前回サンラクが皇金世代と戦った時の死因は、相手が可動域と可動範囲の最大値を最後の最後まで隠していた事だった。
当時の自分は油断も慢心もしていなかったし、鋏の可動で拳と鎌に剣の三種に移行出来ると予測はしていたが、人間其れでも回避出来ない時が有るのと同じく。
レベル99 Extendの状態で皇帝陛下の剣戟を掻い潜り続け、片目を潰して甲殻の一つを渾身の力で引っ剥がしたが、鎌から剣に移行する中で自身の重心を前に倒しながら振るった事で、間合いが一挙に伸びた事による袈裟斬り一閃で死亡する結末となった。
「今なら解るぜ皇帝陛下、お前の其の動き方にはレイさんが言ってた『龍宮院流剣術』が有るってなァ!!!」
ペッパーの繰り出すヒット&アウェイ戦法を役割模倣に組み込み、剣術道場を外道戦術有りで龍宮院 富嶽の写し身を越え、恋人と会話をして龍宮院流剣術には『攻めと守りの二つのモード』が在る事を知った。
万全の対応をする『引き波の型』と、一気呵成に攻め込む『打ち波の型』………当世最強の剣聖と呼ばれ武術に置ける相手の繰り出した攻撃に対応して打つといった、所謂『後の先』に重きを置いた其れを、自身の生涯を通し培った経験則と直感によって『先の先』じみた物に昇華させたのが富嶽の戦法で。
皇金世代の複数有る脚の動かし方は龍宮院流剣術とペッパー・天津気の動きがミキシングされ、剣鋏と聖剣の斬り上げ・斬り下ろし・薙ぎ払い・刺突等の殺意に満ち満ちたモーションの数々はサイガ-100と自分自身の動きが組み込まれた『文字通りの怪物』と言える物が、現在サンラクとサイナが対峙している皇帝陛下でもある。
「五分!」
「要請認証:再征服計画に基いた契約者サンラクの接敵レベルから、征服人形エルマ=317へのクラスVIII武装『爆圧噴射式杭撃機』の一時使用を許可。転送………完了、即時使用します」
「何其の素敵武装!?」
見た目は三脚で支えられたコテコテのパイルバンカーだが、三脚で支えなければならない程の重量と、当たれば相応の成果が約束されるだろう重装兵器。
そしてサイナ自身が発射を担う射手であり、狙いを付ける観測者である事から、サンラクは『此の兵器を確実に当てる為には皇金世代の足止めが絶対必須』と、一瞬の内に状況理解と行動開始に打って出た。
「ヨッシャ来やがれ、皇帝陛下ァ!」
マッドネスブレイカーの片方を境光の宝剣に変えて真紅に輝く夜光刃を引っ提げウツロウミカガミ、何時もは『捨てる』としているヘイトコントロールを其の場に『置く』事で、皇金世代含めた遠距離攻撃手段持ちの蠍達が使う『巨体大回転による尻尾の攻撃』を使わせない事が重要なのだ。
何せ皇金世代の魔力飛翔斬撃に当たれば先ず間違い無く一発アウトの、距離が離れ過ぎず近過ぎる場所では大回転の遠心力で加速した聖剣にブツ斬られてアウトの大技。
そして此のモーション、シグモニア前線渓谷中央地の水晶王冠に居る帝晶双蠍のビームでさえ、其のモーションは視覚系補助スキル無しでは確実に被弾の危険極まりない『絶対に出させてはならない技』というのが、サンラクとペッパーの認識なのである。
そんな事を思っていれば、カウボーイの投げ縄の如く聖剣の付け根を器用に回し、聖剣に光を溜める皇金世代の姿。視線は明らかに大火力を出しますよと言わんばかりの、大型パイルバンカーを取り出して照準を定めているサイナに向いており。
「うおぉおお!【収着せよ】!」
マッドネスブレイカーの片方を仕舞いながら、述べられた言霊を受けた深厳戟響脚の足裏にマナ粒子の膜が張られ、直後に飛び出した魔力刃の飛翔一閃がサイナの前に割って入ったサンラクが、星海飛脚で空中を地面として繰り出した足裏と接触。
「【弾けよ】ッ!」
片脚で弾いた時とは違い両脚、威力はおよそ二倍の状態で胸に封雷の撃鉄を叩き付けての過剰伝達によるモーション強化。腕力の三から四倍の筋力を持つ脚撃、更にはモーション出力が跳ね上がった事で先程の受け流しの数倍近い馬力かつ、ドロップキックじみた攻撃によって真正面からぶつかったマジックエッジは。
深海という修羅世界で玉座に相応しい王となるべく育てられた戦士が積み重ねた、艶やかなる赤く不屈の甲殻で造られた籠脚よって真っ二つに圧し折られ、サンラクとサイナの両側に分かれて飛んで行き。
そして此方に防がれると思わなかったのか、はたまた防がれるのも割り切っていたのか、はたまた此の状況を既に想定していたのか、剣鋏を最大展開したハグ抱擁で一人と一機諸共パイルバンカーを押し潰そうとして来た。
「其れも読んでんだよ!」
撃鉄のデメリット効果発揮前に神律燼風でスタミナ消費による更なる加速を加えた体勢立て直しと、流れる様に撃鉄解除モーションに移行する最中に皇金世代の横っ面へ、業撃【茨木俱緞】を乗せたマッドネスブレイカーと不世出の奥義:戦砕琥示+睡神の永撃を衝撃重視のコンパクトフックで、皇金世代の横っ面に最速最短挙動で叩き込む。
渾身の鎚武器攻撃スキルと振り抜いた威力で衝撃が増減する拳撃スキルの直撃だが、やはりと言うか皇金世代には効いている様子は見られず、複数の踏ん張る事で吹き飛ばしを抑えて体勢を維持した…………が、其の僅か数瞬後に皇金世代の動きが酔った様にぐらついて。
「今ッ!」
「…………了解:射出!」
キュガッッッ!!!!と言わんばかりの大出力を、轟音と衝撃波に乗せて発射された鋭利な杭の先端が、左鋏と腕を結ぶ付け根の隙間に深々と突き刺さり、其の痛みに皇金世代の巨体が酔いから覚めた様にビクン!と跳ねた。
業撃【茨木俱緞】と睡神の永撃には直撃した対象へ、少なくない時間気絶を始めとする様々な状態異常を与え、サイナが繰り出す様々な凶悪質量火力兵器を確実に叩き込む為の空隙を作り出せる。
とは言え、数有る高火力スキル達は神秘:愚者込みでも相応の再使用時間を要し、戦砕琥示含む不世出の奥義に至っては数日は使えない。
「サイナ!次弾行けるか!?」
「謝罪:クラスVIII武装は一度きりの使用を前提としたレンタルです。再び申請する必要が有り、再申請までに十五分掛かります」
「一時間で四発使えんならOKだ!此のまま次のヤツ申請しつつ、射撃で援護!引き続きタンク兼前衛を俺がやる!」
「具申:しかしながら契約者の負担が大きいかと。当機が前衛を請け負います」
「気持ちは有難てぇが、どっちも無事で勝って立ってなきゃ此の戦いは『本当の勝利じゃない』ッ!」
武装を切り替え、其の手に持つは境光の宝剣と槍焔剣アラドヴァルの二刀流、早い段階で剣鋏を取り除いて聖剣に攻撃を収束させる為にも、持ち得る手札の出し惜しみをしている余裕等無い。
長期戦は既に覚悟の上、此方の集中力とスタミナが剣鋏と聖剣破壊と皇金世代撃破まで、持つか否かの我慢比べと互いの持つリソース総量の殴り合いと言っても良いだろう。
無論、勝つと言った手前に負けるなんぞ死んでも御免である。