ウェザエモンに備え、修練怠るべからず
ヴォーパルコロッセオにて試作型戦術機獣【天王】の動作確認を行った日から四日が過ぎた。コンビニのバイトや大学の講義でシャンフロをプレイ出来る時間が少なくなったが、何とか空いた時間を有効活用して鉱石を掘ったり、ヴォーパルコロッセオにてスキルの確認をしたりと、出来る事を続けていった。
そして今日はモドルカッツォの呼び掛けの元、ブラックペッパーとサンラクは便秘にて、対ウェザエモンの超速攻撃に対応するべく特訓をする事になっている。
「おりゃさぁああああああ!!!」
便秘ストーリーモードの4面ボスに、アルゼンチンバックブリッカーを極めながら、放り投げて地面に叩き落とした事で体力が0となり、見事に勝利を納めたブラックペッパーは思いっきり背伸びをしていた。
「敵もバグ技使ってくる様になったし、油断したら負ける……。3面時点で雰囲気は有ったけど、4面入って難易度がガラッと変わったな………」
道中の雑魚敵もバグ技、フィールドギミックもバグまみれ、そしてボスに至ってはラウンド開始前からバグ技のオンパレードと、バグゲーム特有の恐ろしさがてんこ盛りである。
「さて、そろそろかね……モドルカッツォとサンラクは」
サンラクには1ROUND奪取出来たが、モドルカッツォには出来ていない。ならば、リベンジするには丁度良い頃合いだろう。
パイプオルガンとプラネタリウム、二つの新しいバグ技で初見殺しをしに行き、同時に此方も初見殺しをされる覚悟を決め、ブラックペッパーは集合場所へと走って行くのだった……。
「おーい、ブラックペッパー」
「居なかったから心配したぞ」
「悪い悪い、さっき4面のボスにちょっと苦戦してたんだ」
プレイヤーがログインログアウトするエントランスエリアに戻ってきたブラックペッパーは、待っていたサンラクとモドルカッツォと合流する。
「てか4面か、バグり具合ヤバかっただろ彼処?」
「ほんっっっっと其れよ!初見殺しの落とし穴三連打は回避したけど、其の後の道中の雑魚敵にはボコされたわ」
「三連落とし穴回避出来たんか、ブラックペッパー…。ストーリーモードの初見殺し、ベスト5に度々上がるんだがな……」
便秘が本気でプレイヤーに、バグを叩き付け始めるストーリーモード4面の話で盛り上がっていると、此方を見つめる視線が一つ。サンラクが其れに気付いて振り向くと、其所に居たのはドラゴンフライだった。
「お、ドラゴンフライじゃん。よっ」
「やぁ、久し振り」
「お久し振りです!ブラックペッパーさん、サンラクさん!」
タタタッと駆け寄ってきたドラゴンフライを見て、声を掛けるサンラクと手を降るブラックペッパー。
「サンラク、ブラックペッパー。ソイツ知り合いか?」
「前に俺とブラックペッパーが、50連戦組手をした時に出逢った。因みに其の日が、ゲーム初日の新規プレイヤー」
「えっマジで?」
「マジマジ、俺も後輩が出来るとは思わなかったよ」
モドルカッツォも、まさかこんな過疎ゲーに新規プレイヤーが参戦する等、夢にも思わなかっただろう。感想やら何やら色々聞きたいが、其れは其れとしておいて。
「早速やりますか?御二人さん」
「何時でも良いぜ」
「掛かってきな。ブラックペッパー、サンラク」
『便秘の超速攻撃で対ウェザエモンの攻撃に対応しましょう作戦(モドルカッツォ命名)』が幕を開けて、三人の修行が始まった。
「はいそこっ!」
「掛かったなタコが!」
「其れありぃ!?アベシ!」
「ハッハッハァー!きっもちぃぃぃぃ!」
モドルカッツォを相手に、久方振りの勝利を手に入れたサンラクが吠えていたり。
「食らえサンラク!俺のバグ技、プラネタリウム!」
「え"っ!?ナニソノバグ技!?」
「居合フィィスト!!!」
「更にマシマシィ!頑張れ俺の脚イイイイ!!」
「うぉぉぉぉぉ!アボババババババ!?」
「サンラクぅぅぅぅぅ!?」
「よっしゃああああああ勝ったアアアア!」
ペッパーが新規発見したバグ技・プラネタリウムを披露し、モドルカッツォが驚愕して。サンラクが居合フィストで応戦したが、更に増量させるために脚を振るいまくって、脚の物量で居合フィストを押し潰したペッパーが歓喜に叫んだり。
「食らえR18触手アタック!」
「ネーミングセンスゥ!?」
「はっはっは!最終的に勝てば良かろうなのだぁぁぁぁぁ!」
「パイプオルガンくらええええ!」
「えっ其れも新バグあふん!?」
「ぐべふぇ!?」
四方八方からくるディレイ込みの四肢と、無数に飛び行く脚が双方に叩き付けられ、ダブルノックアウトで引き分けになったりしながら、三人は当初の目的を忘れて、便秘での対人戦を楽しみ尽くし。
そしてドラゴンフライもまた、楽しそうにプレイする三人を見て、キラキラと目を輝かせていた。
だがしかし、三人は肝心な事を忘れていたのである。今日此処に集まったのは、便秘で戦う為では無く。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンの繰り出す、超速の攻撃に身体を適応させる為だという事に………。
「……いやちょっと待て!?俺達今日、何の為に便秘に集合したんだよ!?」
便秘での戦いでヒートアップした身体を休める中、本来の目的を思い出したサンラクが声を上げた。
「はっ!確かに……俺達アレの為に集まったんだった!」
「やっべぇ……単純に楽しんでいただけで、完全に目的を忘れてたわ……」
作戦発案者のモドルカッツォ本人ですら、やるべき事其の物を忘れていた。つまり其れ程までに、夢中で熱中していたという事なのだ。
「えっと……ブラックペッパーさん、サンラクさん、モドルカッツォさん。皆さん、凄いバグ技を使って戦ってる時、凄く『楽しそう』に笑ってました!真剣勝負みたいなのに、勝ち負け以前に本当に楽しんでいました!そういうのを本番で出来るのって簡単な様で難しいので……尊敬します!」
そんな時、声を掛けてきたのがドラゴンフライであり。其の言葉が三人の中にあった、対応出来なくてはならないという固定観念の糸をブツリと切り落とした。
「………其れもそうか。見てから避けられる可能性だって有るわけだし」
「モーションを理解出来れば、其所から理詰めして積み上げて行けば良い」
「得られた情報と攻撃パターンの判明で、対応出来れば何の問題も無いか」
相手は最強種の一角、そして自分達はプレイヤーであり、同時に『チャレンジャー』なのだ。カテゴリーこそ違えども、各々が其の中で名を馳せるゲーマー達。
本気で戦って、未知を楽しみ尽くし、そして勝利をもぎ取る。そうしてこそ、本当の意味で『挑戦する』という事なのだろう。
「ありがとう、ドラゴンフライ。おかげで覚悟が決まったよ」
「えっ?」
「サンラクに同意だ、アイツと戦える事が楽しみになってきた。サンキューなドラゴンフライ」
「えっ、ええっ?」
「大切な事、思い出せたよ。本当にありがとう」
「ど、どどどど、どういう事ですか~!?」
思わぬ所から、思わぬ人物によって、解らなかった事が解るというのも、ゲームではよくある事だ。意図が掴めずに困惑するドラゴンフライへ、三人は御礼として便秘のバグ技をレクチャーしていったのだった……。
そして数日後……遂に時は訪れる。
身体に刻み込む戦い