。この一ヶ月、求めるがままに――というか、求める以上に求められた気がするが――そんな爛れた相手と、平常心で一緒に働くことができるのだろうか――
しかし、崎乃平さんにそんな懸念は一切なく。
「フフ、楽しみだべ」
そう言って――またしても男を誘うようにズボンに手を伸ばされては――男のカラダが単純なのか、崎乃平さんの手つきが一際厭らしいのか――事後にも関わらずすぐに力を取り戻してしまう。それが、崎乃平さんには嬉しいらしい。
けれど、いまはもう出るものもないし、時間もないし、けれど、こんな崎乃平さんを忘れることもできそうにないしで。
「……そんなことされたら……家で崎乃平さんのこと、思い出しちゃいそうですよ」
崎乃平さんのイタズラっぽい笑顔――手つき指つき――その他諸々――そうしたら、きっと。
「フフ、けンど、ひとりでヌいちゃああかんべ?」
「そんな殺生な」
くだらない猥談を交わすくらいの間柄ではあるが、これに崎乃平さんは不服だったらしく、ちょっと可愛らしく眉を釣り上げる。
「殺生やないべ! 出すものは――」
俺の手を取ると、崎乃平さんは自分の――自分の――!
「ココに、出してくれんと♡」
言って、ちょっと照れている。だが。
「けど、こういうことできるのは今月だけですし」
これに崎乃平さんはキョトンとして。
「何ゆーとるべ」
そして、すっと顔を近づけて――
「全裸生活が終わったら、もう種付けしてくれんべ?」
! 俺は勘違いしていたようだ。来月になっても崎乃平さんは、決して――
二連戦――子供を望んでいる崎乃平さんの期待には応えられないかもしれないし、このままでは残業を強いることになってしまいそうだ。けれど――崎乃平さんの指が構わないと言っているのなら、俺もそれに応えよう。これからも、ずっと。
そしていつかは――子供のためにもきちんと覚悟を決めておきたい。