嘗てのニラ蝶たるや
後に
思考する無尽蔵のエネルギーの塊、在りと汎ゆる力の行使する特性、無作為に力を散財しようが即座に不足分は生産され、自身に補填される生態。
神でさえも『神力』という概念を考えれば、其れは等しく『有限』であり、其の力に『限界を持たぬ』大赤翅は、神からしてもある種の『羨み』を向けられようが何らおかしい話でも無く、寧ろ自然な帰結であると言えよう。
そして此れは『もしも』の話になるが。
もしも仮に焠がる大赤翅が『始源眷族に堕ちる事を是とせず、赤き神虫として己が頂点を取らんとして動いていたならば』……………此の世界は『黒き鳥と赤き蝶の亡骸で出来た二つの大陸』になっていた可能性が在ったと、世界を創りし神が知り得た
汎ゆる力を行使する故に、其の身から放つ熱や炎に『視力』を宿し、己の眼下でウヨウヨと動く古き日に蹂躙した
希薄な意識の中で
「な、何だ!?」
「ニラ蝶が丸まってる…………!?」
「いや待て、割れ………てない!?何其の行動は!?」
尽き果て無き散財を許された
手始めに炎の羽根を身体に丸めて、次いで炎で全体を膨張させ、嘗ての人類が『こうして産まれた』という記憶を元に、其の丸まった身体を縦に線を引き、続いて横に線を引き。
其の身体をニから四へ、四から八に、八を十六として次には三十二の続いて六十四と、フレームを刻む度に数は
「……………細胞、分裂…………?」
「…………まさかニラ蝶のヤツ、私達と同じ『人間の形に成るつもり』なの!?」
「オイオイオイ、オイオイオイオイオイオイオイ!?暴れて転がったりしたら、サードレマやらがブッ壊されっぞ!?!」
「赤ん坊が積み木の玩具を崩すみたいな感じじゃねーか!?!」
小さな存在達が此方を見上げ、ギャイギャイ騒ぎ立てる様を見下ろしながら、大赤翅は其の身体を肥やし続ける。
自身の巨体を安定させるなら、蹂躙した存在達と同じ二足歩行よりも四足歩行の方が安定すると、膂力や耐久力や諸々の能力が足りないならば、自身の生み出した力を回して増やせば良いと………人の視点で其の一連の流れを『ゴリ押し』と呼び、焠がる大赤翅にとっては冷静な思考を以て辿り着いた『答え』。
大赤翅が至りしは『其の身が赤く発光する蝶の頭に、首から下は人間の赤子の胴体をくっ付けた、死火山の麓まで届く程に巨大なる
正式名称を焠がる大赤翅・始源解帰:擬人相─────────
「いや見た目キッショ!?」
「家のアパートより尚デケェんだけど!?」
「此れが始源解帰したニラ蝶なの!?気持ち悪い赤ちゃんじゃん!!?」
「ヤベェぞ、ニラ蝶が動いた!!!」
目が動き、手が動き、片方が火口の縁を掴まえて。もう片方が天に手を翳し、無邪気に振るった其の赤い巨大な掌に宿る『青い光』を、羽根から放たれた『十数の灼眼球』をプレイヤー達は目撃した。
「ッ…………レーザーは俺が何とかする!他は気合いで避けてくれ!!」
「うおおおおおお!?!!」
エターナルゼロが言った様に汎ゆる力の行使を可能にした、大赤翅にとっては『単なる平手を地面に叩き付けるスキル』であり、灼眼球からは『魔力を込めた炎熱のビームを放つだけの魔法』という、偉大なる赤子に取って
巨大な掌が落ちる範囲を発光した大赤翅が作った影が示し、全力全開で放ったとしても直ぐに補充出来る潤沢なリソースで
「ッッッウゥ………!く、っ!『ビームよ霧散しろッ』!!!」
叩き付けられた掌の振動が山を揺らし、潰されんとしていたプレイヤー達を
嘗て墓守のウェザエモンに挑んだ際、騏驎とのロデオで全身シェイクされた記憶を思い出し、自分が倒れれば確実に脱落者が出ると知覚し、己が此処で踏ん張らねばと。
そして何より『ペッパーに出来て、同じタイプのゲーマーたる自分に出来ない道理は無い』と、オイカッツォは便秘で見付けて命名したバグ技『R18触手アタック』を空いた蛸足で再現し、プレイヤー達を頭上三十メートル以内に放り投げて着地から、殺到するビームを状況改変の言霊を放って霧散させ、投げたプレイヤー達を受け止める。
「ケイ!」
「ケッツォ!」
「今の内に攻撃!此方はそう簡単に沈まないから早く!!!」
「任せなっ、アンタの働きに応えてやるよッ!やるよ、ベイビィ!!!」
「合わせるぜ、ホークアイ!!」
五歳児程度の身長と四肢の
片や赤ん坊をあやす為の『ガラガラコロン』というべき形状のショートメイス、片や敵を撲殺する原始的で明確な形を持つバットに似た棍棒という、打撃武器に属する武器達で大赤翅の指に攻撃を加える。
此迄ならば、灼熱のボディに触れれば肉体は焼き落ち、重装備は蒸し焼きにされ、近接武器は熱によって融解し、生半可な防御を取れば蒸発する状態だった。
だが………焠がる大赤翅が人を模倣し、尽きぬ力を全身の構築形成にリソースを回した結果、熱という副次的な力を削ぎ落とした事によって、武器は熱による耐久現象が発生しなかった事。
そして発光した赤い光は近接戦に置いては、接近してもプレイヤーの身に外的影響を出さなかった事で、エターナルゼロが声を張り上げる。
「打撃が効いた!温度は人肌三十六度前半!!待たせたな物理職メンバァッ、此処からは俺達の仕事だぜ!!!」
「ヨッシャあ、やってやらぁぁぁぁ!!!」
討伐戦開始からエンタルピーイーター投擲続きで、散々焦らされ待たされた続けた先、遂に訪れた物理アタッカーの解禁という朗報は、物理職面々の闘志へ一気に火を付けた。
雨は今だ降りしきり、止まらぬ熱意は蒸気となって噴き出し、開拓者達は声を上げ、武器を掲げ、焠がる大赤翅を倒すべく前を向いたのである………。
ビートを上げろ、赤い赤子を眠らす為に