第三段階、各々の戦い
『ペッパー、此ノ時ヲ待チワビテオリマシタ』
ユニーク
全長は3m程で麒麟と比べれば見劣りしてしまうが、現実世界の馬よりも大きな巨体と、頭部周りのバルブから噴き出す白い蒸気は、高出力を顕すには充分だった。
「おっ、遂に装備を纏ったなペッパー!」
「アレが悠久を誓う天将王装……そして戦術機獣の天王っていうロボットホース……!」
第一及び第二段階では、堅牢な鎧に包まれてダメージが通らなかったウェザエモン。第三段階にてダメージが通るようになった敵に対し、サンラク・京極が各々の武器とスキルで反撃する中、ペッパーが召喚した天王をチラリと見た。
兜型フルフェイスヘルメットに表示される、天王の機能を見つつも、ペッパーはフィールドの状況を整理。数秒の沈黙を経て、天王にオーダーを発令する。
「天王。君には甲冑形態になった麒麟を足止めしている、紫髪で槍を使うペンシルゴンと、金髪ツインテのオイカッツォのサポートをして欲しい。ただし無茶はしない事。其れと、万が一にウェザエモンに異変が起きたら呼ぶから、此方に戻って来てくれ」
『了解シマシタ、ペッパー』
白い蒸気をバルブより噴き出して、天王は甲冑形態へ変型した麒麟と戦う、ペンシルゴン・オイカッツォの援護をするべく、馬特有の蹄で地面を鳴らしながら駆け出して行く。
「頼むぞ天王。麒麟相手には、馬の手も借りたいからな」
そう言ってペッパーはウェザエモンの方を向き、鬱憤を晴らすべく戦うサンラク・京極を見て、自分も攻撃をしに行こうとし。其の瞬間、自身の背筋を強烈な悪寒が走ったのを感じた。
まるで『このままウェザエモンに突撃したならば、其れこそ取り返しの付かない事態が発生する』。そんな予感が、彼のゲーマーとしての勘に響いたのだ。
(何だ、此の嫌な感じは………)
喉に魚の小骨が引っ掛かった様な『もどかしさ』と、何か大事な事を忘れてしまったかの様な『虚無感』を抱き、ペッパーは必死に理由を考察する。
悠久を誓う天将王装の持ち主たるウェザエモンの事、彼の恋人であるセツナの事、此のフィールドと桜の巨樹と根元に在る小さな墓標の事。
(…………まさか)
もしも、其れが有り得るのならば。もし、其れが正しいならば。産まれた仮説を立証するべく、ペッパーは『セツナの墓』へと駆け出して行く。
そして其の行動を、ウェザエモンはサンラクと京極を相手にしながら、ツインアイでペッパーを捉え続けて居たのだった………。
サンラク・京極が、ダメージを与えられるようになったウェザエモンとの戦闘を。ペッパーが天王に指示を出しつつ、自身はセツナの墓へ急行した頃。
人型の甲冑形態へ変型した麒麟を相手に、ペンシルゴンとオイカッツォは戦闘を繰り広げていた。
「カッツォ君、殴った手応えはどう?!」
「めっちゃくちゃ硬いけど、ダメージは通るよ!」
唯でさえ強靭で堅牢な麒麟では有るものの、人型に変型してくれた事は、オイカッツォからすれば朗報でも有った。VRゲーム全盛期たる此の御時世、人体構造の理解及び熟知はゲーマーとして必須科目。
日本最強クラスであり世界にも通用するプロゲーマー・
(まぁ、あっちでウェザエモンと戦ってるユニーク持ちのクソゲーマーだったり、ユニーク関連一人で何個持ってるか解らない思考深度が異常なレトロゲーマーは、其の予測を軽々と越えてくるんだけどネ)
思えばあの二人も大概だなと思いながら、点火した格闘スキルを膝に叩き付け。麒麟の巨腕の掌から放たれる、高出力のビーム砲撃を回避しては、麒麟の各部位に拳気を打ち込んで感触から弱点を炙り出す。
「ペンシルゴン。一応一通り殴ったけど、麒麟は何処もかしこも硬過ぎる。ただ、甲冑のお腹……と言うよりは腰?は他より異常に堅くて、多分彼処の装甲を破れればイケる気がする」
「バフ積んで、最大火力で殴っても駄目そう?」
「天秤のバフと近接関係全部積んでも、ちょっと足らないかなぁ」
自身を動かす事を、積み上げて突き詰める事を、オイカッツォは理想としている。例え1から始まったとしても、積み上げ重ねて極めて行けば、必ず100まで到達すると信じているからこそ、揺るがない信念を持つからこそ、彼は強い。
と、二人の後方から蹄を鳴らし大地を駆ける音が鳴り、ペンシルゴンが振り向くと、鉄機の騎馬が一頭此方に走ってくる。
「えっ麒麟!?」
『イエ、私ハ天王。ペッパーヨリ、ペンシルゴン並ビニ、オイカッツォノサポートヲスルヨウ、オーダーヲ受ケテ来マシタ』
「天将王装の天王ってお前か!てか麒麟より小さいけど、十分デッカいな……」
ビーム砲撃を逃れて走るペンシルゴンに、余裕を以て追い付いた天王を見、オイカッツォはユニーク良いなーの視線を向け。然れど振り翳された鉄拳を回避し、何とか状況打破出来ないかと思考を行う。
「カッツォ君、コレ使って!」
そんなオイカッツォを見たペンシルゴンは、アイテムインベントリから魔槍と『小瓶に入った丸薬』を取り出し、オイカッツォに薬を投げ渡した。
「ペンシルゴン、ナニコレ?えっと…『
「噛み砕いて飲み込むと色んな
昔身を以て経験済みのペンシルゴンは、遠い目をしながらチラリとオイカッツォを見つつ、天王へと指示を出す。
「さて……天王ちゃんだっけ?君は現状私達のサポートをしてくれるんだよね?」
『ハイ。但シウェザエモンニ、何カ変化ガ起キタ場合ハ、ペッパーノ元ニ戻ル事ニナッテイマス』
「OK。馬の脚も借りたかったから、君の戦果に期待するよ!カッツォ君、やれる!?」
「
放り投げた黒い丸薬を口に含み、拳を重ねると同時に犬歯を以て、オイカッツォは薬を噛み砕く。同時に訪れるは視界の反転に五感の鈍重化、此れでも
黒幕魔王とプロゲーマー、そして機械の巨騎馬を加えし、二人と一頭のパーティーは甲冑形態と化した麒麟に立ち向かう…………。
反転の花園の中心に立つ、満開に咲き誇る桜の巨樹。其の根元に有る墓の前へと、ペッパーはやって来た。墓標には英語で、『SETSUNA AMATUKI』と文字が刻まれている。
「セツナ アマツキ………彼女の墓か」
墓守のウェザエモンが名前通りの存在ならば、何よりも最優先で恋人の墓を攻撃する者に対し、排除の選択をする筈だ。しかし、ペッパーは墓に攻撃する事はしない。
墓の前に一礼して正座で座り、左利きたる己の左側に鞘に納めし、ウェザエモンの嘗ての愛刀・大天咫の刃を内に向け、目を閉じて合掌と祈りを捧げる。
「セツナさん。貴女が愛した人を、俺達が必ず止めてみせます」
立ち上がり一礼して、ペッパーはウェザエモンと戦うサンラク・京極の方へと走って行く。天将王装を着けたペッパーが離れた後、セツナの墓がほんのりと『白いオーラ』を纏った事に、ペッパーを含めて誰も気付く事は無い…………。
だが、ペッパーは己のゲーマーとしての勘を信じ、其のアクションを起こした。其れが例え間違いだったとしても、彼は後悔したりはしないのだから。
代償畏れる事なかれ、礼節を忘れる事なかれ。