シャンフロをプレイする者達は……
兎の国・ラビッツ。ヴォーパルバニー達が日夜訓練にて汗水を流し、竜すら喰らう牙を研ぎ澄ます、訓練所が此の国には在る。
ヴォーパルコロッセオ━━━━━ユニークシナリオ【兎の国からの招待】にて、自身より格上だが機転を効かせれば倒せる相手との、10連戦を行う此の場所では現在、其のシナリオ突破者のペッパーとサンラクが、ヴァイスアッシュの手により真化を果たした武器と、今現在の己が持つスキルの検証をするべく、案山子を相手に試していた。
「………凄いな、サンラクの武器達は」
「いやぁ、此処までとは思わんかったわ……」
サンラクが手に握っているのは
其れをMAX状態となるまで蓄積する事で移行出来た、合体状態たる【
「おまけに最初試した枹も、連接したらカッコイイ『ヌンチャク』に成るとか……。しかも連接部分が『炎に成ってる』し、黒い鉄棒は『真紅に染まる』しで、もう最高かよ……」
二刀流対応の対刃剣の前に試した、二本の黒き枹武器たる
そして連接ゲージMAXと成り、燃えた先端同士を打ち合わせれば、炎の鎖で互いを繋ぐ【
「まぁ……武器で喜んでも良いが、問題も発生したしなぁ……」
実際に真化した武器を使って、サンラクが解った事。其れは皇弦月形態時に使えるスキルが、武器固有のスキル以外に『一つも存在していない事』なのだ。武器として使えれば問題は無いと思ったが、使えるスキルが無いともなれば話は大きく変わる。
「寧ろ武器の特性を、ウェザエモンとの戦いの前に解っただけでも、重畳じゃあないか?」
「其れはそうだな……後でエルク、いやマーニ無いわ俺………」
「だったらティークさんの所に行くと良い。ライブスタイドサーモンを相当な値段で買い取ってくれる」
「………マジ?」
「マジ。此れでも本当に助けられてるよ」
実際、ティークの元にサーモンと蜂蜜を持っていったお陰で、エルクからはスキルの秘伝書や極之秘伝書を、エフュールからはドールキーホルダーを大量購入出来たので、非常に有難い。
話を聞いたサンラクは「ちょっと行ってくるわ!」と、エムルと共に兎御殿の方へと戻っていき。一人残されたペッパーは、確認したスキル達を精査してウェザエモン戦を想定した立ち回りを、脳内にインプットと構築にアウトプットと実験を繰り返す。
此のスキルはどうだ?此のタイミングで何が来ると不味いか?其れを想定し、万が一に備えてスキルの使用タイミングを思考していった。
シャングリラ・フロンティアは少しずつ、深い夜の世界に成っていく……
フィフティシア━━━━シャンフロ第15の街であり、現状開拓者達が最後に辿り着ける、大陸の大きな港街である。
此処には様々なプレイヤーが近くのエリアにてレベリングを行ったり、自分の武器や装備を整えたりと、日々の修練を重ねる上級者や、廃人プレイヤーが活動拠点としている事でも有名な場所だ。
其の街の一角に『盾と剣と鎚と弓と杖を掲げるエンブレム』を旗に刻み、日夜問わずに『シャンフロの武器と防具の調査及び研究』を行うクランが在る。
【クラン:ウェポニア】。シャンフロに於いて武器防具関連に対する、狂気的な信念と共に武具の耐久調査や、特性検証等を徹底的に行うクランであり、クランオーナーを含めて『武器や防具が大好きプレイヤー』の集まりで結成されているのだ。
「オーナー。此の間『アリアン』が見付けてきた武器なんですが、ストーム・ワイバーン相手に耐久値が一割程度しか削られませんでした。滅茶苦茶ヤバイですよ!」
「其れは凄い……!修繕した後は、重量級を相手に試してみましょう。検証班にはゆっくり休むように伝えて下さいな」
「解りました!」
クランメンバーの持ってきた資料と『耐久結果報告書』を読み上げつつ、ウィンドウを展開してシャンフロwikiへ其の武器の情報を記載、及びクランメンバーに指示を飛ばしていく。
彼は『SOHO-ZONE』、クラン:ウェポニアのクランオーナーであり、病的なまでに武具の性能を調査して、能力の詳細を隅々まで解き明かす、武器狂いの通り名で知られているプレイヤーだ。
(ペッパー君はサードレマに居るらしいが、中々捕まらない為にコンタクトが難しい……ライブラリのキョージュさんに頼んで、話し合いの場を設けて貰う?いや、此処は自分から赴くべきか………?)
シャンフロに存在する七つの最強種、夜襲のリュカオーンと天覇のジークヴルム、二体のユニークモンスターに遭遇し、其の名を此の世界に轟かせては話題を巻き起こすプレイヤー。
彼が持っているユニーク小鎚や、名前隠しを可能にする
(何にせよ……交渉して愉快合羽とユニーク小鎚は、何としても手に入れたい。となれば………いよいよ『アレ』を手札として切るべき、か)
SOHO-ZONEはオーナー室の一角にある金庫を見つめ、近付いてダイヤルを回す。ガチャリと解錠と共に開かれた金庫の中に入っていたのは、其の身を『金と白に染めた神々しき盾』で。
「……此れならば、交渉するに申し分無しでしょうか」
シャンフロにて現状
新たに発見され、装備する事無く。万が一にも装備者を出さないようにと、厳重に保管し。
金の鏡面に映る己を見つめながら、SOHO-ZONEはペッパーとの来るべき交渉へと備えるべく、イーディスを金庫に仕舞いてデスクに戻ったのである……。
同時刻、シャンフロ第8の街・エイドルト。
各街に存在しているNPC経営のカフェ『蛇の林檎・水晶街支店』の一室にて、レーザーカジキの目の前には大量の御馳走が並べられていた。
対面には朗らかに、然れど背面には黒いオーラを漂わせ、彼を見つめるクラン:SF-Zooのオーナー、Animaliaの姿が在る。
「あ、あの……Animalia、さん?」
「そう固くならなくて良いわ。レーザーカジキさん……其れとも『ヒカル』って呼んだ方が良いかしら?」
「僕ゲームでも『姉さん』って呼びたく無いんだけど……」
レーザーカジキ、本名を
「……ラビッツは楽しかった?」
「えっと……はい。兎食の大蛇は倒せました」
「そう……良かったわね。エンチャント・ヴォーパルは初心者から上級者まで、格上相手と戦う上で切札に成るわ。確り使い潰していきなさいな」
「………はい、ありがとうございます」
ワイングラスの中にあるジュースを飲み、姉として弟が最期までユニークシナリオを終えた事を称賛し。そして静かに、本題を切り出した。
「時にレーザーカジキさん」
「はい………」
「貴方……ジークヴルムと遭遇した時に、ペッパーさんと一緒に居たって本当?」
「………へ?」
雑談掲示板のジークヴルムが千紫万紅の樹海窟に降りた所まで遡った時に、レーザーカジキは他のプレイヤーに助け出されたという情報が有り。そして故障争奪戦争というスレにて、レーザーカジキは既に何らかの形でペッパーと接触を果たし、交流している事を知った。
灯台下暗しとは正に此の事か━━━━━受けた衝撃以前に、Animaliaはレーザーカジキに感謝している。まさか身内に、シャンフロで話題を引き起こしては各地に神出鬼没になるせいで、足取りを掴む事が難しいペッパーへと繋がるパイプが、こんな近くに居た事に。
「えっ、えっと………」
「あぁ、大丈夫大丈夫……。ちょっとペッパーさんとコンタクト、もといフレンド登録したいから、其れに協力して欲しいってだけよ」
(………………絶対嘘だ)
レーザーカジキは真理亜の狙い、そして彼女の夢を知っている。嘗て兎の国・ラビッツにて時間制限が有る中で、一向にクエストを進めなかった結果、強制退国によるクエスト終了になったSF-Zooと姉の話が有る。
今尚、シャンフロの歴史でも語り継がれる事件であり、其れ以来彼女と彼女のクランがラビッツ再訪問と、フリーパス入手及び永住権獲得を密かに狙っている事を。
Animaliaを……姉の事をよく知るが故に、レーザーカジキは『ブレーキ』を掛ける事の重要性を学び、そして動物と触れ合う事の『素晴らしさ』も学んだのだ。
「ペッパーさんは其の……『普通にプレイしている』……だけ、だと思う……よ、姉さん」
レーザーカジキは言う。自分が見ていた彼は何時も、唯々楽しそうにゲームをしていて。其の場其の時其の瞬間を、全力で楽しんでいる様に見えて。
しかし其れが通用するなら、世の中に争い事やらが起きないのは明白であり、そしてシャンフロトッププレイヤーたるAnimaliaも、話を聞いて納得するのであるが。
「
あ、駄目だ完全に逆効果になった。自分の発言が姉の地雷を踏み抜いたと、レーザーカジキが気付くのが後少し早ければ、結果は違っていただろう。
「取り敢えず、ヒカル。ペッパーさんに
「えっと……ハイ……」
ペッパーさん、ごめんなさい………。
ラビッツ再訪を夢見るAnimaliaの姿を見ながら、レーザーカジキは未熟な己に心で泣いたのであった……。
試す者、企む者、知る者