妄執を超えて行け
ユニークシナリオ【兎の国からの招待】で、クソゲーマー・サンラクに立ち塞がる最後の相手であり、レベル120の強敵。しかもヴァイスアッシュはコレを『10分間生き残るかコイツを倒すか』の2択を迫ってきた。
「オイオイ……魔法がまた『増えてる』し、攻撃密度が『濃くなってる』んだけどぉあ!!?」
追尾式の木の根と、ドス黒鎖だけならまだ良かった。だが、戦闘時間が長引く程に『新しい魔法攻撃と、既存の攻撃の密度上昇が追加される』のだ。
最初はファイヤーボールだけだったのが、10秒経過毎に、氷の槍に始まり落雷攻撃、呪術らしき黒煙と土の槍の出現。木の根と鎖の攻撃も相まって、まだ他のモンスターと戦った方が勝ちの目が見える。
(しかも此の成りをしながら、本体はゴムを巻き付けた鉄塊らしき硬度により、完全に『物理攻撃無効』ときた。何だ此のクソモンスターは………!)
そして一番の問題点が物理攻撃無効という、サンラク……もとい物理攻撃しか持ち合わせていないプレイヤーに対する、最悪レベルのメタ能力。コレのせいで攻撃スキルが軒並み息をしていない。
「サンラク、頑張れー!」
「気張るのさー!」
「サンラクさーん!あと8分ですわー!」
観客席から一人と二羽の声が聞こえるが、其れはまるで此方を天国に運ばんとする天使の様に思われ。増える攻撃と密度にサンラクは………
(くっそ…!初見殺しが過ぎる、まだ他のクソゲーやクソモンスの方が、さっくり『諦められる』。だが、アイツの攻撃方法は解った。次は………ん?)
━━━━まぁね、一発クリアしたぜ。
サンラクの琴線に『ソレ』は触れた。何故『諦めよう』としているのか?……と。ヴァッシュは『今のお前さんなら多分イケる』と言っていた。つまりは『今の自分に倒せる可能性』が有るからこそ、制限時間か討伐かの、二つの選択肢を提示したのでは無いか?
ペッパーが言っていたヴォーパル魂が、強者に挑む心意気で有るならば、此処で諦めて死ぬ事こそ、ヴァッシュに対する『最大の裏切り行為』では無いのか?
そして何より。
(
『手抜きをする事なく、全力でゲームを楽しむ事』。
単純であるからこそ、忘れてしまいがちになる『ソレ』を、ペッパーの一発クリア報告が、サンラクというゲーマーの炉芯に火を着けたのだ。
(嗚呼やってやろうじゃねぇか!ノーコン&ノーダメクリア、クソゲー初見突破もやって来た!クソゲーマーの俺に、出来ねぇ道理はねぇ!こちとら火山亀攻略に『エナドリ』使ったんだ!カフェインはまだ残ってる!なら燃やせるだろ!?全部燃焼させてやっから━━━━!)
「覚悟しやがれや、ルーザーなんたらぁ!」
逃走から一転、セツナノミキリ起動。飛来する木の根にタイミングを合わせ、致命の小鎚でパリィしつつ、横回転しながら片手の小鎚を収納。移動・ダッシュスキルを点火、更にぶっつけ本番ながら『ニトロゲイン』を使用した。
体力の最大値2割を削り、筋力と敏捷を強化するバフスキル。其れだけ見れば、ごく普通の体力調整に過ぎない。しかし、其の体力調整によって真価を発揮するスキルが、サンラクの手札にはある。
名を『クライマックスブースト』。体力が1/3の状態に有り、尚且つ敵のレベルが自身より高い程、発動から5分間自身の全ステータスに強化を入れるスキル。ニトロゲインによるバフが、クライマックスブーストの発動可能な状態に届かせ。サンラクは、其れを点火した。
タイムリミットは5分、此の時間で決める━━━!
「うわぁ……結構な速度に殆どノーモーション、おまけに複数の物理と魔法攻撃仕掛けてくるのに、動体視力だけで避けてるよ……すげぇなサンラク」
妄執の樹魔の攻撃速度、攻撃発生、攻撃の種類を頭に叩き込みながら、ペッパーはコロッセオの中で走り跳ね、濃密な敵の攻撃の隙間を縫うように、肉薄しに行くサンラクを見て、そう呟いた。
さっきの逃走による時間超過を狙っていた雰囲気が、あの瞬間に討伐の方向にシフトしたサンラク。果たして何を思って、あの瞬間に行動を切り換えたのか、ペッパーには解らない。
最も、サンラクが妄執の樹魔を討伐すると決めたのは、他ならぬペッパーの発言があった故なのだが、本人は其の戦いを見届けんとしており、気付く事が出来ないでいる。
「此の訓練を通じて、シャンフロには『ギミックモンスター』が居るってのも、よぉ~く理解したわ」
木の根の上を爆走し、妄執の樹魔へと肉薄するサンラクは、小鎚を収納とスイッチするように取り出した、
「もしもルーザーなんたらが、ギミック持ちだとして何を封じれば勝てるか?」
致命刃術【水鏡の月】。相手のヘイトを一瞬消す、致命武術の一つであり。サンラクはサマーソルトの要領で、妄執の樹魔の持つ長杖を蹴り飛ばした。
そして其の直後に、樹魔の両手へサンラクは致命の包丁を、逆手に切り返し即座にグローイング・ピアスで突き刺す。すると、今までは出ていなかったポリゴンが、妄執の樹魔の掌から零れ落ちる。
「ビンゴ!
『ギ…ギッ……!ギイイイィイイィィイイイイ!!!』
痛みによる悲鳴を上げながら、叫ぶ妄執の樹魔。飛んで行く杖を見て、サンラクは非常に悪い笑顔を浮かべ。
「良い事考えた」と言うや、ムーンジャンパーと七艘跳びで杖をキャッチ。残された艘跳び跳躍補強回数をフルに使い、木の根と鎖の間をすり抜けて。
「生け花ならぬ、生け杖ェェェアッ!」
『ギギョイイ!?』
口を開き見上げた妄執の樹魔に、無慈悲なる物理エンジンの一撃を加えて。
「そしてェ……ブッ壊れろやぁぁぁぁぁあああああぁ!!!!」
インベントリから取り出した、致命の小鎚を両手に握って。打撃スキルを点火して叩いては、木の根と黒鎖の合間を飛び跳ね続けて、最後にはスキル:
其の形相たるや、怒りに燃えて、吼え滾る鳥怪人の其れであり、アイトゥイルとエムルが唖然とする中、ペッパーは無言で戦いから目を反らす事をせず、ヴァイスアッシュは満足気な笑みを浮かべて。
『ギ……ギィッ……ア…━━━━━━』
妄執の樹魔が其の身を構成するポリゴンを崩壊させ、同時にサンラクのレベルアップを告げるSEが、ヴォーパルコロッセオに鳴り響き、取り囲む様にしてスキルの変化や進化が表示された。
そして此処に、実戦的訓練の決着が付いたのである。
「サンラク、やったな!」
「どーだ、ペッパー!初見ノーコンノーダメクリアしてやったぜ!」
「ハハハ……!すっげぇよ………!」
「サンラクさーん!」
「見事な連撃だったさ…」
観客席からヴォーパルコロッセオに降りてきた、ペッパーと二羽の兎姉妹に向けて、サンラクは渾身とも言えるドヤ顔を噛ましてきた。実際、最終戦を初見突破するのは、簡単な様でとても難しい。其れを成し遂げたなら称賛するのが、同じ実戦的訓練を越えた者として贈る祝福なのだろう。
「サンラクよぉ、おめぇさんのヴォーパル魂。見届けさせて貰ったァ」
そんな時、ヴァイスアッシュがパチパチと拍手をしながら歩いて来る。其の表情たるや、天晴れや御見事といった物だった。
「兄貴」
「いやぁ、まさか『倒しきる』とはな。制限時間まで逃げ切ると思ったがァ……やるじゃねぇか」
「………ウッス。実戦訓練、勉強になる事が多々有りやした」
キリッとした目でロールプレイを行うサンラクに、「そうかぁ、そうかぁ」と頷くヴァイスアッシュ。
「サンラク、実戦的訓練を越えたおめぇさんを『ラビッツ名誉国民』に任命してやるよぃ」
「サンラクさん!此れは名誉ある事ですわ!」
ヴァイスアッシュからの授与、エムルの発言を受けたサンラクは「謹んで賜りやす」と返し。
「……あぁ、忘れる所だった。其の首輪は『今の』おめぇさんにゃあ、要らねぇだろう。其れから……少し休んでから、オイラの鍛冶場に来なァ」
パチンと指を鳴らせば、サンラクの首から致命魂の首輪が外れて、ポリゴンと化して消滅し。彼の前には実戦的訓練を終えた証たる、リザルト画面が表示された。
『ユニークシナリオ【兎の国からの招待】をクリアしました』
『称号【ラビッツ名誉国民】を獲得しました』
『アクセサリー【
『NPC【魔術兎エムル】が正式にパーティに加入しました』
『ユニークシナリオEX【
「ユニークシナリオEX…!ってか、現物支給無しかい……」
「まぁまぁ……実戦的訓練を越えたんだし、スキルも色々手に入った。其れにクリア出来たから、俺達『挑戦出来る』様になったし」
ガックシと肩を落とすサンラクに、ペッパーがフォローを入れる。実戦的訓練を乗り越えた事実は、何も悲観するだけが全てでは無いのだ。
「………確かにな。取り敢えず此れで、ウェザエモンに挑む『通過儀礼』を、キッチリ果たしたって訳だ」
ヴァイスアッシュとの約束、実戦的訓練を乗り越えた事により、此れで心置きなくウェザエモン戦に備える事が出来る。武器や防具の強化等、即死攻撃と理不尽のオンパレードとは言えども、備え有れば必ず役に立つ時は来る。
「おぉ……そういや、もう一つ言っとく事があったァ」
と、ヴァイスアッシュが何かを思い出した様に、二人に向けて言ってきたのだ。
「『エフュール』の
━━━━━━━━と。
二人目のユニークシナリオEX到達者