サードレマでの戦いの後に
「サンラク!オイカッツォ!エムル!走れ、走れ、走れ!!」
アーサー・ペンシルゴンが投擲玉を用いての舞台を形成、其れに乗ずる形でペッパー達はサードレマに突入して、大通りを駆けていた。
「此処まで来たら、そろそろ解散で良いか!?」
「サンラクさん!もう変化が限界ですわ…!!」
「俺、もう限界…!宿屋近いから、一旦其処逃げ込んどく…!」
「OK、エムルはマナポーションを!全員幸運を祈るよ!」
ペッパーがエムルにマナポーションを投げ渡したのを合図として、サンラク&エムル、ペッパー&アイトゥイル、オイカッツォの三手に分かれて、各々裏路地へと消えていく。
とは言っても、サンラク&エムルは自分と同じユニークシナリオを受注している為、兎御殿に行けるので実質二手に分かれたが正解である。
「アイトゥイル!ゲートの準備!」
「了解なのさ…!」
裏路地に入り、他のプレイヤーが居ないか目視確認。アイトゥイルが旅人のマントの中からゲートを開き、ペッパーは兎御殿の休憩室に逃げ込んだ。
「よっし逃走成功ォ!流石にサンラク以外は此処まで追って来れないだろ!」
「ペッパーはん、走り回って大変なのさね」
「まぁね。しかし思った以上に情報が拡散されてたな…そろそろ装備の替え時だろうか?」
今の装備の格好良さは、とても気に入っている。だがAnimaliaが言った、黒統一の装備と旅人のマントによって、自分の特徴が洗い出されている可能性は高い。
(今の俺が行ける街の中で、一番耐久力を上げられる防具が有りそうなのは、エイトルドかニーネスヒルだろう。サードレマ大公殿下の屋敷にも行きたいけど、阿修羅会が起こしたゴタゴタに上位プレイヤーの捜索も有る。其れにアイテムインベントリ中に在る、モンスターの素材も整理しないとアクションに影響が出そうだ…)
ペッパーはアイテムインベントリの中身を調べ、
(
と、兎御殿の休憩室に別の扉が構築されて、サンラクと殆ど人化が解けた結果、半人半獣状態のエムルが全速力で駆け込んで来た。
「だらっしゃあい!逃げきってやったぜぇ!ペンシルゴン含めてPK共、ざまぁみやがれ!!」
「もう変化、限界…でずわ……!ぽぴゅう!」
「エムル、お疲れ様なのさ…」
白い煙と共にエムルは元の姿に戻り、アイトゥイルが頑張ったねと彼女の頭を撫でている。
「サンラク。無事に逃げ切れたか」
「応よ!敏捷と幸運特化の『前衛職』傭兵を舐めんなって奴だ!」
「…………ん?前衛職?傭兵?」
サンラクが口走った前衛職というワードに、ペッパーは反応して。
「因みにペッパーは、どんなステ振りしてんだ?俺と同じ傭兵?さっきの走り方からして、スタミナと敏捷特化の長時間走れるタイプだったり?」
「いや……俺、筋力・敏捷・スタミナを中心に振ってる、バックパッカーで『後衛職』なんだけど」
「え」
「えっ」
「「………………………え?」」
前衛職と後衛職。同じユニークから受けた呪いを持つ者同士。そして其れによって、二人は同時に『答え』に辿り着く。
「「リュカオーンの
━━━━━━━━━━━と。
「マジか…マジかぁ……。リュカオーンの呪いって、前衛職でも付与されるのか……」
「後衛職でも呪い引っ付けるとか、あのクソ犬どんだけ悪辣だよ…!」
兎御殿休憩室にて、ペッパーとサンラクは互いに相棒兎を横に置き、向き合う形で胡座を掻きながら座って、明かされたリュカオーンの呪いに言葉を溢した。
「因みにサンラクは呪いを受けた時の状況って、どんな感じだったんだ?言いたくなければ言わなくて良い。もし教えてくれたなら、此方も其の時の状況を詳しく話すよ」
誰しも秘密の一つや二つは有って良い。得た情報には相応の対価を以てこそ、初めてトレードとは意味を成すのだから。
「……俺も其の時は必死こいてリュカオーンと戦ってたし、大雑把な説明になるかも知れねぇが、其れでも良いか?」
「勿論」
ペッパーは一言、力強く答えを返す。
「解った………。俺の場合だが、レベル18の時にリュカオーンに遭遇して『15分以上ノーダメージ』かつ『400回以上』のクリティカルを叩き出して、脚を噛み千切られた時に『食いしばり』発動したら、あの犬っころに脚と胴に呪いを引っ掛けられたわ。
因みに200回くらいかな?武器は『
サンラクの説明に、ペッパーは唖然となって絶句する。あの攻撃速度に加え、ディレイすら意図的に絡めてくるリュカオーンを相手に、
しかしペッパーが其れ以上に驚愕したのが、リュカオーンが自分の刻み付けた右目の傷を、今も尚放置している事であり、彼が身体の二ヵ所に呪いを食らう理由を作ってしまった事で。
「サンラク!本当にすまん!」
「えっどうした急に!?」
サンラクを前にして、ペッパーは直ぐ様に由緒正しき土下座を敢行し。申し訳なさそうに唯々事実を述べるしか無かった。
「其のリュカオーンの右目……、俺が致命の包丁でブッ刺して切り裂いたんだよ……」
「…………は?」
そうしてペッパーもまた、其の時のリュカオーンとの戦いを説明していった。
「俺がリュカオーンと戦ったのは、サンラクと同じくレベル18の時で。反射神経に優れてない俺は、リュカオーンの『攻撃パターンに合わせて立ち回って、理想となる攻撃を誘発させる』為に動きながら戦った。此れを『ヒット&アウェイ作戦』って俺は呼んでて、武術の世界だと『後の先』に近い戦法なんだけど……。
其れを用いて『適正距離を保って』10分生き残ってたんだが、足場が崩れて回避ミスからの右腕を噛み千切られて、やられたと思ったら『食いしばり』で体力1で耐えた後、リュカオーンの踏み付けに合わせる形で跳躍。致命の小鎚を投げ付け→致命の包丁切り替えで、リュカオーンの右目に『刃をブッ刺して、一文字に切り裂いた』所でスタミナ切れで頭を潰されてやられた………サンラク?」
ペッパーの一通りの説明を終えて、申し訳無さそうにサンラクを見ると、彼は胡座座りから一転して正座態勢に入り。
「
「えええええええええええ!?」
此方も綺麗な土下座を行ったのである。相手の行動を読み、モーションを誘発させ、あまつさえリュカオーン相手に一矢報いてみせたペッパーに、サンラクは驚愕したのだから。
そしてペッパーは其の行動に対して、驚愕の声を上げるしか無かったのだった………。
暫くして漸く、御互いに謝罪を含めた心の整理が着いたので、二人はリュカオーンの呪いの付与条件を、一度纏めてみる事にした。
「つまり、こういう感じなのか…」
「おそらく此れで合ってる……筈」
内容はこうだ。
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リュカオーンの呪い付与条件・共通
・ソロでの遭遇
・レベル条件
・致命の武器(ユニークシナリオ『兎の国の招待』に関わる可能性大)
付与条件・前衛職
・一定時間ノーダメージ&一定回数のクリティカル
・体力が全損しない(食いしばり必須?スキルや魔法の補助は駄目?)
付与条件・後衛職
・適正距離を保って、一定時間の生存
・リュカオーンに傷が残る程のダメージ
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改めて思うが、尋常じゃない難易度である。当たらないだけでもプレイヤーとして実力は相当なのだが、前衛にしても後衛にしても、善戦すればする程に呪いを受ける可能性が極めて高い事は間違いない。
「なぁ、サンラク。ちょっと良いか?」
「奇遇だなペッパー、俺も多分同じ事考えてた」
「「やるか、ユニークシナリオ秘匿同盟」」
リュカオーンの呪い付与条件の共有、同じユニークシナリオの受注者、そして互いに善戦して呪いを食らった者同士。話はすんなりと纏まった。
『ユニークシナリオ・兎の国の招待』を、出来得る限り他のプレイヤーに公にしないようにする事。
リュカオーンの呪い付与条件を開示する場合は、大雑把な物に留めておき、自力で考えさせるようにする事。
自分達以外で『兎の国の招待』を受注したプレイヤーが現れたならば、其のプレイヤーと接触して口外しないように言い聞かせる事。
此の三ヶ条を以て、ペッパーとサンラクとの間で、ユニークシナリオ秘匿同盟は締結され。そして二人はフレンド登録を結んだのであった………。
ペッパーとサンラク、兎御殿で結ぶ約束