VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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さぁ始めよう、僕等の戦いを




クソとレトロの便秘50組手勝負

シャンフロにて、エルクから『耳寄りの情報』を手に入れてから15時間30分が過ぎた。現在の梓はコンビニのバイトを終えて、帰路に着こうとしていた。

 

「お疲れ様でしたー」

「はーい、おつかれさーん」

「お疲れ様でーす」

 

入れ替わりのバイト店員に仕事の引き継ぎを御願いし、梓は衣服を着替え終えて、裏口から外へと出る。初夏と温暖化の影響が近年酷くなっている事だけあり、じんわりとした肌に汗が沸き、衣服にベットリと古部り付く、嫌な暑さを感じる日々だ。

 

「あっっっづ………。コンビニの裏方の方が、まだ冷房効いてて涼しいわ……」

 

近くの自動販売機に立ち寄り、小銭を挿入してポカリスエットを購入。ゴクリッゴクリッと喉を鳴らして、液体を流し込めば、乾いたカラカラのスポンジの様な身体に、水分がたっぷりと含まれるが如く細胞の一つ一つに染み込んでいくのが解る。

 

「っ………ぱぁ、美味い!やっぱりバイト上がりに飲むポカリスエットは最高だぜ!」

 

スマフォで時間を確認しつつ、思い返すは今日の予定。夜6時からサンラクこと、楽朗(らくろう)との便秘組手50連戦がある。先んじてログインし、バグ技の練習がてら1面のボスを攻略しておく事に決めた梓は、空になったペットボトルを備え付けのゴミ箱に分別し、アパートへと帰って行く。

 

バイト先のコンビニから徒歩で30分弱、午後4時過ぎに自宅のアパートに帰宅した梓は、汗だくの身体と衣服を洗うため、玄関に鍵を掛けるや、着替えの半袖半ズボンのパジャマにトランクスを用意し、洗濯機に衣服を入れ込み液体洗剤を適量加えてスイッチON。

 

其の間にシャワーを浴びて、髪と身体を洗いつつ、うがいも行い、汗と皮脂を綺麗さっぱり流してスッキリし。パジャマに着替えて髪を乾かし、窓を開けて風通しを良くしつつ、水を飲んでシャワー後の涼みを一人満喫する。何気無い事だが、誰かにとってはこんな小さな幸せでも、格別の瞬間でもあるのだ。

 

涼みながらも今日は麺類が食べたいと考えた梓は、確か冷凍庫に冷凍うどんを買っておいた筈と捜索し発見。使い掛けの野菜と余った豚肉も在ったので、消費も兼ねてサラダうどんを作る事に決めるや、即座に行動を開始する。

 

冷凍のうどんを冷凍庫から出し、常温に馴染ませ。鍋に水を汲み、火を付け。野菜を洗い、適切な大きさに切り。フライパンを熱して、油を僅かに注ぐ。鍋の水が沸騰した所でうどんを入れつつ、フライパンで豚肉を炒めて、焼き肉のタレで絡め。少し深い皿とザルを用意し、うどんの固さをチェック。

 

茹でたうどんをザルに開けて、冷水に通しつつも、其の傍らで肉を炒め終えて、火を消し。押し込む様にしてキッチリと水気を切り、深皿にうどんを乗せて野菜と肉をトッピング。仕上げにゴマだれドレッシングを掛ければ、余り物野菜と肉のサラダうどんの出来上がりである。

 

「我ながら、惚れ惚れする出来映えだわ……」

 

俎を先に洗い、スマフォを用意し、パシャリ。いただきますと共に合掌一礼、そして一気に食す。啜り啜り、噛み噛み、また啜る。完食するまでそう時間は掛からなかった。

 

手を合わせ、御馳走様でしたと唱え、食器とフライパンを洗って拭き上げ、何時も通りのプレイ環境構築と指差し確認。ソフトをシャンフロから便秘に切り替え、ブラックペッパーとなり、久し振りのログインを果たす━━━━!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、相変わらずの過疎り具合ですよねー」

 

流石便秘、夕方だろうと人が居ない。寧ろ此の過疎っぷりが、便秘だと安心出来てしまう。コンテンツ維持的には新規プレイヤー参戦や、プレイ人口減少阻止は必要不可欠。プレイ人口の減少は人間の出生率共々、サービス終了に直結し得る、大問題待った無しなのだが。

 

「サンラクが来るまでに、肩慣らしがてら操作感を復習しますか」

 

どのゲームにも操作を学び、経験を積むチュートリアルステージが存在するように、便秘にも其れは存在している。其れが1面であり、ラスボスの放った部下か、幹部の一人だったか、ソイツが支配しているテリトリーを攻略し、ヘッドとなって他のエリアを征服。最後に待つラスボスに辿り着いて倒す事が、大まかな流れであった筈だ。

 

「さぁ、そんな訳でやって来ました1面ステージ」と、RTA解説走者の様な言葉を呟きつつ、以前サンラクがやっていた『ドッペルゲンガー』ラウンド開始前に行い、立ち塞がる敵をモドルカッツォやサンラクから、あの日刻み付けられたバグ技を使いまくり、次々と薙ぎ倒す。

 

「確かに発生も速いけど、上位クラスの二人に骨身に染みる程、超発生・攻撃速度・理不尽の三種の神器を食らいまくったんだ!ボスでもない相手に負ける程、俺の精神は柔じゃないよッ!」

 

ゴムパッチンから派生し、あの日に生まれたバグ技。無数のゴムパッチンをガトリング砲の様に展開し、敵を超スピードで連続して蹴り砕くバグ技で吹き飛ばし、辿り着くは1面のボス。

 

何処ぞの鉄仮面に癖強ボイスを響かせながら、魔改造バイクより跳躍。からの見事な空中三回転霧揉み着地で登場した男は、此方に人差し指を向けては何かを言っている様子。

 

長々となったので超意訳すると、だ。『俺様の部下をぶん殴ったテメェは、俺様にぶん殴られなきゃあならねぇ!!』という、見た目に反して仲間思い溢れる奴だった。

 

其れでも倒さなくてはストーリーは進行しないので、ラウンド1でドッペルゲンガー+展開キックバグ技で踏み荒らし、ラウンド2では『メタモルフォーゼ』で絞め落とす形を以て、1面をクリアしたのである。

 

「うん…大丈夫そうだね。ふぅ…んじゃ、行くとしましょうか」

 

時刻は午後5時半過ぎ、約束はもうすぐ其処に迫っている。急ぎ走る形で廃墟ビルが乱立していた、過去の都市部の面影が残る場所に戻って来たブラックペッパーは、自分が使えるバグ技とサンラク・モドルカッツォが使ったバグ技を思い出しながら、脳内シミュレーションで戦略を組み立てていた。

 

(サンラクの一番ヤバい技は『あの居合みたいな技』だ。正面180度…とはいかないが、およそ120~130度の攻撃と防御に関しては、アレで防がれると考えて良いだろう。

 

なら『上や地中からの攻撃』は対応出来るか、何度敗北しても良いから、ちょっと確かめてみるかな。無論、勝つつもりの全力の戦いをしながら……ね)

 

ゲーマーとは何時だって『挑戦する心』が重要になる。ワクワクを、未知を。心より楽しみ抜けるか、強敵と戦って勝利を勝ち取れるか、其れはモチベーションと同じく重要な要素であり、素質なのだから。

 

と、目の前でポリゴンが構築され、頭上のプレイヤーネームに『サンラク』を掲げる男性プレイヤーがログインしてきた。

 

「お、来たねサンラク」

「待ったか、ブラックペッパー?」

「いんや、ストーリーモードの1面ボスを、準備運動がてら倒してきた。サンラクとモドルカッツォが、たっぷり体験させてくれたバグ技のお陰でね」

「そりゃ良かった。………じゃ、やるか」

「あぁ、やろう」

 

戦闘形式はバグでもあり、互いに己の持ち味となる構えを取って。

 

 

 

『ROUND1』

『Ready…Fight!』

 

 

 

クソゲーマー・サンラクと、レトロゲーマー・ブラックペッパーによる、便秘50連戦組手が始まった。飛び交う拳と振るわれる脚がぶつかり合い、互いの体力を先に削り切らんとする、激しい戦いが幕を開けて。

 

そして戦いを始めた二人を、廃墟ビルの一角の影から一人のプレイヤー『ドラゴンフライ』が、目を輝かせながら、見ていたのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

便秘上位プレイヤー・サンラク。モドルカッツォを相手に、彼が主戦上とするVRゲームで勝率三割強を誇るクソゲーマー。ロマン思考が強く、揺るぎ無い筋が通ったプレイスタイル、そして何より厄介なのは『次々と選択肢を突き付けて来る』、其の場其の瞬間の『変幻自在なバトルスタイル』が特徴である。

 

そしてブシカッツォ━━━此の世界のモドルカッツォ曰く、自身のテンションとボルテージが高まる程に、サンラクは更に強くなっていくとの事。後はエナジードリンクをキメた(・・・)場合、もっと手が付けられなくなるのだとか。

 

「ぐあっ……!?あああぁ、また負けたぁ!!」

「ハッハー!此れで29連勝だぜぇー!」

 

パイルバンカーを脚パリィで弾いたまでは良かったが、追撃のゴムパッチンで吹っ飛ばされたブラックペッパーの体力が0となり、サンラクは歓喜に吠えていた。おそらく現在のサンラクは、テンションとボルテージが極めて高い状態に在ると見て間違いない。

 

更にエナジードリンクも確実に飲んでいる可能性も含めれば、此所まで彼の体力を半分以上削れていない事に対して理由が付く。

 

「負け越し確定だろうが、一回は勝たせて貰うぞサンラク!」

「応よ、掛かってこいやブラックペッパー!」

 

30回目のゴングが鳴る。10回以上戦って居れば他のプレイヤーが気付き、20回を越えればログインしてきたプレイヤー達が遠くから見物を始めて。

 

「いけー!サンラクー!」

「負けんなー!ブラックペッパー!」

「ってか何、今のバグ技!?新しいの!?」

「何でも新規プレイヤーが見つけたって言う……」

「其れブラックペッパーなんだよな」

「えっマジで!?」

 

応援する者、新しいバグ技を検証する者、実際に再現して見る者等々、此の日のベルセルク・オンライン・パッションは過疎ゲーとは思えない、一際の賑わいを見せている。

 

そして35を越え、40回目の組手に差し掛かった頃、此迄やられっぱなしであったブラックペッパーの動きが、少しずつサンラクの動きに着いていけるように成り始めてきたのだ。

 

(何となくペッパーの動きをシャンフロで見てきたけど、コイツの『スタイル』がやっと解ってきた……!太刀筋や毛色とか色々違うが、ペッパーは『ディプスロ』に近しいタイプのプレイヤーだ………!)

 

相手を理解する程、情報を手に入れる程、ゲームの理解を深める程、総じて強くなっていき、最後には攻略難易度が跳ね上がるプレイヤー。嘗てスペクリを滅ぼした、ディープスローター程の隔絶した応用力は無いにしても、便秘での超発生の攻撃速度に適応しつつ、ヒット&アウェイ作戦を絡めれた攻撃で、ダメージを与えられる場面が増えてきた。

 

其れでもまだ、サンラクの代名詞たる『居合フィスト』の突破口を見出だせて居ないようだが、49回目を終えた段階でブラックペッパーは、後一歩でラウンドを奪取出来る場面が増えてきた。

 

そして最終決戦となる50回目、其のROUND2。サンラクが先取し、後が無くなったブラックペッパー。

 

「はああああああ!!」

「おおおおおおお!!」

 

幾度も幾度も打ち落とされ、其の度に磨き続けたパイプオルガンと、対バグ技の到達点たる居合フィストのぶつかり合う。

 

パイプオルガンの脚のポリゴンが居合フィストの打撃に弾かれ飛び散り、何度も光景を見てきた他のプレイヤー達には、またしてもサンラクの勝ちでブラックペッパーの負けかと思っていた。

 

「だったら……『増やす』だけッ!」

「!」

 

ブラックペッパーは此所までの戦いを統計・統合し、サンラクの繰り出す居合フィストを相手に、現時点の連続バグ技キックでは(・・)根本的に数が足らない事に気付き。

 

戦闘を積み重ねる中で、彼は自分自身の蹴りのモーションが、居合フィストよりも遅い事に気付き。脚を繰り出して戻す迄に、何処まで上げたなら発動し、何処から不発に成るかを検証し続けた。

 

戦いの最中でも続けた、蹴りバグ技の習練。最適化していった、脚の振り上げと降り戻し。最後の最後に一矢報いてやると、心の内に燃やした執念。

 

其の結実か、此迄の比較に成らない所か、洒落にならないレベルで増大し、ブラックペッパーの両脚が展開。密度によって押し出され続けた結果、『プラネタリウム』のように成った其れを見て、サンラクと見物していたプレイヤー達、そして実際にやった本人の目が飛び出し。

 

そしてサンラクは「実際に食らってみよう」と遺言を言った瞬間、降り注ぐ脚にタコ殴りならぬタコ蹴りにされまくり、体力が0となって。ブラックペッパーは此の日漸く、自身が目標としていたROUNDを1つ奪取する事に成功したのだった。

 

尚其の後のROUND3では、サンラクがドッペルゲンガー+居合フィストでブラックペッパーをボッコボコにし返し、最終的にブラックペッパーはサンラクに、1勝100敗の大敗を喫する事になったのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~…やっぱり強いね、サンラク」

「お前もスゲェよ、ブラックペッパー。最終戦のROUND2のアレも、連続キックが発展したバグ技な訳だから、実際食らってみてヤバい奴って認識出来たわ」

 

便秘組手50連戦を終えて、ボロボロのブラックペッパーを見下ろすサンラクは、勝ち越せた事に加えて、新しいバグ技の最初の犠牲者になれた事を、喜んでいるようだ。

 

「おーい、サンラク!ブラックペッパーの繰り出した、さっきの技2つ共ちゃんと再現出来たわ!ドーム状は脚の振り抜きはシビアだが、やれなくも無いぜ!」

「マジでアレはエグいな。ガトリングみたいな奴と違って、単発攻撃なのがまだ救いだわ」

「やったなブラックペッパー。さっきのバグ技、名前は決めてるか?」

 

便秘では新しいバグ技を発見し、検証勢が実際に確かめ、再現可能である事が確認出来れば、発見者に名付けの権利が与えられるのだ。

 

「そうだな……連続キックは『パイプオルガン』、ドーム状は『プラネタリウム』……って、流石に安直かな?」

「お、良いじゃん其の名前。皆ー、ブラックペッパーがパイプオルガンとプラネタリウムにするってさー!」

「えっちょっ……」

 

サンラクの声に『『『異議なーし!!』』』と他のプレイヤー達も同調して、便秘にて正式なバグ技として認定される運びとなった。

 

「……まぁ良いか。戦ってくれてありがとな、サンラク」

「あぁ。またやろうぜ、ブラックペッパー」

 

「次は負けないよ」と差し出した手で握手を交わし、サンラクとブラックペッパーは其の場を移動。50連戦組手の中で、御互いにあの場面は何を考えていたのかを質問しあっていると、一人のプレイヤーが「あ、あのっ!」と声を掛けてきた。

 

振り向くと金のショートヘアの、右頬に引っ掻き傷。肩に刺付きのアーマーが付いた初心者の衣裳と、中性的な体格をしたプレイヤー。其の頭上にはプレイヤーネームとして、ドラゴンフライが掲げられていた。

 

「えっと……ブラックペッパーさんとサンラクさん、でしょうか?」

「は、はい。そうですが……?」

「どーも」

 

ペコリと御辞儀するブラックペッパーに、フランクな態度で答えるサンラク。対してドラゴンフライは、驚くべき発言を放ってきたのだ。

 

「御二人共、凄い戦いでした!私、今日始めたばっかりですが!あんな技を繰り出せるように、頑張りたいです!」

「「えっ」」

 

まさかの新規参戦者の降臨に、二人は目を丸くする。そして此の時のドラゴンフライとの出会いが、後々にシャンフロにて、ペッパーとサンラクに一波乱巻き起こす事に成るのだが。

 

其れはまだ、先の話である……。

 

 

 

 






新技と新規プレイヤー参戦


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