VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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巌喰らいの蚯蚓のリベンジマッチの後先




衝動は消えず、クエストは終わらない

巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)との再戦を制し、強敵の最後を看取ったペッパーは、直後のレベルアップのSEで此所までの緊張が解れ、大の字に寝転ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁ………疲れたぁ~」

 

策を講じ、実力を高め、全力で戦い、勝利を勝ち得た。暫く呼吸を調えてからステータス画面を開くと、レベルは3つ上がり、新しく獲得したスキルや進化したスキルが複数有る。

 

「スキルは……休憩挟んでから確認しよう。先ずは巌喰らいの蚯蚓の素材を回収して、ファステイアに帰ったら武器屋のおっちゃんにも報告しないとな……」

 

ゲームを開始してから1時間も経過していないが、まるで10時間休まずにプレイし続けたような、倦怠感と睡魔に襲われる。

 

そんな身体を起こし、ペッパーは致命の包丁と大蚯蚓の素材を回収。ゆっくりと歩き出し、奥地を出て坑道を入口に向けて進んで脱出すると、入口付近には他のプレイヤー達が居り、此方に気付いて視線を向けてくる。

 

何か言われたり、質問されたりしたが、其の時のペッパーは答える気にはなれず、一路ファステイアの街へ走り去っていったのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

ファステイアの宿屋でセーブとログアウトを行い、梓は頭にセットしたVR機材を外し、枕元に移動させる。

 

「勝てたんだな…俺…………」

 

シャングリラ・フロンティアをプレイした初日に、巌喰らいの蚯蚓に敗北を喫し、其れを切欠に始まった特殊クエスト。

 

準備と策を講じ、畝る頑強な巨体に鉄を打ち立て、制限時間が差し迫る中で、2つの致命武器で仕留め、リベンジを果たした。

 

「………此の先、アイツより強い奴に出逢うんだろうな」

 

ファステイアより先の世界には、巌喰らいの蚯蚓よりも強く、そして凶悪な攻撃を行うモンスター達が幾つかの居るらしい。

 

きっと其れ等と戦う内に、最初の頃に戦ったモンスターの事は忘れてしまうだろう。

 

「忘れねぇよ、ムカデミミズ。シャンフロで最初に俺を殺した、お前の事はよ………」

 

右手を拳に変えて、胸に当てた梓は、重くなった瞳を閉じ、眠りに付く。休憩も兼ねた睡眠は、3時間の時が過ぎ、再び目が覚めた時には既に夕方になっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

仮眠とトイレ、水分補給とカロリーメイトで栄養補給を終えた梓は、再びシャンフロにログインし、1プレイヤー・ペッパーとして活動を再開する。

 

「さぁ、おっちゃんに報告だ!」

 

現実の時間と同じように時が進んでいるシャングリラ・フロンティアでは、ファステイアの街も夕暮れ時となっていて主要施設には灯りが点き、一部NPCの家は扉に鍵が掛かって、侵入出来なくなっている。

 

ペッパーは夕陽の光で橙色に染まりゆく空の下、一路ファステイアの武器屋へ向かい、扉を開いた。

 

「おっちゃん、居るか」

「おぉ、あんちゃん!帰ってくるのが随分長かったから、ちょいと心配しちまったぜ!」

「すいません、御心配を御掛けしました」

 

心配していたらしく、迷惑を掛けてしまったなとペッパーは頭を下げた。

 

「………奴には勝てたかい」

「はい。滅茶苦茶強かったですが、何とか勝つことが出来ました」

 

そう言いつつ、証拠としてアイテムインベントリに収納していた巌喰らいの蚯蚓のドロップアイテムを引き出し、カウンターに乗せる。

 

すると、其れを見た店主は何かを決心した顔付きで、ペッパーに言った。

 

「あんちゃん………もしアンタで良けりゃあ、俺にコイツの素材を預けちゃあくれねぇか?」

「………其の心は」

「前に修理で預けてた致命の小鎚を見て、新しい『武器』のイメージと加工する工程は、もう出来てるんだ。其の武器を完成させるにゃあ、巌喰らいの蚯蚓の素材がいる。

無論、無理強いはしねぇ。あんちゃんが大蚯蚓を仕留めたんだ、どう扱うかは任せる」

 

まるで一世一代の大仕事に挑まんとする、鍛冶師の情熱を燃やす熱い瞳が其処に有り。ペッパーも此所で退いたら、男が泣くと考えた。

 

「新しい武器の誕生…凄くワクワクします。武器の耐久値の回復と平行になってしまいますが、お願い出来ますか?」

「!あぁ、ありがとよ…!暫くしたら、また来てくれや!そんときにゃあ武器全部の回復と、最高の武器が仕上がってるからな!楽しみにしてろよ!」

「よろしくお願いします!」

 

巌喰らいの蚯蚓の素材と致命の武器2つを武器屋の店主に預け、ペッパーは店を出て、入口付近で新しく獲得並びに進化したスキルを確認する。

 

「レベルが付いてるのは『剛擊』『アクセル』『ラッシュ』『見切り』『ハイプレス』の5つと、新しいのは跳躍力を高める『一艘飛び』に、回避行動へ補正を掛ける『タップステップ』、そしてスタミナの消費で攻撃速度を上げる『ブートアタック』。

 

進化したスキルは、スポットエッジが『スピックエッジ』になったくらいか…技量を上げたからか、覚えたスキルも多いな」

 

シャンフロでは、戦闘経験の『積み重ね』とスキルに対する『理解』が、新スキルの習得と既存スキルの進化には欠かせない。一戦一戦を如何に戦い、スキルを使って戦況を優位に進めるか、プレイヤー各自の采配が求められる。

 

「レベルが上がるスキルは何れ、特技剪定所(スキルガーデナー)で合体特技を作りたいし、副業(サブジョブ)も何にするか決めないとだなぁ……。

 

出来る事が増えていくと、相対的にやらなきゃならない事も増える……」

 

嬉しくも向き合わなければならない事実を感じながら、ペッパーは続いて3レベルアップにより得た、残しているポイントと合わせ、20ポイントの振り分けを考える事にした。

 

「巌喰らいの蚯蚓は倒した。バックパッカーとしての責務を果たせるように、筋力3の敏捷8に、スタミナに5ポイント入れて、残りは6………。

 

此のポイントは、必要な時に振れるように残しておこうか」

 

そうしてステータスにポイントを振り分け、暫し夕闇に染まる空を見上げ、此の先はどうするかと黄昏ていると、武器屋の扉が開き、店主が顔を出してペッパーを呼んだ。

 

着いて行ってみると、カウンターの上には耐久値が完全に回復した、致命の包丁と致命の小鎚、更に青黒の脈筋が網のように張り巡り、両方の鉄面部には巌喰らいの蚯蚓の口を彷彿とさせる、円状に配置された黒刺が光る小鎚が1本。

 

其の横には、小鎚のマークが刻まれた一冊の本が置かれており、本その物は分厚くは無いものの、凄まじいオーラを纏っていた。

 

「これが…!」

「応ともッッッ!コイツはあんちゃんが狩った、巌喰らいの蚯蚓の素材をふんだんに使用した、俺の鍛冶生涯最高の逸品、ロックオンブレイカー。

 

其処の本は、ロックオンブレイカーの製造秘伝書。此迄の俺自身が完成に至るまでの道程を示した物だが、既に1つ予備を書き記したから、コイツはあんちゃんに渡すぜ!」

 

ガッハッハッハ!と高らかで上機嫌な笑い声を上げる店主。其の顔は人生最大の大仕事をやりきった職人の顔であり、ペッパーは悔いの無い選択が出来たなと嬉しくなった。

 

「さてさて、武器と此の本には一体どんな性能━━━ブッフェ?!」

 

アイテムインベントリに収納された、大蚯蚓の素材を使って作り上げられた小鎚と、小鎚のマークを表紙に刻む本の説明文を読んだペッパーだったが、其の内容で思いっきり吹き出してしまう。

 

「お、おい大丈夫か!あんちゃん!?」

「あ、いえ…大丈夫です……」

 

あまりの衝撃で一瞬、目眩が生じてしまったペッパー。だがしかし、そんな事は今現在どうでも良い。其れは些細な差異でしかない。

 

問題なのは………『小鎚』と『本』の内封した能力と内容だった。

 

 

 

ロックオンブレイカー(ユニーク武器):致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)より着想を経て、巌喰らいの蚯蚓の素材をふんだんに使用した小鎚。類い稀なる掘削能力を秘めるが、其の力は未だ解放には程遠い。

素材となった大蚯蚓が鉱物を求めるように、此の武器もまた、未だ見ぬ鉱物資源を求めている。

 

戦闘時、自身に最も近い敵に対するダメージ上昇に補正が入る。

 

此の武器で鉱物アイテムを砕いた場合、其の希少度合によって耐久値を回復する。

 

 

 

ロックオンブレイカーの製造秘伝書:ユニーク武器・ロックオンブレイカーの生産に必要となるレシピ。武器屋で鍛冶師に見せる事で、素材を用意すれば生産可能となる。

 

此のアイテムはアイテムインベントリには含まれず、他者によるPKをされても、プレイヤーの手元を離れない。破棄不可能。

 

 

 

マジでヤバい。其の一言に尽きる代物が2つも、己の手の中に在る。

 

先ずロックオンブレイカーは最前線を張れ、クリティカルを叩き出せるプレイヤーに持たせるだけでも凶悪なのに、何をトチ狂ったか耐久値回復等と言う鍛冶師泣かせのヤバい能力が備わっている。

 

シャンフロにおける武器装備の耐久値限界で破壊・消滅問題を『鉱物アイテムを叩き割って回復し、半永久的に機能させれば何も問題ないじゃない』と言う、脳筋ゴリ押し回答で克服した、身の毛も弥立つヤバい武器だ。

 

そして其れを生産する秘伝書と銘打ったレシピもまた、危険な匂いと頭を抱える爆弾的要素しか書いていない。内容を纏めるとアイテムインベントリを圧迫せず、他者に殺されても盗まれる心配が無い、ユニークウェポンの生産・独占が可能な、破棄不可能の呪いの書物。

 

最早此等は、最初の街(ファステイア)で手に入れる装備のレベルではない。ゲームで言うなら最終盤の最後の街で高額叩いて漸く買える、最強クラスの武器と同じ扱い。使い方を何処か一つでも間違えよう物なら、確実に戦争が起きる。

 

「……………武器の横にユニークって四文字付くだけで、此所まで印象が変わるとはなぁ………」

 

おそらく、特殊クエスト:【岩砕きの秘策】は『本来なら』此の武器・ロックオンブレイカーを作るためのクエストで、致命の小鎚を見せた後に耐久値回復の為に預けるか否かで分岐が発生。

 

巌喰らいの蚯蚓を討伐して報告した時に、素材を渡す事により、ロックオンブレイカー単品の入手or秘伝書付きでの入手かの、2つのエンディングに分かれる……と言うものなのだろう。

 

「いやぁ、あんちゃんのお陰でスゲェ武器を作る事が出来た!コイツは他の鍛冶師にも伝えた甲斐があったってなぁ!ハッハッハッハ!!!」

「えっ?…伝えたって――――」

 

そんな折、武器屋の店主がテンション高めに、さらっと『とんでもない事』を言った。其の事を問い掛けようとしたペッパーの前に、更なる事実が含まれたリザルト画面が表示され、彼を混乱へと導く事になる。

 

 

 

『始まりの街の鍛冶師は新たな武器を生み出した』

『産まれた技術がフロンティア中に広まった』

『特殊クエスト:【岩砕きの秘策】をクリアしました』

『武器カテゴリー【小鎚】が追加されました』

『シャングリラ・フロンティアの各街の武器屋で、武器カテゴリー【小鎚】がアンロックされました』

『特殊クエスト:【沼地に轟く覇音の一計】を受注しますか?』

『YES』or『NO』

 

 

 

(あっるぇ?ただでさえヤバい物貰ったのに、更に何か色々ヤバい事起きたし、此の手のクエストって1回コッキリじゃないですの?おかしくないですか?????)

 

 

 

 

世界は未だ動かない。

 

されど人が産み出す技術と知恵は、強者に挑む者達に更なる進化を与えた。

 

新たなる風はファステイアより放ち、世界各所へ伝わり往く――――――

 

 

 

 




此れにて一件落着━━━すると思っていたのか?(ゲス顔)

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