今回の騒動だけれど、下っ端から得た情報だけで僕にとってはそんなにやる気の出ない事態だった。
いや、何でも個性を増幅させる装置を危険だからって封印されて、それに反対する博士がヴィランのせいに見せ掛けて持ち出そうって計画だったんだ。
実際は助手のサムが本物のヴィランに大金で売る約束をしていて、ヴィランはサムを片付けて博士を拐って装置を量産する予定だっていう。
あー、装置さえ破壊してしまえば良いし、セキュリティ装置の解除の為にはメリッサさんをコントロールルームに連れて行かなくちゃ駄目な訳だけれど……。
「君達、本当に博士を助けに行く気なのかい?」
ぶっちゃけ博士とかは見捨てて良くない?
取引の証拠とか残っていたら、事件が解決した所で研究者としての未来は閉ざされる。
一度落ちた人間が這い上がるなんて許さない人が多くって、身内も同罪だって意見が当然と扱われて、それを大義名分に何をしても良いってのが今の社会だ。
もう危険を冒してまで助けたとして、その才能は発揮出来ないだろうしさ。
道を横切る人が拳銃を越える凶器を普通に持っていて、一度崩壊して建て直された今の社会はオールマイトだけに支えられた薄氷の上の脆い存在だって分かっていても誰しも目を逸らしたがる。
凶悪犯と治安維持組織の戦いをヴィランとヒーローの戦いだってエンターテイメントに嵌め込んで、画面の先の出来事みたいに自分達は無関係な観客として過ごす欺瞞に溢れた社会構造。
だから僕はヒーローなんてやりたい人に任せるのさ、職業選択の自由は保証されているんだから。
「ああ、当然だ。俺達は何としてでも今回の事件を解決する。オールマイトが動けない以上は何とかしないといけない」
「ふーん。流石はヒーロー科だね」
だからまあ、理解不能だけれど憧れる人は居るんだろうと納得した僕は何も告げない事にした。
後で知る事になったとして、モチベーションが削がれたら大変だろうからね。
「あの、それで渡我さんは……」
ハッキリと宣言した飯田君と違って何か言いたそうだけれど言えない状態の耳郎さん。
まあ、戦力が欲しいんだろうね、僕は一応体育祭の優勝者だし力は見せた。
ヒーロー科じゃないから待機しろとも手伝ってとも言えない状態だけれど……。
ぐぅううううううう~!!
「悪いけれどこの通り。ちょっと夕食前だったのにマウントレディの補助に消耗が激しい能力を使っちゃってさ。夜の僕は出力は上昇で消耗はそのままなんだけど、エネルギー自体が増える訳じゃない。悪いけれどエネルギー切れだ」
鳴り響く腹の虫に僕は説明を行い、天井のハッチに向けて手を伸ばす。
「実は今も使用中の能力があるし、此処で二人の監視でもさせて貰うのと……この程度なら今でも可能だ」
念動力でハッチを開いて上から非常用の縄梯子を下ろす。
これでエレベーターを使わなくても上に行ける様にした僕は残りのヴィランの個性を伝えた後でその場に座り込んだ。
「じゃあ、この場で待っている程度は可能だしある程度なら対応するから皆頑張って来なよ」
「分かった! 渡我さんも気を付けて!」
少し迷った様子を見せながらも皆は上の階を目指して向かって行く。
熱いねえ、理解出来ないや。
「さてと……」
皆が去った後で僕が目を向けたのは完全に気絶していて、手足の骨も折ってるから目を覚ましても無抵抗な二人。
怪我から血の匂いが漂って来ていた。
「彼処で自分達の誰かが血を提供するって考え付かないのが一般的な感性だよね。……八百万さんが揚げ立てのフライならこの二人のは前日の油が回った冷めているフライって感じだけれど、今は別に良いか」
生搾りを味わう機会なんて滅多に無いからね、安っぽい味だろうと我慢しないと。
「おい、一体これはどういう事だ?」
緑谷達はディビット博士を助ける為に警部ロボットを突破し、最終的に全員揃って管制室まで全員で辿り着いた。
轟の手が空いていた事で戦力に余裕が生まれ、凍らせる事で誰一人欠ける事無く辿り着いたのはサムが拳銃を向けられた瞬間。
轟の氷で主犯であるウォルフラムを牽制し、この際に残った部下を拘束して飯田や緑谷と共に意識を刈り取り……鉄を操る個性によって全員揃って叩きのめされた。
今の状況を危機と認め、個性増幅装置によってパワーアップしたウォルフラムの猛攻によって最終的に鉄の壁に阻まれている間にディビットを連れて屋上のヘリポートへと連れ去られてしまう。
だが、その危機を脱するのに貢献したのはメリッサだ。
使用回数が検査の時も含めて十回に満たないにも関わらず父親を救う為に放った魔法で壁を破壊して脱出、セキュリティを元に戻している間に残りがヘリポートへと急ぐ。
だが、一行がウォルフラムの元へと辿り着いた時、ヘリの運転手は機外で気を失いヘリは破壊されてしまっていた。
「クソっ! こうなれば船で脱出を!」
焦りながらも今の自分ならばオールマイトさえも突破が可能、寧ろ装置のデモンストレーションに必要と、先ずは目障りな緑谷達を始末しようとして……その後頭部に衝撃が走った。
「がっは……」
砕け散る装置の破片を見ながら刈り取られそうになる意識を意地で保とうとして、続いて全身に走る電流で完全に気を失う。
『ヌン! ヌーヌーヌー」
最後に聞いたのは得意そうな小動物の鳴き声だった。
「もう大丈夫だ! 私が……あれぇ?」
オールマイト参上! 但し大体終わった後で。
「へぇ。眷属を透明に出来るのね」
「正確には認識阻害だね。気配も匂いも音も、それこそカメラを通しても認識されないのさ」
事件から数日後、僕はマウントレディと帰りの飛行機に乗っていた。
ジョンの姿を隠していた能力についてデメリットとして消耗が激しい上に常時使い続けないと姿が見えてしまう、と付け加えた所で飛行機が離陸する。
事件の事後処理なんて大事件過ぎて当事者だろうと学生や新米サイドキックに任される事なんて殆ど無く、事情聴取が終われば解放だ。
「……それにしても弁償しなくて済んだのは本当に助かったわ。明るくなってから見てみれば広場が半壊……八割かいめつしていたもの」
「事態が事態だったしね」
あの全裸の巨人は更正したからかペラペラと情報を話した……らしい。
らしいってのは主って呼ばれていた相手についてオールマイトに話したら随分慌てた様子であれよあれよという間に公安が到着、ちょっと大柄サイズになったままの彼を連れて行ってしまったから殆ど情報が入って来ていないんだ。
「面倒な事態に巻き込まれないと良いけれど。あー、でも帰ったらうちのボスから聴取があるのよね」
見張っている最中にマウントレディが彼から聞いた話からして全裸で過ごすしかなくさせた上で扱いは猟犬みたいな物、更にマダム的な相手じゃなく男らしい。
「拘束フェチが率いる組織の黒幕はホモでドSとか知りたくなかったわよ。てか、関わりたくないわ」
「だよね」
尚、あの全裸巨人の叫びは遠くまで響いていたから、ヴィラン連合所属の奴が全裸の巨人をペットみたいに扱っているという噂はネットを駆け抜ける事になった。
あっ、それと大病院の医者が指名手配になったとか。
何でも黒幕の共犯者だったらしい。
『胃薬を大ジョッキで頼むよ、黒霧』