鬼ごっこは続くよ、飽きるまで
「待ちやがれペッパー、チクショー!」
「止まれ止まれ止まれェ!」
「情報が欲しいなら、相応の材料で交渉しろって、学校で習わなかったのかー?」
バーストダッシャーで加速しながら、ペッパーは徐々に追跡者達を後ろへ引き離していく。
「……使えるな、バーストダッシャー。筋力にステータスを振ってる身としては有難いわ」
角を曲がり、裏路地を縫い、其の脚で駆けるペッパーだが、目の前に複数のプレイヤーが居るのを目視で確認する。どうやら彼方も気付いている様子で、何かを叫んでいたり、応援を呼び寄せている模様だ。
「次は屋根の上で、追い駆けっこと洒落混みますか」
艘跳びの極み、源 義経の異名たる名を冠せしスキル、『遮那王憑き』を起動。30秒間、跳躍を含むモーションが強化され続ける仕様を利用して、建物間を大ジャンプ。クライムキックと併用しながら、三角跳びで三階建ての建造物の合間を駆け上がり、僅か5秒で登り切る。
「なっ…何だあの跳躍!?」
「高………!」
「屋根見張ってる奴等に連絡だ!」
ライオット・スートの起動と共に、遮那王憑きの効果が残る間に、アクタスダッシュも絡めて斜めに傾く、屋根上をペッパーが駆ける。
「遮那王憑きは効果が切れそうだし、此処で『ストック』しておこう」
ライフオブチェンジより進化した『ソウルジェネレート』。自身の体力かMPを一定値減少させ、自身の筋力や耐久力等のステータスに、減少した数値分を
ペッパーは体力を減らし、此の先にある大通りを越えられる様に跳躍力を強化、ジャンプ時の踏み出す脚の調整に取り掛かる。
「ペッパーが居た!」
「大通りを飛び越えるつもりか!」
「下の奴等を大通りに行かせておけ!落ちてきた所を確保するぞ!」
屋根で見張っていたプレイヤー達が、ペッパーが立ち止まれば確保出来る様に、其の後を追跡してくる。
「さぁ…総仕上げと参りましょう!」
ボディパージ・ストリームアタックを起動。耐久を削りながら敏捷を上げて、脚を止める事をしないまま、更に速度を上げて走り続けて、跳躍地点に迫り。
ソウルジェネレートで体力を削って得た跳躍力で、屋根先より大通りの向こう側に建つ建物へ━━━━飛んだ。
「は……?!」
「飛んだ…だと!?」
勝算有りか、自殺志願か。何にせよペッパーが大通りの真上を飛んでいき、中腹まで浮いていた身体が。シャンフロが誇りし、あらゆる物事に対して反映された、絶対の物理エンジンがもたらす、不変の『重力』に従う形で落ちていく。
━━━━━筈だった。
「だけど俺は、其の重力に『反逆する術』を手に入れている」
跳躍と着地時に発生する、重力負荷を軽減する『セルタレイト・ケルネイアー』を使い、続け様に其れを使用する。レディアントシリーズ一式を纏う以外の、空を蹴り、落下死等を書き換える、其のスキルの名を『スカイウォーカー』。
背面蹴りによって空中を踏み締め、二段ジャンプと成った其れで更に跳躍距離を伸ばして、見事に着地を行ったペッパーは、勢いを其のままに近辺となった、サードレマの上層と下層の境界線となる門へと突き進む。
向こうで二段ジャンプが出来ない、プレイヤー達の声が聞こえたが、そんな事は気にも止めず。建物の合間を伝って地面に降りて、上下層を隔てる門を守るNPCの門番へ、エンハンス商会会員証を見せてゴールイン。
其の後を追跡していたプレイヤー達が門に殺到したのだが、通行証やサードレマ大公が認めた証を持たない者は、通行出来ずに足止めされてしまい、ある者は怨嗟の歯軋りを鳴らし、ある者は怒号と血涙で狂い叫び、またある者は届かなかった事に悲鳴を上げたのであった………。
「名も知らぬプレイヤー達、スキル検証に付き合ってくれて、ありがとうございました……と」
後ろで木霊し聞こえる声に耳を傾け、小さな声で礼を述べた後、彼は辺りを警戒と見回しを行いつつ、サードレマの上層エリアを探索する。
上級階層が暮らしているだけあり、プレイヤーが利用出来る店は何れも此れも、高級なアイテムが勢揃いしており、中には数十万マーニの雑貨品が置いてあったりと、金銭感覚大丈夫かなと心配になったりもした。
「っといけない。サードレマ大公殿下に謁見しないといけないんだった」
━━━━━━━━天を覇する龍王の鎧を纏い、彼に見せたのであれば、きっと貴方が『探している物』を、彼は託してくれる筈です。
数日前、王都ニーネスヒルの大聖堂で出逢った、慈愛の聖女イリステラは自分に対して、こう言っていた。探し物とはおそらくだが、特殊クエスト:【七星の皇鎧よ、我が元に集え】に関するフラグで、ユニーク
問題は確実に何かしらの試練や、御使い等のクエストが待ち受けている可能性が極めて高く、失敗すればユニーク遺機装の性能に、制約が掛かる可能性も存在している。
「何も持たないで行くのも、大公殿下に対してあまりにも失礼だし……。何か茶菓子や茶葉を購入して、ドレスコードもしておきますかね」
そうと決まれば話は早い。ペッパーは早速、服屋でジェントルマンの紳士服(30万マーニ)を新規で購入しつつ、直ぐに着替えて、先程通り過ぎた雑貨品でサードレマ大公の好きな茶葉と茶菓子を聞き、其の店に来店して購入する(合計10万マーニ)。
上層エリアを歩き続け、彼は上級階層がクラス上層エリアと、サードレマ大公の屋敷が在る最上層の城郭エリアを繋ぐ、門の前に到着する。
(おそらく此処からはロールプレイ必須だ…)
イリステラの時も、ヴァイスアッシュの時も、鍵を握ったのは何時だってロールプレイだった。此のシャングリラ・フロンティアというゲームは、NPCに対する言動を一言一句、一挙手一投足事細かに見られている可能性が、非常に高い。
憶測でしかないが此処でのドレスコードを含め、サードレマ大公に良い印象を持たせなくては、そもそもユニーク遺機装を手にする権利すら、与えられないのでは無いだろうか?
「さて、到着しました……っと」
見上げれば巨大な正門と、外から見ていたサードレマの街並みの中でも、一際大きかった建造物が隔たれた壁の先に在る。目の前には門番が二人、形状的にハルバートと思われる武器を持ち、警備に勤しんでいる様だ。
呼吸を整えろ、背筋を伸ばせ。
身の周りは調えた、茶葉と茶菓子も持った。
迷いは無い、いざ開戦の時。
「む…?見ない顔だな、此処に何用か?」
徒歩で近付くとドレスコードとして、紳士服に袖を通しても、やはり警戒される。向けられたハルバートの穂先、しかしペッパーは恐れる事無く門番達に向け、此処を訪れた理由を話す。
「初めまして、私はペッパーと申す者。此の世界を旅する、小さく木っ端の旅人で御座います。一昨日前に私は、王都ニーネスヒルにて慈愛の聖女イリステラ様に出逢い、サードレマ大公殿下の元へと向かうよう、御告げを賜りました。
大公殿下に是非とも━━━『天を覇する龍王の鎧』を。嘗ての時代に世界へと示された、人が『蒼天を舞う為の答え』を見ていただきたく、来訪したのです」
一人の旅人としてのロールプレイを絡めつつ、イリステラから言われた言葉を門番に伝える。すると彼等は目を見開き、ペッパーを見て言った。
「貴方でしたか…!長旅お疲れ様で御座います…!」
「我等が主にして、サードレマを治める『ノアベルト様』は貴方の到着を……『
「「案内致します」」と門は開かれ、案内されるペッパーは称号【蒼天を舞う勇者】が、唯単なる称号で終わらず、自身に刻まれた『肩書き』の様な存在であることを知り、頭を抱えそうになる。
しかし、今はそんな事に捕らわれていてはいけない。此の先に待っている、サードレマ大公との面会の内容次第で、遺機装の性能が変動する可能性がある以上、最後までロールプレイは継続必須。
此処からが本当の勝負なのだから………。
ロールプレイの重要性