VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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其の風は嘗ての残滓




摩天越えて、世界を震わせ 〜其の十〜

兇嵐帝痕(イデア=ガトレオ)(スペリオル)

 

猫妖精(ケット・シー)の国キャッツェリアが誇る最高の宝石匠(ジュエラー)ダルニャータがローエンアンヴァ琥珀晶より作りし、嘗ての時代に一つの身で覇たらんとした国喰らいの(まが)らう風と呼ばれた『大陸級超規格台風(アガトレオ)』の血肉の欠片が閉じ込められた物。

 

使いし者に強烈極まる回転と風を齎す特殊状態:殲嵐のメビウスを搭載したアクセサリーだが、此の暴れ馬じみた回転エネルギーの()()()()()()には『装備者の頭が向いている方向に準じる特性』が有り、極論を言えば頭を左に向けると反時計回り・右に向けると時計回りの回転が発生する。

 

「だからこんな芸当も可能なんだよなぁ!!」

 

左足を踏み込み、歯車達が畝りを上げ、右に首を傾けたサンラクの身体に時計回りの回転と風が齎され、サンラクは『敢えて』其の風に身を任せる。

 

『分霊サンラク』と『サンラク』が担当を交代、龍神楽を避けた『分霊サンラク』が『サンラク』から新しい武器を投げ渡されて此方を狙って来たが、寧ろそうしてくれて『ありがたい』。

 

「ハイ此処ォ!」

 

地面より軽い跳躍、『分霊サンラク』が振るった小鎚二刀流の片方の鏡面が迫る中、跳躍とは別の脚を空中歩行スキルで踏み込んで、首を左足に傾ければ反時計回りの回転と推進の二乗の力が加わり。

 

『分霊サンラク』が打ち砕かんとした上裸の鳥頭の繰り出した、数秒前の回し蹴りが突如として逆回転の後ろ回し蹴りに変貌し、もう片方の小鎚を差し込んで防いだが、続け様に襲い掛かる数多の金属を混ぜた刃が『分霊サンラク』の首をスッ飛ばさんと襲い掛かって。

 

「其れを待ってたんだ、御蔭で照準を定められる─────!」

 

其れを邪魔するが如くコントラバスが飛んで防いだ…………直後、混剛の合金(アダマス・インゴット)を喰らって刃を作った皇金剣(アンティアレス)の切札、生成刃を破壊して其の希少度合いに応じた高火力ダメージ技たる光熱斬撃が繰り出される。

 

刃糧煌剣(イミテーションゴールド)!!!」

 

目の前で噴き出す皇帝陛下の威光の再現、永く長い年月を掛けて其の身に蓄えた月光による魔力を一滴残さず擲った時代の決戦個体の一撃は、新たに飛来するチェロ・シンバル・コントラバスの重ね掛けで『分霊サンラク』を守り、分霊サンラクと戦っていた『サンラク』をしても『皇金剣がヤバい』と確信したのか、二対一で潰しに来た。

 

最大高度(ペッパー)直伝ッ、空中体幹制御!!!」

 

一で空間の瞬間的な把握と逆算!

 

二に縦と横と己の揺るがぬ軸の設定!!

 

三は愚直な継続といざという時に繰り出す度胸!!!

 

「【収着せよ(Sorptionting-up)】を加えて歯車式!!!天地逆転頑張れ俺の【弾けよ(Poping-up)】三半規管キィイイイイック!!!」

 

再使用時間終了済の真界観測眼(クォンタムゲイズ)点火と共に、呪われし監獄(カースドプリズン)の身で繰り出した蹴りを。

 

全米一位に噛ました時よりもずっと速く、ずっと重く、ずっと鋭い一閃が『分霊サンラク』を弾き飛ばし、真界観測眼発動済で迫った『サンラク』の横っ面を掠めた事で遂に体勢を崩させ。

 

「いっ、まっ、だぁあああああ!!!!」

 

回転の中で己の身体を御し、叫びと共にインベントリアから延棒を引き出すや、金色の針でブッ刺して再び産まれた肉厚の片刃たる超合金の剣身。

 

「刃糧煌剣ッッッッッ!!!!」

 

ノータイムで迷う事無く放った灼光、回転によるエネルギーと推進力を加えて、一瞬の煌めきだろうと其の区間に数発当てれば、御自慢の食い縛りも連続忖度ガードも意味を為さない。

 

「勝っ─────────」

 

王手、詰み、チェックメイト…………思い描いた勝利の形は其処に在って。

 

しかし真界観測眼を使っていたからこそ、サンラクは『其れ』に気付く事が出来た。

 

彼が見たのは目の前で灼光に焼き潰されようとしている『サンラク』でも無ければ、弾き飛ばされた『分霊サンラク』でも無く、世界と世界のぶつかり合いで既に九割近くをサイナの想い描く摩天楼に塗り潰され。

 

己が声援(エール)を贈った『サンラク』と、其処から産まれた『分霊サンラク』がサンラクと分霊サンラクに追い詰められ、いよいよ以て詰んだ状況に『悔し気な表情を滲ませるエリーゼ・ジッタードールの姿』であり。

 

そして其のエリーゼが此方では無く『己の後ろ』、肩に手を置いた者の顔を見ていた事と、其の人物は『サイナのそっくりさん』と片付ける事の出来ない…………ましてや()()()()()と言える姿をしていたのを目視し。

 

『………………』

(誰、いや、は?あ………、まさか、嘘、だろッ!?)

 

思考加速を齎す視界系スキルと、複数の記憶の直列による記憶の想起…………其れこそがサンラクがエリーゼの後ろに居た者の『正体』に気付く事が出来て。

 

彼女は朗らかに笑い、歌姫を責める訳でも咎める訳でも無く、まるで「此処からは私に任せて」とバトンタッチするかの如く在り。

 

 

 

 

 

 

『───頬を撫でる夜風。他所見(よそみ)で見上げた月に微笑み、私は加速する』

「はっ!?」

 

 

 

 

 

エリーゼが着ていたドレスが其の存在に着替わり、其の口から紡がれる歌声と共に聞こえ、其の手に担われたのは現代チックなギターで。

 

刃糧煌剣による高火力の灼光を下から持ち上げられ、ベロンと引き剥がされたアスファルトが盾となり、サンラク諸共サイナが展開する摩天楼の情景を押し返された。

 

『誰よりも速く、風も追い越して。そうよ何時か私が……ハイウェイスター!!』

 

畝り唸る大蛇の如き『高速道路の数々』が世界の比率を半々に変え、ロックンロールと言うべき声量で世界に歌を響かせる『エルマ・サキシマ』の出現。

 

着地したサンラクがアスファルトの波から逃れて分霊サンラク共々サイナの隣へ合流し、吹っ飛ばされていた『分霊サンラク』と『サンラク』もエルマ・サキシマの近くにて集合する。

 

「おいどうするよサイナ。まさかまさかの()()()が登場したぞ」

「エルマ、サキシマ……!!」

 

エルマ型の元になったオリジナルの登場という状況の中で、彼女の歌声を背に受けた『サンラク達』が再び立ち上がる。

 

其れを踏まえるならば仕切り直し、もしくは第二形態突入とでも言うべき事象だが、エリーゼの表情は悔しさを滲ませていた事がサンラクには『どうしても引っ掛かる』。

 

だが今やるべきはサイナに更なる声援を送る事と、彼は今此処に在る事実を以て彼女に言った。

 

「サイナ!お前に勝つ為に、墓の下から本人が蘇ったぞ!!只の人形が此処まで来たんだ!だったら、思う存分ブチ噛ましてやれぇいッ!!!」

「っ………了解。了解しました契約者(マスター)当機(わたし)当機(わたし)自身の自我(アイデンティティ)で……、エルマ・サキシマ!貴女に挑む─────!!」

「よぉし、やったろうぜ!!!」

 

世界の比率が戻った以上、もう一度ギリギリまで削り取る必要が出て来たが、そんな事は理解り切っている。

 

ならば此方がやるべき事は今一度、エルマ・サキシマが展開した世界たる高速道路(ハイウェイスター)を素寒貧になるまでガードを吐き出させて、『サンラク達』に攻撃を届かせる状況を作り出す事!

 

其れ一つのみに集約されているのだから!

 

 






再現された歌姫 対 歌姫を模した人形


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