其の時の世界は………
※今回は短めです
午後7時半過ぎ、現実世界・ユートピア社の社員エントランスホール。
確りと手入れされたスーツを着こなし、ピッカピカに磨かれた革靴を履いた、鋭い目付きと眼鏡のオールバックのイケメンキャリアマンが、袖内のポケットに大事に仕舞った、漢方成分入りの胃薬が入っている小瓶を取り出して、複数個掌に乗せるや水を使わず呑み込む。
彼は
(久しぶりに妻の夕食が食べれて幸せだったのに、こんなタイミングで本社から呼び戻しを食らうとは……。まぁ内容は大体、予想出来るがな)
はぁ……と一際大きな溜息を付きながらも、彼は専用エレベーターに乗り、ユートピア社の原典閲覧室へと向かう。
到着後、彼の耳に響いてきたのはもう幾百も越え、良い年頃の女二人の幼稚園児じみた、止めなくては永遠に続くだろう言い争う声が。
妻の手料理+胃薬による加護を受けて尚、胃がキリキリする感覚に苛まれながらも、あの双神を唯一人止められる自分がやらなくては、シャングリラ・フロンティアそのものに影響が出る。
覚悟を決めた木兎夜枝は、三段階認証を終えて原典閲覧室へ足を踏み入れて、そして己の目の前で猿の様な奇声を上げ、創世と律がキャットファイトの如く取っ組み合いをしていた。
「何でよりにもよって、ヴァイスアッシュ・シナリオのモンスター10連戦の中に『
「其れは此方が聞きたいわよ!何であの10連戦の中に『オルケストラを模倣したユニーク
「また勝手にシナリオ書き換えたオマエが原因作ったんだろうが!?」
「なぁんですってぇ!?此の!私の!世界の!シナリオに!ケチを付けるつもり!?」
「………落ち着け、二人共。取り敢えず深呼吸。其れからシャワーを浴びるか、風呂に入ってくれ。もう三日は入ってないだろう」
そんな彼女達の間を割り裂く様に、木兎夜枝は創世と律のキャットファイトを止めて、此の場を納めに掛かる。
「先ず状況を説明してくれ。律、何があった」
「………ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】。
「………成程。で、創世。オルケストラのユニーク遺機装のフラグモンスターは?」
「ヴァイスアッシュ・シナリオの実戦的訓練、5体目に出て来た
話の筋が読めた木兎夜枝は、そう言う事かと溜息を溢す。創世がインパクト・オブ・ザ・ワールドのクエストEXを解放されて、此れ以上受注プレイヤーの思惑通りにさせんと弄くった結果、其れが律にバレた。
しかし実戦的訓練の中に、ユニーククエストEXに関わるフラグモンスターが含まれていたのを、律の調整ミスだと創世が突っ付いて、今回のキャットファイトに発展したのだと。
「ペッパー……か」
プレイ開始から僅か一ヶ月と少しでありながら、リュカオーンに傷を刻み付け、ヴァイスアッシュ・シナリオへ最初に関わっただけに留まらず、ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】を受注し、
更にはクエスト中の行動により、ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元へ集え】を解放して、天覇と墓守のユニーク遺機装を手にした、未知数の実力を持つプレイヤー。
と、そんな三人に追い打ちを掛けるが如く、創世のパソコンにピロリン♪と、1通の着信メールが届いて。またペッパーがやらかしたかと、メールを確認した創世は苦い表情をし始めて、律と木兎夜枝は其所に在った事実に目を丸くした。
『ユニークシナリオ【兎の国の招待】、クリアユーザーを確認。
プレイヤー名:サンラク。称号【ラビッツ名誉国民】を獲得。
実戦的訓練クリア時、ヴァイスアッシュのペッパー及びサンラクに対する、規定値以上の好感度とヴォーパル魂所得により、ユニークアクセサリー【
ユニークシナリオ攻略に伴い、ユニークシナリオEX【
「嘘でしょ……」と創世は歯軋りを、律と木兎夜枝は新たにユニークシナリオを攻略したサンラクに、各々が警戒を強くする。
「ペッパー……サンラク……か」
「何にせよ、此の二人は警戒必至だ。また何かやらかしかねん。其れと創世、またシナリオを書き変えると、他の調整班の仕事が絶大に増える。程々に頼むぞ」
「………解ってるわよ」
ペッパーという悩みの種に続き、新たにシナリオを攻略したサンラクが、神々の記憶に刻まれた。そして此の二人によって、シャングリラ・フロンティアという世界は、大きな畝りに直面する事に成っていくのである……。
神々は見た、ギラリと煌めく双つの星を