実戦訓練を越えていけ
「ペッパー、ワシの攻撃から30秒間生き残って見せんしゃい」
ユニークシナリオ・兎の国の招待。受注プレイヤーのレベル以上の、およそ2倍以上のレベル差が有る、遥かに格上のモンスターを相手取り、途中で中断有りの10連戦を行うミッションの最後の1体。
挑戦者ペッパーの前に現れたヴァイスアッシュと、彼の友にして
「えっ……30秒、ですか?」
「そう。30秒生き残れれば、実戦訓練は終了じゃ。準備は出来とるかな?」
ヴァイスアッシュの友、ポポンガ。僅か30秒という最後にしては圧倒的な『異質さ』。数多のレトロゲームをプレイしてきた経験から導き出されるのは、初撃から即死級の攻撃を放つという結論で。
ペッパーはポポンガと向かい合い、致命の小鎚を取り出しながら構える。
「よろしくお願い致し『
構えを行った事が戦いの合図として認定されて、カウントダウンの開幕と同時に、ポポンガの杖先から放たれた発生1フレームに匹敵する、『金色の閃光』がペッパーを切り割かんとし。
(━━━は?何、今の……?)
其れがペッパーの思った事であり。しかしそんな彼にポポンガは、思考時間も弱音を吐く事さえ許さぬ、新しい攻撃をぶつけてきた。
「『
自分の足元に赤い、紅く、朱に燃える熱。出し惜しみしたら死ぬ━━━そう感じたペッパーは
もし、此れで失敗したら。自分はきっと、ポポンガの試練を攻略出来ない。其れは此れまで攻略した、レトロゲームで培った幾多の経験から成る、己のゲーマーとしての『勘』と、絶対の確信を持って言える『予感』だった。
退避、疾駆、激走。同時に先程迄、己が居た場所から『火炎の柱が立ち上ぼり』、地面を爆砕しながら此方へ迫り来る。不世出の奥義によって支えられた、爆裂的な加速と敏捷に無尽蔵のスタミナにより、ペッパーは其の攻撃を逃れ━━━━
「『
━━━━━られていない。
「だわあああああ!?」
『天より降り注ぐは翡翠色の石柱の乱下』。此方の逃げ道を塞ぎ、あまつさえ取り囲むようにホーミングしながら、迫る其れを小刻みにステップを踏み、常に周りを確認しながらスキル:アクセラレート・ステップで其の動きはスムーズに成っていく。
「なんつー攻げ「『
耳元に聞こえたポポンガの声、ヨボヨボの『右手』が自分の首に触れんと迫ってくる。其の手を拒むように、ペッパーはセツナノミキリと共に、ポポンガの右手首を下から叩くように、致命の小鎚を振るって
(今、一瞬で移動したよな!?魔法的に其れも出来るか!?)
「『
ポポンガの後ろ、現れるは『空色のオーロラカーテン』。其れがポポンガの周りを薙ぎ払うように、ペッパーに向けて壁のように迫り来る。
「うおおおお!と、どっ、けぇっ!!!」
跳躍と着地時の重力負荷を減らすセルタレイト・ケルネイアー、空中での視界及び体勢に関する補正を与えるゲニウス・チャージャー、そして二段ジャンプのスカイウォーカーで迫るオーロラカーテンを、走り高跳び選手の如く紙一重のギリギリで避けきり、着地するペッパー。
高所からの着地、セルタレイト・ケルネイアーで軽減されたとはいえ、落下ダメージによる足の痺れが襲い。しかしポポンガの攻撃は終わらない。終わる訳がない。
「『
ヴォーパルコロッセオの地面が、無作為に鋭利な隆起を起こし、円錐形の攻撃が『五連続で叩き付けられてくる』。
「うおわあああああああ!!!!」
走り、跳ねて、飛んで。ペッパーは生き延びる事に全神経を注ぎ込み、戦い続ける。
「最後の一秒、そして一撃。………越えてみんさい、ペッパー」
直後、自身の両足が『底無しの沼地に填まった』様に動かなくなってしまう。
「は…!?な、動かな…い!?」
絶大な殺気を感知して、ペッパーが首を横に動かせば。天に杖を掲げるポポンガと、杖先から『青く細い水の線』が其処には在って。
「『
振り下ろされる水の線。其の瞬間にペッパーの視界はスローモーションとなって、脳内では此の状況を打開する為の策が、超高速で走馬灯の様に練られ始めていた。
(仮にあの水線が『高圧水流を圧縮した』モノであれば、受ける事は文字通り死に直結する!なら弾くか、いや何処を?!水流は論外、可能性は杖!距離は1m弱、普通に迎撃していたら間に合わない!
疾風連紲と迅雷刹華で速度を調節、迎撃箇所は杖の横っ腹!全打撃系スキルを絡めて吹き飛ばす以外に生き延びる道はないんだ!
覚悟を決めろペッパー!先生が、アイトゥイルが見てるんだ!此所で決めなきゃ男が廃るぞ!)
迫る水線が、死刑囚を打ち首にせんとペッパーの首に迫る中、発動される疾風連紲と迅雷刹華のスキル。
前者はスタミナを利用した攻撃と移動の、あらゆる速度を変幻自在に変更し、片や後者は移動に用いれば電光石火を成し、攻撃に用いれば火雷大神の如く敵を打ち砕く、文字通りの覇撃に変わる。
「うううおおおおおおおおおりゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
己の持ち得る、全ての打撃系スキルを纏った致命の小鎚が、迫る水流の線の発生源たる杖、其の横側へと全力全開の一振を以て、英雄に登り詰めんと望む者の聲と共に、赤黒い輝きは振り抜かれ。
「ハアッ…!ハアッ…!ハアッ、ハアッ…!」
数分間振りに呼吸したかのように、体内に滞った空気を総入れ替えをしていく。足は動けるようになったが、まだ何かしてくるかも知れないと、ペッパーはポポンガを含めて周りを警戒した。
「…………見事じゃ、ペッパー。ワシの一撃、初見ながら見切られるとは思わなんだ」
左手の人差し指を振るえば、転がっていた杖が独りでに浮遊し、ポポンガの手の中に舞い戻る。と、観客席からアイトゥイルとヴァイスアッシュが此方にやって来た。
「ペッパーはん!凄いのさ!」
「おぅおぅ、ポポンガ。まぁた派手にやったなぁ」
「いやぁスマンなヴァッシュ。久し振りに気合が乗っちまって、ヴォーパルコロッセオをボコボコにしてしもうたわい」
隆起した円錐形、裂き割れた地面、突き刺さる翡翠の石柱。確かに派手な荒れ具合だが、此の30秒間にポポンガが其れだけ本気で撃ってきてくれたと考え、ペッパーは老ゴブリンに向き合う。
「ポポンガさん。俺の為に本気の攻撃をしてくださり、ありがとうございました!」
アイトゥイルを肩に乗せ、ペッパーは深く深く、直角90度まで到達する御辞儀で、ポポンガに礼を述べる。
「カハハ…良い心掛けじゃな、ペッパーよ。そしてヴァッシュや、彼は素晴らしい開拓者じゃな」
「あぁ。何せ『ジークヴルム』に、名ァ覚えられた男だからなぁ」
友としての語らいを見ながら、ふとペッパーはポポンガが繰り出してきた技を思い出し、そして何か『違和感』を覚え。しかし、其の思考はヴァイスアッシュが放った言葉によって、掻き消されるのだった。
「ペッパー、よくやったなぁ。おめぇさんに『報酬』を与えるぜ」
「報酬…ですか?」
「あぁ。ラビッツの『名誉国民』、おめぇさんをオイラ直々に任命してやるよぅ」
名誉国民、其れもヴァイスアッシュから直接認められる形で賜った栄誉に、ペッパーは「ありがとうございます、先生」と深々と頭を下げる。
「それと……だ。今のおめぇさんには『ソイツ』はいらねぇだろうな。あと一つ、少し休んでからオイラの鍛冶場に来なぁ」
ヴァイスアッシュがパチンと指を鳴らせば、レベル24の時から首に巻き付き、共に苦難を乗り越え、己を強く高みに昇らせた致命魂の首輪が外れ、ポリゴンと化して消滅し。
そして其れをトリガーとしたのか、ペッパーのレベルが1つ上がり。同時に目の前の画面には、実戦訓練の果ての結果と、心の片隅で待ち焦がれていた『ある物』の解放を示す、リザルト画面が表示された。
『試練を越えよ!
『試練を越えよ!
『試練を越えよ!
『ユニークシナリオ【兎の国からの招待】をクリアしました』
『称号【ラビッツ名誉国民】を獲得しました』
『アクセサリー【
『NPC『風来坊のアイトゥイル』が正式にパーティに加入しました』
『ユニークシナリオEX【
(エルクさんに買ってと圧を掛けられた致命極技、レベル50到達で漸く条件開示かぁ……長かったなぁホント。で、アイトゥイルと正式にパーティを組めるようになったり、御世話になった致命魂の首輪がなくなったりしたが、最後の
やっぱり先生って、七つの最強種の一角たるユニークモンスターなのか?じゃあ何で、俺やサンラクを鍛えようとしてるんだろう?何か理由が有るのか?其れに鍛冶場に来いって……何かイベントが起きるフラグなのかな?)
ウェザエモンのユニークシナリオEXに続き、ヴァイスアッシュのユニークシナリオEXを受注したペッパーは、彼が七つの最強種だという疑問を抱き、アイトゥイルと共に鍛冶場に向かうのだった……。
さらば、致命魂の首輪。こんにちわ、ユニークシナリオEX