貪食の大蛇戦、決着
ゲーマーには様々なプレイスタイルがある。
自らに縛りを設けて遊ぶ者、回復アイテムよりも強い防具や武器を求める者、様々なアイテムを満遍なく揃えて万が一に備える者、皆遊び方が違うように十人十色のスタイルを持っている。
ペッパーの場合は、武器や防具よりも回復や状態異常対応のアイテムを揃えて、戦いに赴く慎重派タイプのゲーマーで、毒や麻痺等の状態異常回復アイテムを序盤で買う場合、少し割高感があり購入を戸惑う者も居たりするが、彼は其れを惜しまない。
あらゆる可能性を考慮し、万が一に備えて準備をする……其れがペッパーのスタイルだ。ビンに入った解毒薬を一気に飲み干すと、ステータスの毒の表記は綺麗さっぱり消え去り、減少していた体力バーも7で止まる。
「解毒完了!第2ラウンドと洒落混みますか!」
アイテムインベントリから、空いた右手に薬草を持って噛り付き、毒のスリップダメージによって減少した体力を上限一杯に巻き戻し、戦闘は再開された。
(毒の糞は尻尾から出たから、頭と尾の位置を常に意識!上手く『直線』になるように誘導して、毒を飛ばさせないように動け!)
毒攻撃の経験を、貪食の大蛇の位置と己の位置を、ペッパーは頭に叩き込みながら、畝り迫る巨体をステップワークを発動したサイドステップで回避を行い、過ぎ去り様にスイングストライクを横っ腹に見舞う。
『シャアアアアアア!!!』
と、再び貪食の大蛇の尾先が震える。再び毒攻撃かと感じたペッパーは、アイテムインベントリから護身用ナイフを右手に装備し、ブームスローのスキルで尾先の僅かに空いた穴へ投擲する。
だが━━━━━大蛇は毒糞を吐かず、其の尾を使いペッパーを巻き取らんと、猛スピードで伸ばしたのだ。
「マジか」
護身用ナイフは巨躯に弾かれ、宙を舞い、峡谷の中へと落ちていく。そしてペッパーの身にも、巻き付き攻撃が迫り来る。
「『一艘跳び』!」
強化された跳躍力、空を切る尾による巻き取り攻撃。着地したのは、大蛇の長い胴の上。
『キシャアアアアアアアア!!!』
「ランニング・コブラ・ウェイ!」
敏捷を高めるスキル『アクセル』を使用し、畝り狂う不安定な足場を駆け抜け、ペッパーは貪食の大蛇の頭部に肉薄する。
鋭い牙を翳し、噛み付かんとする大蛇だが、彼の狙いは『蛇の噛み付く際の挙動』にあった。
貪食の大蛇の頭が、左目を上に縦になる。ふわりと上がる白の髪、其の瞬間を待っていた。
「一艘跳びのスキル適応時間は…まだ残ってる!!」
跳び上がり、噛み付きを回避。右手で白毛を掴み取り、ペッパーは左手のロックオンブレイカーで、大蛇の左目を力一杯ブッ叩く。
『ギジャアアアアアアアアアア!!?!』
「うぉあ!?暴れるな、このっ!!」
生物にとっての急所、眼球への攻撃。ロックオンブレイカーにより攻撃力が高まり、左目に破壊部位が付く。貪食の大蛇は取り付いた敵を振り落とすべく、其の全身を捻りくねらせて、地面に己が身を叩き付ける。
「ッ…!こんなろ、食らえやヘビ公!」
足腰で踏ん張り、右手に握る髪を強く握り締め、ペッパーは
急所攻撃によるクリティカル。
破壊部位へのダメージ補正が働くスキル。
ユニーク武器の能力による攻撃上昇。
3つの要素が噛み合った結果、貪食の大蛇は頭からポリゴンと化して弾け跳び、長く巨大な体躯は爆散。ペッパーのレベルアップを告げるSEが鳴り響く。
「よっしゃあ、撃破ー!レベルは1つ上がった……ぜ……………」
単独でのエリアボス撃破を成し遂げ、喜びに跳躍するペッパーだったが、空を見上げれば既に世界には夜の帳が降りていた。
黒い画用紙のキャンバスに彩りが付くように、天には黄土色の三日月が昇り、都会では街灯の灯りに掻き消されて見られない星々の淡い煌めき、そして一閃の瞬きと消える流れ星が軌跡を描く、夜空の絶景が広がっていたのだ。
「綺麗だ……」
深い山奥や高い山の山頂でしか見えない、幻想的な美しい景色に、彼は思わずカメラ機能を作動させ、スクリーンショットを撮影し、暫く空を見上げていた。
「………って!もう夜じゃん!?思った以上に時間掛かり過ぎてる!セカンディルでリスポーン更新しないと!」
貪食の大蛇を倒した事で、セカンディルへの道を塞ぐ障害は無くなった。ペッパーは夜の道を駆け、セカンディルの宿屋を目指す。
だが、彼は気付かない。
己の背後で、暗闇が笑っていた事に。
危険とは何時の間にか、背中に寄り掛かっている