VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ペッパー、持ち物整理をする(其の二)





胡椒はサードレマを旅立ち、死した火山で疾風(はやて)と出逢う

「ビィラックさーん」

「ビィラック姉さーん」

「おう、ペッパーにアイトゥイル。太刀は出来たが、まだ大槍は作り終わってないけ」

 

エルクの下で色々なスキルの秘伝書を購入したペッパーとアイトゥイルは、其の脚で兎御殿の鍛冶師にして名匠たるビィラックの所を訪れていた。

 

其の彼女はと言うと、カイゼリオンコーカサスの角を削って整形しており、其の傍らにはコーカサスの残り二本の角と、翡翠と黄金の螺旋模様を掘った、槍の柄が立て掛けられている。

 

「ビィラックさん。大槍が終わった後なんですけど、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の改修をお願いしたいんです。あ、ゆっくり休んでからで良いです!」

 

シャンフロに置ける武器は、素材を消費して鍛冶師に依頼する事で、耐久値・ダメージ補正・能力等を強化出来る。一般的に改修された武器には『【武器名】改◯』といった形となり、最大で『改十五』まで至れる。

 

そして改修は十段階目を突破すると、必要素材よりも費用が頭がおかしいレベルで跳ね上がる為、ウェポニアのような武器防具コレクト勢の様な、狂った連中以外の正常な思考持ちのプレイヤー達は、改修を十段階で打ち止めとして、さっさと『真化』させてしまうのだが。

 

「解った、どんくらい素材を持っちょるか見せてみぃ。其れで何処まで改修出来るか、わちには解る」

「はい、此方になります」

 

アイテムインベントリからエンパイアビー・クイーン他エンパイアビー達の素材に、クアッドビートルの素材を取り出して、ビィラックの見える位置に重ねていく。

 

「おぉう……こらまた随分有るの……」

「クアッドビートルは五匹、エンパイアビーの方は巣を四つ程陥落させましたので……結構手に入りました」

 

研磨加工を一時中断して、ビィラックはペッパーが狩り、重ねた素材達に目を通していく。

 

「フムフム…これなら『改五』まで行けそうじゃ。よし、ペッパー。甲皇帝戦脚をわちに預けてくりゃあ、そんなに時間は掛からずに育成しちょるけ。マーニはあるかいな?」

 

彼女の言葉に従い、両足に装備していた甲皇帝戦脚をマーニと一緒に提出し、ビィラックは素材共々己のインベントリに収納。

 

鍛冶場の奥へと引っ込んでいき、其の十数分後に暖簾を上げて一仕事終えた表情と共に、ペッパーとアイトゥイルの前に育成した甲皇帝戦脚と、翡翠の鞘に収まる黒碧色の柄を持った太刀を二本置いた。

 

「双皇甲虫の一角、颶風の申し子ティラネードギラファの素材を用いて製作した、名匠ビィラックの太刀。銘打つならば『風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】』じゃけ」

 

置かれた太刀の、其の内の一本を手に取り、恐る恐る鞘から抜いてみると、翡翠色の刀身が顔を覗いたと思えば、其処から切り裂くような風と共に、表皮を刺激する電撃の気配が漂うのを、彼は如実に感じた。

 

ペッパーは慌てて太刀を納刀すると、先程の風と電撃は収まり。彼は育成で改五に成った甲皇帝戦脚共々、アイテムインベントリに収納して、此の武器の能力を確認する。

 

 

 

 

 

風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】:颶風の申し子ティラネードギラファの大断鋏を主体として用い、名匠の手により製作された翡翠色の太刀。鞘より抜かれた刀身には、雷嵐の申し子カイゼリオンコーカサスの素材も使われており、一刀の元に振るわば、風の刃と雷の追撃を共に成して、敵を斬り穿つ。

 

颶風の申し子たるティラネードギラファは、遺された残滓と共に獲物を振るう者へと問い掛ける。

 

━━━『汝は風、汝は刃。偽り無き己の意思を、詐り無き己の真を示せ』━━━━と。

 

汝が汝で在る限り、此の風と雷は決して、汝を裏切る事は無い。

 

斬撃による攻撃時、ヒットした箇所へ裂傷状態及び帯電状態を、相手に付与する。

裂傷状態:斬撃武器及び斬撃スキルによるダメージを与えた場合、ダメージ及びクリティカルに補正が掛かる。

帯電状態:斬撃武器及び斬撃スキルによるダメージを与えた場合、装備者の筋力に応じた追加ダメージを付与する。

 

 

 

 

(己が己で在る限り、風と雷は力を貸してくれる……か。ティラネードギラファ、カイゼリオンコーカサス…俺を、俺達を見ていてくれ。此の刃が到達する輝きを)

 

「ありがとうございます、ビィラックさん」

「ペッパーはん、これからお出かけなのさ?」

「あぁ。其れとアイトゥイル、サンラクが戻ってきたらエムルと一緒に、兎御殿を案内してあげて欲しいんだ。其の間に俺は、サードレマから死火山のエリアに行って来る」

 

今の時点でサードレマから動くとなると、サンラクやオイカッツォは非常に危険だ。未だ他のプレイヤーが探している可能性は有るし、此処は自分が囮となって、他の連中をサードレマから引き剥がす必要が有るだろう。

 

「ペッパーはん…」

「大丈夫、ちゃんと戻ってくるよ。エンハンス商会のサードレマ露店通り支部の近くにゲートを頼む」

「……解ったのさ。気を付けてさね」

 

ありがとうと頭を撫でて、ペッパーはアイトゥイルを肩に乗せて、休憩室に帰還。喧騒新しいサードレマへと向かう扉を開いて、彼はアイトゥイルが見送りを背に、真っ先にエンハンス商会・サードレマ露店通り支部に入店。

 

エリアボスや他のモンスターの素材を売却して、得られたマーニで回復アイテム等の様々な道具を補充。少し周りに目立つよう心掛けて移動しながら、其の脚で栄古斉衰の死火口湖へと脚を踏み入れたのだった………。

 

時刻は午前10時を越えていく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処まで来れば、大丈夫でしょ……」

 

サードレマから栄古斉衰の死火口湖にやって来たペッパーは、登山ルートを駆け登った後に中腹辺りに座って、ふぅ…と大きな息を吐いた。

 

ブルックスランバーは其の性質上、プレイヤーを見付け次第、地の果てまで追い掛けて口に含み、火口から湖目掛けて放り投げる悪辣さを持ったモンスター。

 

対して此方は、リュカオーンのマーキングによって、自分よりもレベルが劣っている彼等は、Uターンで逃げ出すので安心安全なのだ。

 

『ギョエー!?ギョエー!?』

『ギョエー!!?』

 

そして案の定、ブルックスランバーが此方に気付き、飲み込もうと走り来る訳なのだが、呪いが放つ黒狼の気配によって、一目散に来た道を帰って行く。

 

「こうして見ると、リュカオーンには感謝しなくちゃだな」

 

呪いのお陰で、本来なら危険なエリアである此の場所が、安全地帯が作られたと考えれば、礼を述べなくてはならない。

 

と、此方に再び近付いてくる悪辣な青駝鳥達に、ペッパーは視線を移した瞬間。其の奥より、ブルックスランバー達のコミュニティよりも『桁違いに速い』、一匹の巨鳥が突っ込んで来て、ブルックスランバーを吹き飛ばしたのだ。

 

「は!?な、何だコイツは!?」

 

ブルックスランバーよりも一回り大きい、全長4mは在るだろう巨大な鳥。ブルックスランバーと同じく、ペリカンの頭とダチョウの胴体を融合させた、青い羽毛を身体に纏いながらも、其の羽毛には朱が混じった物になっており、尾羽は孔雀や鳳凰の様に長く、まるで飛行機雲を描くジェット機の様だった。

 

シャングリラ・フロンティアに置いて、ユニークに匹敵する強力なスキル『不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)』と呼ばれる物がある。其れ等に共通する事項として、エクゾーディナリーモンスターと呼ばれる存在と戦い、勝利する事が条件として含まれている。

 

ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"。

 

栄古斉衰の死火口湖の岩肌に生息している、ブルックスランバー達の中でも、誰よりも先へ。誰よりも速く。誰よりも一番に駆ける。

 

其れを唯ひたすらに求め続けた果て、己が育ったコミュニティを捨て、愛した伴侶さえも捨て、最後は孤高を頂く事に到りし、異端なる王鳥がペッパーの前に現れたのだ。

 

 

 






出逢うは、悪辣駝鳥の最速走者


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