色々あります
ユニークシナリオ・兎の国の招待における実戦的訓練を乗り越え、新たに発生したユニークシナリオEX【
此の日も梓は、大学の講義にコンビニのバイトで汗を流して、ペッパーとしてシャンフロの世界に降臨していた。
「さて……ペンシルゴンとの約束は『午後6時』で、今は午後4時と……。ビィラックさんの所に行って、修理に出してたユニーク小鎚3本を回収してから、エルクさんの所でスキルの整理をしてから行くかね」
ある程度時間は空いており、其の間に武器の回収やスキルの確認、試運転をしたり出来そうだと、脳内でシミュレーションを組み立てていくペッパー。
「あ、ペッパーはん。こんにちわなのさ」
「やぁ、アイトゥイル。こんにちわ」
と、兎御殿の休憩室の窓からアイトゥイルが顔を出して、此方の肩に飛び乗ってくる。ユニークシナリオ攻略によって、彼女とパーティーを組めるようになった事で戦略の幅もグッと拡がったが、同時にリスクも抱える事になった。
旅人のマントの中にアイトゥイルを隠すのは、悪い戦術では無いものの、不意の突風等によって捲れ上がる可能性が高い。現在の装備も、既に多くの不特定多数のプレイヤーに認知されているので、不用意な移動で見付かる危険も隣り合わせ。
どうしたものかと考えたペッパーが、ふと何かを思い出してインベントリの中身を確認して。ニンマリと笑い、確信する。此れなら誰にもバレずにペンシルゴンの所まで行ける━━━━━と。
そんな時、兎御殿の休憩室に飛来してきた一羽のハヤブサが、自分に宛てた一通のメールを届けに来た。送り主はレーザーカジキであり、受け取って確認した其の内容というのが━━━
『ペッパーさんへ。レーザーカジキです。ジークヴルムさんの一件以来、ちょっとしたゴタゴタがあってログイン出来なかったので心配を掛けたかと思います。
僕は最近、ロッド持ちのヴォーパルバニーを倒して、
うさちゃんだらけで、凄く幸せです。これから兎食の大蛇を倒しにいきます』
━━━との事らしい。
此れに対してペッパーは返信として『頑張ってね』と返した。
其の後はビィラックの鍛冶場に行って、ユニーク小鎚達を受け取って他の武器の修繕を依頼。エルクの居る
アイトゥイルを連れ、サードレマの蛇の林檎へと赴くのであった………。
ユニークシナリオ【兎の国の招待】。実戦的訓練の折り返しとなる第5戦で戦った
胴装備として使える其れは、一見するとブカブカロングコートに等しいモノであり、端から見れば真っ黒なプレイヤーとして見られるが、此の装備の神髄は装備したプレイヤーの名前を『隠せる』という、恐らく━━━いや断言しよう。まさに『唯一無二の名前隠し』が可能とする、恐ろしい防具だ。
其の壊れ性能からか、PKerが装備したら装備の効果による即死が確定し、装備者も『クエストやシナリオ等のイベントや戦闘、PKerとの戦闘が避けられない場合を除き』、『他プレイヤーへのPK行為、及びNPCへ故意に危害を与えて死亡させた瞬間』に甚大なデメリットを受ける。
其の内容というのが、どんなにデバフに強い装飾品を身に付けていようが、此のゲームに在ると言う復活効果持ちの武器や防具を装備しようが、システムによって定められた『問答無用の即死』と『現在持っている所持品&倉庫に預けた装備やアイテムの全没収』が発動する、と言う物だ。
「まぁコレに関しちゃ、使わないなら使わないで、自分に被害は出ないし。自分からNPCやプレイヤーに手を出さなければ、何の問題にもならないからな」
黒いロングコートを纏い、名前が無いともなればユニークと疑われて追い回される事になるだろうが、逆に自分が『NPCとしての立ち振る舞い』をし、此の世界に文字通り『溶け込めば』万事解決である。
頭装備を外して、コートと共に着いているフードを深く被り、ペッパーはアイトゥイルをコートの内に隠し、人波の中を、裏路地を歩み行く。途中、道行くプレイヤーにNPC達の視線を感じなくも無いが、逆に堂々として此の世界の一住人に成りきれば、怪しまれる事は無い筈。
そんな彼の立ち振舞いが功を然してか、プレイヤーやNPCからは『漆黒のフード付きロングコートを纏った、右手にヘンテコなタトゥーの入ったNPC』と言う、まさか今現在話題のプレイヤーたるペッパーが、己の近くを通り過ぎた等と予想だに出来ない状況が出来上がり。
ペッパーとアイトゥイルは、サードレマの蛇の林檎へと到着したのであった…。
サードレマ・蛇の林檎。
ガラガラに空いた店内にて一人、冷たく冷やされた水を飲み干し、グラスの縁をなぞるペンシルゴンは、店の入口をじっ……と見つめていた。
(まだかなぁ……あーくん)
柄にもないとは此の事だろうか。約束の時間はまだ有れど、刻一刻と過ぎ去る時の流れが、己の焦燥を掻き立てていた。
ペッパー…梓はメールに関してみれば、きっちり返信はしてくるし、ゲームでも決められた時間より前には到着していたり、ある意味で律儀な面と、時折鋭利な正論で反論を仏陀切りにいく。
ゲームでは常に本気で、唯々真剣に、遊びであるからこそ全力で取り組むスタイルを、あの頃から変わらず今も貫き徹している。
(……また変な格好してきそう、だなんて……。流石に2回目は無いでしょ)
そう思いながら待っていると、木製のドアが開いて取り付けられた小さなベルが、カランカランと店内で鳴って。コツン…コツン…と靴を僅かに鳴らしながら、真っ黒なフード付きトレンチロングコートで身を包んだ、名前の無いNPCがペンシルゴンの元へ歩み寄ってくる。
街中でPKをしていないにも関わらず、PKerを倒す為のPKKNPCが居るとは聞いた事は有るが、まさか其れが非戦闘時にも来るように、更なるアップデートがされたのか……彼女がそう思っていた、正に其の時。
「やぁ、ペンシルゴン」と聞き覚えた声と共に、フードを捲り上げて見知った顔が現れる。右目は碧で左目は朱のオッドアイ、茶髪の男性プレイヤー。
胴に装備されたコートを別のコートに変え、マントを羽織って、カウボーイハットらしき頭装備を被る事で、表示されなかったプレイヤーネームが顕になり、頭上には『ペッパー』の文字が現れ直す。
「やぁやぁ、ペンシルゴンはん。久し振りなのさ」
「あーくん………さっきの装備何?あ、アイトゥイルちゃんこんにちわ」
「まぁそう言う反応するよな、ペンシルゴン。端的に伝えると、PKしたら即死するし、PKerが纏っても即死するが、其れをしなければPN隠せるコート」
「………マジ?」
「うん、マジ」
また自分の知らないところで、知らない物を見付け出しているペッパーに、ペンシルゴンは溜息を付きならがも、自然に笑みが溢れてくる。
「ペンシルゴン。無事に大槍が出来たから渡すね」
そう言ったペッパーは、アイテムインベントリから名匠ビィラック作『轟雷大槍グラダネルガ』を取り出し、ペンシルゴンへギフトとして送った。
「わぁ……コレはまた、とんでもないね……。機械ゴーレム特功と、帯電状態相手に常時貫通効果……予想以上だよ」
「麒麟がロボットホースって教えて貰った時から、電撃系統には弱いんじゃないかと、ずっと考えててね。お気に召したなら何よりだ」
何にせよ無事ペンシルゴンに武器を渡せたので、兎御殿に戻ってスキルの合成と新スキルの試運転を……。そう思っていた矢先、ペンシルゴンが仕掛けた。
「あーくん。私と一緒にサードレマで散歩しない?さっきのロングコートを着けた状態でさ」
━━━━━━━━と。
一緒に居られる、一時の時間を