Re:大空スバルの異世界生活(執筆停止中)   作:飽和水溶液_pixiv

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次回もまたある程度書き終わりましたら投稿します。今しばらく、お待ちください。
あと、もしよろしければコメント等頂けると水溶液が飽和量を超えます。(訳:めちゃ嬉しいです)


第一章 06話 極上の味

 

盗品蔵にて、ぺこーらを待つこと数時間。日も傾き始め、既に夕方頃に差し掛かる。

 

来るだろうとは思うものの、流石のスバルも不安になってくる。

 

 

「もしかしてぺこーら、盗んだ徽章をここに売る気じゃなかったのかな」

 

 

ここにぺこーらが来て徽章を売る、これはあくまで周りの人に聞いた話や、夢の中で見たことを総合した結果だ。しかし、それらもすべては予想に過ぎず、ぺこーらが実際にここに売りに来たところを見たわけじゃない。

 

 

そんな不安にスバルが駆られていると、それを遮るかのように扉のノック音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

ゴン、ゴンゴンゴン……。

 

 

 

 

 

 

「あ、ぺこら来たよ。よかったねスバル」

 

 

今の特徴的なたたき方をスバルが疑問に思っていると、シオンがそう言った。

あーそういう感じなのね、ノックの仕方で合図があるのか。

 

 

「はいはーい、今開けるよー」

 

 

シオンが反応し、扉の方にパタパタと走っていく。

大き目の玄関扉を開くとそこには、見覚えのある青いフード付きのマントを纏った少女が立っていた。

 

 

「やっほーぺこら、待ってたよ。随分と遅かったねぇ。ミルクいる?」

 

 

「ありがとうぺこ、シオン先輩。今日の標的が随分しつこくて、撒くのに時間かかったぺこよ」

 

 

標的と聞いて、スバルは恐らくルーナのことだろうと思う。スバルが最初に広場の近くで足止めしてしまったが、あの後もかなりの時間ぺこーらを追跡していたのだろう。本当に悪いことしちゃったなぁ。

 

 

「あれ、今日はお客さんがいるぺこ?」

 

 

ぺこーらがフードを脱ぎながら、スバルの方を見て言う。そのぺこーらの頭にはやはり、夢で見た時と同じように真っ白で可愛いらしいうさ耳が付いていた。

 

 

「うんまあお客さんだね。私のじゃなくて、ぺこらのだけど」

 

 

「ぺこらの……?」

 

 

不思議そうにぺこーらが、スバルの方を見てきた。

 

 

「ぺこらに用があるらしくて、ずっと待ってたんだよ?ぺこら、スバルのこと知ってる?」

 

 

「いや、初対面ぺこ」

 

 

そう言いながら、ぺこらはスバルの方に近寄ってきた。

 

 

「初めましてぺこ、ぺこーらの名前は”兎田ぺこら”ぺこ。あんた、ぺこーらに何か用ぺこか?」

 

 

めっちゃぺこぺこ言うじゃん、この兎人。

おかしな語尾だなと思いつつ、スバルも立ち上がって挨拶を返す。

 

 

「初めまして、スバルは大空スバルしゅば!実は、ぺこらが持ってる徽章が欲しくて交渉に来たんだよね」

 

 

「ふーん、なるほどぺこ。あんたもこの徽章が欲しいぺこね……ていうかあんた、しゅばって何ぺこ?変なしゃべり方ぺこね」

 

 

お前だけには言われたくない。

 

しかし今ぺこらは、スバル”も”徽章が欲しいといった。他にもそれを欲しがってる人がいるってことだろうか。

 

 

「まあ、とりあえず座ったら?詳しい話はそれからで」

 

 

シオンに言われ、スバルはさっきまで座っていたカウンター席に座る。

ぺこらも了承したようで、スバルの横の席に座った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「それで、スバルもその徽章を欲しがってるってどういうこと?」

 

 

シオンに出されたミルクを豪快に飲み干したぺこらに、スバルは先ほどの疑問をぶつけた。

 

 

「まあまあ、一旦落ち着いてスバル。まずは、ぺこらが持ってきた徽章を見せてもらおうよ。私も品を見て、鑑定したいし」

 

 

答えを焦るスバルを、シオンに制される。

確かに、まずはぺこらの持ってる徽章を確認しないとか。スバルもまだ話にしか聞いたことなくて、見たことないしね。

 

 

「んー?なんかあんたたち、勘違いしてないぺこか?徽章を見せるのは別にかまわないぺこだけど……ぺこーら別に、この徽章を売るつもりないぺこよ?」

 

 

「えぇ!?そうなの!?」

 

 

シオンよりも先に、スバルが反応する。

ぺこらが徽章を持っていることは間違いないようだが、それを売る気がないとは……。そうなってしまっては、スバルの考えていた計画が全て狂ってしまう。ルーナに返すためにも、ここで徽章を買い取らないといけないのに……。

 

 

「ぺこら、どういう事なの?」

 

 

スバルが驚いていると、思ったよりも冷静なシオンが聞いた。

 

 

「そもそもぺこーらがこの徽章を手に入れてきたのも、ある人からの依頼だったぺこよ」

 

 

そう説明しながら、ぺこらが「これがその徽章ぺこなんだけど……」と件の物を取り出した。

 

ずっと探していた徽章を、初めて見たスバルはそれを見つめる。

黒地に逆三角形で、ツヤのある石のような見た目。その真ん中には、赤くて小さな宝石が埋め込まれていて、その周りにはドラゴンの紋章があしらわれていた。

ルーナの言っていた特徴と概ね一致する。間違いない、これがルーナの探していた徽章だろう。

 

 

「これが例の徽章だね。どれどれ……うーん、いたって普通の物に見えるんだけど……ちなみに、スバルが探していたものはこれであってるの?」

 

 

ぺこらの取り出した徽章を、シオンが興味深そうに持ち上げた。どこからか取り出した手袋をはめ、虫眼鏡のようなもので細かく観察し、品定めをしていく。

その結果、何の変哲も無い徽章であるという結論に至ったようだ。

 

 

「うん、多分だけど間違いないとおもう」

 

 

「多分って、現物を知ってるわけじゃないの?」

 

 

「……うん、まあね。スバルもそれをある人にあげるために欲しいだけだし」

 

 

まあ、正確にはルーナに返してあげるためなんだけど。

でも、どうしよう……ぺこらがこの徽章を売ってくれないなら、スバルがこのスマホをいくら高値で売ったとしても買うことができない。そうなれば、ルーナとちゃんと話をする機会を作ることも、仲直りすることもできない……。

 

スバルが不安そうな顔をしていると、それを見かねたぺこらがため息交じりに言った。

 

 

「あんた、なんて顔してるぺこ……安心しなぺこ、あんたの話もちゃんと聞いてやるぺこよ」

 

 

「……どういうこと?」

 

 

「そもそもぺこーらは、その依頼人に『この徽章を手に入れてきて欲しい』って言われただけぺこ……そして、その徽章を誰に売るかはぺこーら次第ぺこよ」

 

 

確かに依頼された品ではあるが、それを盗んできたのはぺこらである。よって、あくまでこの徽章の所有権利は自分にあると、ぺこらは主張する。という事は当然、それをどうするかを決めることができるのもまた、自分だけであると。

 

 

「ぺこらは別に、どっちがこの徽章を持って行ってもかまわないぺこよ。ただ、より高値で買ってくれる方に売りつけるだけぺこ」

 

 

それを聞き、スバルは若干元気を取り戻す。

儲かる方に売ろうなんてぺこらはちゃかりしているが、それによってスバルにも交渉の余地が生まれてくれる。スバルにも買う権利があるのなら、何とかなるかもしれない。

 

 

「まあでも、全てはぺこらの依頼人が来てからぺこ。この後ここで会う事になってるから、その人が来るのを待つぺこよ。多分もうすぐ来るはずぺこなんだけど……」

 

 

そういわれ、スバルも納得する。

依頼人って言うのがどういう人かわからないけど、すっごくお金持ちみたいな人じゃないといいなぁ……。

 

スバルがまだ見ぬ依頼人に、どうか貧乏人であれという期待を抱いていると、タイミングを見計らったように扉をたたく音が聞こえた。それを聞き、三人が玄関口の方を振り返る。

 

 

「噂をすれば、ちょうど来たみたいぺこね。ぺこーらが出るぺこ」

 

 

そういいながら、ぺこらが扉の方に駆け寄って訪問者を招き入れようとする。

 

 

「……いいのシオン?ぺこらにあんな勝手にさせて。ここって一応シオンのお店でしょ?」

 

 

「まあ、別にいいんじゃない?……ぺこらはこの辺じゃ同種の子もいないし、寂しいんだろうね。しょっちゅうここにも遊びに来るし、その度に愚痴とか吐いていくよ……それに、シオンだってぺこらのことを可愛い後輩ぐらいに思ってるんだよね。半分人間じゃないシオンが言うのもあれだけど……血のつながりがなくたって、家族みたいに大切に思ってあげることはできるっていうか……」

 

 

色々と思うことがあるんだろうシオンが、何やら難しそうな顔をしながら言った。

シオンの話を聞いて、なんとなく二人の関係性について分かった気がした。こういう町では、弱いものは一人では生きていけない。それに、群れることに向かない人もいる。そんな中で、二人はお互いを尊重し、助け合えるような関係を築けているんだろう。

スバルは少しだけ、羨ましいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来たぺこな。取り敢えず入るぺこ!ミルクでもよければ出すぺこよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言いながら、ぺこらが来客を招き入れた。

いや、ミルク出すのはぺこらじゃないでしょ。そう心の中でツッコミながら、スバルは依頼人の方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、貰おうかな♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声を聴いたとき、スバルの中の何かが唸った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?こちらのお嬢さん達は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、どこかで聞いたことがあるような声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちに立ってる帽子をかぶった方が、ここ盗品蔵の店長ぺこ。そしてこっちが……あんたの商売敵ぺこだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、どこで聞いたんだっけ……思い出せない……。

 

ぺこらの説明を聞いた依頼人が、スバルの方を見る。とっても黄色い、キラキラした綺麗な瞳で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、元気そうなお嬢さん。私の名前は”夜空メル”!よろしくね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルの本能が、気づくことのできない警笛を鳴らしていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

最初の印象は、『あざと可愛いえっちなお姉さん』という感じだった。黄色いショートヘアーに、全身を覆うほど長い黒いマントを羽織っている。その下には黄色を基調とした胸当てのような服に、ショートパンツを履いている。おへそも太ももも丸見えで、マントの隙間から垣間見える景色は女のスバルにも毒なくらいアブナイ格好をしていた。

 

 

「……ん?どうしたの?メルの顔に何かついてる?」

 

 

スバルが依頼人”メル”の方を見たまま固まっていると、メルさんから再度声を掛けられる。

 

 

「あ、いや、何でもない……とっても可愛い格好だなって思ってさ。あたしは大空スバル……です。メルさんと同じように、ぺこらの持ってる徽章が欲しくて来たんだ」

 

 

得体のしれない不安感に、つい素が出てしまう。言動もしどろもどろになってしまった。

 

 

「ふふっ、スバルってばお上手なんだね。ありがと!」

 

 

咄嗟に服のことを褒めてしまったけど、メルさんはあざとらしく恥ずかしがるようなそぶりでお礼を言ってきた。スバルが男だったら、好意的に思われていると勘違いしてしまったかもしれない。

 

 

「とりあえず、こっちのテーブルに着て座るぺこ。商談の話するぺこよ」

 

 

そういわれ、玄関扉の前に立っていたメルさんと、カウンターの近くに立っていたスバルが向かい合うようにテーブル席に座る。さらにスバルの横にぺこらが座り、テーブルの側面にミルクを持ってきたシオンが立つ形になった。

 

 

「それじゃあ商談を始めるぺこ。まず、これが今回二人が欲しがっている例の徽章ぺこ」

 

 

さきほどまでシオンに鑑定されていた徽章を、ぺこらがテーブルの上に取り出した。

 

 

「一応最初に依頼をくれたのはこっちのどえろいねーちゃんぺこだから、多少贔屓はするぺこだけど。基本的にはより高値で買い取ってくれる方に売るぺこ。まずは……依頼人の方から聞こうぺこかな。いくらまでなら出せるぺこ?」

 

 

ぺこらはまず、メルさんの方から予算金額を聞くようだ。

 

 

「うーんとね、メルも実はとある人から依頼されてその徽章を探してたんだよね。で、そのクライアントから多少多めに預かってはいるんだけど……」

 

 

そういいながら、メルさんは小袋を取り出した。その袋の紐を解き、中身を机の上にジャラジャラと出していく。どうやら硬貨入れのようだ。

そして、その出された硬貨を横に立っていたシオンが積みながら数えていく。

 

 

「……銀貨30枚だね」

 

 

つまり、日本円にして15万円ってことだ。結構入ってる袋なのに、ぞんざいに扱うなこの人……。

 

 

「メルから出せるのはこれで全部かな、これ以上は持ち合わせがないの」

 

 

「了解ぺこ……じゃあ次に、スバルはどうぺこ?」

 

 

次はスバルの番か。

 

値段を言う前にまず、スマホの説明をしようとポケットから取り出し机の上に置く。それを見たぺこらが不思議そうな顔をしていた。

 

 

「……?なにぺこ、この板切れ」

 

 

「これはね、異世界のアーティファクト”スマホ”って言うんだ!所謂ミーティアってやつで、空間の時間を切り取って、この中に凍結できる魔法具なんだよ。実はスバル、今まとまったお金持ってないんだよね。だから、これをシオンに買い取ってもらって、そのお金で徽章を買うしゅば!」

 

 

そういいながら、スバルは先ほど撮ったシオンの写真を2人に見せる。それを見たメルさんは無反応だったが、ぺこらは驚いているようだった。

 

 

「これは、さっきシオンに鑑定してもらう際に使って見せた時の奴だね。その時のシオンの周りの空間の時間を止めて、この中に閉じ込めたってわけ!シオンからもかなり精巧な作りをしているものだって太鼓判を押されてるものだよ!」

 

 

「まあそうだね。シオンの見立てでは、スバルの持ち込んだその”すまほ”は今までに取り扱ったことがないくらい希少な物だね。その後の売値によっての上乗せ金を考えても、前払いで純金貨5枚で買い取るつもりだよ」

 

 

「そういうことで、スバルの出せる金額は最大で純金貨5枚ってことになるかな」

 

 

つまりは、50万円までは出せるとスバルは言っているってことだ。我ながら、とんでもない金額を払おうとしている。

 

 

「なっ!?純金貨5枚!?」

 

 

ぺこらがさらにびっくりしたようで、声を荒げた。語尾忘れてんぞ。

一連の様子を、真顔のまま静かに見ていたメルさんが、その金額を聞いても眉一つ動かさず話し出した。

 

 

「……んーということは、この商談はスバルの方に分がある、ってことかなぁ?」

 

 

「そうなるね。お姉さんには悪いけど、このお金を袋に戻して、おとなしく帰ってね」

 

 

シオンがそこまで言って、ぺこらの方をちらっと見た。驚いていた様子のぺこらだったが、シオンの視線に気づき、うんと頷く。

 

 

「この徽章は、スバルに売るぺこ。依頼人のねーちゃん、すまんぺこな」

 

 

それを聞きスバルはようやく、ここまで張りつめていた緊張や不安が一気に取り除かれた。

よかった!これでルーナに徽章を返して、仲直りができる!

おもむろにガッツポーズをし、その様子を呆れた様子でぺこらとシオンに見られる。

 

 

「そっかー、残念だなぁ。しょうがないけど、クライアントには手に入らなかったって報告しないと」

 

 

そう言いながらメルさんは出していた銀貨を袋にしまい、立ち上がった。メルさんと、そのクライアントさんとやらには悪いけど、スバルだって譲れないんだ。

ただ、メルさん……最初からずっと、目が笑ってないんだよなぁ。さっきも、残念とか言ってたけど、とてもそう思ってるようには見えなかったし。

 

そんなことを思いながらメルさんの方を見ていると、出口に向かおうとしていた足を突然止めた。

 

 

「……そういえばスバルは、何のためにこの徽章を欲しがってるの?」

 

 

スバルの方に向き直り、メルさんが聞いてくる。

既に徽章はスバルが買い取ることに決まったし、別に話しても問題ないよね。

 

 

「持ち主に返すんだよ。それを一生懸命に探してる子がいるんだ」

 

 

言いながらスバルは、目を閉じる。

瞼の裏には、先ほどケンカして仲違いしてしまったルーナの顔が思い浮かべていた。この異世界に来て、最初にスバルの心を動かしてくれたわがままで優しい女の子。

そんな子をあんなに悲しそうな顔をさせてしまったことに、この上ないほどの罪悪感を覚えた。絶対にこれを届けて、仲直りするんだ!

 

そう意気込み、閉じていた眼を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間にして、僅か数秒のことだったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けて、最初に見えたのはメルさんの顔。その顔を見て、スバルは全身の毛が逆立ったのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これがきっと、殺気というものなのだろう。メルさんが……メルに、先程までとは比べ物にならないほどの恐怖心を感じた。

スバルだけではない。ぺこらも、シオンも、そのただならぬ気配を感じて固まっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この場のすべてを支配している恐怖の象徴が、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なぁーんだ、関係者なんじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐怖が、笑っていた。さっきまでの作り笑いではない、心底嬉しそうに、楽しそうに。殺意を持って、笑っていた。

 

次の瞬間、スバルは横からの強い衝撃を受け、横倒れになる。

 

 

「なにボーっとしてるぺこ!死ぬ気ぺこか!?」

 

 

「え……なにが……?」

 

 

何が起きたのかわからず、スバルは周囲を見渡す。すると、さっきまでスバルが立っていた場所を通るように、メルが銀色に輝く軌道を描いていた。

 

 

「あーあ、避けられちゃった。メルってばまだまだ未熟だなぁ」

 

 

特徴的な角度で曲がっているナイフを右手に持って、メルはスバルを見下す。恐怖で完全にすくみ上っているスバルは、震えが止まらなかった。

 

その様子を見ていたシオンが、床に魔法陣を展開しながらメルの方に両手を突き出す。

 

 

「あんた!シオンの店でそんな物騒なモノ出さないでもらえる!?」

 

 

「へぇ、貴方はとっても素晴らしい力を持っているんだね。私魔法とか苦手なんだよなぁ」

 

 

「そーなんだ!なら特別にとびっきりなヤツをお見舞いしてあげる!!【エル・フー……っごはぁ!?」

 

 

シオンの周りに、風の魔法が展開されていく。

 

……がしかし、シオンが詠唱を言い終わる前に、突如その場に倒れこむ。

 

 

「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝ぁぁぁ!!!…………な、に……これ…………オ˝エ˝エ˝エ˝ェェェ…………!」

 

 

いきなり叫びだしたかと思うと、今度は吐き出した。胃の中のものをすべてぶちまけ、頭を抱えてのたうち回る。

相当苦しいのか、暴れまわる中であちこちに頭や体をぶつけてしまい、額から血を流している。

 

 

それでも収まらないのか再度吐き気を催し、血を吐く。

 

 

目を真っ赤に充血させ、血涙を流し……

 

 

最後は、痙攣しながら動かなくなってしまった。

 

 

「ちょっとシオン先輩!大丈夫ぺこか!?……あんた!シオン先輩に何したぺこ!」

 

 

未だ放心状態のスバルをよそに、倒れたシオンにぺこらが駆け寄る。

背中をさすりながら何かを話しかけているようだが、ぺこらの声はシオンには届いていないようだ。

 

 

「備えはしておくもんだね。魔術師を相手にすることを想定して、これを持て来ておいて正解だったな」

 

 

そう言いながら、メルは何やら赤色に光る結晶を取り出した。

 

 

「これはねとある魔法が織り込んである結晶石なの。ミーティアの簡易版って感じかもね。この結晶石を起動するとね、一定範囲内にいる精霊や微精霊、魔法適性の高い人を狂わせる効果があるの。素敵でしょ♪」

 

 

「そんなことはどうでもいいぺこ、この異常者が!!」

 

 

シオンを害され、ぺこらが激怒する。

懐に隠し持っていたであろう短剣を鞘から抜き、メル目掛けて走り出す。

それは、スバルが今までに見たことがないほどの速さで駆けて行き、メルの周りを旋回する。

 

 

「わぁすごい!とっても速い!加護持ちなんだ、世界に愛されているんだね…………妬ましいなぁ」

 

目にもとまらぬ速さで駆けるぺこら。しかし、それを捉えているらしいメルがぺこらに向かってナイフを振り下ろす。それを寸でのところで避け、ぺこらが間合いに入り込む。

と思った次の瞬間、接近してきたぺこらの顔面に、空いてるほうの拳をめり込ませる。

 

 

「ぐはっ!…………」

 

 

思わぬ衝撃で体を吹っ飛ばされるぺこら。

痛みからか、すぐには立ち上がれない。

 

 

「すぐにメルに向かってきたその勇気は認めるけど、動きが単純すぎるかな。もし次があったら、もっと頑張ろうね♪」

 

 

未だ立ち上がれないぺこらに、メルが近づく。

ナイフの届く距離まで接近し、右斜め上に振り上げる。

 

 

「くっ……うるさいぺこ!ぺこーらは、あんたを絶対に許さなっーーーーーーーーー」

 

 

ぺこらがメルに対して怒りを吐きつけようとした。が、それを言い終わるより先に、メルのナイフが振り下ろされ、ぺこらの首から上がとぶ。人体を一刀両断できるなんて、一体その細い体のどこにそんな力があるんだろうか。

 

血しぶきを吹き出しながら、先程までぺこら”だったモノ”は、静かに倒れる。あたりに鉄臭い、いやな血の匂いが充満した。

スバルはまだ動けない。

 

 

「あ、いっけなーい!また即死させちゃったよ……ま、いっか。まだあと二匹いるし」

 

 

メルはそう言いながら倒れているシオンの方を見た。

先程まで吐いて、叫んで、苦しんでいたシオンは、既に泡を吹いて気絶していた。

 

 

「んーこの子……ただの女の子にしては効き過ぎじゃない?血とか吐いてて、メルちょっと怖いんですけど」

 

 

シオンを狂わした張本人が、なんの悪びれもなく言った。「メル、血とか苦手なのに……」とまでほざく始末だ。一体何を考えているんだ、この殺人鬼は……。

 

状況を飲み込めず、恐怖で動かなかった思考がここにきてようやく回りだす。

未だ震える膝を抑え込み、やっとの思いで立ち上がる。

 

 

「あれ、立つんだスバル……でも、遅すぎだよ。もうみーんな倒れちゃったし。大人しくしてるほうがいいんじゃないかな?」

 

 

「っ!……黙ってたって殺すだろーが、クソ野郎……!!」

 

 

「きゃースバルってば怖い!……でも、言動と実力が見合ってないんじゃない?」

 

 

思ってもいないことを言いながら、感じてもいない恐怖心をひけらかした。

特徴的なナイフをクルクルと、器用に回しながらメルが近づいてくる。

 

スバルは考える。どうする、どうすれば助かる。

メルがスバルに、その刃を到達させるまでにもう数秒しかない。スバルは、決してメルから目を離さないように意識しながら周りを見渡した。何か……何かないか……。

 

 

「それじゃあ、バイバイだね……スバル」

 

 

メルが、ナイフを構えて駆けだした。先程までと同じように右手にナイフを持って、右から切りかかろうとしてくる。放心しながらも、さっきまで見ていた動きと同じもの……。

 

スバルは咄嗟に、さっきまで自分が座っていた椅子を持ち上げ、ナイフの軌道に沿うように振り合わせた。運良く、ナイフが深く刺さり椅子から抜けなくなったようだ。

メルが一瞬たじろいたが、その隙をスバルは見逃さない。ナイフが装飾された不格好な椅子を、そのまま力いっぱい遠くに投げ捨てた。

 

 

「へっ!どんなもんだ!スバルだってやればできるんだ……おりゃぁ!!」

 

 

獲物を失えば、メルだって多少力の強い女の子だ。

スバルはすかさず、丸腰になったメルに回し蹴りを食らわせる。すると、メルが不意打ちを食らったように、軽く吹っ飛んだ。

一応スバルには、格闘技の経験がある。その時はよく、師範から拳が軽いと怒られたものだが……。ただ、蹴りともなれば、拳よりも数段威力があるはず。少しは痛がってくれるとありがたいんだけど。

 

そう思いながら、スバルはメルの方を見た。しかし、そこでスバルは違和感を覚えた。

あれ?何だろう。メルの姿はさっきまでと特に変わったところはないはずなのに……。

変化の出所を見つけられず、ついメルの全身を舐めるように見てしまう。

 

するとある一点……メルの左手を見て、視線が止まる。

 

 

(ん?メルって左手にナイフを持ってたっけ…………!?)

 

 

違和感の正体を突き止める前に、スバルの身に起きている異変に気が付いた。

腹部から……何やら液体が流れ出ている。……とても赤くて、熱い。

 

お腹が裂けているその事実に気づくのと、血を吐き出すのはほぼ同時だったと思う。ようやく自覚した痛みに、悶絶しながらスバルは倒れこむ。

 

 

「かはぁ!!…………ゲホッゲホッ…………オ˝エ˝ッ…………」

 

 

痛みと苦しさで、思考が閉ざされる。

 

痛い、痛い痛い痛い痛い痛いいたいたいいたいいたいいたい………………痛いっ!!!!!

 

耐えがたい痛み。最近こんなのばっかりな気がする。

………さいきんて、いつのはなし?

 

 

「あはっ♪よかったよスバル!さっきの蹴りはかなり痺れたよっ!……まあでも、ごめんね。まだまだ未熟なメルでも、これだけは自信あるんだよね……すれ違いざまにお腹を切り裂くの」

 

 

そう言うと、もはや声が届いていないスバルにメルが近寄ってくる。

 

すると、何やらメルがつぶやいた。痛みに苦しみ、苦しみに傷んでいる様子のスバルを見て……何故かメルは、恍惚な表情を浮かべていた。

 

 

「……あぁ、それにしても……スバルって、とっても”美味しそう”だよね……」

 

 

まるで恋する乙女のように、本当に愛おしそうに、メルは語る。

 

 

「ねえ、知ってるスバル?血ってね、とっても不味いんだよ。メルは実は吸血鬼の家系なんだけど、今まで血なんて臭いし苦いしで……どうしても好きになれなかった」

 

 

スバルにはわからない。痛い、痛い……楽になりたい。

 

 

「でもね、ある時とある男の血を啜ったの。死にぞこないで、ろくでもない……嫌いな男の嫌いな血」

 

 

聞こえない、理解できない……。

 

 

「でも、その時初めて知ったの。人間はいざ死にそうになった時にこそ、本気で生きようとするんだって」

 

 

………………。

 

 

「死の直前に瀕していたその男の血は、今までに味わったことがないほど濃厚で、甘くて、温かくて……この上ないほど美味しかった」

 

 

そこまで言うと、メルは床に倒れこんでいるスバルに高さを合わせるように、低めに屈んだ。スバルは既に、出血多量で意識を手放しかけていた。

 

 

「それから私は、相手を瀕死にして血を飲むことに固執するようになったの。結果、ここオルタナ王国でも絶賛全国指名手配中。変な異名もつけられて、皆が私を探してる。困っちゃうよね、メルはただ食事をしているだけなのに……」

 

 

横たわっているスバルの髪をどけ、綺麗な首筋をメルは愛おしそうに撫でる。

髪の色と相対性を成しているからか、ひどく真っ白に見えた。

 

 

 

 

 

 

「……私は『[[rb:瀕血 > ひんけつ]]のヴァンパイア』。じゃあ、頂くね。大空スバル……」

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと口を近づけ、スバルにかみつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーかぷっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メルに血を吸われるスバルは同時に、魂をも吸われていったような気がした。

 

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