Re:大空スバルの異世界生活(執筆停止中) 作:飽和水溶液_pixiv
ただ、少しやりすぎたせいでしばらく文章量多いです。というより、一話当たりどれくらいの長さが読みやすいんでしょうね。
絶たれた肉、抜けた血、止まった鼓動。
その全てが元通りに遡る――――――――――
大空スバルの帰還である。
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眠るにはあまりにも邪魔な喧騒。
先程まで怠惰の限りを尽くしていた血管の中の血液達が……今度は逆に、不快に思うほど勤勉に働き始める。全身に血がめぐり、脈を刻み、脳が覚醒し始める。
しかし、本音を言うのならまだ起きたくない。
眠い、寝たい、寝ている、寝ていたはずなんだ……。
そんな自分を許すまいとする陽の光が、雲の影を外れたのかより一層と自分を照らす。眩しさのあまり、思わず瞼を強く結ぶ。
そして、強く結べば次は解けるもの。ゆっくりと瞼を開け、眼前に広がる光景を目の当たりにする。
「ああ、またここか……」
思わず、そんな言葉が漏れてしまった。
見覚えのある場所。とある国のとある王都の、噴水の映えるとある広場。
またしてもスバルは、ここで目覚めてしまったのか。
いまだ意識がはっきりしないスバルをよそに、近くから悲鳴のようなものが聞こえた。 聞き覚えのある、甘い香りのあの子の声。
スバルは気だるげな体を無理やり引き起こし、声のした方に近寄る。人込みをかき分け、騒ぎの中心に到達すると、想像通りの情景が目に入ってきた。屋根までひとっ飛びで駆けて行く、青いフードを被った少女。それに向かって怒鳴る黒髪に白いローブの少女と、魔法陣を展開する水色ミニスカドレスの女性。
「あなた、ちょっと待ちなさい!」
「ぺーこぺこぺこ!待てと言われて待つ盗人がいると思ってるぺこか!」
「姫!ラミィにお任せてください!【ヒューマ】!」
ラミィが呪文を唱えると、どこからともなく氷塊が出現する。
―――――スバルは知っている、それが当たらないことを。
案の定。ラミィが放ったそれは、フードの少女の数センチ横を掠めていった。
「いきなり魔法を撃ってくるなんて……当たったら危ないぺこでしょ!」
「なら、すぐにそれを返して!追いかけるわ、行くわよラミィ」
「わかりました、姫!」
そう言うと、姫と呼ばれる少女ルーナとその契約魔術師のラミィが、フードの少女を追って走っていった。
再三見た一連の出来事に、ようやく大空スバルは理解する。
「……これってやっぱり……時間が巻き戻ってるってことなのかな」
現実では決して起こらないであろう現象。
しかし実際に口にした途端、もうそれ以外には考えられないだろうという自覚も湧いてくる。
最初は夢だと思っていたが、夢にしてはあまりにリアルすぎる現実。知っているにしては、知らない結末へとたどり着くシナリオ。そして、忘れようにも忘れられない死への痛みと恐怖。 その全てが、『大空スバルがこの世界を繰り返している』という事実を裏付けた。
「なんか、こういう設定の漫画か映画があったような……」
スバルが元いた世界でも、そういった作品があったような気がする。時間が巻き戻ったり、世界をやり直したりと奮闘しながら望む未来へと進む主人公の物語。
つまり、今のスバルは彼らと同じような境遇にいるという事だ。
「しかも、ただ時間を遡っている訳じゃないんだよなぁ……」
世界をやり直している、という事実はなんとなく理解した。
しかし、この能力?なのかどうかはわからない力は、どうやらスバルの自由に発動できるわけでは無いようだ。自分の思った瞬間に、自分の思った時間まで遡れるわけではない。
大空スバルが、世界をやり直すためのトリガー。それは……
「……スバルが、死ぬこと……?」
今のところ世界をやり直したのは二回で、現在は三回目の世界という事になる。よってこの予想が正しいのであれば、スバルは既に二回死亡しているという事になる。信じたくはないが……
「でも、忘れたくても忘れられない……あの痛みだけは。」
実際の、今のスバルの体には特に外傷はないものの。心には確実に、あの時の苦しみが染み込んでいた。
「差し詰め、『死に戻り』ってところかなぁ」
今のところ死に戻りについて分かっていることは、スバルが死ぬことによって発動し、今のこの時間まで遡る、という事だけだ。他にどんな制約があるのか、例えば回数は?戻れる時間量は?そもそもどうやって?なぜスバルがそんなことを?……わからないことだらけだ。
ただ一つ、言えることは……
「……この異世界にいるスバル以外の誰かが、スバルにこの力を授けたってことだけか」
元いた世界では、もちろん現実世界でそういった現象は聞いたことがないし、当然スバルにもそんな心当たりはない。ということはこの異世界に来てから、あるいは来た時に、スバルはこの力を与えられたってことだ。
与えられた、というよりは押し付けられた、という方がスバルにはしっくりきた。死ななければ発動しないうえに、死んだら勝手な時間に自動的に戻される。
「これは、能力というよりは……”呪い”だよね」
正直、憧れの異世界召喚の特典がこんなものなら、スバルはいらなかった。もっと何というか、魔法が使えるとか身体能力が上がるとか、そういうスキルが欲しかったなぁ……。
「まあ、今わからないことについてくよくよ考えててもしょうがないよね。それよりも、これからどうするか考えないと……」
スバルは、これから何が起こるか知っている。
ルーナがぺこらに徽章を盗まれたことも、その徽章をシオンが経営する盗品蔵に持って行くことも。そして……そこで皆、メルに殺されることも......。それは何としても避けなければならない。特に、あの場にルーナを連れて行ってはいけない。最初にスバルと一緒に盗品蔵に行ったときは、先にスバルが殺されてしまったせいでその後のことは知らないが、あの後ルーナがどうなったかなんて想像したくもない。勿論ぺこらとシオンのことも気になるが、そもそも盗品蔵に誰もいなければ、メルに襲われることもなくなるだろう。
「その為にまず、ぺこらが徽章を盗品蔵に持ち込む前に何とか交渉する。そしてシオンを盗品蔵から避難させて、ルーナに徽章を返す。そうすれば丸く収まるはず!」
今後の予定をある程度立て、行動に移し始める。
まずは、一回目の世界でぺこらと出会ったあの路地を目指そう。1番早くぺこらに会える場所がそこだし、しかもその後にルーナとラミィの2人もやってくる。そうすれば、その場で説得して、交渉次第では徽章を取り返すことが出来るはずだ。
早速スバルは、異世界に降り立ったばかりの頃の記憶を呼び覚まし、3人と出会った路地を目指して歩を進めた。
[newpage]
異世界とて、現実は甘くない。
どんだけ甘くないの?世界はもう少し、スバルに優しくしてくれてもいいと思う。
自分の今置かれている状況を理解し、これから起きる事件を解決する為意気揚々と動き出したスバル。しかしこんなに広い街中で盗品蔵や噴水のある広場と違い''何ら特徴も無いただの路地で少女1人見つける''だなんて、流石に難易度が高すぎた。
「あの時は恥ずかしさと好奇心のあまり、がむしゃらに歩いちゃってたからなぁ......」
あの時は本当に偶然、たまたまぺこらと鉢合わせることが出来たが、今回はそうもいかなかったようだ。
一応、それらしい裏路地通りまでは辿り着けているのだが、青いフードを被った少女は見つけられない。
どうしたものかと考えながら歩いていると、ふと前方に人影が現れたのがわかった。チラッと見上げてみると、通路の真ん中に一人の男性が立っていた。邪魔だなと思いつつ、すみませんと軽く会釈をしながら横を通り過ぎようとすると、男性もまた横に移動しスバルの前に来てしまった。
(あーあるよね、こういうお互いが譲ろうとしてぶつかっちゃうやつ)
そう思いながら、次は声に出しながらすみませんと言いつつ再度横を通り抜けようとした。しかし、またもや男性がスバルの前に移動し、道を塞いできた。さすがに不審に思い、再び顔を上げる。すると、いかにも育ちの悪いというか、不良生徒がそのまま大人になったというか、とにかく柄の悪そうな男の人がスバルを睨んでいた。
ガタイも良いし、当然スバルよりも背が高い。流石に怯んでスバルが1歩下がると、後ろからも人の気配がした。振り返ってみると、さっきの人よりは若干背が低い細身の男と、更に低いスバルくらいの背丈の男の2人が道を塞いでいた。
(あ、これあかんやつや......)
いわゆる輩に絡まれた、と言うやつだろう。スバル自身は体験したことないけど、日本でもそういった事件が起きている。だからこそ、これから何が起こるのかも安易に想像ができた。
「ようねーちゃん、そんなに急いでどこに行くんだ?」
「べ、別に?ちょっと人探しをしてただけだよ?」
後ろから来た2人組の片方、中くらいの奴がスバルに聞いてきた。こういう時は舐められないように、出来るだけ怖がってないように見せないと.......。
「へーこんなところで人探し?それなら俺達も手伝ってやろうか?」
あれ?もしかして案外優しい人たち?
ていうかスバル、最初に盗品蔵に行った時も反省したはずだった。人は見かけによらないと。確かにちょっと悪そうで、怖くて不細工で不潔そうなこの3人も、もしかしたら親切な人かもしれないしね。それなら協力してもらっちゃおうかな........
「その代わり、俺達にも付き合えよ。男みてーな見た目してるけど、割と好みな女だからな」
前言撤回、最悪な人達です。
そう言いながら、他のふたりもスバルの体を舐めるように見てきた。
き、気持ち悪っ。スバルはそういう芸風じゃないんだけど!!
「あーいや、そういうのは遠慮しとくかなーなんて。ほら、スバル急いでるからさっ!」
スバルが捲し立てるようにそう言うと、再度振り向き1番背の高い男の横を通り過ぎようとする。しかし、その男が通すまいとスバルの肩を掴んできた。
「おいおい、そー焦るなって。ちょーっと楽しいことするだけだからよ」
「い、いや本当に!本当に大丈夫だから!」
そう言いながら掴まれた腕を振りほどこうとしたが、女であるスバルでは力負けしてしまう。
しかも、スバルがその腕を引き剥がすのに必死になっていると、背後の2人もこちらに距離を詰めてきた。
「大人しくしてろって、騒ぐんじゃねえよ」
やばい、これはガチでやばいっ!何とか助けを呼ばないと!
流石に恐怖を感じ、スバルは救いの手を求める。
(そうだ、こういう時は警察に!)
しかし、そこで思いとどまる。
あれ、そういえばここ異世界じゃん。警察とか居ないじゃん。
誰に助けを求めていいのかわからず、咄嗟に思い付いた人物を思いっきり叫んだ。
「騎士様ぁぁぁぁぁあああ!!!!!たーーーーすーーーーけーーーーてーーーー!!!!!」
「んなっ!?てめぇ、ふざけんなっ!!」
薄暗い裏路地の中、スバルの自慢の大声が響いた。兵士とか衛兵とかがこの国にいるのかはわからないが、少なくとも騎士がいることはわかっている。そうじゃなくても、女の子の悲鳴が聞こえたなら誰かが駆けつけてくれるかもしれない。
「くそ、誰か来ちまう。とっとと黙らせろ!」
低身長の男が言うと、中くらいの男がスバルの胸ぐらを掴んできた。そして反対の腕を振りかぶり、スバルに殴りかかろうとする。
(マジかコイツっ!?女の子をそんな簡単に殴ろうとする!?)
咄嗟にガードしようと両腕を構える。
「そこまででござる!!」
スバルが今にも暴力に屈しそうになったその時、突如通りの方から女の子の声が聞こえた。
振り上げられた拳がスバルに到達する瞬間だったために閉じていた目を、ゆっくり開いて声のした方を見る。
すると、服装こそオルタナ王国の雰囲気に属しているもののどこか和風な白と緑をベースとしたコート?着物?を羽織っている剣士様が、そこには立っていた。
「先程女の子の悲鳴が聞こえたでござるが……おぬしたち、その子に一体何してるでござる?」
髪は綺麗な薄黄色のポニーテールに、葉っぱのような髪飾りをつけている。そして、背中には実際には見たことはないものの、日本ではおなじみの”刀”を背負っている。
なんか剣士様というか、侍みたいだな。
「ああん?誰だてめぇ!」
「風真でござるか?風真は……「いろはさ~ん!」」
低身長男が、いきなり現れた侍女子?に向かって怒鳴るように聞いた。しかしそれに答える前に、また別の女の人の声によって遮られてしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ……いろはさんってば、足速すぎませんかぁ?いきなり走り出すし、か弱いマリンが追いつけるわけないでしょ……」
「マリン先輩、これは失敬でござる!」
続いて”マリン先輩”と呼ばれた女性が、息を切らしながら走ってきた。
赤い髪をツインテールにまとめ、右目に眼帯をしている。服装は明らかに袖の長い黒ベースのコートに、どくろマークの付いたパイレーツハットのようなものを被っている。また、こちらも侍女子同様、腰に細身の剣を携えている。
いきなり現れた二人組にスバルが呆気に取られていると、さっきまでスバルの胸ぐらを掴んでいた腕を乱雑に振り払われた。いきなり手を離されたものだから、スバルは体勢を崩しそのまま座り込む。
ちょっと、引っ張っといていきなりはなさないでよっ!
文句の一つでも行ってやろうと男の方を見上げると、さっきまで偉そうに威張っていた三人が全員冷や汗をかいていた。
「ちょ、ちょっと待て!背中のヘンテコな剣にその喋り方、しかも風真って……」
何をそんなに慌ててんの?確かに変な格好と言えば変な格好だけど……。
しかしこの三人の様子から、少なくともこの侍女子の方は有名人であると推測できる。
すると、自分の正体を問われたと捉えた侍女子が、コホンと咳払いをしてから名乗りを上げる。
「......オルタナ王国近衛白銀騎士団所属、『剣聖の家系』”風真いろは”でござる!」
「同じく白銀騎士団所属の”宝鐘マリン”でーす」
続けて隣の海賊風騎士マリンが名乗る。
初めて見る騎士に、スバルは忘れていた異世界への好奇心を爆発させていた。
「ほ、本物の騎士っ!カッコいぃ〜〜!!」
スバルが目をキラキラさせながら二人を見ていると、マリンさんの方がこちらを見てウインクしてくる。
しかし、そんな興奮しきっているスバルを尻目に、男達は酷く焦った様子だった。
「なっ!?け、剣聖だって!?」
「なんでそんな大物がこんな所にいるんだよ!」
「ひ、卑怯だぞ!剣聖を連れてくるなんてっ!!」
男達が次々に言う。
そういえば、さっき剣聖の家系って言ってたよね。いろはさんはいい所の生まれって感じなのかな?
「あらあらキミたち、卑怯だなんて随分な物言いじゃないですー?さっきまで女の子1人を寄って集って虐めてたじゃないですか」
「女の子一人に対し、賊は三人。そこに女性が2人加わったところでささやかな戦力ではあると思いますが.......そちらの子に、助太刀するでござる!」
そういうと、いろはさんが背負っている刀に手をかける。
「じょ、冗談じゃねぇ!割に合わねぇよ!お前ら、ズラかるぞ!」
いろはさんはどうやら相当な強者として有名なようだ。完全に戦意喪失した男達が、そそくさとスバルの来た方側へと逃げていってしまった。
とりあえず助かったとスバルは安堵する。その様子を見た2人も、スバルに声をかけようと近寄ってくる。
「無事でござるか?立てるでござる?」
未だに立ち上がらないスバルを見て、いろはさんが手を差し伸べてくれる。スバルはその厚意を有難く受け入れ、手を掴んで立ち上がる。
尻もちを着いてしまった時についた砂埃を払い、2人の方に向き直る。
「助けてくれて本当にありがと!!あと少しでも遅かったらヤバかったよ......」
駆けつけてくれた事にお礼を言い、スバルは頭を下げる。
いろはさんがあと少しでも来るのが遅れていたら、きっとスバルはあの男たちにリンチにあっていたことだろう。
「何とか間に合って良かったでござるよ。たまたま近くを通りかかったら女の子の悲鳴が聞こえたので、急いで来たでござる」
「......いや1km以上離れてたし、マリンには何にも聞こえなかったけど......」
スバルの無事に、いろはさんも安心してくれたようだ。
めっちゃええ子やん。なんかマリンさんがボソッと言ったような気がするけど、ちゃんと聞き取れなかったな。
「あのーところで、私たちまだ自己紹介してませんよね?」
さっきマリンさんが小声で言ったことを聞き返そうとしたが、その前にマリンさんが新しい話題を持ってきてしまった。
「あ、そうだった!じゃあスバルから......ちわーす!どこにでもいる普通の旅人、大空スバ~ゥ!まだこの国に来たばっかりなんだよね......2人はいろはさんに、マリンさんだよね?」
この世界に来てから2度目の、大空スバル流挨拶を決め込む。前回の時はルーナとラミィに微妙な反応をされたが、今回はどうだろうか。
「なるほど、スバル殿でござるな!旅人とは羨ましいものでござるな。風真のことは、気軽に呼び捨てで構わないでござるよ」
「どこにでもいる旅人にしては、スーくんは結構ちんちくりんな格好をしていると思いますが......あ、マリンのことも気安く呼んでもらって構いませんよ」
まさかのスルー。いや、というよりは特質すべき点もなく受け入れられた、という感じか。
にしてもスーくんって......初めてそんな呼ばれ方されたわ。
「おっけー、いろはにマーちゃんね。改めて、本当にありがとうね!......ところでさ、2人は騎士様なんだよね?特にいろは、さっき剣聖の家系とか言ってたけど」
「そーでござる、風真もマリン先輩も同じオルタナ王国の近衛白銀騎士団の所属でござる!剣聖についてはまあ.......家庭の事情がありまして。代々そういう家系なんでござる」
スバルの問いかけに、いろはが答えてくれる。しかし、騎士団の方には元気に肯定したのに、後半に関しては随分と歯切れが悪いように感じた。またなにか、複雑な事情でもあるのだろうか。
「......っていうかスーくんはいろはさんのこと知らないんですか?この辺りどころか、世界的有名人なんですけど」
世界的有名人?いろはが?
確かに可愛くて、話的には強そうな印象を受けたけど。もしかして、剣聖っていうのはものすっごい偉人だったりするのだろうか。
「剣聖って、そんなにすごい人なの?」
「はーーー??スーくんそれ、本気で言ってます?世間知らず過ぎませんかぁ?」
悪かったな、世間知らずで。
こちとら数時間前に異世界に来たばっかりの異端児なんですー。こっちの常識とか、普通は知ってることとかも知らないんですー。
スバルが若干不服そうな顔をしたのを見て、マリンがしょうがないですねと話し出す。
「では、不詳宝鐘マリンちゃんが、『剣聖』について詳しく教えて差し上げましょう!」
「ワーイ、オネガイシマース」
明らかな棒読みをしたスバルを、マリンは無視して話し続ける。
「ではまず最初に剣聖の起源についてなのですが......剣聖の家系は、初代剣聖と呼ばれた''風真くろは''から始まります。彼女ははるか昔にこの世界に君臨し、その時代では最強の剣士と言われていました。それに適う者は全知全能と呼ばれた賢者フェスティバルか、オルタナ王国の親龍である鬼龍、後は世界の半分を呑み込んだ傲慢の魔女ルーナくらいだったと言われています」
ルーナの名前が出て、一瞬ドキッとした。
世界の半分を呑み込んだ災厄、傲慢の魔女ルーナか......いや、あのルーナとは別人だ。あんなに可愛くていい子なルーナが、そんなことをするはずが無い。
それよりも気になったのが''初代剣聖の風真くろは''、''賢者フェスティバル''、''親龍の鬼龍''の方だ。勿論どれも聞いた事がないし、名前だけでは詳しいこともわからなかった。
「何やら気になったところがある様子ですが、続けますね。で、その初代剣聖風真くろはがその身に宿していた加護こそが『剣聖の加護』と呼ばれるものです。名前の通り剣技は勿論、精神面や肉体面でも大きく恩恵の受けることの出来る加護だそうです」
加護と聞いて、スバルは思い出した。
そういえば前回の世界線で、メルがぺこらに対して加護がどうのって言ってたような。
「なんか前にも聞いたことあるんだけど、加護ってなんなの?」
「......スーくん、本当にどこから来たんですか?そんな世界の常識を知らない知らないって、逆に怖いんですけど」
先程見せた呆れ顔を、マリンは再度若干誇張しつつ露わにする。加護についても、誰もが知っている世界の常識なのか。
「いーですか!『加護』というのは、世界から齎される恩寵の事です。百万人に一人という確率で与えられる、先天性の恵みなんです。加護にはそれぞれ名前があり、それを持って生まれた者は魔法とも、呪術とも違う不思議な力や能力を得ることができます」
なるほど、理解した。ようはゲームで言うところのスキルみたいなものだろう。だからぺこらは、確かに元々種族的にも運動能力が高いのだろうが、加護のおかげで更に速さが増していたってことだ。それに、百万人に一人の確率なら、メルがぺこらに対して「世界に愛されている」と言っていたのも頷ける。
「なるほど、わかったよ。で、その『剣聖の加護』を持った初代様がなんだって?」
「彼女は確かに数々の偉業を成し遂げてきました。しかし、他の者達とは違い彼女もまた一人の人間でした。月日が流れ、彼女が天寿を全うすると次はその子孫たちに力が継承されていったのです」
「あーなるほど。つまりその初代剣聖の子孫達......風真家がその剣聖の家系にあたると」
「はい、そういうことですね」
そりゃあ他の2人はよくわかんないけど、昔話に出てくるような英雄様の子孫なら当然世界的有名人ということになるのだろう。
「そして月日は流れ、現剣聖と呼ばれるのがこちらにいる風真いろはさんってことになるわけです、すごいんですよ」
「といわれても、まだまだ修行中の身。賜った称号に見合わず、その重責に押し潰されそうなただの未熟者でござるよ」
マリンが剣聖についての説明を終えながら、現役剣聖のいろはを賞賛する。が、それに対しいろはは恐れ多いといった具合の反応を示した。
いろははまだ剣聖になってから日が浅いとかなのかな?
スバルがいろはの態度に疑問を抱いていると、マリンが耳打ちするように言った。
「......言っときますけど、ぶっちゃけいろはさんはめちゃくちゃ強いですよ。初代剣聖すら敵わないと言われる程で、この国どころか世界中何処を探しても彼女より強い人なんて、多分居ません」
え、いろはってそんなに強いの?こんな可愛い見た目をして?
「それに、根がとっても真面目なんです。所謂とてつもないいい子ちゃん。自分の強さをひけらかすことも無く、常に他人を想いやれる聖人みたいな人なんですよ......まあそのせいで、色々と困ってもいるんですが」
最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかったものの、いろはと剣聖については概ね理解した。ようは物語に出てくるヒーローのような騎士様ということだ。
その話を聞いて、スバルは正直カッコイイと思った。
もし自分が同じ立場なら、きっとそんなに強くはなれなかっただろうし、他人を常に想いやるなんてことは出来ない。そして、それを強いられることも、きっと耐えられない。いろはは、本当の意味での英雄になるのだろう。
スバルはいろはの方を向き、うんうんと頷いた。
そして、話が一段落しようやくスバルは思い出した。自分が今、急用を抱えていたことに。
「あ、2人ともごめん!スバル、急ぎの用があるんだった!」
本来であればここでぺこらと会って、徽章を返してもらえるよう交渉するつもりだったのだ。しかし、これだけ探しても見つからないのであれば、既にここを通り過ぎてしまった可能性の方が高い。であるならば、時間的に考えても先に貧民街に行っておいたほうがいいだろう。そこで、出来ればぺこらが盗品蔵に到着する前に会えればいいのだが......。
「.......ふむ、何やら火急の件のようでござるな。何か風真達に手伝えることはあるでござるか?」
スバルの酷く焦った様子に、いろはが救いの手を差し伸べてくれる。
「え、手伝ってくれるの?」
「勿論でござる、今日は風真もマリン先輩も非番なので!」
「いや、マリンは全然勿論じゃないんですけど。休みの日くらいゆっくりしたいんですけど」
マリンは若干不服そうにしていたが、どうやら二人はスバルを手伝ってくれるそうだ。
助けてもらったうえに、困っている人がいたら進んで協力してくれるなんて、いろははどれだけ善人なのだろうか。
「なら、一緒に盗品蔵に……」
そこまで言って、スバルは思い止まってしまった。
果たして、この二人をこの件に巻き込むべきなのだろうか。確かに二人は騎士様だし、味方にするならこれ以上ない戦力になるだろう。しかし、既にお世話になっているうえに確定もしていない危険に二人を近づけることは、流石に憚られた。
「盗品蔵?」
スバルが途中で話すのをやめしまったので、いろはが聞き返す。
「……いや、何でもない。特に手伝ってほしいことはないかな!」
若干言い淀んでしまったが、表向きには気にする必要はないと取り繕う。これは、スバルが自分で何とかしたい案件なのだから。
「……そうでござるか。ではもし何か困ったことがあれば、いつでも白銀騎士団の本部まで来るといいでござるよ」
「わかったよ、いろいろありがとね……あ、そうだ。なら一つ、伝言をお願いしてもいいかな?」
自分と一緒に、これから殺人鬼の来る場所に来て欲しい。なんてことはとても頼めないが、伝言くらいなら任せても構わないだろうと思い提案する。
「えーっと、誰に何を伝えればいいんですか?」
「これも、もし会えたらでいいんだけど……二人は街中で黒い髪に白いローブを着た女の子と、水色の髪で水色と白のミニスカドレスを着たエルフの女性の二人組を見なかった?どっちも、とっても可愛い子なんだけどっ!」
ルーナとラミィの外的特徴を伝える。
ラミィはともかく、ルーナの方に関しては名前を伝えない方がいいと思って、あいまいな感じになっちゃったけど。
2人は少し考えるような仕草をしてから答えた。
「……いや、そのような方達は見かけていないでござるな。マリン先輩はどうでござる?」
「マリンも心当たりはないですね」
どうやら見覚えは無いようだ。まあ、これだけ大きな街なら当然だろう。
「そっかぁ……なら、もし見かけたら絶対に貧民街には近づかないように言ってくれるかな?姫の探し物は必ずスバルが見つけてくるからって」
「わかったでござる。もしそのお二方を見つけたら、必ず伝えるでござる」
いろはが答え、伝言を約束してくれる。
スバルは「ありがとう」と返事をし、急用を済ませるために踵を返す。
「それじゃあ、悪いけどよろしくお願いね……この恩はいつか必ず返すから!」
「気にしなくて大丈夫でござる」
「スー君も気を付けてね~」
スバルが歩き出すと、二人も手を振って見送ってくれる。
さて、これからどうしようかな。ここでぺこらに会えなかったことは計算外だったけど、仕方がないからとりあえず次は貧民街に行ってみよう。もしかしたらそっちでぺこらに会えるかもしれない。
次の目的地を定め、スバルはまた足早に歩を進め始めた。