Re:大空スバルの異世界生活(執筆停止中)   作:飽和水溶液_pixiv

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今回はモブキャラが出ます。
主張少なめにしますが、不快な方はすみません。


第一章 03話 自己犠牲

 

異世界とて、現実は甘くない。

まさか異世界に来てから、2度も世間の辛さを思い知らされるなんて、思ってもみなかった。

聞き込みを始めてから数時間。スバルたちの懸命な捜索も虚しく、盗人ぺこーらへの足取りは完全に失われてしまったと言っていい。

街行く人に聞いても、そもそも異質であるよそ者のスバルに取り合ってくれない者や、ギリギリ会話が成り立っても、そんな人は知らないと言われるのがほとんどだった。

 

「ていうかこんなに広い王都で、人を一人探すなんてかなり無謀だったんだなぁ……」

 

 

覚悟はしていたものの、想像以上に過酷な現実に、スバルはため息が出る。

 

 

「スバル、別に無理してまで私たちのことを手伝わなくてもいいのよ?ここまで一緒に探してくれただけで、十分助かったし……」

 

 

どうやら、スバルの思わず出てしまった弱音を聞かれてしまったらしい。

そして、その言葉は現状の”探し物を手伝っている”、という事に対する文句と捉えられてしまったようだ。

 

「いや、ごめん。そういうつもりで言ったんじゃないんだ。ただ、今のやり方はあんまり現実的じゃないし、趣向を変えるべきだと思っただけ」

 

 

少女ぺこーらはうさ耳が生えてたり、青いマントにあの速さで屋根の上を走っていったのだ。少なからず目撃者とかがいると思ったんだけどなぁ。

しかし、それでは見つからないとなると、方法を変えるしかない。あんまり時間がたってしまうと、下手したらこの街からぺこーらが出て行ってしまうかもしれない。現状お金も人脈もないスバルが、どうやったらこの広い街の中で少女一人を見つけることができるだろうか。

スバルが少し考え込んでいると、先程の返答に対し、まだ腑に落ちない様子のルーナが口を開いた。

 

 

「ねえスバル……さっきも聞いたけど、どうして私たちを手伝ってくれるの?」

 

 

「さっきも答えたけど、特に深い意味はないよ。質問のお礼とかもあるけど、何よりスバルが、ルーナの力になりたいと思っただけ」

 

再度聞かれた質問に対し、スバルは顔を上げ、ルーナの目をまっすぐ見ながらまじめな表情で答える。

スバルのその様子を見て、何かをあきらめたようにルーナは笑った。

 

「スバルって、本当に変わってるわね。私とも普通にお話をしてくれるし、変な人」

 

 

笑いながらルーナは、少し呆れた様子で言う。

なんか2回も変人扱いされ、スバルは若干傷つく。さっき言ったことは本心だし、別に変なこと言ったつもりはないんだけど。

 

 

「お二人とも、あんまりお話をしている時間はありませんよ?本当に手遅れになってしまいます」

 

 

ラミィの一言で、二人ともハッとなる。

しかし、そうはいっても正直手詰まりなのだ。

そうして、またスバルが考え込んでいると、ラミィが続けて話し出す。

 

「色々聞き込みをしてみた感じ、繁華街や商店街の皆さんは盗賊について知らないようでした……そこで、次は貧民街の方に行ってみるというのはどうでしょうか?」

 

 

「貧民街?」

 

 

微妙に聞き覚えのある単語ではあるが、実際には見たことがないスバルが聞き返す。

名前から推測するに、このあたりの煌びやかな様子とは裏腹に、いわゆる”貧乏人たちが暮らす街”という認識で概ね相違ないだろうと予想するが。

 

 

「はい。大勢による犯行ならともかく、少女一人によるスリであるならば可能性は高いかと。それに言い方はあれですけど、盗品を売ったり、盗賊が身を隠すにはうってつけの場所だと思いますので」

 

 

なるほど、納得だ。確かに、今回の件が突発的になんとなく行われた犯行であるならば、その可能性は十分にあり得る。どんな世界にも貧乏人と金持ちがいるという事なんだな。

 

しかし聞き込みの際に知ったが、ルーナも別にここオルタナ王国の王都に詳しい様子ではなかった。流石にスバルみたいに歩く度に周りを見渡して目をキラキラと輝かせていたわけではないが、土地勘というか、そういうものが無いようだった。

 

「ラミィって、ルーナと違って王都には詳しいの?」

 

 

「……まあ、お二人に比べれば詳しいと言わざるを得ないですね。一応ラミィはエルフなので、それなりにこの国に滞在していたこともありますし」

 

 

「え!ラミィってエルフなのぉ!?」

 

 

思わぬカミングアウトに、目を輝かせながらラミィにぐいっと近寄ってしまう。

その様子に、若干引きながらラミィは答えた。

 

「な、何言ってるですか、こことか見たらわかるでしょ」

 

 

そう言いながらラミィは自分の耳を指差す。確かに、エルフによくみられるとがった特徴的な耳だとは思ったけど、まさか本物のエルフに出会えるなんて!

 

 

「スバル、エルフなんて初めて見たよ!すごい!可愛い!!」

 

 

「ちょ、いきなりなんですか!近すぎです!!」

 

少し顔を赤らめながら、恥ずかしそうにラミィが両手でスバルを引きはがそうとするが、スバルはお構いなしにラミィの間合いに入り込む。

 

 

「ちょっとスバルさん、いい加減にしてください!姫、見てないで助けてください!」

 

 

「はいはい二人とも、貧民街に行くんじゃなかったの?さっさと行くわよ」

 

ルーナにそう説得され、渋々スバルはラミィから離れる。

それにしても、エルフって本当にいたんだなぁ、かわいい。もし探し物が見つかった暁には、ラミィにエルフについて色々聞いてみようかなぁ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ここから先が貧民街です」

 

貧民街。王都の一部ではあるものの、この国に住む貧乏人たちが身を寄せ合い、助け合いながら生きる町。繁華街や商店街の方では、屋台やレンガ造りの建物が並んでいた。しかし、貧民街の方では木造の小屋のような建物が、点々と立ち並んでいるだけだった。ちらほら見えるここの住人であろう人たちも、はっきり言って小汚い者達しか見受けられなかった。

 

最初スバルが降り立った場所とはかなりかけ離れた風景に、流石の好奇心の塊であるスバルにも……否、相も変わらず興味津々だった。

 

「急ぎましょう、あまり時間がありません」

 

そういわれ、スバルは空を見上げる。

時間にして、17時~18時くらいといったところか。既に日はかなり傾いていて、もう1時間もしないうちに、この辺りは真っ暗になってしまうだろう。

 

「確かにそうね……仕方ない、少し危険かもしれないけど、皆で手分けして探しましょう」

 

「姫、流石にそれはやめておいた方が……ここは貧民街です、よからぬ輩がいるかもしれません」

 

「でも、急がないと夜になっちゃうわよ。どうしてもって言うなら、せめて戦力差を考慮した私とスバル、ラミィの二手に分かれましょう」

 

確かに、二人の言い分にはそれぞれ納得する部分がある。時間短縮の為に効率を上げる必要があるし、だがだから言ってこの町で少女一人が人探しをすることに不安があるのも事実である。

だからこそ、その折衷案としての二手に分かれること自体にはスバルも賛成だ。

ただ、その……戦力差って言った?スバル、日本という温室育ちのただの女子高生なんだけど。剣を使ったり魔法を使ったりなんてできないんだけど。

 

 

「どうして姫と組むのがラミィではなく、スバルさんなんですか?二手に分かれるというのであれば、スバルさんが一人になるべきでは?」

 

 

ラミィさんがもっともらしい言い方で、スバルを切り捨てる。

確かに二人が運命共同体の関係で、心配するのはわかるけど、スバルのことも少しでいいから気遣ってほしい。

 

「何を言ってるの、スバルはただの人間だし、女の子なのよ?さっきの話的に魔法も使えないだろうし、一人にしちゃったらもしもの時に大変じゃない。私も、ラミィのおかげで一応魔法が使えるけど、不安だからこそのこの組み分けよ。何か問題ある?」

 

「確かにそうかもしれませんが……」

 

ルーナの説明に対し、それでもラミィは未だ納得できないようだ。

しかし、あんまり考えている時間が無いのも事実。

 

「ほら、もたもたしてると本当に日が暮れちゃうわ。早く探しに行きましょう」

 

ルーナに急かされ、ラミィは本当に渋々といった様子で、この提案に同意する。

 

 

「……わかりました。ですが姫、もし何かあったらすぐにラミィを呼んでください。いざとなれば、スバルさんを盾にしてでも逃げてください」

 

「ちょっとラミィ?それは流石にスバルが可哀想じゃない?」

 

 

「わかったわ、ラミィも気を付けてね」

 

「わかるなよ!!」

 

堂々とスバルを盾にしてください宣言、からの速攻の同意。

確かにラミィにとって、ルーナは決して大事があってはいけない存在であることは理解しているけど……せめて、二人で協力して逃げてください、とか言ってほしかったなぁ。

そんな内心で若干の悲しみを抱いてるスバルにはお構いなしに、ルーナがスバルの手を引きながら歩きだす。ラミィも若干こっちに気を掛けながら、別方向に歩き出す。

そういえば、さっきルーナも魔法が使えるって言ってたような?

確か人間であるルーナには魔法が使えないはずだよね。例外もあるらしいけど、あの口ぶりからルーナがそれに該当するとも思えないし。

もしかして”魔術師の契約”をすることによって、人間でも魔法が使えるようになるとか!?であるならば、スバルにとっての契約の重要性が『自分の使いたいときに魔法を使ってくれる相手ができる』から『自分の意思で魔法を行使できるようになるし、相棒もできる』にレベルアップすることになる。

早速、疑問に思ったことをルーナに問う。

 

「ねぇ姫!さっき、姫も一応魔法が使えるみたいなことを言ってたけど、それって本当!?」

 

 

「えぇ、少しだけだけどね。……家の事情で、昔から魔法や剣術の訓練をしていたの。元々人間にしては魔法適性が高かったし、ラミィと出会う前から初級魔法ぐらいなら使えてたわよ」

 

家の事情というのが少し気になったが、こちらもあまり詮索しない方がいいと判断しスルーする。

ただ、ルーナが魔法はともかく剣が使えるという事には驚きだ。本人は「剣術に関しては、本当に基本的なことだけ……」という話だが。それでも、格闘技を少し嗜んでいた程度のスバルにとっては、それだけでもすごいと思った。

 

「それに、そういう人じゃなくてもよっぽど魔法適性が低かったり、魔術師との相性が悪くない限りは契約したときに、オドの繋がりができるから魔法が使えるようになる人がほとんどよ。もっとも、魔術師に比べたら消耗も威力も負けるけどね」

 

それを聞いて、スバルは期待感に胸を膨らませていた。

今の話を要約すると、つまりスバルと相性のいい魔術師と契約すれば、よっぽどのことがない限りスバルにも魔法が使えるという事だ!

これは、本格的に相棒探しをしなければいけないと、スバルは固く決心した。

 

 

さて、決意を新しくしたところだけど、流石に本格的に盗人ぺこーらを探すとしよう。

とりあえず、持ち前のコミュ力を活かして聞き込み調査と行きますか!

そう思い立ち、いちばん最初に目に入った男性に声をかける。

 

「あのーすみません、ちょっと人を探してるんですけどー」

 

「おう嬢ちゃん、いったい誰を探してるんだ?」

 

なんとなくで声をかけたのは、少しやせ型でよれたシャツにズボンをはいた、くたびれ過ぎたサラリーマンといった感じの中年男性だ。

繁華街の方では、皆よそ者にはかかわりたくないというスタンスの人がほとんどだったが、意外にもスバルの問いかけにきちんと答えてくれる姿勢のようだ。

 

「えーっと、青いマントを羽織ってるスバル位の背丈で、うさ耳のついてる女の子なんですけど……」

 

「あーぺこらちゃんのことだろ?……ははーん、お嬢ちゃんたち、ぺこらちゃんに何か盗まれた口だなぁ?」

 

これまた意外なことに、あっさり知ってる人に出会えた。

さっき、あの子も自分のことをぺこーらと言っていたし、間違いないだろう。

ただ、何だろう。この人の口ぶり的に、よくある話であるような気がする。もしかして、ぺこーらはこの辺じゃ有名人なんだろうか。

 

 

「ぺこらちゃんのことなら、この辺の奴らならみんな知ってるぞ。なんたって貧民街のアイドルだからな」

 

否。有名人どころか、貧民街のアイドルだったらしい。

 

 

「ぺこらちゃんなら、この先の突き当りを右に行ったところに住処があるぜ。そこにいなかったら、後は盗品蔵かなぁ。盗品蔵はこの貧民街の一番奥にある少し大きめの建物だ」

 

随分と詳しく教えてくれるもんだなぁ。と内心感心してしまった。こういうところに住んでいる人ほど、他人からお金なんかを搾取したり、悪いことばかりする人達しかいないと思っていたのだが。スバルの持っていた、勝手な偏見を反省する。

 

「教えてくださり、ありがとうございます。両方行ってみることにしますね」

 

ルーナも意外だなと思ったようだが、教えてもらった情報に対しきちんとした態度でお礼を言う。

 

「ああ、気にするな……ぺこらちゃんは、生きるために盗みを働いてはいるが、根はとってもいい子なんだ。本当なら、もっと普通の生活を送らせてやりたいとこの町の皆が思ってる。盗まれたものを取り返しに行くんだろうが、お手柔らかにしてやってくれよ」

 

 

……本当に、思い込みだけで人を判断するのはよくないんだなと、スバルは深く反省した。

そりゃそうだ。ぺこーらを含め、この町の人たちだってやりたくて盗みや、ここでの生活をしているわけじゃない。

生きるため。比較的安全で、裕福な日本に住んでいたスバルには、経験したこともないような世界。きっと皆必死に、その日その日を全力で生きているんだろう。

 

「……まあ、私的にもあまり荒事にしたくはありません。獲ったものをちゃんと返してくれるなら、それ以上のことは望みませんよ」

 

 

「ああ、助かるよ」

 

 

ルーナも少し思うところがあたんだろう、相手のお願いを素直に受け入れる。

 

 

色々と教えてくれた男性にお礼を言い、スバルたちはまず、ぺこーらの住処に向かうことにした。

 

 

 

**********

 

 

 

ラミィと別れて数十分後。結局日が暮れて、あたりは真っ暗になってしまった。幸い、今日は満月なようで夜でも一応前は見えるといった具合だ。

 

さっき教えてもらった情報を頼りに、まずはぺこーらの住処に向かった。

しかし、そこにあったのは木でできた3方向の壁と屋根に、壁の無い部分に布が掛けてあるだけの、お世辞にも小屋とすらいえないような人工物だった。

正直、スバルとルーナはその住処?を見て、絶句していた。

 

とりあえず、そこがぺこーらの住処だと仮定し、スバルが布越しに声をかけてみた。しかし、返答はなく、布の隙間から中を見ても、わらの上に少し厚めの布が敷いてあるだけの、恐らくベットであろうモノしか見えなかった。

ルーナに振り返り、留守のようだと仕草で訴える。

 

仕方がないので、次は教えてもらったもう一つの候補である盗品蔵に向かうことにした。

 

そして今に至る。

思ったよりも貧民街の構造が入り組んでおり、恐らく盗品蔵であると思われる建物に着くまでに、かなりの時間がかかってしまった。

とりあえずもう暗いし、これ以上の情報も無いという事で、もしここがハズレなら一旦ラミィと合流しようという事になった。

ルーナ曰く、契約者同士は会話等はできないものの、呼びかければ相手に大体の位置と、呼ばれていることがわかるようだ。

 

「とりあえず、ラミィには声をかけたわ。ただ、少し離れたところにいるみたいだし、大体の位置しかわからないから、来るまでに時間がかかると思う」

 

 

「なら、先に盗品蔵を調べておこうよ。時間がもったいないし」

 

 

スバルの提案に対し、ルーナも同意したようで頷く。

2人で盗品蔵(仮)の建物に向き直り、スバルは少し見上げる。

確かに、貧民街でみてきた建物の中では、一際大きいようだ。木造であることは変わりないが、二階もあるようだし、小さなお屋敷と言われてもまあ納得するレベル。

 

先にスバルが前に出て、扉の前まで行きノックをする。

 

しかし、一度目のノックには特に反応がなかった。留守かな?と思いながら、再度ノックする。

 

 

やはり反応はない。

 

 

誰も出ないな。そう思いなんとなくスバルがドアノブに手をかけると、扉は何の抵抗もなく開いた。

カギはかかっていないようだ。

 

 

ルーナの方を振り返り、入るよ?という意味を込めて頷くと、ルーナも同意の意味で頷き返す。

スバルが引き続き、ドアノブに力をかけて、扉を押し開けていく。

中の様子を確認しながら、部屋の中へと入っていく。

 

 

 

すると、スバルはすぐに異様な雰囲気に気が付いた。

 

 

 

まず、部屋の中は真っ暗で、明かり等はついていない。

暗闇のせいで室内の全貌を確認することはできないが、空気感や耳鳴りの関係上、恐らく入ってすぐは広めの部屋になっているんだろうと予想する。

 

 

 

 

しかし、スバルが異様に思ったのは、そんなことが理由ではない。

 

 

 

 

匂いがするのだ。

 

 

 

鼻腔の奥をくすぐる嫌な臭い。

こびりついて離れない、不快感を伴う鉄のような臭い。

 

 

スバルは、今までにこの臭いをちゃんと嗅いだことがあるわけではないが、無意識の中で、本能が、この匂いの正体を教えてくれる。

 

 

 

ーーーーーーこれは、血の匂いだ。

 

 

 

スバルの鼓動は一気に早くなり、冷や汗をかき始める。

足が動かなくなり、体が震えてるのがわかる。

 

 

「スバル?どうしたの?私も入るわよ?」

 

 

ダメだ、来ちゃいけない!

 

そう思ったが、恐怖により咄嗟に言葉が出ない。

 

「真っ暗で何も見えないわね……ちょっと、なにこの臭い?変な臭いがするんだけど……」

 

ルーナ、待って!ここは危ない!

なんとかルーナに危険を知らせようと、やっとの想いでルーナの方を振り向く。

 

 

 

すると、ルーナの近く。

壁の陰でよく見えないが……

 

 

 

ーーーーーそこで確かに、人影が動いたように見えた。

 

 

 

「……あーあ、見つかっちゃった♪」

 

 

何やらつぶやいたその影は、すごい勢いでルーナの方に接近し、手に持っていた銀色に光る棒状のモノを振り上げた。

 

 

 

特に、何か考えたわけじゃない。

ただ、考える前に体が勝手に動いた。

 

 

 

その陰に潜む何者かが、その手に持ったものを振り下ろしていく。

 

 

 

しかし、それがルーナに届く前に、その間にスバルが割って入る。

 

「へぇ……あなたはその子を庇うんだ。まるで騎士様みたいだね♪」

 

 

本来、ルーナを狙ったであろうそれは、間に入ったスバルによって、ルーナへの到達を阻害される。

 

 

しかし、相手はそれを想定していたかのように。

 

 

冷静に、確実に、正確に。標的を眼前に出てきたものに変えて……

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー振り下ろされたそれは、スバルの首元を抉っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「かはぁっ…………」

 

声にならない声を出しながら、スバルは血を吐いて倒れた。

 

 

「…………え?…………スバル…………?」

 

何が起きたのかわからない様子に、ルーナが呆然と立ち尽くしてしまう。

しかし、そんなことはスバルにはわからない。

 

 

「あーあ、折角胸を切り裂いて、瀕死にしようと思ったのに……いきなり出てくるから、手元が鈍っちゃったじゃん。思ったより浅くなっちゃったし、即死にすらならないなぁ」

 

 

スバルの首を抉った殺人鬼が、何やら残念といった様子で、何かを喋っている。

しかし、そんなことは関係ない。

 

 

今スバルを支配している感情、それは痛みだけだ。

 

 

今までに体験したことの無いような、鋭い痛み。

そして、首元からの出血により、呼吸器官が埋まってしまう呼吸困難。苦しい。

 

 

否、そんな冷静な思考をしている余裕はない。

 

 

 

 

ーーーーーーー痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい苦しい苦しい痛い痛い痛い苦しい。

 

 

 

 

そんな、痛みと苦しみに耐えていると、次第に意識が朦朧としていく。

 

 

 

 

 

なにやら頭を動かされているようだが……スバルにはもう、何も分からない。

 

 

 

 

 

「スバル!スバル!」

 

スバルが床に倒れ、しばらくしてからようやくルーナは正気を取り戻す。

直ぐにスバルのそばに駆け寄り、頭を膝に乗せてあげる。

 

 

「スバル…………スバル!」

 

 

微かに息をしているスバルの顔を見て、ルーナの瞳から涙があふれて止まらない。

 

 

 

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔もお構いなしに、必死にスバルに声を掛けながら、出血の元に手を添えながら、止血に専念する。

 

 

本来、ルーナにも回復魔法の心得が多少ある。

しかし、ラミィもいない現状では、あまりにも致命傷を負ってしまったスバルを癒すほどの力は発揮できない。

 

 

「ふぅーん。あなたもこの子の為に泣いて、寄り添って、施してあげようとするんだね。愛して、愛されてるんだね……羨ましい」

 

 

何やら声を掛けられているようだが、ルーナは気づかない。

 

 

 

すごく冷たい。

 

 

 

なのに、耐えきれないほど熱い。

 

 

 

体に力が入らない、声が出ない。

 

 

 

自分の中の、何か大切なものが、すべて、溢れて、零れて、落ちてーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー失っていく感覚。

 

 

 

 

 

 

「スバル、待って……。まだ私、なにも返せてない……」

 

 

微かに君の声が聞こえる。

自分勝手な癖に優しくて、頑張り屋で、可愛くて……それでいて、すごく甘い匂いのする君の声が……。

 

 

「……スバル、ごめんね。ごめんね……」

 

 

そんな顔をしないで、悲しまないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はただーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『君を救いたいから。』

 

 

 

 

 

 

 

スバルは、そう心の中でそう思ったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーそれは言葉にはならなかった。

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