Re:大空スバルの異世界生活(執筆停止中) 作:飽和水溶液_pixiv
「ほんっっっとうに、ごめんなさいっ!」
そう言いながら、すごい勢いで頭を下げながら謝罪してくる『姫』。
本当にこの子、いい匂いがするな。
『ラミィ』に拘束されながら、スバルは誤解であるという事を長時間かけて説明した。スバルはただの旅人でここオルタナ王国には着いたばかりであること。そして、迷子になっているところをたまたま見つけた兎人に道を聞いていただけだということ。
何とか誤解は解けたけど、この水色の人力強すぎじゃない?多少の抵抗を試みたものの、いとも容易く組み伏せられたし。
「私はてっきり、あなたが徽章を盗んだあの子の仲間だとばっかり……」
「もういいよ、わかってもらえたみたいだし。スバルも紛らわしい事しちゃってたみたいだから」
「ラミィも軽率でした、すみません。お怪我はありませんか?」
そういわれ、スバルは軽く手を振ったり、体を動かしたりして特に問題がなかったことをアピールする。
「うん、特に何ともないみたい!」
そうですかと、『ラミィ』は安堵の声を漏らしながら胸を撫でおろした。
この人……おっきいな。
「……ところであなた、旅人でしたっけ?随分とおかしな格好をしていますけど……?」
スバルが恨めしい目つきでみていると、『ラミィ』が訪ねてきた。
実際には旅人というわけではないのだが、こことは違う地球から来ました!なんて言っても余計怪しまれるだけだと判断し、上手いこと話を合わせた。
しかしながら、学校指定ではないこのジャージは、異世界においてあまりにも雰囲気にそぐわないものと言えるだろう。
「それに、旅人にしては随分と軽装だし、こんな路地裏で盗賊とはいえ少女に声をかけるなんて……でも、不思議と悪い感じはしないのよね。あなたは一体何者なの?えーっと……」
そこまで喋って、『姫』と呼ばれる少女が言葉を止める。
同時に『ラミィ』もこちらをみつめ、口を噤んでいる。
あ、これあれか。スバルの自己紹介待ちか。
「コホン、では僭越ながら自己紹介を。あじまる!あじまる!どこにでもいる元気が取り柄のマネージャー!大空スバルしゅば!」
仁王立ちで元気いっぱいに自己紹介をする。
声高らかに発し、その堂々たる有様に、しかし二人は冷めたような眼をして……
「……え、えーっと”あじまる”?って何?それに”まねぃじゃぁ”?ごめんなさい、私イロハ語以外わからないわ」
そういいながら、困惑半分憐み半分な表情を『姫』は向けてくる。
やめて、それ以上スバルを辱めないで!
どうやらこの世界にはユニークに自己紹介をする文化は無いようだ。
それに、イロハ語って?ていうかスバル、今更だけど異世界に来てるはずなのに言葉がわかるし、話通じてるな。
「えっと、ごめん。あじまるはスバルの家での挨拶みたいなもので、マネージャーは役職みたいなものかな。ていうか二人は、スバルの言っている言葉わかるの?」
「何言ってるんですか?あなたもさっきからイロハ語を使ってるじゃないですか。えぇっと……”大空スバル”さん?」
「スバルでいいよ。なるほど、こっちの世界では日本語のことをイロハ語っていうのか」
なにかと気になることはあるが、とりあえず日本語で会話ができるという事に安心した。これで言葉すら伝わらなかったら、スバルは完全に詰むところだった。
「では、そうすることにします。私は”ラミィ”、こちらの『姫』、”ルーナ”様の契約魔術師です」
「……初めまして、ルーナといいます。言っておくけど『アレ』と私は何にも関係ないからね!人違いだからね!」
水色の髪の女性ラミィと、黒髪の少女ルーナの名前が明らかになる。
でも、いろいろ気になる言葉が出てきたな。特にルーナの言った『アレ』とは何のことだろう。それに、なんだか後ろめたいような様子だし……。
しかし、それよりもスバルの知的好奇心をくすぐる単語が出てきた。
今、ラミィはルーナの契約魔術師っていたよね?さっきのやつも、やっぱり魔法だったのか!
どうしても気になってしまったスバルは、素直にそれについて尋ねる。
「ラミィとルーナだね、覚えた!ところでラミィ、さっき契約魔術師がどうのって言ってたけど、それって何なの?」
名前からして、魔法が使える魔術師と何らかの契約から雇ったり、護衛してもらう的な感じだと思うんだけど。
ただ、やはり魔法には興味がある。もしかしたらスバルも契約すれば魔法を使えるようになるかもしれないし、そこんとこについて詳しく聞きたいと思った。
「スバルはそんなことも知らないの?相当田舎の村出身なのね。いーい?まず、人族が魔法を使うことにあまり長けていないことは知ってるわよね?」
初っ端から出鼻をくじかれる。
生まれてこの方、純度100%の人間であるスバルには、もしかしたら魔法は使えないのかもしれない。
「勿論、宮廷魔術師なんかの例外はいるけれど。つまりね、人族はマナに対する浸透性が高く、大気中のマナを大量に取り込むことはできるけど、それを魔法に変換するゲートの扱いが苦手なの。結果、ゲートを行使できず、魔法を使うことはできない。ただし、他の種族はその反対。マナに対する浸透性が低く、効率的にマナを吸収することはできないけど、実際に魔法を行使するゲートの使用に長けているわ。そうなれば、長期的に魔法を使うことはできなくても、使用すること自体はできるってこと。これもわかる?」
「うん、全然わからん!」
これももなにも、最初から何もわかってない。
それはそうだ。今まで実際に魔法が使われたところを見たこともないスバルが、いきなりマナだのゲートだの言われてもわかるはずはない。
だから、そんな呆れた顔しないで欲しい。スバルだって傷つくよ?
「つまりですね。魔法は空気中にあるマナという魔法の素を取り込んで、それをゲートと呼ばれる出口から魔法に変換しながら放出することで使えるんです。そして、人族はこのマナを取り込むことが、逆にそれ以外の種族はそれを放出することが得意であるとされているんです」
見兼ねたラミィが補足的に説明をしてくれる。
なるほど、つまりさっきスバルが呪文を唱えても魔法が使えなかったのは、そもそも魔法行使の第一段階であるマナの吸引というものが出来ていなかったからか。それに、例えマナの吸引ができたとしても、完全に人間のスバルには魔法を使うのが難しいと。
「なーほーね、なんとなくわかった。つまりどちらか片方だけでは魔法の使用がままならない、ってことか」
「そういうこと。そこで編み出されたのが人族と、その他の種族による”魔術師と契約”という方法。その契約によって、両者のオドを通しての繋がり……つまり、心と体を繋ぐ、一心同体の契約をするの。結果、マナをたくさん取り込めて、たくさん魔法の使える二人組の出来上がりってわけ」
2人の細かい説明のおかげで、スバルも概ね魔法と契約魔術師についての理解を得た。オドっていうのがまだいまいちわからないけど、とにかく大事な何かと何かを繋ぐ契約ってことだよね。
「なるほどなぁ。スバルも魔法を使いたいと思ったけど、スバルにも相手が必要ってことかぁ。それにしたって、一心同体っていうのは言い過ぎなんじゃない?」
「何言ってるんですか、言い過ぎも何もその言葉通りです。オドとはつまり、その人の魂のようなもの。それらを繋ぐ魔術師の契約とはすなわち、命を分け合うことと同義です。しかも、一度繋がったオドはそう簡単に切れるようなものではない一生モノ。どちらかが死ねば、もう片方だってただでは済みません。そういう契約なんです」
「魔術師の契約こっわ!?そんなの、簡単に魔法使えないじゃん!」
想像の何倍も危ないんだな”魔術師の契約”って……。
もしかしてさっき軽率に魔法を使おうとしてたけど、一歩間違えたら死んじゃうくらい危ないことだったりしたのかな……。
さきほどの後先考えなかった自分の行動に、冷や汗が止まらない。
「でも、悪いことばかりではないわよ?魔法が安定的に使えることは勿論、心を許せる絶対的な信頼を置けるパートナーができるのよ。文字通り、運命共同体のね!」
ルーナがそういいながら、ラミィの方をチラッと見た。すると、見られたラミィは気恥ずかしそうに俯いてしまった。
なるほど、確かに頼れる相棒がいると考えれば悪くは無いのかもしれない。まあ、今のところそこまで心を許せるような相手はいない訳だが。
ただ、逆に言えば相手さえいればスバルにも魔法が使えるかもしれない。魔法についての当面の課題としては、心を許せる人族以外の誰かを探すこととしよう。
「……あの、姫。そろそろ賊を追わないと、完全に見失ってしまいます」
「はっ!そうだ!こんなことしてる場合じゃなかった!スバルごめん、私たちちょっと人を探してるの。わるいけど、この辺で失礼するわ!」
そういうとルーナはサッと振り返り、駆けだそうとした。
まずい!せっかく新たに見つけた村人2号3号を失ってしまう!それに、探してる人ってさっきの少女ぺこーらのことだよね。
「ちょ、ちょっと待って!探してるのって、さっきの青色のマントを羽織ってた子でしょ!さっき声かけた時に顔も見たし、スバルも探すの手伝うよ!」
2人のことを足止めしようと、声が上ずってしまう。
ただ、顔を見たのは本当だし、白いうさぎ耳も記憶している。
力にはなれるはずだ。
「スバルさんが、なぜですか?私たちはさっき会ったばかりですよね?」
「べ、別に、深い意味はないよ。ほら、女の子が困ってたら助けるのが普通じゃない?」
「確かにそれはありがたいけど、何の義理もないわよね?……なにもお礼できないわよ?」
どうやら恩を売ろうとか、何か企んでいるのでは、と思われているようだ。
「お礼なんかいらないよ。誤解を生んで二人をここに引き留めちゃったのはスバルにも責任があるし。何よりさっき、二人はスバルの質問に丁寧に答えてくれたじゃん!むしろそのお礼をスバルがしたいの!」
そこまで言って、ルーナが口を噤んで少し考えるような仕草をした。
そして数秒悩んでから、
「……わかったわ、スバル。実はその子に、私の大切なものを盗まれてしまったの。私たちと一緒に探すのを手伝ってくれない?本当にお礼はできないけど……」
「うん大丈夫、まかせて!」
そうして、スバル・ルーナ・ラミィの3人は盗人ぺこーらの捜索を開始した。
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「そういえば、結局二人は何を盗まれたの?」
目撃情報等を得るために街中を散策中、肝心なことを聞きそびれていたと思い、スバルが訪ねる。
「ああ、そういえば教えてなかったわね。えーっと、探してるのはこれくらいの大きさの徽章なの。真ん中に赤い宝石が埋め込まれていて、その周りにドラゴンの模様が描いてあって……」
そう言いながら、ルーナは人差し指と親指で輪っかを作ってみせる。徽章って、確か自分の身分とかを証明する免許証みたいなものだよね。微妙に違うかもしれないけど。
「うーん、スバルそういうの見たことないからわからないなぁ。やっぱり、すごく大事なものなの?」
「……うん、すっごく大事。」
「そっかぁ……なら、すぐに取り返さないとね!」
「っ!……ありがとう」
スバル的には励ましのつもりで言ったのだが、ルーナは少し照れくさそうにそっぽを向いてしまった。
にしてもそんなに大事な物を盗まれるなんて、ルーナはしっかりしているようで、意外と抜けてるところがあるのかもしれない。
「ルーナって、もしかして意外とおっちょこちょいなの?」
「そ、そんなことないわよ!もう成人を迎えているし、立派な大人なんだから!」
控えめな胸を張りながら、ルーナが堂々と言い張る。
というか、この年齢で成人してるってマジか。どーみても子供、少なくともスバルより年上には見えなかったんだけど。
「それとスバル……あんまり街中で、私の名前を呼ばないで」
ルーナがこそっと、スバルの耳元で囁いた。
え、なんで?と思ったスバルだが、ルーナがとても真剣な表情で言ってきたので、言葉を発することがためらわれる。
「……いくら世間知らずのスバルにも、その、わかるでしょ。私のこの名前が何を意味するのか。本当に無関係だし、私も迷惑してるんだけど……とにかく、お願いね!」
いや、わかるでしょ、とか言われてもわからない。しかし、これ以上問い詰めるべきではないんだろうなと思い、出かかった言葉を飲み込む。きっと、詮索されたくない事情とかがあるんだろう。スバルだって、詳しく事情を詮索されたら困るのだから。
「わかったよ。あ、じゃあスバルも姫って呼んでいい?騎士みたいでかっこいいし!」
そういわれたルーナが、きょとんとしてしまう。あれ?スバル何か変なこと言ったかな?
しかし、次第にルーナが耳まで真っ赤にして、それを隠すようにまたそっぽを向いてしまった。こいつ、くっそ可愛いな。
けど、なんでそんなに照れたんだろう。さっきラミィにも姫って呼ばれてたし、身なり的にも、どこかの小貴族のお嬢様くらいに思ったんだけど。
「スバルさん、ここオルタナ王国における『騎士』とは、主に絶対的な忠誠を誓い、たとえ命に代えても主の身とその想いを守り抜く者のことです。ですので、あまり安易に騎士を名乗ることはお勧めできません……それに、姫は世間に疎いので、簡単に勘違いしてしまいます。ちょろいんです」
「ちょ、ちょっと!ラミィ!やめてよ、私別にちょろくなんてないから!」
なるほど、つまりルーナは箱入り娘ってことか。今のスバルほどでは無いにしろ、世間知らずで、少しわがままなところのある優しくて可愛い女の子。
もしかしたら、多少なりとも理想の『騎士』様像というものがあったのかもしれない。
ラミィにほっぺを膨らませながら怒るルーナの姿が、妙に可笑しくて笑ってしまう。
「もう、スバルまで!何がそんなにおかしいのよ!」
「あははは、ごめんごめん……では姫。一刻も早く騎士であるスバルが、姫の探し物を見つけてみせます!」
「~~~っ!もう!からかわないで!」
どうやら、すっかり怒らせてしまったようだ。
にしても、ルーナはコロコロと表情を変えるし、仕草も話し方も可愛いし……おまけに、すごい甘い香りがする。
最初は、特に行く当てがなく、藁にも縋る思いでついてきてしまった。しかし、今は本気で、ルーナの力になってあげたいと思うスバルがいた。
しゃーない、ちゃちゃっとぺこーらを見つけて、徽章を取り返すとしますかぁ!
スバルはそう心の中で意気込み、歩を進めていった。