ガロックワームとの一戦、其の結末
ペッパーがファステイア坑道・奥地にて、
坑道内は未だ嘗てない大混乱の渦中に在った。
「なんだこのタイマーは!?」
「俺が知るかよ!?」
「坑道は揺れてるし、なんか壊れそう…!」
「とにかく、外に出た方が良いんじゃないの!?」
坑道内に居たプレイヤー達は、突如表示されてカウントダウンを開始したタイマーに、未曾有の危機感を覚え、我先にと坑道の外へと走って脱出を図る。
刻一刻と時が過ぎ、崩落の足音が迫り、巻き込まれれば即死であると、プレイヤー達は知る由もない。
そして唯一人、其の危険と今尚隣り合わせの中で、退けぬ戦いを続けるプレイヤーが居た…………。
他のプレイヤー達が崩落の危険から逃れる為、続々と外へ脱出していく中、其の原因を生み出したペッパーは、怒りの雄叫びを上げながら、巨体を震わせ暴れ狂う巌喰らいの蚯蚓に、アイテムインベントリから
(致命の包丁…急所への攻撃時に、クリティカル補正が入る武器。今、ムカデミミズの顎は無防備……其処が狙い目になる!!!)
タイムリミットが迫り、1分1秒さえ惜しい状況であるペッパーだが、怒り狂い、暴れ回る、発狂状態の巌喰らいの蚯蚓の繰り出す、巨体の叩き付けに突進攻撃、丸呑みとシンプルながら岩鎧を纏っていた時以上の攻撃力で繰り出される技の対処に追われて、手が付けられぬ状況にあった。
(くっそ!ただでさえ此方は被弾1発即死亡だってのに、どうやって攻めたら…!)
攻め手を欠き、1分また1分と過ぎ去り、敗北の時間がペッパーの背中を圧している。このままではラチが開かない。残り時間5分を切った所で、彼は『覚悟』を決める。
「来やがれや!ムカデミミズ!」
巌喰らいの蚯蚓を挑発し、真っ直ぐ前に姿勢を低く、巨体に突っ込んだ。振り上げられる大蚯蚓の巨駆が、罪人に裁きを下す鉄槌のように、岩を砕いて磨り潰す、大蚯蚓の大顎がペッパーへと迫る。
(まだ…!まだだ!もっと引き付けろ!)
脳裏に思い浮かべるは、一時期流行ったレトロゲームの土竜叩き。ただし土竜役を叩くのは『特殊な思考』を積んだAIエンジンで、土竜役は『プレイヤー』が操作する。
問題だったのは其のゲームに置ける、最上級クラスの難易度:神で、曰く『1度でも叩かれなければ超人レベル』と謂わしめた程に、プレイヤーの深層心理を読み切ったかのような超速挙動を行ってくる為、全攻撃を避けきる事は理論上『不可能』。
梓自身も其のゲームを遊んだのだが、あまりの難易度に此迄楽しくプレイ出来ていたゲーム『そのもの』が出来なくなる程のトラウマを植え付けられ、1週間は燃え尽きたかのように外の景色を眺め、ゲームをプレイする事を『拒絶』してしまったのだ。
(超速トラウマ土竜叩きに比べたら!お前の動きの方がまだ生易しい方だよ!!!)
あの日のトラウマは、今も記憶に残り続けている。あのゲームを今でも時々、思い出したかのようにプレイする。経験とは掛け替えのない財産━━━━超速の攻撃の経験が、敗北として自分の中に生きていた。
迫る巨体と自身の身体、接する其の僅か数瞬。ペッパーはギリギリまで引き付けてからのステップワークで補強した、連続ステップで巌喰らいの蚯蚓の真横に移動する。
彼の目の前には、ツルハシで岩鎧が砕かれ、露出した顎の肉。其処が、其処こそが、勝利を獲る為の一撃を産み出す『震源地』だった。
「食らえ、ムカデミミズ!スポットエッジ!」
ペッパーは其の瞬間を、制限時間が迫る中で、自ら動いて、戦局を変えた。
右手に握る致命の包丁の一突。岩鎧が砕けて、肉体が露出した顎へ、斬撃系スキルにして頭部への攻撃にダメージ補正が乗るスポットエッジが、一度は己を呑み込み喰らった口内にまで到達するかの様に、深々と突き刺さる。
『ギュアアアリァラアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?!?』
致命の包丁の持つクリティカル補正強化が、スポットエッジのダメージ補正上昇を補強し、猛攻の為に防御を捨てた巌喰らいの蚯蚓の肉体に刺さり、青黒いポリゴンがスプリンクラーの様に放出する。
『ギリュア……リリアァァァ…!アァアアアァアアァアアアアアアアアアァアアアァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』
「次の一撃が最後だ…!決着を付けるぞ、ムカデミミズ!」
タイマーの残り時間が2分を切り、下がるペッパーを前にして、巌喰らいの蚯蚓は残された全ての力を振り絞るかのように、最後の抵抗を見せる。
坑道の地面を、壁を無数の歯で削りながら、ペッパーを呑み込まんと、此迄の比較にならない、最初に刃を交えた時の5倍の範囲に匹敵する、丸呑み攻撃を行いながら、突進攻撃を行ったのだ。
「マジか…!まだ、こんだけの力が有るか!お前は!!」
ペッパーは敵の見せた其の切札に、心の底から敬意を表しながらも、全力全開の全速力で範囲外へとダッシュする。
鉱脈を喰らい纏う大蚯蚓が、捕食者としてペッパーを呑み込むか。
小さき身で大蚯蚓への復讐を、此の手で果たさんとするペッパーの意志か。
砂埃が吹き上がり、ファステイア坑道・奥地の壁に激突し、大きな衝撃が迸る。
砂埃が舞う中、巌喰らいの蚯蚓が壁で押し潰し、呑み込んだであろうペッパーの感触を腹の中で味わおうと、其の胴を流動させるが、其処に彼の、人間特有の感触は一切感じない。
「ムカデミミズ――――――チェックメイトだ」
広げた口の僅か外、ペッパーの声が大蚯蚓には聞こえた。だが感知した時には、全てが手遅れで。
彼の手には、致命の小鎚が握られて。其の目が捉えた先には、突き刺さった致命の包丁が在った。
「レイズ━━━━━ッ!!!インパクトォォォォォォォ!!!!」
己を喰らった大蚯蚓へ贈る、復讐の一鐵。
残り時間1分弱。全てを賭けた小鎚の一撃が、ファステイア坑道に甲高く響き渡った。
打撃スキル:レイズインパクト。此のスキルの特徴は、破壊部位に対するダメージ補正の増加という、単純明快な攻撃スキルだ。
シャングリラ・フロンティアでの戦闘では、ダメージの蓄積による耐久値の限界を迎えた部位、及び装備に『破壊判定』が働き、肉質が変化したり武器が破壊されるシステムが存在する。
スポットエッジにより、致命の包丁が突き刺さった場所には、現在も破壊判定が刻まれ、明確な弱点となっていた。ペッパーは其処を、頭部攻撃時にクリティカル補正が入り、かつクリティカル成功時のダメージ補正が入る、致命の小鎚で狙い、全力でブッ叩いた。
本来クリティカルとは、幸運値と器用が高い程に発生率が上がるのだが、ペッパーの幸運値と器用は初期値のまま。しかし、其処に致命の名を冠す2つの武器が在るならば、話はガラリと変わる。
斬撃と打撃。相違の属性を宿す2つの武器の、弱点への攻撃に共通する特性の相乗。自らの防御を支える鎧を捨て、攻撃に振り切った巌喰らいの蚯蚓の顎に、文字通り『致命の一撃』と成って――――貫く。
刃の切っ先は顎の肉を裂き、口内を飛んで大蚯蚓の脳下部に突き刺さり、衝撃は顎を伝って擬態を実行する知性が宿る脳を揺らした。
『ギュ…ギャアァァ………!!!』
口から砂混じりの青黒い血を泡立て吹き出しながらも、大蚯蚓は小鎚を振り抜き、其の赤黒い鉄面を向けるペッパーに視界を下ろしていた。
ペッパーは戦いを繰り広げた強敵の名を刻み、忘れぬように大蚯蚓に向けて言う。
「
お前は強かった。
だが、今日は……俺の勝ちだ」
暫しの間、其の身を伸ばし、ペッパーを見下ろしていた巌喰らいの蚯蚓だったが、遂には巨体を支える力は尽き果てて、ファステイア坑道・奥地の地に伏した。
タイマーは残り13秒で時が止まり、其の巨体はポリゴンへと変わりながら崩れ始める。
残された岩鎧は亀裂が走り、無数の脚は一つ一つが割れ落ち、30mに渡る胴体はあちこちが虫食いのようにポリゴンの崩壊で穴が空き、ペッパーの目の前で完全に消えて。
巨体が横たわって消えた場所には、幾つかの鉱石系アイテムと、巌喰らいの蚯蚓の素材がドロップし、頭が在った場所には、レイズインパクトで打ち噛まして、脳に刺さっていた致命の包丁が、静かに落ちて地面に刺さっているだけであった。
『巌喰らいの蚯蚓は砕かれ、地に伏した』
『荒れ狂う衝動は沈み、崩落は防がれた』
『始まりの街の坑道に、静かな安らぎが訪れた』
『称号【巌砕を成す者】を獲得しました』
『称号【坑道の安寧者】を獲得しました』
『称号【ガロックリベンジャー】を獲得しました』
『特殊クエスト:岩砕きの秘策が進行しました』
此れにて、
称号【巌砕を成す者】:
汝、巌砕を成し得た者也
称号【坑道の安寧者】:
暴れし狂いし巌を砕くは、鋼の如き己の魂
また、特殊クエストを受注していない状態で、巌喰らいの蚯蚓を討伐した場合は、称号【坑道の平定者】となる。
称号【ガロックリベンジャー】:
お前は己の、死せし過去を打破した