個性やサポートアイテムに関する研究が行われている移動式の研究機関iアイランド、その研究の成果を発表するiエキスポの事前公開に僕はジョンと来ていた、それとついでにマウントレディ。
「ヌン」
「腹毛モッコモコね、モッコモコ」
ジョンのファンらしいし、ジョンが許可を出しているから抱っこを許しているけれど、どうせなら僕も抱っこして見て回りたいんだけどね。
僕自身にエキスポには興味が皆無だし、正直言ってジョンの希望さえなければ家でゲームするか動画撮影でもしていたい気分なんだけど。
「おや? あれはオールマイト?」
「え? マジ!?」
遠目に見えるのはマスコミに囲まれたオールマイトの姿、その近くには何処かで見た覚えがある少年が居るんだけれど僕達には気が付いていないらしい。
「あの子って確か体育祭の本戦に出ていた子よね? エンデヴァーの子供相手にボロボロになっていた子だったけれど、どうして……はっ! まさか噂は本当だった!?」
「噂?」
ハッとした表情の後で口に手を当てて言うまいとするマウントレディだけれど、これは言いたい奴だよなあ。
実際、僕が訊ねれば声を潜めて教えてくれたよ。
「ほら、オールマイトってNo.1ヒーローなのに浮いた話が無いじゃない? ヒーロー活動に専念する為だって言われてるけれど、実はその……分かるでしょ?」
ああ、平和の象徴は同性愛者だって事か。
短絡的な考えだとは思うんだけれど、あの少年を連れて来ているんじゃないかって思ったんだ。
確かに到着時間からして一緒に来たんだろうし、一般の受付は明日だから一緒にエキスポに来たんだろうしね。
「ヌヌン 」
「え? ジョンは隠し子だと思うって?」
「あー、確かに個性がオールマイトに似ているし、ヴィランに狙われないように関係を隠している身内って可能性はあるのね、あの緑谷って子」
緑谷? あっ、思い出した思い出した。
姉さんがファンになったからってスプラッタなホラーで殺害予告系のヤンデレファンレターを書いた子だったよ、忘れてた。
マイフレンドに代わりに渡して貰ったけれど、最初は緊張していたのが読んだ途端に青ざめたって聞いた時は自分で渡せば良かったと思ったよ。
「ヌヌイ」
え? そんな事よりも小腹が減ったから食べ歩きでもしながら見て回りたいだって?
オッケーオッケー、人様の複雑な身内の問題なんて放置が一番だ。
マウントレディは自分もインタビューとか受けたそうにしていたけれど今の彼女はホークスの事務所からジョンの管理の為に派遣されたって身分だし、腕を引っ張ってその場から離れて行く。
「それにしても警備を厳重にする必要があるのは分かるんだけれど、研究者も家族も外に出るのが制限されるだなんて世界が平和じゃない証拠だよね。君もそう思わない」
「ジョン君が翼で飛んでる! 写メ写メ!」
「駄目だ、聞いちゃいない」
ホークスの評価じゃ自己顕示欲が高くて銭ゲバな所がある俗物だって事だったけれど、本当に色々な意味で凄いな、彼女。
チュロスを咥えて背中の翼で飛びながら食べるジョンの姿を動画で撮りながら僕はマウントレディの姿にちょっと引いていた。
「……お前は」
「おや、ミラクル トドロキじゃないか」
「その呼び方は止めてくれ。今は魔法少女ボーイじゃない」
まあ、僕は興味が無いものばかりだったから、姉さんに見せる写真やジョンが楽しむ姿を撮りながら進んでいるとアトラクションの一部で氷山が姿を見せる。
ジョンが興味を示したので向かってみればヴィラン役のロボットをタイムアタックで倒す競技で、体育祭の決勝で戦った轟君が最高記録を出した所だった。
あのフリフリのドレスが嫌だったのか、決勝での負け方が屈辱だったのか僕の顔を見た途端に嫌な顔をしちゃってさ。
全部ルールの範囲内、正当な行為なんだから失礼じゃないかい?
大勢の前で性癖を暴露させられようが、マイクロビキニを着せられようが、ゴキブリの群れが突っ込んで来ようが、フリフリのドレス姿になろうが、全部ルールの範囲内な以上は受けてしまった方が悪いんだと伝えようと思ったんだけれど、轟君ったら仏頂面で魔法少女ボーイとか……くっ!
「ぶふっ! 真面目な声で魔法少女ボーイって!」
おや、僕が笑う前に笑った子が居たよ。
えっと、確か最終種目まで残ってた子だった筈、爆豪君に一回戦で負けていたのは分かるんだけれど……。
「おや、耳郎さんと……八百万さん」
「久し振り」
「この前のお茶会以来ですわね」
吹き出した子の後ろの二人は流石に分かる。
耳郎さんは先日会ったばかりだし、八百万さんの方は別口で知り合ってるから大丈夫だ。
「八百万は渡我さんと知り合いだった?」
「ああ、僕がそれなりに所有する株が彼女の家の事業の物でね。その関係で招待されたお茶会で何度か会っているのさ。それにしても……」
「ヌー!」
『おおーっと! 次の挑戦者は飛び入り参加のアルマジロ。最近ネット動画で話題のジョン君だ!』
「どうして参加しているのかな? まったく、観光だからってはしゃぎすぎだよ」
文句を言いつつも僕はカメラを構えて録画を開始した。
「『ヴィラン・アタック』レディゴー!」
「ヌヌヌ!」
開始の合図と共にジョンは赤い翼を背中から出して飛翔、高く舞い上がってロボットが全て確認出来る位置に移動した瞬間に胸から電撃を放つ。
一直線に飛んで行く電撃はロボットの中心を射貫いて破壊、それを連続で行い全てのロボットを破壊するのにそんなに掛からなかった。
『こ、これは凄い! クリアタイム五秒!』
「ヌ!」
「ふふん! ジョンは凄いだろう?」
「ご、五秒……」
この場の全員開いた口が塞がらないといった様子の中、ジョンは得意そうに鳴いた後で僕の頭の上に乗って来る。
さて、次のアトラクションに……うん? 急に髪を引っ張ったりしてどうしたんだよ、ジョンったら。
「ヌヌ」
「僕にも挑戦して欲しいって? おいおい、今は日中だって分かってるだろう? 仕方無いなあ……」
ヒーロー志望でもない僕が此処で力を示したとしてなーんの意味も無いけれど、ジョンが言うなら仕方が無いや。
小動物が圧倒的な記録を出した後だ、他に挑戦する人も居ないらしく順番待ちをする必要も無しに挑戦出来た。
「レディゴー!」
さてと、適当に頑張るとするか……姉さんに動画見せたいし。
開始の合図と同時に出現するのは背中の蝙蝠の翼と手からの血の刃、地面スレスレを飛んでロボットの横をすれ違う瞬間に切り裂けば綺麗な断面を晒すように崩れ落ち、全速力での飛行を続けながら残りのロボットにも同じ事を繰り返す。
「これで終わり!」
最後の一体は正面から刃を突き立て、終了のブザーと共に翼と刃を消せば数秒間の静寂がその場を支配して……。
『し、新記録! クリアタイム四秒! 四秒です!』
まあ、こんな所かな。
「本当に奴を使う気なんじゃな? AFO」
「ああ、最近ストレスで胃が痛くてね。例の計画だけじゃ面白くない。潜伏させてはいたが……iアイランドにマキアを向かわせるよ」