ペンシルゴンとのお散歩と言う名のデート回
「お散歩?さっきのロングコートを着てか?」
「そうそう。プレイヤーネーム隠せるなら普通に動いても問題無いし、寧ろそう言う装備が有るなら積極的に利用しなくちゃ」
サードレマ・蛇の林檎。轟雷大槍グラダネルガを手渡して、兎御殿にさぁ帰ろうと思った矢先に、ペンシルゴンがペッパーに観光を誘ってきたのである。
「オーケー、其の散歩とやらに付き合うよ。トワ」
「あら即答。因みに本音は?」
「さっきのフード付きブラックトレンチロングコートで、サードレマの街並みを駆け抜けるアサシンレトロゲームの一場面がやりたい」
「な、何か知らないけど、痺れるような響きなのさ……」
「あはは…!やっぱり変わらないなぁ、あーくんは」
目を輝かせて早速胴装備を切り替えながら、アイトゥイルをコートの中に招き入れるペッパー。其の様子を見ながらペンシルゴンは何かを企んでいるようである。
「其れじゃ行こっか」
「おぅ……で、何処に行くんだ?」
「さぁ?たまには無計画でブラブラするのも良いんじゃないかな?」
「おいおい、そんなんで良いのかよ……」
アイトゥイルと言う一羽同伴を付けながら、本当なら二人で歩きたかったなぁと思いつつも。
ペンシルゴンと共に名隠しと成ったペッパーは、人の流れが比較的穏やかな場所を横に並んで歩きながら、色々な物を見て回った。
過ぎ行く他者の視線は相変わらず変なモノを見る其れだが、頭上に掲げられている筈のプレイヤーネームが無い事で、まさか廃人狩りと一緒に居るのが現在話題と嵐を巻き起こしている、ペッパー本人である等と予想だにする事無く通り過ぎていく。
「プレイヤーネームが解らないだけで、上手く行きすぎだろ……」
「名前隠せるってアドバンテージは、どんなゲームでも其のプレイヤーを特定させない、最強の『手札』にも成るんだよ?」
其の手札の一つが既にペンシルゴンにバレた時点で、手札として成立しているかは怪しいが、此方には新しい手札が存在している。
ユニークシナリオEX【
近い内にサンラクもユニークシナリオの実戦的訓練に辿り着き、オイカッツォ曰く『様々なクソゲーをやりこみ、便秘の理不尽な速度にさえ対応しきり、自分を相手に三割を切れる』らしい彼ならば。そんなに時間が掛からずに、クリアへと漕ぎ着けられるだろう。
(まぁ、今は……ペンシルゴンを見とかないとな)
余所見をしたら何を言われるか解った物ではないし、想像だってしたくはないのだ。コレはそう、ギャルゲーでよくあるイベント。ヒロインとのデート中にQTE発生で、視線を逸らさないようにするミニゲームと同じ。
ミスれば好感度爆下がり、最悪ガメオベラに直通する事だってある。そして相手は、あろうことかペンシルゴン……下手を打てば間違いなく末代まで
(…………ペッパー君がゲームに対して、常に真剣なのは知ってるし、多分『此の瞬間はQTEだー』とか考えたりしてるんだろうねぇ……。まぁ其れなら其れで、私から目を離してないから、善しとしようかな?)
そしてそんなペッパーの思考をテレパシーか超能力か、勘では有るものの大体当てたペンシルゴンは、少し上機嫌になっている。
「お、おいアレ……!?」
「わわ、廃人狩りだ…!」
「ってか、何だあの真っ黒コート」
「NPCか…脅されて付いて行ったり?」
大通りに差し掛かった所で、プレイヤーの一人がペンシルゴンに気付いた事を切っ掛けに、ざわめきが電波のように波状して伝播する。
(おいペンシルゴン、何かヤバくないか?)
(そうだねぇ…ちょっと裏路地に移動しよう)
流石に不味いと考えてか、表面上は平静を装いながら、二人は移動しようとした其の時。ペッパーと角から出て来た巨躯の女性プレイヤー………『サバイバアル』がゴツンとぶつかって、ペッパーが思いっきり尻餅を着く。更に運が悪い事に、其の衝撃で被っていたフードが頭から離れて、彼の顔が通りにいたプレイヤーやNPCの前で顕になった。
サードレマのNPC・そして他のプレイヤーが、まさかの事態に唖然となる中、ペッパーはと言うと…………
「ペンシルゴン、ごめん!」
「えっ、きゃっ!?」
フードを被り直してペンシルゴンに謝罪すると共に、彼女を抱いて担ぎ上げる。其の様たるや漆黒の夜に現れた黒騎士が、絶世の美女をお姫様抱っこで運び去らんとする光景であり。
「確り掴まってろよ…!」
「っ………うん♪」
ジャンプ系列スキルによって、強化を受けた跳躍力で一気に建物の上まで飛び上がり、ダッシュ系列スキルを使用しながら屋根を激走する。暗闇走る其の姿は、黄昏時を越えて次第に夜へと移ろう街並みと、ベストマッチすら超えたミラクルマッチとなって、見上げるプレイヤーやNPC達の記憶に深く刻まれた。
そして其の光景に、漸くプレイヤー達は反応する。
「ペッパァァァァァァァァ!!!?」
「えっ、マジで!?マジか!?」
「てか名前隠し!!?どうなってんの!?」
「アーサー・ペンシルゴンと一緒に…居る、だと?」
「お姫様抱っこして走り去るとかカッコいい…!」
「滅茶苦茶絵になりますねぇ!」
「漆黒の戦士、廃人狩りを拐う…!コレは特ダネ待った無しだ!」
「待ちやがれぇ、ペッパー!」
「くそっ、やっぱりはえぇ…!!」
「サードレマの上層エリアに先回りさせろ!道を塞ぐんだ!」
突然の出来事に騒ぎ立つ者、ペンシルゴンを抱えて走り去る一連の流れに興奮する者、胡椒を取っ捕まえて何としても情報を吐き出させようとする者で、サードレマは再び混沌の渦中となる。
前回、前々回と過ちを学んだ開拓者達は、三度目の正直と言わんばかりに、下層と上層を繋ぐ門を目指して突き進み、そして辿り着くや門の周りを見張り始めた。
だがしかし、其所にペッパーとペンシルゴンは現れる事は無く、追跡者達はまたしても怨唆の声を上げる事になったのである。では、ペッパーとペンシルゴン、アイトゥイルは如何にして、他の開拓者達の追跡を振り切る事が出来たのだろうか?
「ペンシルゴン、アイトゥイル。声を出さないでくれよ………本当にマジで」
「大丈夫、大丈夫。おねーさんこういうの、職業柄得意なんだからね?」
「人を隠すなら、人の中。闇に隠れるなら、闇の中……なのさ」
ペッパー・ペンシルゴン・アイトゥイルは現在、サードレマの裏路地の一角にて、留まり静かにじっとしていた。
やり方も単純明確で、先ずペッパーの脇腹にアイトゥイルが掴まって、次にペンシルゴンが壁に依り掛かり、最後にペッパーが其れを壁ドンする形を取って、影法師の愉快合羽で夜闇に隠れ身の術をすると言う、時間とフィールドの仕様を用いた、即席の作戦である。
しかしながら、時にシンプルな作戦程効果覿面となるパターンは多く、此れまで二度ペッパーはサードレマの上層エリアに逃げ込んだ事で、走り込まれる事を恐れた他プレイヤー達はそちらに意識を削がれ。そして其の意識の隙間を突くように、ペッパーは隠れ身の術で、追跡を撒く事に成功したのだ。
(にしても………。コレ色々とヤバいな?)
黒尽くめの衣裳の男が、廃人狩りを壁ドンしている。既に此の時点での、文章のパワーワードが凄い。そして先程からじぃぃぃ……っと、ペンシルゴンが此方を見つめているのだ。
(後々「あの日に私を壁ドンしたんだから、ちゃんと責任取ってよね?」……って言われる流れだよなぁ。もうちょっとしたら、トワと別れて兎御殿に逃げ込もうそうしよう……)
若干死んだ眼になりながらも、思考は止める事をせぬままに、ラビッツに逃げ込む為のルートを模索し始めたペッパー。
(……逃走経路を一生懸命考えてるのかな?あーくん。良いね……其の表情。考えて考えて、何時だって君はゲームを楽しみながら、そして勝てるように思考を重ねていたよね)
黒いコートの中、暗闇に順応したペンシルゴンの眼は、ペッパーの眼を見ている。レトロゲームをしている時の梓を見ていた永遠は、彼の真剣な眼差しが好きなのだ。普通の年下の男の子、勉強も体育も同年代の子達と比べて、突出した訳でも無い。かといって誰より劣っている訳でも無く、本当に普通の凡百に等しい子。隣近所という間柄で遊んだりし、色んな遊びをして交流を深め。取分ゲームをしている時の真剣な表情は、普段の普通とは明らかに違う、格好良い物だった。
あの日、大型犬に永遠は襲われて。怖くて逃げられず、更には失禁までしてしまった。周りに人は居ない、誰も助けに来ない中で、噛み付かれ掛けた。そんな時にたった一人で間に割って入るや、ピコピコハンマーを片手に握って立ち向かい。自分よりずっと恐怖で震えているにも関わらず、大声で恐怖を押し殺しながら、出鱈目に玩具を振りまくって助けてくれた時に、永遠は梓に対するハッキリとした好意を抱いた。
其れから永遠は梓へ好意を伝えんと、アタックをしてみたが、逆に梓は家に籠るようになってしまい。何とか隙を見付けては外に連れ出して、色々な事に巻き込んで。暫く経った頃、梓は父親の仕事の関係によって引っ越す事を知り、勇気を出して告白しようとしたのである。
だが、自分の想いを伝えるよりも早く。彼から発せられたのは『二度と逢いたくない』という、冷めきった言葉であり。彼女は此の時始めて、自分のやってきた好意で傷付く人が居る事を。好きな人がずっと、其れによって傷付いた事を知ったのだった。
泣きながら彼女は決意し、大粒の涙を溢しながら彼に向けて宣言した。『必ず君に好きだって言わせてやるんだからー!』………と。
其れ以来、昔からの夢だったカリスマモデルに成る為に人一倍の努力を重ね続けて、其の夢を叶えてみせた。彼と……梓とまた出逢えた時に、誇れる自分で在る為に。
「……もう、大丈夫……か。ペンシルゴン」
「あ、うん。平気平気、そうだね……大丈夫だと思うよ」
「ほっ……撒けた様なのさ……」
永遠に続いて欲しいと願えば、其の手から望む物は溢れ落ちて消えていく
「あーくん。今日はお散歩に付き合ってくれて、ありがとう」
「……どういたしまして。トワも帰り道は気を付けてな?」
「また何処かで、なのさ。ペンシルゴンはん」
コートの中に隠れたアイトゥイルと共に、リキャストタイムが終了したスキル達を再度点火していき、ペッパーは夜闇のサードレマの裏路地へ走り出して行った。
「…………ペンシルゴン。アレで良かったのか?」
「オーケーオーケー。スーパーベストタイミングだったよ。協力ありがとね『サバちゃん』」
ペッパーが去った後、一人残ったペンシルゴンに影から話し掛けたのは、ペッパーとぶつかったサバイバアル。彼女は事前に『今日ペッパーと一緒に此のルートを歩くから、其のタイミングでぶつかって転ばせて欲しい』と、サバイバアルに連絡を入れていたのだ。
「で、どうだった?ペッパー君に逢えて満足した?」
「本当はもう少し、ゆっくり話を聞いてみたかったがなァ。顔が解りゃあ、次探す時に目星が着く」
「相変わらず、猟犬というか狼の眼をしてるねぇ~。あ、コレ報酬ね」
「阿修羅会の本拠地でクランリーダーやら相手に、反逆大立周りしたオメェにゃ言われたかねぇがな。……うん、確かに受け取った。じゃあな」
一仕事を終え、サバイバアルとペンシルゴンもサードレマの闇の中へと消えて行った。そして此の日。サードレマで起きた出来事は、ペッパー捜索スレたる胡椒争奪戦争でも、大きな波乱を産み出す事になったのである………。
幸運とは待つものではなく、引き寄せるものである