話を小耳にしてみよう
事務所と書いてドールフロントとルビを振る、外見こそ自然に溶け込む巨木の中身はSFチックな
其の地下空間に設けられた部屋の一画に机や椅子に黒板と、一目見れば『教室』の様相を呈している此の場所で、考察クラン:ライブラリに所属するプレイヤー達が冥響のオルケストラに関する話し合い…………もとい『攻略作戦会議』を続けていた。
「ミレィちゃんが挑戦して既に十数回、彼女の話の限りだと再現されたモンスターは八種類だね」
「歌で出て来る順番は時系列じゃなくてバラバラ………此れ完全に『ランダム』では?」
「ルートエンド・ミノタウロスの歴戦個体が題材に上がって、ユザーパードラゴンが出てないのも妙な話だよな………。そん時ってどんな感じだったっけ?」
「えーっと確か………ユザーパードラゴンはパーティー十五人のフルメンバーで袋叩き、ルートエンド・ミノタウロスはミレィちゃんと私にロック君の三人でブッ飛ばして来た。かなり苦労した難敵だったね………」
「あ、解ったぞ!此れ『苦戦したモンスターが題材になる』んだ!」
「影法師の試練も似た感じだったし、オルケストラが算出する相手は其の線で『ほぼ確定』か」
「成程…………『吟遊詩人が唄い讃える様な相手』じゃなきゃ、オルケストラからすると『盛り上がらない』………と」
「で、肝心のミレィちゃんが帰って来てないんだけど、何か有ったのかな?」
「
「無きにしも非ずなのがなぁ…………」
物凄くネタバレをされている気がする──────其れがサンラクとサイガ-0がキョージュと共に、他の者に気付かれない位置で聞いていた時に抱いた感想だった。
「難航、している………みたい、ですね」
「うむ。新大陸で調査していたミレィ君が、ミオン=
深海で眠っていたバハムート・二番艦:リヴァイアサンの再浮上、前線拠点にやって来た征服人形達との契約成功していたなら既に数ヶ月、当然ながら時間が経てばオルケストラのユニークシナリオ発生に漕ぎ着ける者も出て来る訳で。
征服人形が何れは始源同様、大多数のプレイヤーが関わるコンテンツだと確信したペッパーは、此の状況を見越してオルケストラのユニークシナリオに関する情報をライブラリに流し、其処からライブラリの攻略と検証班が道筋を辿って今に至ったと言える。
「取り敢えず俺達はオルケストラに挨拶して来るわ。………あ、其れから『蛇』に関して状況を聞きたい」
「解った、此方も準備しておくよ」
他のメンバーにバレると足止めを食らうと解っていてか、キョージュがタイミングを見計らって二人と二機に二羽と一匹を通し、自分は後詰めとして部屋に入って行ったのだった…………。
「サイナ、今更ながら確認したいんだが………『オルケストラ』って何なのさ?」
「其れでは先ず『前提説明』から始めても宜しいですか?」
「良いぜ。オルケストラ攻略に繋がるかもしんねぇからな」
キョージュと別れて事務所内を進む歩みを再開し、下へと続く緩やかな螺旋状の坂道へと変わる中、サンラクはオルケストラという存在についてサイナへと問えば、彼女は此の様に答えた。
「───情報開示申請:契約者情報送信:第一認可、第二認可、第三認可………説明を開始します。我々征服人形は型や思考は異なれど、現在『三つのプロトコル』を基礎として行動しています。一つは来たる危機に対して次世代原始人類と接触、契約を以って行動を共にする『
次に、そう言ってサイナが指を先、ガラス張りにされた博物館の展示物の如く『其れ等』は在った。
形状からして戦闘機や戦車として見て取れる巨大な機械達に、ヤシロバードにSOHO-ZONEやアヴァランチ含めたガンマニアやガンスキー辺りが真面目にガラス窓の破壊を目論みそうな携行式ガトリングに四連装ミサイルランチャー。
他にも軍事やら医療やらと中世の剣と魔法のファンタジー(だった)世界観と掛け離れた物騒な品々が飾られ、リヴァイアサンやベヒーモスにウェザエモンの報酬を見ていないプレイヤー視点では、此のシャングリラ・フロンティアというゲームを超未来の科学と機巧のパンクファクトリーか何かと勘違いしてしまう。
(いや待てよ…………?確かペッパーやペンシルゴンが言ってたキョージュの話じゃ、運営が想定してた最初のユニークモンスターは深淵のクターニッドだった筈。…………もしかして其れを経て新大陸に到達から、征服人形と接触・オルケストラのユニークシナリオで此処に来て、初めて中世ファンタジーからハイサイエンスの世界観に変わる………みたいな?)
「次世代原始人類の手に余る神代人類の遺産を予め確保・回収し、事務所にて保管する『
尤もリヴァイアサンとベヒーモス、二つのバハムートが出現した時点で、此の計画に意味は無いのかもしれませんが───────そう言ったサイナと頷くイクサの案内は、遂に目的の場所たるオルケストラが居る場所に。
彼と彼女等が辿り着いたのは、基本的に金属で形成されたドールフロント内部では似つかわしく無い、木製で造られた『巨大な門』の前だった。
「………そして、プロトコル『オルケストラ』。此れは再征服及び
「「オルケストラ、
「ですわ?」
「なのか?」
「ブィイ?」
「此の扉はオルケストラによって『変質』させられた物と、他の征服人形から聞き及んでいる。元は『金属製』であったとも………」
変質、マナ粒子に関してはジークヴルムの専売特許だが、オルケストラの其れはジークヴルムと違うのだろうか?
「あー………つまり、オルケストラさんの能力ってのは『物質やらの改変』だったりする?」
「
「ぶびゃあ!?」
「エムル!?」
「エムルねぇ!?」
其の時、見えない『何か』が…………まるで自分以外の全てを弾き返す『バリア』が迫って来た様な。
そんな斥力によって、サンラクの肩に乗っていたエムルが人知れずに吹っ飛ばされ、近くに居たサイガ-0が彼女を優しくキャッチする。
「
年月を経て開かれた門の如く、サンラクの目の前で木製の扉は音を立てながらに開かれる中、サイナはサンラクを真っ直ぐに見つめて言う。
「神代の象徴、三体のバハムートが太陽であるならば、あれらは星……。
暗闇の中に意識が溶けて、ブラックホールの中へと吸い込まれる浮遊感を味わう中、サイガ-0達の声が遠退いていく最中に、サイナの声だけがハッキリとサンラクには知覚出来て。
「ならば、貴方は…………。
そして其処で、意識を繋いだ糸はプツリと断ち切られた。
『其れ』は、此の世界に生きる者が重ねた、確かなる歩みを謳う
『其れ』は、此の世界を駆けた者が挑んだ、確かなる記憶を想起させる
『其れ』は、此の世界で成し遂げた偉業に対し、己が放つ歌声を以って証明を求める
そして『其れ』は、招待状を持ってやって来た来訪者へと、旋律と共に歌を贈る
そして今宵、新たなる挑戦者に歌を贈るべく、七つ在りて六つ星となった中の一柱が、サンラクの入場を受けて動いた瞬間だった。
此れより
幕開け