吸血鬼(に関わったら胃が)すぐ死ぬ   作:ケツアゴ

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動画と通り魔

「今回は本人が特に気にしていないので問題にはしませんが……今後次第ではランク上位ヒーローだろうと容赦はしませんので」

 

 ホークスによるセクハラメール送付、彼の立場を考えればスキャンダルになる一件ではあったのだが、裏奴が爆笑しながら今後の弄るネタが出来たと言っている事で相澤はいい性格をしていると呆れつつ一応電話による厳重抗議で済ませたものの、電話先での只事ではない様子に普段とは違って少々面食らってもいた。

 

 いや、何時もと少し様子が違ったのは別の理由も絡んでいる、裏奴がホークスへの返信メールに記載した可能の二文字に関わる会話が原因だ。

 

 

「一時的にだが治療も出来たのか?」

 

「いや、正確には相手の時間を吸い取って年単位で若返らせるんだ。吸い取っている間は僕が老けるし、一定上吸い取ったら記憶や精神まで若返る上にエネルギーの消耗も激しくって」

 

 トライアスロンをした時くらい疲れたよとヘラヘラ笑いながら語る裏奴であったが、相澤の頭には一人の人物の姿が浮かぶ。

 No.1ヒーロー、平和の象徴オールマイト。

 極秘事項である彼の衰弱だが、今の能力次第では全盛期の力を取り戻せると考え、其処で直ぐに頭から追い出す。

 

 

 

 

 

 

 

(今度は渡我にまで平和を背負わせる気か?)

 

 オールマイトを狙って襲撃を掛けて来たヴィラン連合、それに立ち向かうのにオールマイトの力が必要ではあるが、それはヒーロー志望ですらない少女に英雄と同じだけの、下手をすればそれ以上の重荷を背負わせる事に繋がる。

 

「渡我、その能力は利用したがる連中が寄って来る。極力話すな」

 

 体育祭の表彰式で彼女は個性とそれを十全に扱えている事をオールマイトに褒められ、相澤もそれは認める。

 意味不明ながら強力であり、それこそヴィランになれば恐ろしい個性だけでなく、身体と個性の動かし方にも才能を感じたが……。

 

 

 

「称賛の言葉は凄く嬉しいな。将来受ける面接でも今回の事はネタになるだろうしさ。まあ、ヒーローにならない僕じゃ個性は殆ど役に立たないけれどね」

 

 中学三年生のクラス全員がヒーロー志望でも珍しくもない昨今、オールマイトに憧れる者は多いが裏奴はそんな様子を一切見せない。

 他の事と合わせてヒーローには精神的に向いていないと相澤は見抜き、教師としてその助言だけを与えて終える。

 

 悪性ではない、脆弱でもない、ただ、決定的にヒーローには不向きな精神性を持っているというのが相澤の評価であった。

 

 

「当の本人が頭が良い馬鹿なのが頭が痛い・・・・・・」

 

 

 

 

 ちょっと考えるだけで頭痛と胃痛が現れる中、職員室の扉を開いた瞬間に大声が響き渡った。

 

「YEAHHHHHH!?」

 

「静かにしろ、マイク。頭が痛い」

 

「い、いや、ちょっと渡我が動画を投稿しているチャンネルを調べてみたんだが……登録者数が俺のチャンネルを超えてた」

 

「職務中に何を観てるんだ、馬鹿」

 

「いやいや、ちょいと待ってくれよ。心操が言ってただろ? 個性の能力を幾つかペットに分け与えてるって。ほら、昨日投稿された動画があるから観てみようぜ」

 

 仕方無いと思いつつも相澤はマイクの後ろに立ってパソコンの画面に目を向ける。

 チャンネル名は『ムームーチャンネル』、サムネも全てアルマジロのジョン。

 丁寧に注意書で『ジョンには個性を使用していますが、このチャンネルの動画は非収益化をしています』の注意書。

 

 動画のタイトルは『電撃スカウトされたのでジHBLに参加してみた』

 

 HBLとは個性使用可能の草野球、ヴィランっぽいヒーローランキング一位のギャングオルカがキャプテンを務めるオルカーズが優勝候補であり、今回スカウトしたらしきチームなのか別チームのマークが表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれたな! キャプテンがスカウトしたって聞いた時は来てくれないと思ったぜ!」

 

「俺の熱意が伝わったって事だな。今年は俺達バッターズの優勝だな!」

 

「ヌーヌー!」

 

 体育祭の優勝の効果かヌーヌーチャンネルの閲覧数は鰻上り、当然ジョンの可愛さをもってすれば閲覧者の殆どがチャンネル登録者になってくれてジョンの可愛さにメロメロになっている。

 登録してない人? 理解不能だね。

 

 そんなジョンの可愛さだけでなく運動能力にも着目してチームにスカウトして来たのが野球ヒーロー・ホームランバッター。

 打ったり投げたりした球体の速度や軌道を自由自在に操る個性『魔球』を持つ元オルカーズのエース、前回の優勝決定戦の際にギャングオルカと揉めて脱退、今回新チームを設立。

 何でも親戚らしいバーニン、エンデヴァーのサイドキックと共にバッターズを率いて優勝を目指しているとか。

 

 僕は草野球とか興味はないんだけれど、ジョンがやりたいのなら文句はないし、ジョンを抱っこしてグラウンドまで連れて来れば二人に出迎えられる。

 前足をあげて二人に挨拶するジョン、正面から見たかったよ、その姿をさ。

 

 

 

 

 

「個性使用許可をヒーローとして出して欲しいな。今すぐ二人の性癖を暴露させたい」

 

「「何でっ!?」」

 

 

 

「一番ライト・ジョン」

 

「ヌー!」

 

 バッターボックスに立つジョン、この時点で動画のコメントがヌーで埋め尽くされてパンクしてしまうのは予想出来るんだけれどバットは持っていない、その代わりに土気色の怪人が八本の腕で四本のバットを構えていた。

 

 

「……あれ何?」

 

「ゾンビ!?」

 

「僕的にはゾンビよりもグールの方が好きかな? 実際は土と土中の微生物の死体を合成した存在さ。ジョンに能力を幾つかあげたって言っただろう?」

 

 何かジョンに能力をあげられる能力に目覚めた時に六つ(・・)程選んだ、グール作成はその中の一つ。

 

「ジョンには五つ能力をあげていてね。特に要らないかなって思った能力ばかりじゃ悪いから一つだけ便利なのをあげたんだ」

 

「要らない奴って、あの騎馬戦で使ったゴキブリを呼ぶ奴以上に使えないのか?」

 

「いや、あれは使えると思うよ、呼ぶだけで操ったりは出来ないんだけど、股間を凄く光らせるとか屁で飛ぶとかホークスと被ってるとか放電とか。僕、普通に飛べるし、私有地で個性を使って楽しむなら蝙蝠の翼での飛行で十分だし」

 

 あっ、バットの先が当たってゴロだ。

 

 

「よし。先ずは一アウト」

 

 キャッチャーが軽く腕を伸ばせばボールに触れられる距離、必要な時間は一秒も必要無い。

 

 

「ヌー!」

 

 更に言うならジョンがホームベースに戻って来るのに必要な時間は更に少しだけで良い。

 

 

「後は代走と盗塁で点を重ねるだけだね」

 

 ジョンの回転での移動速度はハイスピードカメラが必要な程、勿論動画では普通の映像とスロー映像を流すけれど、ジョンは本当に可愛いな。

 

 

 

 

 

 

「あっはっはっはっ! 勝利だ勝利。よーし! 今日は好きなだけ奢ってやる。寿司だ、寿司!」

 

 圧倒的じゃないか、ジョンが所属するチームは!

 

 個性を使ってバッターを攻撃可能なのがHBLのルールだけれど、ヒーローは人気商売だ、動画配信もされているのに小動物に怪我でもさせれば職業生命は終わってしまう。

 結果、圧勝圧倒大勝利、気分をよくしたバーニンさんが出前のお寿司を奢ってくれるとかでマンションの彼女の部屋に向かう事に。

 

「ジョンもお寿司楽しみだね」

 

「ヌー」

 

 ジョンは肉料理の方が好きなんだけれど寿司は寿司で好きだし、一見さんお断りの店だってんだからジョンだってご機嫌だ。

 流石はNo.2ヒーローのサイドキックの中でもエース的な存在、顔が広いと感心しながら近道の路地裏に入り込む。

 この路地裏って複雑で慣れていないと迷うんだけれど僕とバーニンさんは慣れているから楽々進んで中央辺りまで辿り着いた時、僕は足を不意に止めた。

 

 

「うん? どうした?」

 

「血の匂い、それも今さっき流れたばかりの。悲鳴も聞こえたよ」

 

「!」

 

 流石は本職、一瞬だけ迷うと表情が勝利に浮かれていた物から現場に出たヒーローに一変、個性である燃髪が勢いを増す。

 

 

「下手に待たせてヴィランと遭遇しても危険だな。おい、私から離れるな。んで、ヒーロー・バーニンとして許可するからもしもの時は個性を使え」

 

 四角を数度曲がり、血が漂う場所まで到着したのは嗅ぎ取ってから三十秒程経った頃。

 僕達の前にはヒーローらしき男に如何にも怪しい顔を隠した女が血塗れで転がり、周囲には封筒から出たらしい書類が散らばっている

 

「こりゃあまさか……」

 

 バーニンが拾い上げた一枚には別のヒーローの個性や住所、家族構成とかの個人情報がびっしり記載されていて、女の近くには札束がはみ出した封筒。

 どうもきな臭い感じがするなと思う暇も無く二人を観察すれば僅かに息があるみたいだ。

 

 

 

 そして犯人は直ぐ近くで潜んでいたのが姿を現した。

 

 

「ハァ……。その女は裏組織にヒーローの情報を流していた。偽物とさえ呼ぶ価値の無い悪だ。本来ならこの町では動かない予定だったが見掛けたのなら粛清の対象だ」

 

 顔を削ぎ落として包帯を巻いたみたいな不審人物、武器を持っている姿からは普通じゃない強さが伝わって来る。

 

「ああ、そうかい。大した正義感だが、そのついでにテメェも大人しく捕まって罰を受けろや」

 

「ヒーローか……」

 

「ああ、私はな。後ろのはただの草野球仲間の餓鬼だよ」

 

 今にも戦いを始めそうな態度のバーニンだが、自分の体で隠しながらのハンドサインは二人を連れて逃げるぞ、だ。

 建物の多い狭い道で重傷二人を守る余裕は目の前の相手にはないだろうからね。

 

「ハァ……。なら貴様が偽物か試すとしよう。全ては……」

 

 男が飛び掛かった瞬間、バーニンの背後から伸ばした僕の手から放たれる閃光に一瞬目を眩まされる。

 

 

 

「次会ったら絶対に捕まえてやるからな、クソ野郎!」

 

 僕とバーニンは二人と証拠の品とジョンを抱えて空に舞い上がり、そのまま去って行くんだけれど、ちょっと変な感じがしたな。

 

 

 

 

 

「全ては正しき無駄毛の剃り残しの為、社会に蔓延る偽物を粛清する為に!」

 

 相性の問題なのかY談波が変に決まった気がするんだけれど……まあ、自覚無しにY談が混じる程度かな?

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