VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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勇者は次の街を目指す




我が身は走り、峡谷と沼地を越えて

夕焼けが空を染め、シャンフロが夜へ移る頃。跳梁跋扈の森を抜けた先の渓谷で、黒き閃が迸っていた。

 

「打っ手切りだああああああああ!!」

 

声の主はペッパー。影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)の内側に、付き兎のヴォーパルバニー・アイトゥイルと、ユニーククエストでパーティーに加入した老ゴブリン・ポポンガを入れて守りつつ、エリアボス・貪食の大蛇相手に立ち回っていた。

 

剣・刀系列武器を装備中、対応する武器スキルに多大な補正を加える『剣人闘魂(サムライ・ハート)』と、超至近距離戦闘で御馴染みに成りつつ有る、戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)強化(バフ)を施し。

 

此迄以上の速度上昇に加え、攻撃及び移動時に相手に『怯み』の状態異常を与える『驚雷羅刹(きょくらいらせつ)』。

短剣・短刀武器の使用時にクリティカル補正を強化する『ナイフズタクト』。

自身よりも敵の方が大型で、重量が有る程に比例して、威力が上昇する斬撃スキル『王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)】』。

 

3つのスキルによって白光る雷迸り、赤褐色の夕闇に近しい焔のエフェクトを纏った、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)【改三】の斬撃が、動きが止まった貪食の大蛇の首根を断ち斬って、確定ドロップアイテムのみを残してポリゴンが爆散・消滅する。

 

「貪食の大蛇。戦ってくれて、ありがとうございました………と。アイトゥイル、ポポンガさん。確り掴まってて下さいね」

「はいさ!」

「解ったぞい」

 

合掌と一礼。ドロップアイテムを拾って、インベントリアの中に収納するや、ホライゾン・メロスとムーヴセドナの合成によって誕生したダッシュスキル『全進開速(フルスロットル)』を起動。ペッパーの全身から白い蒸気が吹き出し、地面を踏み締めてダッシュを開始すると、5秒と掛からずに現時点で繰り出せる『最高速』に到達。其の脚は渓谷の岸を渡す吊り橋を越え、黒の弾丸に成ってセカンディルを目指して駆けて行き。

 

疾走途中で貪食の大蛇を倒せたものの、毒のスリップダメージに追われているのか、軽装備のプレイヤーがセカンディルに向かっているのを目撃するも、自分は其れ以上の速度で真横を走り抜け。セカンディルの門を潜るや、其の脚を止める事はせずに、四駆八駆(しくはっく)沼荒野(ぬまこうや)のエリアボス・沼掘り(マッドデイク)攻略へと向かっていった。

 

そしてセカンディルからサードレマへ続く門を通った瞬間、ペッパーにユニーククエスト進行を告げる画面が現れたのである。

 

 

 

 

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

『条件達成まで、残り━━━六つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……思った以上に『腹が減るな』、此のスキル」

「あちゅいのさ………酒を飲むのさ………」

「コートん中に居たからのぉ……」

 

四駆八駆の沼荒野に有る岩山の影に隠れ、スキルを解除と呼吸を調えるペッパーは、愉快合羽の内側に籠った熱を追い出し、袖で汗を拭い取る。アイトゥイルとポポンガも汗まみれになっていて、片や瓢箪水筒で酒を喉に流し込み、片や水魔法で出来た水滴を口に含んでいく。

 

スキル:全進開速(フルスロットル)………此れは『発動から5分間は常に最高速度で走れる様になり、任意のタイミングでスキルを終了出来るが、使用から1分経過する毎に、自身の空腹度が爆速で増大していく』能力を保有している。

 

そして空腹度は、スタミナ回復速度に影響を与えるパラメータであり、シャンフロにおいて食事を行う事で腹が満たされる……即ち満腹に。逆に空腹に成り過ぎると、スタミナ回復に悪影響を及ぼす。だが、其の空腹度が『限界ギリギリの状態』でレベルアップすると、習得可能になるスキルがあるそうで、其れを狙うのも一興かも知れない。

 

「今の内にスタミナ回復をしておこう」

 

アイテムインベントリから携帯食糧を取り出し、ガブリと噛み付き咀嚼。減少していたスタミナと空腹感が満たされていき、元気が湧いてきた。

 

「次は沼掘り……沼のフィールド……カチ上げから空中移動スキルで速攻掛ければ、イケるかな?」

 

スキルの再使用時間(リキャストタイム)を目視確認しつつ、保有スキル一覧に在るスキルの中で『試してみたい組み合わせ』を沼掘り相手に披露する事を決めた。

 

アイトゥイル・ポポンガを愉快合羽の中に避難させ、再び走り始めたペッパーは沼掘りがテリトリーとして潜む、沼地に沈んだ峡谷へと到着。軽戦士の十八番たる機動力を奪う沼地へ恐れる事無く進んで行けば、三度目の遭遇となった鮫鯰ことエリアボスの沼掘りと対峙する。

 

「さぁ、ギアを上げていこうか!」

 

纐纈戦々(こうけつせんせん)より進化し、高潔度(こうけつど)とNPCを除いたソロプレイ時間を参照する強化(バフ)スキル『天壱夢鳳(てんいむほう)』。

強化時間90秒から60秒に減少したが、1度だけ自己蘇生を据え置きとして、敏捷・筋力・スタミナの強化数値を3倍にした『戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)』。

1分間自身の動体視力強化とスタミナ消費を抑制し、クリティカルを繰り出す度に効果時間が延長する『スート・アヴェニュー』。

 

そして駄目押しに、其れ等のスキルを熟達度MAXの『デュアルリンク』の起動で補強し、沼掘りを『1分以内』で仕留め切ると、脳内で目標を設定。直後鮫特有の背鰭残しの潜行を行った沼掘りが、ペッパーの目の前より飛び出して噛み付き攻撃を仕掛けてきた。

 

「躱わせる!」

 

墓守のウェザエモンの断風を直に経験した彼は、其の身を屈めて噛み付きを回避。バフを含めて『一定以上の筋力』に到達した場合に繰り出すと、直撃した相手やモンスターに『確定気絶』を付与する『コラプションスマッシャー』で、頭上を過ぎ行く沼掘りの下顎を叩き据えてカチ上げた。

 

『ギィ…ア……!?』

 

スキルの効力により、沼掘りが気絶で動かなくなる中、ペッパーは3つのスキルを起動させ、片足を沼から引っ張り出す。

 

自身に対する重力へ干渉し、歩走行の軽量化を可能にする『蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)』。

ゲニウス・チャージャーとフローティング・レチュアを合成した事で産まれた、90秒間の空中歩走行を可能にする『天翔歩奏(てんしょうほそう)』。

熟練度MAXとなり、空中でのスキルに対する効果時間を強化・延長する『ヴィールシャーレ』。

 

では此等のスキルが合わさった場合、一体何が起きるのか?

 

 

 

 

「よし、出来た!思った通り此の3つなら、擬似的な『浮遊移動』が可能に成ったぜ!」

 

 

 

 

そう、蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)天翔歩奏(てんしょうほそう)に、ヴィールシャーレが組み合わされば、レディアント・ソルレイアの力を借りずとも、3分間限定で『地上フィールドギミックを完全無視』出来る様に成ったのだ。沼という牢獄から空という自由を手にしたペッパーは、己の両足を空中に踏み込み、両手を拳に変えて握り締めて、スキルを点火する。

 

敵の点穴を、言い換えるなら『弱点のツボ』を可視化する『封栓認視界(ブロット・ウラタナ)』。

エネミーの弱点に、最も衝撃が通る場所を知る事が出来る『破界の視覚(ミュリミア・メナトス)』。

元々高火力を繰り出せるが、バフスキルの総数で更なる火力に至る『聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)』。

頭部に直撃させると仰け反り発生率を高め、確率で気絶判定を付与する『衝拳打(しょうけんだ)』。

打撃攻撃でクリティカルを出しやすくする『クリティカルメナス』。

攻撃時にスキルレベル1につき、打撃による衝撃が爆破属性を含む確率が1%乗る『ニトロスマッシュ』。

複数スキルを重ねた攻撃時、同系統の攻撃スキルを発動していれば、自動的(・・・)に発動して『其の全て』の威力と補正を高める強化(バフ)スキル『ラセルクロスアップ』。

 

 

ありったけの格闘と打撃スキル、そして強化スキルが己の拳に金色のエフェクトが纏わり、最後に拳撃スキルで連続かつ出鱈目に繰り出す程、ダメージ補正とダメージ追加が乗る『拳乱夕立(けんらんゆうだち)』が、沼掘りの顔面に夕立のように連続で拳を叩き付けていく。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

2つの視界に関するスキルにより、沼掘りの弱点となるツボと其の近辺に、黄金の拳の豪雨が降り注ぐ。マンガでも連打の表現として用いられる、拳や腕の複数描写が有るが成程こういうモノかと、ペッパーは此の日自分自身で再現するに至り。

 

『ギィィィ………!!』

「此れでッ、終わりだ!」

 

同じ箇所に打ち込み続け、時折爆破が発生。打撃ダメージによって頭部の肉質が柔らかくなり、衝撃が徹し易くなった其の場所へ、同じ箇所に打ち込んだ回数を参照して、威力を上昇させる『デュアライズ・ストライク』を使用。

 

弱点のツボに渾身の正拳突きが打ち込まれ、沼掘りを構成するポリゴンが爆散して、ドロップアイテムが沼地に落ちる。

 

「沼掘り。嘗てお前に誓ったソロ討伐、確かに果たしたぞ」

 

中国武術に有る挨拶で左手を掌に、右手を拳のまま添えて一礼。そして擬似浮遊の効果が続く間に、ペッパーはドロップアイテムをインベントリアに収納して、真っ直ぐにサードレマを目指して走り始めたのであった……。

 

 

 

 

 

 






大蛇を斬り裂き、鮫鯰を殴り倒し


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