爆豪君のクソデカ化が戻ったから決勝を十分後に開始すると聞いた僕が牛乳を飲んでいた時だ、通路の向こうから争う様な声が聞こえたのは。
「分かっているのか、焦凍! 先程の試合、お前が勝ったのは運が良かっただけだ。相手がヴィランならやられていたぞ!」
「そのくらい、テメェに言われなくても分かってるよ。もう試合が始まるんだ、さっさと席に戻れ」
「決勝の相手も難敵だが、左を使えば勝てる。お前は俺の最高傑作なんだ、優勝して貰わねば困る!」
最高傑作、ね。
まるで道具だ、それに他の子供が居るんなら失敗作とでも思われそうだし、録音しておけば良かったな。
炎上を他の炎上で誤魔化せるから、エンデヴァーなだけに。
牛乳の紙パックをゴミ箱に投げ入れた僕は二人に会わないで済むようにルートを変えて控室へと戻って行く。
心操との決勝戦が駄目になった事でイライラしていたけれど、あの最高傑作って呼び方は姉さんを抑え込んで無理に型に嵌めようとしていた両親を思い出してイライラは増すばかりだ。
「まるで姉さんを悪魔の子って呼んでたアレ等みたいだね」
椅子に座り、エンデヴァーに歯向かう轟君の事を考えた僕は……。
「まあ、特に関係無い相手だし、手を抜いてくれている間にさっさと勝って優勝貰っちゃおう。優勝したらクラスの皆がご飯奢ってくれるって心操が教えてくれたし」
ぶっちゃけ心底どうでも良かった、この周辺で大勢で集まれて美味しいお店の方が大切だ。
彼の過去も覚悟も夢も信念も僕には何一つ価値が無い、犯罪者をヴィランと一括りにして犯罪に至った動機も切っ掛けも苦悩も何一つ無関係にヒーローに叩きのめされる姿を拍手喝采で大喜びする実に一般的な感性と同じだろう?
叩いて良いと思った相手を叩いて他人が叩くのを喜んで、後も前も知った事じゃ無いけれど、詳細を知って周りの同情の声が大きいなら変化があるってのは否定はしないけれどね。
「僕の進学や就職でのアピールポイントの為だし、踏み台になって貰うね、轟君」
来年じゃ経験の差が出るかも知れないし、僕は僕に出来る最善を尽くすだけだとバックの底に入れていた包みを取り出した。
中身が漏れたら悲惨な事になるから厳重に包んでいた中身の正体は輸血用血液パック、姉さんはアル中や喫煙者にとっての依存対象だったけれど僕にとっては嗜好品の一種、お腹減っている時に焼き肉やカレーの香りを嗅いで食べたくなる程度の欲求しか感じない。
姉さんが小動物の血を啜る姿を不気味だと思っていた様に、個性溢れる世の中になっても個性発現前の社会の感覚の一部は残っているし、オールマイトの存在が抑止力になって生まれた平和と猶予も、オールマイトの存在から来る安心感から有効活用出来ちゃいない。
「……今回のは少し味が薄いかな?」
だから血を飲むなんて姿を見せない方が良いってのは血液バックの調達に手を貸してくれたヒーローの助言だ、人生の先輩の言葉は有り難く受け取ろう。
牛や魚の血の方が味的に好みだけれど血から得られるエネルギーは人間の物が一番大きい。
一気に飲み干し、アドバイス通りにパックは焼いて処分、今や僕が養っている親が二年ぶりに五月蝿く話し掛けて文句を言うだろうし、この程度は仕方無い。
「しかしパック一つ丸々か。……沢山使えば大丈夫、だよね?」
いや、本当に乙女としてはエネルギー過剰の方が轟君の家についてよりも気になるよ。
何倍かって? 0に何を掛けても0だから分からないなあ。
『それでは決勝戦の開始です。ちょっとミッドナイト先生は体調が優れないので、僕、十三号が代役を務めさせて頂きます』
「流石に公衆の面前で性癖暴露はキツかったかあ。爆豪君は敵だったから問題無いけれど、先生を巻き込んだのは悪いと……いや、でも轟君も二回戦で少し巻き込んでいたし試合上の事故って事で良いのかな?」
ミッドナイト先生の代わりに審判をするのは救助とかが中心の十三号先生、見た目は奇抜な宇宙服だけれど変人が多い教師の中では割と常識的な人だ。
『ま、まあ、それも覚悟しての事でしょうから。う、うん、彼女も貴女に文句言う気は無いみたいですよ?』
「……」
おおっと、何か言いたそうな顔の轟君だけれど、君だって出力過多だった二回戦で先生を凍らせたからね?
『それでは気を取り直して決勝戦、普通科渡我裏奴さんVSヒーロー科A組轟君、開始!』
さて、僕は敵からみれば何が出来るのか、何をして来るのか分からない不気味な相手、さっきも心操に油断して負ける所だった彼が選ぶのはそれいけ! ワンパタまんだけれど有効な手段である速攻の大規模攻撃。
「良いなあ。僕って基本的に速攻大規模攻撃とか難しいからさ」
炎の精密動作とかは可能なんだけれど、こういう風にフィールドを殆ど凍らせるみたいな真似はちょっと無理、そしてそもそも氷は出せない。
出せはしないんだけれど……。
「なん…だと……」
僕を包み込もうとした巨大な氷は左右に分かれて僕を避ける、左右から冷気は来るんだけれど僕には全く届いていなかった。
「君の個性は冷気を操って氷を出すんだろう? そして自分も凍らせてしまう。奇遇だったね。僕も個性で……氷を操れるんだ」
寒いのは苦手なのも同じだけれどね。
あっ、左右に動かした氷が先生の方に向かっちゃった、ごめんなさい。
「焦凍ー! 左だ! 左を使え!」
エンデヴァーが叫ぶけれど轟君の次の一手も氷、さっきよりも巨大だし僕の操作許容量を上回れば大丈夫って計算なのか、意地になっているのかはどうでも良いよ、興味無い。
「残念無念、操れるよ。それにしても随分寒そうな姿になったね、君。寒中我慢大会かい? 僕は参加しないけれど……協力して、あ・げ・る」
「はっ!」
おーい、心操。僕って耳も良いから聞こえてるからね? 情報提供の対価に買い食い奢りなの忘れるなよ、絶対すかんぴんにしてやるからな。
確かに私に操作の許容上限は存在するけれど、質量自体はそれなりに高いんだ、距離には明確な上限が有るんだけどね。
再び放たれた氷は彼の眼前で動きを止め、さっき放った氷と一緒にフィールドの中央に集まって、とても素敵な氷像が完成した。
「氷の操作+念動力、必殺ジャイアント・ジョン」
「アルマジロ……?」
そうだ、僕が作り出したのは世界一可愛い動物であるアルマジロの中でも最高にキュートなジョンの姿、僕の飼っているアルマジロの姿を模した物だ。
「ふっふっふっ! 空前絶後の可愛さに唖然としているね。まあ、アルマジロの可愛さに比べたら他の動物の可愛さなんて無価値なんだ、気持ちは分かるさ」
「いや、ただデカイなあって思っただけだし、アルマジロってそんなに言う程っ!?」
アルマジロの可愛さを否定するんだ、そうなんだ。
じゃあ、その可愛さを堪能する暇もなく倒してあげよう、そうしよう。
『ヌー!』
僕の創意工夫によってジョンのラブリーボイスを八割再現した氷の声帯から出る声と共に前足が振り下ろされて地面に大きくヒビが入る。
轟君は反撃で氷を放つんだけれどジャイアント・ジョンの体に吸収されて巨大化するだけ、僕に氷を飛ばす余裕すら無く、冷気で体の動きが鈍る中、遂に場外の線にまで追い詰めた。
『ヌッヌッヌー』
「くっ!」
残り一秒もあれば場外に押し出せるって瞬間に彼の左側から熱が放たれる。
空を見上げれば曇り空、雪が降るには少し掛かりそうだし、だからってジャイアント・ジョンの操作を怠る気もない。
あっちを立てればこっちが立たず、か。
「もう良いや。十分楽しんだし、お腹も減った」
エンデヴァーが嬉しそうな声を上げたのと同時に轟君の足を引き寄せ、同時に襟首を後ろから引っ張って背中側に引き倒す。
僕が何かする前に左側を消したけれど、どっちにしろ僕の勝利だ。
静まり返る会場、呆然とする轟君を前に僕は呟く。
「あれ? 優勝したらご飯奢って貰える約束だったけれど、その場合は心操が奢ってくれる分はどうなってるんだろう?」
『轟君、場外! 勝者渡我さん!』
そしてジャイアント・ジョンは壊さないと駄目かな? あんなにキュートでラブリーなのに。
絶対にやだっ!
相沢先生の個性発覚の際、俺の個性も消せるのかって異形型のヴィランが言ってた
当時は軽口っぽいのが迫害とか追加情報で