VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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変わり、変わる。変えて、変える。




其れは誰かの朗報、そして者共の終わり

サードレマ・裏路地………。午後八時に迫る頃に、神代の鐵遺跡から帰って来た三人と二羽のパーティーは、人目に付かないルートを通りつつ、下町エリアに点在する宿屋に向けて進んでいた。

 

サンラクは白頭巾でスッポリと全身を覆い、エムルを其の中に隠しており、ペッパーは黒統一とだけあって夜闇の裏路地に溶け込んでいる。

 

「くっうぅ~…疲れたぁ。かなり動き回ったから、精神的にキたな……」

「大変だったね、レベリング。まぁ、穴場だけあって効率はかなり良いね」

「レベルアップで色々面白いスキルも手に入ったし、此のまま明日もやったるぜぇ…!」

 

片や一日通してシャンフロをやり、色々な意味で疲れきった表情をしている者。

片や冷静にレベルアップで得られたスキルと、自身のステータスを吟味する者。

片やレベリングも踏まえて、新規習得したスキルを明日もレベリングで試そうとする者。

 

各々が想いを抱えて、夜の街を歩いて行き。十字の交錯地点で足を止めた。

 

「じゃあなサンラク、オイカッツォ。俺明日以降バイトが入ってて、ログイン時間が不規則になるわ」

「おう。先に規定レベルに到達して、キッチリ煽ってやるよペッパーサンラク」

「んじゃスキルの数で勝負しようじゃねーの、ユニーク自発出来ないカッツォくーん?」

「いったなぁ?ユニーク探して自慢してやるから覚悟しとけよ、サンラク」

 

じゃあな~とオイカッツォ、ペッパーと別れたサンラクは一人、裏路地の何処か適当な場所でエムルにゲートを開いて貰い、ペッパーより先に兎御殿に帰ろう……そう思っていた。

 

ドン!っと『誰か』にぶつかって、サンラクは転けた。

 

「でっ……!」

「あァ、すまねぇ。大丈……」

 

サンラクが見上げた先、建造物の合間に見える夜空から覗く、僅かな星明かりが其の者を照らす。

 

茶髪のポニーテール、荒々しさと凛々しさが両立された見た目たる女性プレイヤー。PKを行いPKerとなり、そしてキルされた場合に装備する事になる、麻の衣服を纏う者。

 

鼻から左頬にペイントされた傷痕、そして自分の心臓を鷲掴みにする男の声(・・・)。彼にとっての『サンラク』は、忘れたくても忘れられない、因縁持ちの相手であるが故に。

 

「……其の全身を隠す白頭巾、サンラクだな?」

「えっと、どちら様……で?」

 

当の本人(サンラク)は正体が解らない様子であり、彼女━━━『サバイバアル』は、決定的となるワードを以て、己の正体を提示する。

 

「………『Φ鯖のバイバアル』だ。お前は『μ鯖のサンラク』だな?」

「!」

 

『サバイバル・ガンマン』━━━━通称『鯖癌』と呼ばれるゲームが在った(・・・)。ある問題を抱え、大事に成ったが為にオンラインが封鎖となり、今ではオフラインしかプレイ出来ず、ソフト自体もプレミア価格で取引されている代物。

 

Φにμを含むギリシャ語………其れは鯖癌において『ある規定値』をクリアした者達━━━━━━『イカレポンチ』共が、闇鍋の如く放り込まれるサーバー郡を指し、サバイバアルことバイバアルも、そしてサンラクも。サーバーは違えど、其の規定値を満たしていたプレイヤーなのだ。

 

「ハハッ……『孤島からの生還者』ってか?」

「応よ。まさかたァ思ったが、本物だったとはなァ……!」

 

肉食獣真っ青な、獰猛な笑顔と白歯を見せながら、そう言ったサバイバアルは、フレンド申請をサンラクに送ってくる。対するサンラクは、頭巾で隠れた手でYesボタンを押して、フレンドを承認した。

 

「…………で、だ。何で俺がシャンフロやってるって気付いたのさ、バイ……此処じゃサバイバアルだったか」

「あァ其れか。胡椒争奪戦争ってスレを見てな。ペッパーってヤツにも会ってみたかったが、見当たらなくてよォ」

 

ペッパー捜索スレから情報が発信されていたかと、サンラクは思いつつも、サバイバアルにこう言った。

 

「俺もペッパーは捜してるが、何処に居るか判らないんだよなぁ……。何か噂じゃ、色んな街に出没してるせいで、捕捉出来ないとか何とかかんとか」

 

実際はペッパーと自分は、同じユニークシナリオを受注している為、片方が捕まって情報を吐かされる可能性が在る。故にこうして、サンラクは『表向き』は彼と無関係で有るように装うのだ。

 

「そうかァ、しゃあねぇ……。ペッパーを見掛けたら連絡くれや」

「応よ」

 

そう言ってサバイバアルは裏路地の闇の中へと消えていった。

 

「サンラクさん、サンラクさん。さっきの人は何だったのですわ?」

 

頭巾の中で、サンラクとサバイバアルの話を聞いていたエムルが、彼との関係を聞いてくる。

 

「……簡単に言うなら、殺し合いをした仲だよ。別の世界で命を掛けた、血深泥の戦いの━━━━な」

「な、なんかよく解りませんが、とんでもない相手って事なのですわ………?」

「まぁ、そう言う事だな。よっしゃ、エムル。兎御殿に帰ろうぜ」

 

「はいな」とエムルが開いたゲートを潜り、サンラクは兎御殿へと帰還していった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、フィフティシアの隠しエリア『栄光の廃船 グローリー・エリス号』。断絶の大海を眼前に置いて、周りは岩肌に囲まれ、外からは見えないようになっている此の場所に、一隻の船が鎮座している。其の廃船は現在『髑髏の左目に、剣を突き立てた旗印』として掲げる、とあるクランの本拠地に利用されていた。

 

名を『阿修羅会(あしゅらかい)』。アップデートによるPKへの罰則強化が行われる原因を作り、嘗ては全方位に喧嘩を吹っ掛けて、並み居るプレイヤーを返り討ちにしてきたクラン。

 

だが、現在の阿修羅会は過去の苛烈さは成を潜めている。度重なる墓守のウェザエモン討伐の失敗、アップデートによるPKerの厳罰化、クランオーナーが危険よりも安寧を取る方向へと転換(シフト)した事で、一人また一人とクランを脱退していき、今ではド三流以下の連中しか存在しない、劣悪な物へと成り果てたのだ。

 

「何か言う事は有るか?」

 

廃船の一室、会議等で使われる大部屋にて座るオレンジ髪のオールバックで、左目の下に模様を入れた男性プレイヤーが、言葉を放つ。黒の暗黒騎士を思わせる装備を纏い、背中に掛けたマントには阿修羅会の旗印を掲げ、大多数のクランメンバー達とペンシルゴンを睨み付けていた。

 

彼は『オルスロット』。阿修羅会のクランオーナーであり、ペンシルゴンの弟である。

 

「すいません…オルスロットさん。まさかペッパーの奴が、最大防御を呼び出せるだなんて、知りもしませんでした……」

「おまけにヤツと一緒に居たサンラクってのも、最大火力と知り合いだったなんて……」

「あの場に居た私が言うのも何だけどさ?現役最強賢者のディープスローターに、剣聖勇者のサイガ-100まで出っ張って来た中で、此れだけ生き残った事実は大きいんじゃないかな?」

 

クランメンバーの言う事は本当であり、そしてペンシルゴンでさえ予想だにしなかった。結果からしても事故に等しいあの局面で、クランメンバーの大多数はやられたものの、何とか逃げられたのはペンシルゴンの一手が大きいと言える。

 

「トップ帯が狙っているヤツだ、そうなる可能性が有っただろうが。それとペンシルゴン、獲物だとか何だとか言っておきながら、ペッパーを仕留めなかった理由は有るのか?」

「私がどう思おうが、アンタには関係無くない?」

 

室内の空気がビシリと皹割れる音がして、オルスロットとペンシルゴンの視線がぶつかる。

 

「………兎に角だ。ペッパーって奴はジークヴルムを呼び出せる『何か』を持っているし、傍らに居る黒兎は『ユニーク』絡みで間違いない。必ず見付けて、情報を吐き出させろ。リスキルしても構わん、徹底的に追い詰めて手に入れるんだ」

 

自分達の知らないユニークを持つ、名も知らぬ無名のプレイヤー。其れが、オルスロットには気に食わないのだ。誰も見た事も、聞いた事も、手にした事すらないユニークを、シャンフロを始めたばかりの初心者プレイヤーが持っている事、其れそのものが彼にとって気に食わない。

 

だからこそ脅しを掛け、情報を手に入れ。引退に追い込めば、阿修羅会や自分は更に強くなる。何れは全プレイヤーを己の足元に跪かせるという、誰が聞いたとしても幼稚な野望だと答える夢も、確実に実現すると考えて。

 

「ペッパーの事、ユニークの事でお熱なのは良いけどさ。私達は『アイツ』の事を、どうにかするのが先決じゃないの?」

 

そしてペンシルゴンは、オルスロットに対して問う。此の質問が『最後』の判断材料になる。何度も、何回も、幾度も、オルスロットに進言しては弾かれた。

 

そうして彼女の問いに、オルスロットは━━━

 

「………何度も言った筈だ。ユニークモンスターは『倒せる様に出来ちゃいない』。アレの出現方法は現状、俺達以外知らない情報だ。出逢うだけで経験値が入る仕様を利用して、阿修羅会の戦力増強に使う。今も、此れからも、其の方針に変わりはない」

 

━━━遂ぞ、変わる事は無かった。

 

「そうだよなぁ……。アレは倒せるように出来てないし」

「真面目にやっても、アイテム失うだけだもん…」

 

無理だ………無駄だ………意味がない………。クランメンバー達の言葉を、ペンシルゴンは諦めの様に聞いていた。もしペッパーが此の場に居たら………彼は何と言っただろう?

 

『つまんねぇな、お前等。ウェザエモン相手に、自分達の考え得る、全部をやり切ったのか?何にもやり切って無い癖に諦めるとか、プレイヤーとして恥ずかしくないの?』

 

きっと彼なら、最期まで。幾度打ちのめされても、ウェザエモンを攻略する為に死力を尽くすだろう。今は届かなくても、ゲーマーとして届かせるために考え抜く。

 

(あぁ……やっぱり駄目だね、阿修羅会(コイツ等)じゃ)

 

此の瞬間、ペンシルゴンの意志は完全に固まった。だからこそ、此処で手を打つ。パチンと指を鳴らし、ペンシルゴンはオルスロットへ、衝撃の発言を噛ましたのである。

 

「決めたよ、クランオーナー」

「あ?な「私アーサー・ペンシルゴンは、只今此の瞬間を持ちまして、クラン:阿修羅会を脱退しまーす」……は?」

 

清々しい笑顔の退職届、同時に部屋の天井が砕け散り、阿修羅会のクランメンバー数人が、狐の面で口元以外を隠す強襲者に斬られ、ポリゴンを散らしながら倒され、所持アイテムを撒き散らす。

 

「な、なん……ぐわぁ!?」

「ぎゃあああ!?」

「は…?は…!?」

 

振るわれる翡翠の閃光が煌めき、メンバーの腕や脚が斬られ。首は落とされて、心臓が一突きにされていく。何が起きたか解らないオルスロットは、自身のユニーク武器たる『殺戮者の魔剣(スローター・ブリンガー)』を取り出した瞬間、己の身体が後ろに吹っ飛ばされて、壁に叩き付けられた。

 

「がっ………はっ…………!」

 

鳩尾を貫き、深く突き刺さった魔槍の柄。体力にステータスポイントを振り、相手との斬り合いを上等とするビルドのオルスロットは、辛うじて其の一撃に耐えて。そして飛び掛ける意識を繋いで、其の犯人に叫び声を上げた。

 

「な、に……しやが、る……ペンシ、ル…ゴン……テメェ……!?」

「何って辞表だよ、辞表。アンタが何時までもウェザエモンを倒さないし、殺り返されるのが怖いからって、チキンになっちゃってさぁ」

 

ペンシルゴンがオルスロットに話す中、もう一人の襲撃者が此処に居たクランメンバー全員を、一人残さずにキルしきって刀を鞘へ納刀し。狐の面を上げながらオルスロットへと近付いて来た。

 

「ブクブク太っていくから、私……いや『私達』が腹パンして、汚い性根ごと吐き出させてやったに過ぎないんだよ?」

「殺るか殺られるか…プレイヤーと戦って、勝つ喜びを。負けて全てを失うスリルを。其れを無くしたらPKer失格なんだよね、オルスロットくぅーん?」

「き、ょう……アルティ、メット……!?」

 

オルスロットは魔槍を抜こうとするが、深く突き刺さった結果、引き抜く事は叶わない。

 

「其れにね、愚弟?………私は掲示板に、こんなコメントをしてたんだよ?」

 

ペンシルゴンは朗らかに、テクテクと槍の柄に近付いて行き。オルスロットの手に握られている、反撃の手段たる殺戮者の魔剣を蹴り飛ばし、柄を握り締めて。

 

オルスロットに顔を近付け、光すら飲み込む漆黒の暗闇を含んだ瞳で捉えて、死刑を執行する様に言ったのだった。

 

「ペッパーは『私の獲物』だから。他の誰にも『アゲナイ』から………ってさ」

「ま、待てクソ姉k━━━━━」

 

魔槍の穂先が引き抜かれ、顔面に再度突き刺される光景の中、何処で何を間違えたのかと、オルスロットは走馬灯の様に思い返した、其の直後。

 

顔面を突き刺し、頭蓋が砕かれ、脳が鉄の刃でぐちゅぐちゅに潰される感覚を味わい。己を構成したポリゴンは崩壊して、己が此迄に積み上げ続けてきたアイテム等が、ペンシルゴンの目の前に散乱する。

 

「ふぅ…スッキリした」

「クランリーダーに『オシオキ』が出来て、何よりだねペンシルゴン」

「まぁね~。っと、其れよりも京極ちゃん大丈夫?動けそう?」

「此方は大丈夫、ペンシルゴンはどうだい?」

「私は平気だよ~」

 

クラン脱退届提出+現時点の阿修羅会主要メンバーを奇襲からの全滅という、一大ミッションを終えたペンシルゴンと京極は、彼等彼女等が此迄に得てきたアイテム、予備の品を全て手にして、グローリー・エリス号を脱出。漆黒の暗闇に消えたのだった。

 

此の日、シャングリラ・フロンティアにて猛威を奮っていた、PKクラン:阿修羅会は。サブリーダーたる『廃人狩り(ジャイアントキリング)』アーサー・ペンシルゴンの反逆と、元メンバーの京極(キョウアルティメット)の手によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩壊した

 

 

 

 

 






一大クランの結末


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