新武器、完成す
ペッパーがサンラクとオイカッツォ、ペンシルゴンに京極とユニークモンスター・墓守のウェザエモンへ向けたオハナシと、レベリングをした日から三日が経った。
今年の初夏の大型連休が今日で終わりを告げ、世間は再び忙しなく動き始める中、長期休暇最初の日をシャンフロのプレイで過ごし、残りはコンビニのバイトで働き続けた梓は、最終日となる今日を朝からバイトで費やし、午後四時過ぎに帰宅。
何時もの様に機材のチェックにトイレ、水分補給と布団を敷いて、プレイ環境を整え、シャンフロへとログインする。
「あ、ペッパーはん。おはようなのさ」
「おはよう、アイトゥイル」
兎御殿の休憩室、ベッドにて目を覚ましたペッパーの視界には、自身の御世話係たる黒毛のヴォーパルバニーが居て。ペッパーは起き上がるや、早速ビィラックの居る鍛冶場へと向かう。
「ビィラックさーん、居ますかー?」
「ビィラック姉さーん」
「ペッパーか、よう来たな。此処に来たんは『コイツ』を取りに来たんじゃろう?」
ペッパーの到着に言うが早いか、ビィラックは自分のインベントリから取り出したのは、黒と黄金色が融合したような渋さと重厚感の溢れる、巨大な大槍。
槍の柄は翡翠で彩られ、漆黒の槍の穂先はバチバチと雷音が鳴りながら、時折耳には風の吹く音が聞こえ、其の様子は嵐の如し荒れ狂う力の奔流が在った。
「雷嵐の申し子カイゼリオンコーカサスの素材を使い、作り上げた名匠ビィラックの大槍。コイツに銘を着けるなら、そうじゃな………『
常にビリビリバチバチの角の加工に手こずったが、ティラネードギラファの甲殻を使ったら、スムーズに整形出来たけぇ」
誇らしげに胸を張り、フンスと鼻息を鳴らしたビィラック。一部の毛が焦げていたり、静電気で立っているのは其れが理由かとペッパーは思いつつ、自分のアイテムインベントリに大槍を収納して、早速其の性能をチェックする。
槍の穂先に使用された大雷角の電導効率を高める為、柄や穂元に颶風の申し子ティラネードギラファの素材が使われており、風属性による絶大な貫通能力と雷撃による追撃能力を誇る。
雷嵐の申し子たるカイゼリオンコーカサスは、遺された残滓と共に獲物を振るう者へと問い掛ける。
━━━『汝は雷、汝は槍。固く強い己の意思を、揺るぎ無き己の心を示せ』━━━━と。
汝が汝で在る限り、此の雷と嵐は決して、汝を裏切る事は無い。
攻撃時、ゴーレム・機械系統のモンスターやエネミーに対して、高いダメージ補正を追加する。また帯電状態の相手に対し、此の武器による攻撃は装甲貫通を持つ。
此の武器で攻撃した相手に、帯電状態を付与する。
帯電状態:斬撃武器及び斬撃スキルによるダメージを与えた場合、装備者の筋力に応じた追加ダメージを付与する。
やはりと言うか、双皇甲虫の素材を使って産み出されただけあって、其の能力は計り知れない。そして当初の予定通り、麒麟を担当するペンシルゴンと相性ピッタリな槍武器で、ペッパーは心の中でガッツポーズを取った。
「ありがとうございます、ビィラックさん。其れと、ゆっくり休憩を取ってからで良いので、武器の修繕を依頼したいのですが、大丈夫でしょうか?」
「解った、見せてみぃ」
快く引き受けてくれる事に感謝しつつ、ペッパーはアイテムインベントリからサンラク・オイカッツォと共に、レベリングをする中で用いた武器達を取り出し、提示されたマーニ共々、彼女に提出していく。
「ふむ…何れも耐久値が1/5も切ってないな。ワリャは相変わらず、自分が手にした武器を大事にするのぉ」
「僅かに減った耐久値が、いざという時の破損に繋がる可能性が有ると、何時も考えていますので」
「良い心掛けじゃな。一日経ったら取りにきぃ、其れまでに確り直しておくけぇ」
「よろしくお願い致します」と頭を下げ、ペッパーはアイトゥイルと共に鍛冶場を後にする。
「ペッパーはん、今日は何をするのさ?」
「そうだね……先ずはフォスフォシエに行って、マッドネスブレイカーの最後の成長派生形態を回収してから、エイトルドの先のエリアへ探索がてら、行ってみようかなと考えてる」
水晶工芸で栄える街・エイトルド。ネットサーフィンで得た情報によると、其の先に在るのは神代の時代や、現地の素材から産まれたゴーレム達が闊歩する、嘗ての時代の残り香が漂うエリア『
サードレマから三つのルートに分岐し、現状シャンフロ最後の街・フィフティシアに向かう中でも、真っ直ぐに一直線で向かえるという理由から、多くのプレイヤーが此のルートを選ぶのだとか。
ペッパーはアイトゥイルを旅人のマントの中へと隠し、兎御殿の休憩室からフォスフォシエへと繋ぐ扉が開かれ、一人と一羽は目的達成に向けて旅立つのだった……。
フォスフォシエの裏路地より、繋ぎ開かれた扉から出たペッパーは辺りを見渡しつつ、加速系スキルを用いながら一目散に武器屋を目指して走り。
到着後、店に入る前にも一度周りを確認をした後、彼は扉をゆっくりと閉めてカウンターに向かって歩いて。そして「ごめんくださーい」と声を掛けると、店を奥から店主にして、恰幅の良い女性が顔を出してくる。
「あらあら、ペッパーさん。お久し振りねぇ」
「すいません。出来上がりから、随分時間が経ってしまって」
「いえいえ。ペッパーさんが依頼していた、マッドネスブレイカーの育成は、無事に完了しましたよ」
そう言って彼女はカウンターに一本の小鎚を乗せる。其れは純白の鉄面に、茹でられて冷水に潜らせた白玉の如き艶を持つ小鎚。
側面に生命碑石の緑の粒を纏め、エメラルドをの様に埋め込んだ其れは、目の前に有りながらも存在しているだけで、生命力を無差別に放ち続けて。
ペッパーはユニーク小鎚をアイテムインベントリへと収納後、其の性能をチェックした結果、目を見開いて丸くした。
ライダメイズブレイカー(ユニーク
溢れ零れる生命の息吹を宿す、碑石の力を其の身に携える。白の面一度打ち据えば、傷を塞ぐ息吹きと共に毒を吸い尽くし、打撃を受けた命を救う力と成る。
しかし白の面を二度打ち据えば、打ち込まれた命は溢れ暴れる生命力に押し潰され、其の身を生命力に犯され、遂には崩壊して消え果てるだろう。
此の小鎚でプレイヤーかモンスターに一度打ち込んだ場合、其のプレイヤーかモンスターに時間回復効果を付与する。二度打ち込んだ場合、其のプレイヤーかモンスターに時間ダメージ効果を付与する。三度打ち込んだ場合、此の効果は消失する。
此の武器で鉱物系アイテムを砕いた場合、其のアイテムを破壊し、希少度合に応じて耐久値を回復する。
ロックオンブレイカーの製造秘伝書・改参式:ユニーク武器・ロックオンブレイカーの生産、及び成長形態を製作する際に必要となるレシピ。武器屋で鍛冶師に見せる事で、素材を用意すれば生産可能となる。
此のアイテムはアイテムインベントリには含まれず、他者によるPKをされても、プレイヤーの手元を離れない。破棄不可能。
(強過ぎる薬は毒に変わるとは言うけれど、マジモンのヤベー小鎚じゃねーか、ライダメイズブレイカー……。打ち込む回数を間違えたら、戦闘の泥沼化は不可避だし、味方に打ち込むにしても、用量を守んないと自滅を促す、クセが強い武器だわな………。
そしてとうとう改参式かぁ……何処まで行くんだろうな、ロックオンブレイカーの製造秘伝書………。でもこうしてマッドネスブレイカーの成長派生形態は、今此の瞬間に揃った事になるか)
ギルフィードブレイカー。
ヴァンラッシュブレイカー。
ライダメイズブレイカー。
異なる鉱物の特性を喰らい、能力に順応し、果てには己の力とする、
ペッパーは店主に「ありがとうございます」と礼を述べて、フォスフォシエの武器屋を出て、裏路地へと走り込んだ後、兎御殿を経由してエイドルトの街へ向かったのである………。
ユニーク小鎚、成長派生形態コンプリート