VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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其れは紛れもなく、ヤツさ




I dance to NIGHTMARE (前編)

「えっほ、えっほ!」

 

セカンディル周辺の何もない荒野を、全力疾駆するペッパーは地図を横目に確認しながら、空腹パラメーターが半分を切らないように簡易食糧で食事を取り、街を目指して真っ直ぐ進む。

 

「あともう少し…!目と鼻の先…!」

 

セカンディルにさえ到着すれば、リスポーン地点を更新して、夜の探索や夜行性のモンスターとも戦える。ゲームの仕様上、死亡してもリスポーン出来る上、規約を遵守すればセーブデータの消去は無い。

 

昔のデスクトップ…今ではレトロゲームになってしまったが、其の中の1つにSDサイズのカラスになって、夜の世界を渡り歩くオープンワールドタイプのゲームがあり、ペッパーは其の画面越しに作り込まれた、精密な夜の『暗さ』に息を飲んだ経験がある。

 

シャンフロの夜も、其のゲームと同じ『暗さ』もそうなのだが、4月特有の寒暖が混じり合う風が肌を撫でる感触や、大地に降り注ぐ月光の仄かな輝き等、まるで自分達が経験したであろう感性を、ゲーム世界で体験出来るレベルにまで持ってきた、別次元のリアリティーだった。

 

「でも本当に凄いなぁ…シャンフロ。夜の暗さに光の強弱、此処まで細かく作り込みました!って作者とスタッフの本気と意気込みが、犇々と伝わってくるように感じるね」

 

時代と共に進化するゲームとクオリティ、其れを実現させ現実に持っていくクリエイター達の努力が、シャンフロを神ゲーにしたのだろうと、ペッパーは思った。

 

と、其の時。

 

 

 

 

 

 

自分の首に死神の鎌を掛けられた感覚がした。

 

 

 

 

 

 

「!!?!??!!!!?」

 

彼の感じた脳内イメージは、全神経と全感覚に未知なる驚異を回避するべく、反射的本能的行動を取らせ。

僅か数瞬の間に先程まで自分が居た場所は、爆弾が弾け飛んだような衝撃と爆風が産まれ、ペッパーの背中を押し飛ばした。

 

思いっきりズッ転んで、顔面を強打。体力が半分(5)まで減るがペッパーは何とか生きている。急ぎアイテムインベントリから薬草を取り出して右手で食しながら、空いた手でロックオンブレイカーを装備して、初めて巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)と出逢った時の厳戒態勢を敷く。

 

 

 

 

砂煙が劇場の幕を開けるようにして、躍り出るは黒の…漆黒すら生温い、底無しの『闇』。

 

月明かりが仄かな光照らす大地を踏み締め、四足でひび割れた大地を歩む大型の『獣』。

 

尖った耳と風に揺れる炎のような黒毛と、敵を意図も簡単に引き裂き、噛み千切る事が出来そうな『爪牙』。

 

 

 

彼は出逢ってしまった。

 

シャングリラ・フロンティアの『真の姿』に。

 

『狼』という形が成った、暗闇の『権化』そのものに。

 

 

 

 

『ユニークモンスター』

 

『夜襲のリュカオーンと遭遇しました』

 

 

 

 

 

「ユニーク……モンスター……」

 

黄土色の三日月が頭上で淡く、妖しい光を下ろす大地の元に、闇夜を纏う1匹の獣がペッパーに向けて喉を鳴らす。

 

『夜襲のリュカオーン』

 

今、自分の目の前に現れたモンスターの名前で、十中八九獲物を――――自分を狩らんとする存在。

 

「………ヤバいな」

 

長い間RPGを始めとした、様々なレトロゲームをプレイしてきたペッパーには、経験から相手と自分の間に在る実力の差を理解する力が育っている。

 

完全初見でプレイしたレトロゲームの、序盤で起こる負けイベントを本能的に理解し、ロジックに抗う為に現時点の自身の持つ手腕・技能・アイテム全てを活用して、負けという終着点を覆すべく戦い、結果として負けイベントは進行する事になったものの、やるだけの事をやりきって抗い抜いたという、自分の中で納得出来る着弾点を作ることが出来た。

 

其れを幾度と無く繰り返していく内に、これもまたゲームの醍醐味なのだと思えるようになり、ストーリーで製作者の仕組んだ絶対不変の敗北さえも楽しめるようになった。

 

だからこそ、理解出来る――――否、出来てしまう。

 

(今のコイツを相手に……何をやっても俺が勝てる未来(ビジョン)が、見えない……!)

 

武器・技能・アイテム――――持ち得る全てをぶつけても、夜襲のリュカオーンには勝てないという事実。何度も何度もゲームで経験した感覚が、ゲーマーとしての本能が過去最大の警鐘を告げている。

 

逃走さえもコイツなら一瞬で潰して、おつりとばかりに瞬殺さえ朝飯前に出来るだろう。自分の事を、容易く食える前菜とでも考えているのだろう。

 

「………ハハハ。ヤバすぎて笑えるな」

 

ペッパーは笑う。

 

圧倒的不利と死亡確定の終着点を悟ったから?――――違う。

 

予測の範疇を越えた理不尽な出来事に、己の無力感を味わったから?――――違う。

 

シャングリラ・フロンティアが嫌いになったから?――――違う!

 

「あぁ、やってやろうじゃねぇか!今の俺の全てで挑んでやるよ――――夜襲のリュカオーン!」

 

覆らない、ならばどうするか。ペッパーは『開き直った』のだ。逃げられないならば、リュカオーンに自分という存在を刻み込んで倒れてやる。

 

其の為なら、今持っている武器もアイテムもスキルも、全リソースを吐き捨てても構わない。後先の思考を放棄し、此の戦いに全てを注ぎ切ると。

 

リュカオーンが大地を踏み締める。そして黒の巨体が繰り出すのは、此れまでプレイしてきたアクションゲームの敵キャラが放った攻撃よりも、遥かに速い右前足の踏み付け。

 

着弾、爆発、暴風で大地は抉れる。

 

「どぅおわぁ!?こなくそ、食らえ!」

 

土塊と岩粒が飛び交う中、ロックオンブレイカーで砕いて進み、指先に小鎚の一撃を叩き込む。ガァン!と響くは鉄同士が真正面から激突し合った音であり、其の規格外の『固さ』がペッパーの腕を通じて、脳にリュカオーンの情報を刻み付ける。

 

「固ったぁ!?何だこちょわ!?」

 

返す刀、もとい右前足の速い斜め振り上げがペッパーの頭を正確に狙い、彼は其れを紙一重といった所で回避。敏捷に補正を加えるスキルのアクセルで、一先ず距離を置いて情報を整理。

 

「あっぶね…!油断とか決断が一瞬遅れるだけで、直撃所か地面叩き砕いた衝撃波だけでも、此方はマジで死ぬ…!!」

 

自身の体力を加味し、ペッパーは自分自身が使う戦法を用いる事にした。

 

「こうなったら…『ヒット&アウェイ作戦』でやるしかない!!」

 

ヒット&アウェイ作戦とは、ペッパーがアクションゲームで格上相手と戦う時に使う、自身の中に確立している戦法の1つである。

 

其の特徴は『後出し』――――格闘技でいう処の『後の先』であり、相手にひたすら攻撃を出させて、攻撃後に発生する『硬直』や『隙』を見極めて狙う方法だ。

 

リュカオーンの攻撃パターンと、自身のスキルの継続時間と再使用時間(リキャストタイム)を、自分の頭の中にノートを書き写すようにして入れながら、ロックオンブレイカーを振るい、ペッパーはリュカオーンに立ち向かう。

 

例え、敗北の未来が覆らなくとも――――――

 

 

 

 

 

 

「はぁ…!はぁ…!くっそ、滅茶苦茶きっつい…!」

 

リュカオーン相手に適切距離を維持し『ヒット&アウェイ作戦』を開始してから、およそ10分が経過する頃。

 

ロックオンブレイカーのダメージ補正上昇能力で、何度も何度も叩いても、リュカオーンの体力が減る気配が皆無だった。 其れ所か、巌喰らいの蚯蚓の素材より作られたロックオンブレイカーが、耐久値の警告を告げる画面を表示する。

 

(ただ、戦う中で『解った事』もあった。コイツの纏ってる毛は『頑丈過ぎて』ダメージが通らないが、打撃系統の『衝撃』は通る。

 

つまり、コイツは『無敵』って訳じゃない――!)

 

勝てないと本能的に理解したリュカオーンだったが、ほんの僅か、そして少しずつ、其の生態を掴みつつあった。

 

(ダメージは通っている!ロックオンブレイカーの耐久値『さえ』回復出来れば、勝機はある!だけど…!!)

 

次々に攻撃を繰り出し、休む所か思考させる刹那さえも、リュカオーンは許さない。発生の速い攻撃で畳み掛け続け、ペッパーのリソースを回避に費やさせるよう動かさせていく。

 

(此のスピードにパワー…!此方が回復させる暇すらくれない!)

 

右足による斜めからの攻撃を何とか弾き、後ろに吹っ飛ばされながらも踏ん張った所で、遂にロックオンブレイカーの耐久値が限界一歩手前となり、破壊警告画面とアラートのけたたましい音が鳴り響く。

 

「ッ………選手交代だ!やるぞ、致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)!」

 

制作秘伝書は在れど、ペッパーは自分に良くしてくれたファステイアの鍛冶師の想いを、此処で終わらせる訳にはいかなかった。

 

限界を迎えたロックオンブレイカーを戻し、アイテムインベントリから致命の小鎚へと武器を切り替える。右前足の踏み付け・左前足の横払いを躱わし、致命の小鎚を足首関節にぶつけ、即座に離脱する。

 

ペッパーは狙っている――――人間や動物の関節部に衝撃が蓄積すれば、其の箇所には『痺れ』が起きる。夜襲のリュカオーンが『動物』であるならば、其の摂理も『例外』なく発生するであろうと。

 

彼は耐え忍び、堪え凌ぎ続けた。リュカオーンが『想像していた以上』に。

 

戦いとは『天秤』でもある。苛烈に攻める側と守る側の高度な知略がぶつかり合い、此の瞬間までは確かに『拮抗』していた。

 

しかし、其の拮抗は時として簡単に失われる。

 

リュカオーンの攻撃を回避し、後出し反撃をしようと踏み込んだペッパーの足元が、僅かに『崩れた』。体幹がズレを起こし、小鎚の当たりがブレて足首ではなく足の甲に、致命の小鎚はぶつかる。

 

『拮抗』が動く。

 

「しまっ…」

 

バランスを崩すまいと、スキルの一艘跳びで横に跳躍したが、其の眼前にリュカオーンの牙が差し迫る。漸く隙を見せたとばかりに、獲物を噛る此の瞬間を待ち望んでいたように。

 

「させっかよ――――――!」

 

左手の中で逆手のスイッチを行った致命の小鎚で、スキル『スイングストライク』を使用。リュカオーンの横っ面を殴り付けようと振るった瞬間。

 

リュカオーンの顔は黒く『変質』し、スライムの様に『変形』。小鎚のフルスイングは空を震わし、空を切る。

 

「………は?」

 

ペッパーのすっとんきょうな声が闇夜に溢れた瞬間、リュカオーンの牙が彼の右腕に突き刺さり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペッパーの右腕は、肩より先を噛まれ。

 

肉が裂けるように、轢き千切られた。

 

 

 

 




其れは定められた運命か、神が嗾けた悪戯か



夜襲のリュカオーン:原作でもお馴染み、夜を駆ける狼。ユニークモンスターの中でも、最も知名度が高い存在。リュカオーンを含めたユニークモンスター達は全員、俺TUEEEEE!だろうが勝てる調整してねぇよ死ね!を地で行くモンスターで、初心者が遭遇したら先ず理不尽の塊で押し潰される事は避けられない。

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