「おい、俺。店の中は俺が調べる。店の周辺の察知は任せた」
「了解した、俺」
オールマイトが実は深刻なダメージを受けている状態の可能性がある、それを僕から聞かされた途端にホークスは増やした方のホークス(自分を見捨てて逃げました、というプレートを個室に入るなり胸から下げた)と共に翼を広げ、トゥワイスさんは小型の機械で盗聴機が無いか探っている。
「大袈裟だなあ。オールマイトだって五十近くだった筈だし、散々活躍したって事は肉体に負荷が重なっているって事だよ? 人間なんだ、ガタだって出るし病気にもなる。当然、死んだりもするんだよ」
僕が彼の不調を見抜いた根拠は吐血を察知しただけでなく、表彰式で話した時に漂った衰弱した人間特有の口臭や脇腹を庇う動き、能力で直感を研ぎ澄まさなくたって不調だと認識して観察すれば分かる。
あれは既に限界を間近に控えた人間だって。
でもさ、不老不死で瀕死の状態からも瞬時に回復、デメリット無しって個性を持っていない限りはどんな英雄でも引退の時が来る。
確か戦国時代みたいなコスチュームの高齢者トップヒーローが居たとは思うけれど、オールマイトとは体に掛かる負担が違うだろうさ。
実際、ネット上では活動機会の減少から弱体化説が流れているんだしね。
つまる所、驚く程の事じゃないんだよ。
「ああ、教師になったのは引退前に後進を育てる為だったか」
「いや、一大事なの分かってる? 君のその感覚の鋭さは知っているけれど、だからこそ慌てるんだ。うん、何時かは考えるべき事だったんだけどさ」
「オールマイトが引退にでもなったらどうなるか分かってるのか!?」
「平和の象徴が引退した時の影響?」
ちょっと考えてみよう。
① 犯罪率の急増、今まで潜伏していた小物も大物も動き出す。徒党を組む犯罪者も増える可能性大
② 市民からヒーローへの風当たりの悪化。残ったトップヒーローも新米もオールマイトと比較されて不安や不満の声を向けられる。
③ 上記二つの理由でヒーロー飽和からヒーロー不足の社会に繋がる。
④ 便利で楽しい社会の崩壊
「って所かな? まあ、僕が慌てふためいて何かが変わる訳でもなし。ヒーローに依存して、何かあればヒーローの怠惰と力不足の
と責任だと押し付けて来た社会の責任だよ。才能があろうが努力をしてこようが、結局人間は人間なのにさ」
「……やべぇ。ホークス、俺は此処まで思い至ってなかったわ」
「問題は引退時期が何時になるかとして……ちょっとこの話を持ち帰ってみるか。おい俺、内密でエンデヴァーと接触して、いや、でも、あの人は暴走しそうだしなあ……」
「誰が何処まで知っているかが問題だね。もしかしたらスパイがいる可能性もあるし、探るにしても慎重にだ。あの人にはチームについて軽く話題に出してみるべきとは思うけれど」
現№2との接触、か。
オールマイト程の機動力に欠けるけれど破壊力や制圧力は高いエンデヴァーと機動力の高いホークスのコンビ、更にトゥワイスさんが二人を増やせば広範囲に手が届く、ああ、成る程ね。
これからはヒーローもチーム重視でってなると考えているんだ。
「所でこれを機会にヒーロー目指す気は……」
「姉さんの事であれこれ言われるし、絶対再犯してぶちこまれる姉さんを僕やチームがぶちこんだ奴が狙うだろうからね。逆にヒーローになるのは避ける方向に行くさ」
全く、答えが分かってるだろうにさ。
「……ふぅ。ちょっと疲れたかな?」
ホークス逹と別れて戻って来たマンションの自室、ゴロゴロと転げ回る為に買ったキングサイズのベッドに寝転がって携帯に手を伸ばすけれど気力が湧かない。
マイフレンドやその他相手の訓練で散々個性を使ったし、株主総会やホークス逹との会話だの今日は真っ昼間からやる事が沢山あったし、体力的より精神的にお疲れだ。
机の上には姉さんに関する書類、カーテンを念動力で閉めれば眠気が襲って来る。
「どうせなら夜間学校にすれば良かったかも。でも、そこそこの進学校でマンションから近いのは……ふわぁ」
ぶっちゃけ生涯遊んで暮らせるだけの蓄えは持っているけれど、それじゃあ退屈だ。
勉強も就職も僕にとっては長い人生に刺激をもたらす為の物でしかない。
どうせならハイスコアを目指したいから選別はしているんだけれど、ちょっとだけ面倒だってのが今は勝ってる。
「ヌヌ」
僕の個性は吸血鬼、だからか肌は少し日光に弱いしニンニクは嫌いだし基本的には夜型なんだ。
朝や昼は頭は重いし体は怠い、個性の出力だって大幅に低下しちゃう。
ベッドの上でお昼寝に入ればジョンが毛布を僕の上に乗せてから向こうの部屋で勉強をしに行った。
ヒーロー関連が好きだし、受けれる筈もない試験勉強をするだけで楽しいんだうね……。
「ヌヌヌ」
「う、うーん? どうしたんだい? ジョン。ああ、もうこんな時間か。ちょっと寝過ごしたよ」
ジョンに揺り動かされて起き上がれば時間は七時半頃、思ったよりは寝ていないけれど頭も体もスッキリだ。
お腹はそんなに減っていないけれど美味しい物が食べたい気分だし、料理は面倒。
「ちょっとだけ興味のあるお店も有るし、たまには食べ歩きでもしようか」
「ヌヌヌヌ!」
手を差し出せばジョンが腕を駆け上がって僕の頭に乗っかる。
……うん、ダイエットは継続しないとね。
「揚げ物は駄目だよ、ジョン」
「ヌヌ!?」
未だ行き交う人の姿が多く見られる夜の町、会社帰りなのかスーツ姿の人が買い物袋を手に下げてスーパーから出て来たり若者のグループがわいわい騒ぎながら居酒屋に入っていった。
この中の何人が簡単に人を殺せる個性を持っていて、すれ違った相手がそんな個性を使って来るかも知れないって不安に思っているんだろうか。
銃みたいに分かりやすい殺傷力がなくたって銃社会と大して変わらない、だけれど銃社会みたいに懐に手を入れたら銃を出すと判断されて撃たれるみたいな事は無く、逆に危機的状態でも個性を使って戦えば罰せられる世の中だ。
「まあ、どうでも良いんだけれどさ」
今の社会は楽しい物や便利な物で溢れているけれど、僕にとっては一部の人以外はどうなろうと興味が無い。
ちょっとだけ気になったから考えたけれど、移動販売のホットドッグを目にした途端に頭から吹っ飛んだ
「うん? あっ、アンタは……」
「?」
そんな時、見知らぬ同年代の女子グループと遭遇したんだけれど……誰か分からない。
透明人間とか耳がイヤホンの先みたいな子達だけれど……。