最終楽章の其の前に
最終楽章の突入、其の為にマネキンの楽団員達が次々とステージから退場する中、苦しい様子とも悲しい様子とも異なり、或いは其れ等全てを混ぜ合わせた様な
「おいサイナ、せめてインテリジェンスに話せ。お前が何時も言っている『其れ』は形だけの物か?違うだろ?」
「い、インテリジェンス………」
「そうだ、インテリジェンス。インテリジェンスな奴は口籠らないし、情報を共有出来るし、自力で奇病難病すらも克服出来る」
ネフホロリストのルストがずっと前に言っていた格言らしい其れを、サイナに当て嵌めて言ってみたが…………対する彼女はどう答えるのか?
「………存在意義、自意識だけではどうしようもない承認欲求、オルケストラによる裁定は、やはり………」
「曖昧だなオイ」
サイナの台詞の御陰で、足りない物が見えている。そして自分自身が何を見落としていたのかも、彼女の御陰でハッキリと解り掛けた。ならば彼女に贈るべき言葉は一つのみ………!
「曖昧な答えだが、俺から一つだけお前に言える事が有る」
「其れ、は………」
「俺やお前が求める『答え』は、
「………!」
此処には無い………文字通り結論は『其れ』に行き着く。
そんな中で歌姫がたった一人残ったヴァイオリニストに仮面を渡し、三度目となる『サンラク』が独奏のエールを受けて立ち上がる。
「やれやれ、もう出て来やがったか。────サイナ、一つ良い事を教えてやる………『
「一体、どういう……」
「挫折し悩む英雄の背を押し、瓦礫と土砂に消えたある男の有り難い言葉だ!ただし其の人生、語るとメチャメチャ長いので割愛するッ!!」
「君の為なら僕は世界中の人間を殺してみせる」とゲーム内で発言し、そして文字通り有言実行したクソゲーのキャッチコピーであり、クソゲーマー界隈で『ミナゴロシ大戦記』と呼ばれている其れは、正式名称を『ミナココロ大戦記』という。
主人公が「君の為なら僕は世界中の人間を殺してみせる」と発言し、宣言した相手が苦楽を共にした可愛いヒロイン達ではなく、何とヒロイン達では無く『ラスボス』な上にキャラデザが『流し目をするゴリラ』である事が大問題。
オマケにメインストーリー中で病気のヒロインを治す為に必須となるアイテムが有り、乱数で手に入る『桃』を手に入れる事が条件なのと、其れを乗り越えた後に待ち構えている顛末が『無害無辜な民相手に無双ゲーをした挙句、今まで関わってきたヒロインやNPC達をプレイヤー直々に一人一人斬り捨ての暴挙』を噛まし、其れが『ハッピーエンド』でした…………というのだから救い様が無い。
───────だが、だからこそ。クソゲーは面白いし、クソゲーは辞められないし、クソゲーは最高なのだ。
「行くぞ似非野郎!」
初手両者が起動するは『ストラトゥム・バスター』、クリティカル・レイズから進化して二刀流限定時スキルだった前身より、両腕に武器を装備している事で使える様になった其れは、例えば片手に剣を片手に銃を持った状態でも使用可能な点と、クリティカル・レイズ時代の五十倍で下がっていた時よりも改善、其の数値は『百倍以降になってから』露骨に下がる物に変更された。
そして更に両者が使うは、互いに
惨毒蜂双針時代のダメージ判定一回毎に毒・麻痺・壊毒の状態異常付与を持ち、
しかしコーラルホエールの素材で真化を行った事によって、蜂と海洋生物に水晶の蠍の針を使った双刃のレイピアは新たに霊気属性という、アンデッド系にも有効打を持ちながら敵の状態異常耐性諸々を下げるという属性を獲得し、此迄の三種の状態異常付与に凍傷・脱力・硬直の判定が加わった『デバフ超特化武器』になり、耐久値も惨毒蜂双針の頃の二倍に跳ね上がった超凶悪武器となったのだ。
「コイツに当たったらヤバいのは、
『サンラク』は
サンラクは最速で、スキルやアクセサリーを含めても圧倒的な機動力を誇り、其の気になれば空を超高速で走り抜け、やりようによっては旧大陸と新大陸を隔てる大海すらも越えられてしまう様な、そんな『機動力特化』と言って良いステータスをしている。
特化ステータスという物は古今東西、極めに究めた奴は其の部類で唯一抜きん出て並ぶ者は無いとされる一方、其のステータスには必ず『削られている箇所』が存在し、サンラクというキャラの場合は圧倒的な速度を得た代償に耐久面は武器と装備に頼らねばならず、其の装備でさえリュカオーンが残した
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
『……………………!!!』
真化した二振りのレイピアがぶつかり合い、当たれば確実にアバター操作に影響を与え残すと確信する程の、激しい火花を散らした激突が起きる。
互いに互角、ストラトゥム・バスターで重ねた総計六十四倍分のクリティカルダメージの
されど此処で両者の行動は『変化』した。
「ん!?」
サンラクが
「対レイドボスさん技術!錆光殺しってなァ!!」
水晶の蛇腹大剣をボクシンググローブの甲部で滑らせ、直撃軌道を逸らしたと同時に、横っ腹を
「オイオイ、其れは『悪手』じゃねーのか?」
時間にして僅か一秒、然して一秒
「ペッパーとの特訓の成果!ワンインチボクシング!」
『サンラク』を初撃に反応させる為の
両腕にギチギチに巻き付きながら、両手の撃鉄の琥珀が隙間から覗き、隙見て
どんなに上位互換が相手だとしても敵が起こす行動の『始まり』か、或いは其の行動の『終わり』を完全に押さえられたならば、当然ながら取れる選択肢は必然的に『狭まる』。其の狭まった瞬間にこそ、『サンラク』に突け入る隙と倒す為の道筋が有る……………!
『────────!』
自分に出来る事は、当然相手にも出来る事。雷速初歩移動コンボ、円周軌道をなぞって刻んだ超速挙動、
「…………は?」
『サンラク』よ、お前は何故其処で左手の撃鉄を額に叩き付けんとしている?…………いや確かに、其れをやらんとする理由は自分には解かる。
星明かりを纏って
だが其れはあくまでも……………
『敵が自分を見失っている事が大前提』であり、そして暗殺者の経験持ちから『空隙作りは絶対にやってはならない行動』だろう?
「そりゃ駄目だろ、『俺』よ」
星外套がはためいて、瞬間転移からの迅雷刹華と共に距離を詰め切り、グローブを外した掌底で『サンラク』の肩に触れ、流れるままに裏拳を軽く当てた──────次の瞬間。
『サンラク』の前身に強大な振動による
掌による接触が齎す振動で『最大三秒の硬直』を与える二連結同調『
対『サンラク』用に作った初見殺しが決まり、『サンラク』の身は劇場の宙を錐揉み回転しながら、物凄い勢いで吹き飛んで行く。
「見えたァッ!!」
か細く、細々と見えていた勝利への道筋が、今此の瞬間『モーゼの海割り』の如く拓けたのをサンラクは見た。
対する『サンラク』も硬直解け直後に、
(此処が正念場………、此処で奴を倒す………!)
勝利に繋がる光の道