VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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勇者は招かれて




唯一人(ただひとり)へ贈る歌 〜其の十六〜

「…………スゥ──────。えーっと、ペッパーさん………ですよね?」

 

シグモニア前線渓谷(フロントライン)外縁部、前線拠点にてプレジデント:ノンウィズリーが言っていた地下駐屯地に運び込まれたペッパーは、此の蟻の巣の状に出来た地下空間を作ったプレイヤー達に囲まれ、其の一人から………ジャック・オー・ランタンの被り物を被った代表者と思われる『マフティー』なるプレイヤーから問い掛けられた。

 

辺りに居る者達の大方は疲弊や心労に満ちており、まともな食事や補給に有り付けない中で戦っていたのだと、戦争系ゲームで開発と訓練に並んで補給がどれだけ大事な要素かを知っているレトロゲーマーは、死と再生(デス&リスポーン)が許された二号人類(プレイヤー)がこんな状態で良く生きてこられたと思いながらも、問い掛けへと答える。

 

「えぇ、ペッパーですよ。其の証拠が此れです」

『ワンッ!』

 

ライトベレーの帽子を頭から取り、奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)の名前隠し機能をOFFにして示せば、アバターの頭上に表示される『ペッパー・天津気(アマツキ)』のプレイヤーネーム。

 

そして駄目押しに彼の足元から現れた小さなリュカオーン、夜の帝王として知れ渡る七つの最強種の一柱が寵愛する者に送り込んだ、リュカオーンの分け身たる『ノワ』と彼と一緒に行動しているヴォーパルバニーの『アイトゥイルとディアレ』が現れた事で、彼が()()のペッパー・天津気其の人と全員が理解するに至った。

 

「前置きは無しで、プレジデント:ノンウィズリーさんという方からゲーム仲間の方へ食糧と水含めた補給物資を届けに来ました。後、此処のランドマークを設定したいんですが良いですか?」

「補給!やっと、やっと届いた!!!」

 

インベントリアから取り出される食糧や水にポーション等含めた品々に、地下駐屯地に居るプレイヤー達の目が輝く。アーミュレット・ガルガンチュラのゼリーマテリアルで飢えを凌いで来た者からすれば、久方振りにまともな食事に有り付けると有って歓喜の表情に彩られ。

 

「まだまだ有りますから、争わず落ち着いて下さいね」

 

チェストリアを持つ者からすれば完全上位互換に当たるインベントリア、其処から次から次に補給物資を取り出しては一人一人に手渡す姿を見て、其の中の誰かが『願わくばペパ子ちゃん姿で物資を渡して欲しかったな』と思い。

 

食糧補給で元気を取り戻したプレイヤーに案内され、蟻の巣状の中層付近に在るベッドルームの一つに到着から、ランドマーク更新でファストトラベル可能にした後、ペッパーは其の中の一人に質問する。

 

「すいません、此処の駐屯地って売り物で何か取り扱ってたりしますか?」

「えぇ。とは言ってもアーミュレット・ガルガンチュラのゼリーマテリアルのダースセットだったり、トレイノル・センチピードの甲殻やフォルトレス・ガルガンチュラの毛とか爪先くらいしか無いですけど………」

 

そう言われて案内された先、ベッドルームの在る中層から先程運び込まれた谷底の出入口に近い下層に移動し、店番兼倉庫番をしているプレイヤーと対面すれば、其の者はゴホンと咳き込んで『声色を変えて』話し始めた。

 

「おぉ、此れは此れは………。噂に名高い胡椒さん御一行ではないですか………」

「どうも、貴方が此方で商いをして居る方でしょうか?」

「えぇ、えぇ………。ただ此処は他の街とは違って、マーニよりも食糧やポーションに毒直しが力を持つのさ………。金より命、素材よりも消費アイテム、此処は其れを齎す者こそ重宝されるのさね…………ヒッヒッヒ」

 

此の世界(シャンフロ)ではロールプレイを元に住民として順応す(生き)る事を主軸に置く者も居り、此のプレイヤー………『真津辛』なる女商人は其の類いの存在で、口調や雰囲気も独自の世界観を持ちながら、ゲームに居る者としての気配を崩していない。

 

其の御陰で彼女の言葉は『砂漠の都市やバザールでは金よりも水が重用され、水源を押さえる者が砂漠地帯を征するのは世の理、シグモニアでは消費アイテム持ちこそイニシアティブを握れる』と遠回しに説明されている事に説得力を与え、商人として箔を持っていると言っても良い。

 

「ふむ…………、じゃあゼリーマテリアルの取引レートはどのくらいで?」

「ゼリーマテリアル三十個に対して、回復かマナポーションが一ダースって所だねぇ………」

「成程………ならブーストとリジェネポーション四本ずつの、計八本が妥当な(ライン)ですね」

「は?」

 

ゼリーマテリアルの入手は筋力に秀でたプレイヤーが、アーミュレットを倒せば高確率で手に入り、此の雄小蜘蛛達は雌や女王個体がフェロモン系統で『自爆しろ』と命令すれば、当然とばかりに命を擲つなぞ容易いと爆散する。

 

オマケに同族が悪ノリで自爆する個体も居るので、余計にタチが悪いのがアーミュレット・ガルガンチュラというモンスターの特徴だ。

 

そんな常に自爆する動く地雷や列車砲の毒液砲弾、砲撃爆発の余波とレーザーレインが振り注ぐ環境で、回復ポーションやマナポーションを使う?─────其れはシグモニア前線渓谷の戦争具合や状況をすれば『悪手も悪手』、だからこそ必要なのは回復という『護身』では無く、ブーストポーションのバフにリジェネポーションの時間経過回復を用いる『攻めの姿勢』が重要なのだ。

 

「此の戦場での勝ち方について、どう考えてますかマフティーさん?」

「そりゃ勿論『漁夫の利』一択です。トレイノルとガルガンチュラの戦闘誘発して、隙を突いて素材を掻っ攫います」

「其の通りです、マフティーさん。此の戦場では『回復自体が逆に悪手で有り』、ポーションやらの飲む行為でさえも敵からすれば『絶好の攻撃瞬間になる』。其の状況下で()()()必要になるのは、敵の攻撃に巻き込まれずに生き残れるだけの能力値と相手に隙を見せずに回復出来るリジェネ効果、そして其れを搭載している防具が此処では重要だ…………そうでしょう?」

 

該当品を知っている身であり、既にシャンフロの武器防具のスレ含めて多くのプレイヤーが知り、一部は現物を持つに至っているので多くは語らなくても答えに辿り着けるだろう。

 

そして其の話の途中、大事な本質に気付けなかった真津辛の目が僅かにブレたのを、ペッパーは一瞬たりとて見逃す道理は無い。

 

「商売というのは何時の時代も、御互いに『信用』が成り立つからこそ成立する事柄(もの)。特に戦争で経済を回して金を稼ぐ商人、そして死んでもリスポーンが効くプレイヤーならば、当然『一回の戦闘で如何にして参加者が多大な成果を挙げられる様にするか』………俺が貴方の立場に立っていたとすれば、其処の要素に重点を置いたラインナップを展開します。尤もヒールやマナポーションも在れば良いですが、ブーストやリジェネの方が需要は確実に高い」

 

「という訳で」と、ペッパーがインベントリアを操作して引き出したのは、エンハンス商会で有りっ丈購入した事で十数グロス単位になったブーストポーションとリジェネポーション、其の中の僅か一部を見せた事で真津辛にマフティー、此の地下駐屯地を作ったプレイヤー達は口をあんぐりと開いて固まって。

 

「改めて商売というか、取引をしましょう。真津辛さんにマフティーさん。御互いが納得し、長い目で関係を続ける為にも『信用出来る相手』に成りたいですから」

 

そうしてペッパーは、彼女や彼を相手に『クリティカル』を叩き出した音が、確かに聞こえたのを確信したのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物品取引でクリティカルを叩き出し、真津辛やマフティーから今後の取引についても色々と相談されたりと、シグモニア前線渓谷内で長時間生き残り、中央部頂上の水晶の冠へ自力で行ける最高峰の開拓者(稼ぎ手)にして、ファストトラベル持ちの物資供給元(パイプ)を逃すのは地下駐屯地側からして避けたいとも有ってか、此方の出した取引は見事に成立した。

 

内容としては此方がシグモニア前線渓谷での稼ぎを行う際に、ベッドルームの一つをリスポーン地点兼ランドマークとして使用させて貰う事と必要な物資の優先購入権の獲得。

代わりに帝晶双蠍(アレクサンド·スコーピオン)の討伐やツァーベリル帝宝晶を手にしたならば、其の一部を地下駐屯地に卸してラインナップに加え、其の価値に応じた品と物々交換する事を条件に設定したのである。

 

手始めにミダス28世に納品するアーミュレット・ガルガンチュラのゼリーマテリアルを必要分+α購入し、ベッドルームに移動した後にアイトゥイルとディアレが此方に聞いて来た。

 

「ペッパーはん、本当に良かったのさ?」

「私もアイトゥイルに同意だ。帝晶双蠍は貴方からしても強敵だろう?」

「二人の意見は御尤もだ。だがシグモニア前線渓谷は其の条件を加味しても、セーブ及びファストトラベルポイントを使えるという点こそが、一番意味が有るんだ」

 

外縁部とはいえシグモニア前線渓谷の地下空間にセーブポイントが在り、ランドマークを更新出来た点から此の地下駐屯地は一つの『建造物』として扱われている。

 

何より不慮の事故によってウィンプとサミーちゃんが今迄使っていた空洞は潰れ、素材集めやレベリング周回に挑む場合にはキャッツェリアを経由しなければ行けなくなったのを、ファストトラベル可能な直通ルートの確保による時間短縮に、帝晶双蠍の素材の扱い方含めた諸々の要素を踏まえれば、収支はプラスもプラスに転換する事も十二分に可能だ。

 

「じゃ帝晶双蠍を狩って来る。ノワ、ヒトミさん、アイトゥイルとディアレを頼むよ」

『ワン!』

「御武運を、契約者(マスター)

「頑張れなのさ〜」

「行ってらっしゃい、ペッパーさん」

 

人を招き入れる上側の出入口に向かって進み、帝晶双蠍の視線が未だ下層で争う百足と蜘蛛潰しに躍起となっている間に外へ出て、本題の一つを迅速に果たそう。

 

「さて………気合入れて行きますか──────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、此の後に帝晶双蠍のテリトリーをビーム砲撃手の位置取りから大体炙り出した後、数時間掛けてペッパーは帝晶双蠍を二体討伐とツァーベリル帝宝晶十七個とポストイ・ツァーベリルを一個採掘し、最後は左右からの挟撃3WAY変則反射ビームに飲み込まれて死亡。

 

水晶群蠍(クリスタル·スコーピオン)の亜種でテリトリー主義者と言えど、根幹に在る異物撃滅主義は変わって無い様子だったとリスポーン直後に安心した表情で言葉を述べ、近くに居たプレイヤー達を戦慄(ドン引き)させた事を記載する。

 

 






イニシアティブは渡さない


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