実戦訓練は続く
「…………マジかよ」
ヴォーパルコロッセオの休憩室にて、実に『12度目』となるリスポーンをしたペッパーは、一人ポツリと呟いた。
「アレが複数所か、雪崩で押し寄せて来るとか……。ヤバいだろ絶対死ぬわ。………実際、単体でも死んだけどさ」
レベルカンスト間近のビィラックが、水晶群蠍相手に間違い無く死ぬと言った理由を、実際に戦闘を経験した事で、彼は其の意味を真に実感した。
「ペッパーはん、大丈夫なのさ?」
「あぁ……あの巨大蠍が『普通の戦い方』じゃ、倒せないってのが解った。そして『アイツのモーション』も大分把握出来たし、次は勝ちに行ける」
「さて、水晶群蠍。俺は唯々殺られっぱなしで終わっていた訳じゃ無いんだ」
突進してくる水晶群蠍に、ペッパーはステップ関連の移動時に、重力作用を軽減する『ペガサロスワーク』で、ゆらりふわりと動き回り、移動・攻撃モーションを吹き荒ぶ風の様に、スタミナ消費で加減速を変幻自在に変更する『
「幾度か叩いたから解るが、お前さんの『針の硬度』は全身に纏っている水晶より、ずっと『堅い』のが解った。じゃあ其れを、頭に乗ってる俺に向けて刺してくるならば……一体どうなるんだろうな?」
差し迫る水晶群蠍の針。ペッパーは其の攻撃に対して避ける事をせず、
「其の針、もっと深く刺してやる…!」
致命の小鎚を振って
衝撃に震えて、水晶群蠍を構成するポリゴンが爆散。此所に実戦的訓練・1体目、水晶群蠍に勝利を納めたのだった。
「ペッパーはん、御見事なのさ。次の相手と戦うのさ?」
「スキルの
己のスキルが使えるようになるまで、ペッパーはヴォーパルコロッセオの中心点で禅を行うように、深い呼吸を行いながら精神を落ち着かせていく。
そしてスキルが使えるようになり、彼は2体目となるモンスターへと挑むのだった………!
此所に記載するのは、ペッパーが挑んだ兎の国の招待・実戦的訓練で戦った、モンスター達の記録である。
2体目、プラタヌクス・ホォーラクス。戦闘開始と同時にフィールド全体を蟻地獄状態に変えてくる、前鋏のサイズからして6mは下らないアリジゴク型のモンスター。
平面だろうが壁が有ろうが悪路だろうが全力疾走出来、悪路だと加速力が跳ね上がる、ホライゾン・メロスで壁際まで避難後、壁を伝ってジャンプ系統スキルを用いて空中に飛び上がり、投擲玉・炸音で地上に引き釣り出した所、異常発達した腹部が見えた。
気絶している状態になったので、
挑戦回数:1回
3体目、ルートエンド・ミノタウロス。御伽噺に出てくる、こってこての牛頭怪人で両手武器の大戦斧を持っている。半径3mの
なので、斧の上段唐竹割りを誘発させて、三日月巴でミノタウロス本体をぶん投げから分離、斧をインベントリに回収すると、ミノタウロスは突進攻撃しかしなくなった。
其の突進攻撃でも破壊力が半端では無いので、脳天に致命の包丁を突き刺して、突進攻撃で壁に激突させて脳を破壊し、勝利を納めた。後、インベントリに入れた斧が、ドロップアイテムとして加わっていた。俺、両手武器使えないんだが………。
挑戦回数:6回
4体目、エブリシング・モスキート。必ず20匹以上で出現するダニの身体に蚊の四肢と頭を持った、虫とかダニとか駄目な人には徹底的に刺さるヤバい相手。常にプレイヤーの半径5mを徘徊し続け、皮膚に接触すると一瞬で体力とMPをドレインして殺してくる。おまけに本体は物凄くちっこいくせに、蝿の様に機敏に動き回り、反応も滅茶苦茶速いせいで、攻撃が全然当たらない。
コイツ等をわからせる為、一旦実戦的訓練を中断。アイトゥイルと共にエンハンス商会サードレマ露店通り支部に行き、投擲玉・炸臭と呼ばれる特定のモンスターを惹き付ける玉と、着弾地点に火を放つ投擲玉・炸火を購入。
炸臭でエブリシング・モスキート達を引っ張り、炸火で燃やしてやったら、今まで苦労したのは何だったのかレベルで、あっさりと倒しきれた。クリアにはなったので良し。
挑戦回数:10回
5体目、
戦闘開始から10分経過して、あらかたスキルを出し切った所、満足したのか霧散して消えていった。消え行く直前に「戦ってくれてありがとう」と伝えたら、フード付きの黒いトレンチロングコートらしき物を落として、朗らかに笑っていたのが印象的。嘲り嗤うというよりは、悪戯っ子みたいな。
どうやら胴装備らしく、PKerは即死するが普通のプレイヤーは装備中に限り、プレイヤーネームを隠せるという内容だった。因みに耐久値+2000……神防具かな?あとレベルが1つ上がって、スキルのレベルアップと新スキルを習得出来た。防具云々抜きにして、また戦いたいと思える強敵。
挑戦回数:4回
6体目、オーヴェルワーウルフ。高ステータスと柔術使いの狼人間、ただ其れだけ。強いて言うなら、グラップルからの頭噛み砕きが大好きなモンスター。
顎骨を致命の小鎚と打撃系列スキルで粉砕骨折させ、ダースティ・クラッチで首をへし折って倒した。
以上。
挑戦回数:3回
7体目、ベホイデッドスライム。打撃は効かない、斬撃は効かない、おまけに触れたら猛毒状態にしてくる相手。触れてから一秒経たずに毒殺された時は、マジでどうやって倒すんだ……と絶望しかけたが、試しに毒消し薬を放り込んだら其の部分だけ毒が中和された。
ラビッツで毒消し薬を買い占めて、此れまでの恨みを晴らすかの如く、毒消し薬をブチ込みまくって無害化させてから、体内の核をアドバンスト・フィンガーで摘出、
二度と相手したくないわ。
挑戦回数:40回
8体目、ゴブリン・
ただ言ってしまえば、ゲームの剣客の師匠に比べて天と地の差があって、モーションを理解して剣を弾き飛ばせれば、倒す事は出来た。
次遇う時は、他の武器で戦いたい。
挑戦回数:5回
9体目、ストーム・ワイバーン。四翼で兎に角素早く飛び回って、上空より口から放つ風のブレスがヤバいドラゴン。此れのせいで空中系・ジャンプ系のスキルが軒並み腐った。
飛翔能力を支えているのは、背中の四翼であるために其処を潰せれば、何とか成る……とはいかずに、地上に降ろせても普通に強いと言う罠。
寧ろ地上に降りてからが本番じゃあ!と言わんばかりに暴れまくり、持てるスキルの全てを総動員して、何とか倒す事が出来た。単純なステータスの暴力程、厄介で恐ろしい存在である。
挑戦回数:28回
「ふぃ~………」
27度の死と1度の勝利の果て、大地に横たわりポリゴンを崩壊させ、消えていくストーム・ワイバーンの姿を見届けたペッパーは、肺に重く乗し掛かった二酸化炭素を吐き、此所まで来たのだと想いを馳せる。
とはいえ、時刻は5時手前であり、致命の包丁が使える時間は残り僅か。のんびりしていられないが、かといってスキルの再使用時間も、まだ完了していないので、一旦トイレを含めて10分の休憩をする旨をアイトゥイルに伝え、ペッパーは一時ログアウト。
現実世界で梓は、最後の敵も相応の強さを誇ると考えながら、ワクワクと不安が入り雑じった感情を胸に秘めて、トイレと水分補給を行い、シャンフロへと再ログインする。
「ペッパーはん、お帰りなのさ」
「ただいま、アイトゥイル。実戦的訓練、最後の相手を頼む」
「はいさ。あと其れに関して、オカシラが『ペッパーに相応しい相手を連れて来る』って言ってたのさ」
「相応しい相手?」と首を傾げた時だった。
「おぅおぅ、ペッパー。案外掛かるたぁ思ったが、随分早く9体目を倒せたみてぇだな」
「オカシラ!」
「先生!」
ヴォーパルバニーの大頭・ヴァイスアッシュが闘技場の客席に現れて、其の隣にはローブに身を包む、杖を持つ小さな者の姿在り。
其の者がローブを上げると、顔を出したのは『隻眼のゴブリン』であり、其の姿を見たペッパーは其の名を叫ぶ。
「ポポンガさん……御久し振りです!」
「久しいの、ペッパー。お前さんの活躍、星や人の噂で耳にしたぞい」
嘗てセカンディルの裏路地にて出逢い、ゴブリンの目玉を渡した事で生きる力を取り戻した老ゴブリン・ポポンガ。魔術なのか杖を振るえば、其の小柄な体躯は宙に浮いてヴォーパルコロッセオに降り立ち。
そしてヴァイスアッシュは、ペッパーに実戦的訓練の最終内容を伝えた。
「ペッパー。おめぇさんの最後の相手は『オイラの古くからの
「お前さんに褒められると、やる気がでるわいヴァッシュよ。そうじゃな………」
そう言いながらポポンガはペッパーを見て。少し沈黙の果てに最終戦の内容を決定した。
「ペッパー、ワシの攻撃から30秒間生き残って見せんしゃい」
と…━━━━━━━。
特殊クエスト・第四段階のキーゴブリン