実戦的訓練の後先
兎御殿の中にある一室。和風溢れる暖簾の先、茶色い毛並みとエプロンドレスに似た衣裳を纏う、一羽のヴォーパルバニーが耳をピンと伸ばし、針と糸を器用に扱いつつ小さな『人形』を作っている。
ヴァイスアッシュの事伝、アイトゥイル&エムルの案内により、兎御殿の一室たる『ドールフロント』と呼ばれる『ドールキーホルダー』を専門に扱う店舗に、ペッパーとサンラクはやって来た。
此処の主たる『エフュール』から、ヴァイスアッシュが其の昔に作ったという『腕輪』を受け取る為に。
「あらぁ、おいでやす。アイトゥイルにエムル、ペッパーはんに噂の鳥の人」
「やっぱ俺、
「あはは……」
サンラクと名前で読んでくれるビィラックとヴァイスアッシュを除き、呼び名が固定されたサンラクは遠い目をし、ペッパーは乾いた声を溢す。
「サンラクさん!ペッパーさん!エフュールおねーちゃんですわ!」
「初めまして、エフュールさん。ペッパーです。此方は俺の友達のサンラク」
「ウッス、サンラクっす」
「エフュールどす、どーぞ良しなに」
御互い軽く自己紹介を終えて、早速ペッパーが本題に入ろうとするが、此処で目に飛び込んできたのは、彼女の後ろの棚に飾られている、小さくとも手作りのドールキーホルダー達。
「彼方のドール達は、もしかしてエフュールさんが全部手作りで?」
「そうどす。あての手作り、そして自信作達な」
はんなりと京都弁で喋るエフュール。彼女の後ろに在る棚には、マッドフロッグやクアッドビートル、ゴブリンにヴォーパルバニーを含め、他にも色々多数有る。しかも妙に愛嬌を含んでおり、不思議と奥ゆかしさも籠められている様だ。
「興味が御有りんす?ペッパーはん」
「えぇ……まぁ。何て言うかこう……ゲームの『コレクト』で、特定のアイテムを集めて消費して『ガチャ』して、コンプリートする事で手に入る『称号』が有りまして。いやぁ……懐かしい」
昔やったレトロゲームの100%コンプリートの為に、草木を切り分け、特定のアイテムを用いて回した事を思い出し、染々とした気持ちに浸るペッパー。
「ガチャか……アレって『乱数』だろ?ソイツには良い思い出が一切ねぇわ」
「極論、出るまで引けば『100%』だからな。課金じゃないレトロゲームの話だけど」
「其れ一昔前のソシャゲで、馬鹿とか洒落みたいな
「苦労して得られる達成感は、古今東西変わらないからね」
「其れは解る」
ゲーマーあるある雑談をしていたが、エフュールがニッコリ笑いながら「で、買いますの?」と、声が全く笑っていない発言をしてきたので、ペッパーは「此処に有るドール達、此れで買えるだけ買わせて下さいな」と言い切り、マーニの袋をズシン…!とカウンターに乗せた。
「………うふふ。お金使いが荒いなぁ、ペッパーはんは。成程成程……エルクにアイトゥイルが、あんたの事を気に入る訳や」
「フフフ…ペッパーはんの時々見せる大胆さが、ワイの好きな所なのさ」
ヴォーパルバニー同士にしか伝わらない会話をしながら、後で購入したドール達の性能をサンラクと一緒に確認する事とし。そしてサンラクが、エフュールに本題を切り出した。
「なぁ、エフュール。ヴァッシュの兄貴から言伝を受けたんだが、此処に兄貴が昔作った腕輪が有るんだってな?俺とペッパーは、エフュールに言えば渡してくれるって、兄貴に言われて来たんだけど」
「ふむ……おとうちゃ、コホン………。頭がわてに預けといた、あの腕輪やね」
「ちょいと待ってな」と言い、エフュールはエプロンドレス衣装の胸ポケットから、丸型の眼鏡を取り出し掛けるや、店の奥へと向かって行って。
数分後に戻ってきた彼女の手には二つ、致命魂の首輪と同じ紋様を刻んだ、赤金色の腕輪が乗っていた。
「コレは頭が昔に作った『
そう言って差し出した腕輪を、ペッパーとサンラクは受け取って、早速能力を確認する。
致命兎の王が其の昔に己の手で作り出し、強者へ至らんとする者に贈った腕輪。自在に着脱出来ては意味が無いと封じた其れに、兎の国の人形職人が装備者の強さが、一段階昇る毎に外すか否かの選択によって、道具としての意義を確立させた。
形は変われど、此の腕輪に籠められた願いは同じ。
装着者が此のアクセサリーを装備後、レベルアップまで此のアクセサリーは外す事が出来ず、PKされても装備者の手元を離れない。譲渡及び破棄不可。
習得経験値が半分になる代わりに、レベルアップで得られるステータスポイントが1.5倍になる。
((あ、致命の首輪程じゃ無いけど、コレ十分壊れアクセサリーだわ))
致命の首輪を装備して、レベル50に到達したペッパーと、
獲得ポイントが現在レベルアップで得られるポイントが、12から7に減りこそしたものの、通常プレイで得られるポイントが些細ながら増えており、戦闘経験と回数は据え置きである為に、スキル育成に最適である。
「ペッパー、腕輪も腕輪でヤバイな?」
「あぁ……。というか先生、昔から此れだけの優秀なアクセサリーを作れたのか……」
早速装備を……と思った矢先、エフュールが二人に声を掛けた。
「時にペッパーはん、サンラクはん。あんさんら『スロット』は拡張してはるん?」
「スロット……?何だそりゃ?」
「俺はアクセサリー屋に行った時に空けてますよ。スロットが増えれば、色々と便利ですから」
サンラクは頭を傾げ、ペッパーは頷いて答え。エフュールはレクチャーを踏まえ、サンラクに説明をしていった。スロットは霊穴という物である事、一定のレベルに到達する事で1つずつ解放される事、そしてアクセサリーによってはスロットが永久に塞がれる事を。
「サンラクはんは、と……。フムフム、2つやな」
言うが早いか、エフュールの掌にエフェクトが宿り。「スロットオープン!」の掛け声を受けて、サンラクの身体に二度衝撃が走った。
「あで!?いったぁ!?」
「はい。此れで合計3つまで、アクセサリーやら色々と付けられる様になりましたわ」
眼鏡を仕舞い、エフュールは一仕事終えた表情で息を吐いた。ペッパーとサンラクは腕輪を装備するか否かを、彼女が作ったドールキーホルダーの性能を見てから、慎重に吟味する事に決め。
各々の付き兎と共に、ヴァイスアッシュが待つ鍛冶場へと向かったのだった………。
スキル成長か、レベルアップか