VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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走れ、走れ、走れ




ランニング・フライング・ブレイバー

沼掘り(マッドディグ)を打ち倒し、夕焼けから夜闇へと変わる空の下、外せなくなった影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)を身に付け、黒の線を引く様に走るペッパーは、サードレマ周辺の高地に到着していた。

 

「サードレマが見えてきた……。周りに他のプレイヤーは居ないから良いとして、一先ず兎御殿に帰還して作戦を立てないと……」

 

アイトゥイル・ポポンガが、トレンチロングコートの内側に居るので、先ず絶対に見られたくは無い。だが、此の胴装備を身に付けている限り、ファステイアでの突発的コピーと戦闘イベントが、再び起こらないと断言出来ない。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。此処から見るサードレマも良い景色なのさ……」

「空の黒も善き深みに成ってきおったわい……」

「……確かに。風も涼しいし、過ごしやすくて良い感じだな」

 

ステージの垂れ幕から観客席を覗く出演者達の様に、アイトゥイルとポポンガが外の景色を見て、ペッパーも空を見上げ。しかし十数秒の沈黙を経て、両頬を叩いて気を引き締め直すや、サードレマの正門を見定めて走り出したのである。

 

そしてサードレマの正門にて、案の定衛兵達から不審者と思われ声を掛けられたものの、エンハンス商会会員証を見せる事により、事無きを得たペッパー達は、サードレマ・下層エリアを歩いて行く。

 

上層エリアが貴族達の住まいであるなら、此の下層エリアは下町と言える区間であり、夕暮れ刻であるからか住民やプレイヤーの交流、やり取りが盛んに行われており、そんな活気の中をペンシルゴンと一緒に散歩をした時の事を思い出す。

 

「アイトゥイル、ポポンガさん。ティークさんの食事処で何か食べたい物ある?俺が御馳走するよ」

「本当さね?じゃあ、ワイは『兎御殿晩酌膳』が食べたいのさ」

「おぉ……ティークのボンが作っとる『アレ』か。ワシも久し振りに、一杯やりたいの」

「解りました。其れでいきましょうか」

 

右手に刻まれた呪い(マーキング)を隠し、程好いタイミングを見計らい、人目の付かない裏路地に入ろうとした、まさに其の時。真上からの此方を射殺すかのような、明確な殺意を。否、生物的な直感(ゲーマーの勘)が今すぐに回避せよと、ペッパーに告げて。

 

其れはあの日、夜襲のリュカオーンと初めて遭遇した時と同じ、全神経を此の一瞬に反射して自身に迫る危機より回避。同時に地面にザクリと刺さる刃物の音、然れども其処には誰も居ない(・・・・・)し、気配を感じない(・・・・・・・)

 

だが、確かに。自分の直感が。ゲーマーとしての本能が。己に告げているのである。

 

其処に居るのは誰だ(・・・・・・・・・)?」

 

鋭利な視線が、姿形の見えぬ敵に注がれていた。そして其れは、襲撃者に。『PKerのヒイラギ』に、絶望以上の甚大な衝撃を与えたのだ。

 

(な、何で!?どうして!?何で何で何で!!?完璧に気配(・・)姿()も消したのに!?何でコイツ解ったの!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンフロの不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)の1つに『隠閉巧索(カモフラージェン)』と呼ばれるスキルがある。エクゾーディナリーモンスターの1体、ステルテラー・カメレオン『隠蔽工作(カモフラージェン)』の討伐を成し遂げる事で、獲得可能な其れは『最初の一撃を当てるまで』という条件で、プレイヤーの姿を『物理的に透明化させる能力』を持っている。

 

そして其のスキルと絶大なシナジーを産み出すのが、最上位職業:隠の大地(ステルスフォース)。レンジャーから派生し、自然環境における潜伏・奇襲に特化した職業の固有スキルに『ステルスアサルト』と呼ばれる、戦闘開始時から『最初の一回目の攻撃』はあらゆるヘイト(・・・・・・・)を受け付けない能力が有る。

 

此の2つを掛け合わせる事で、最初の一撃に限り『完全隠密攻撃(パーフェクトステルスアタック)』を成し遂げる其れを利用、更に『もう1つの要素』を組み合わせる事により、ヒイラギは今日まで『無敗のPKer』として活動してきた。

 

プレイヤーを奇襲して初撃必殺を狙い、そうしてPKした『実利』を求めるのが、ヒイラギのプレイスタイルであり。彼女はペッパーが持つ数多のユニークの品々を狙う為、胡椒争奪戦争から情報を入手。特徴を洗い出してセカンディルから『裏ルート』で沼掘りをスルーしてサードレマへ向かい。

 

そして隠閉巧索(カモフラージェン)とステルスアサルトで、正門からペッパーを追跡。タイミングを見計らい、何時もの様に一撃で始末をと彼女は考えていたのだろう。作戦は悪くない。しかし彼女にとっての『最悪の不運』は、ペッパーというプレイヤーが完全隠密攻撃(パーフェクトステルスアタック)等の初見殺しに対して、滅法強過ぎたという事だろうか。

 

初撃に失敗した時点でステルスアサルトの効果は切れ、姿は見えずとも気配は感じられる。直感でしかない上に、外したら外したでペッパーは滅茶苦茶恥ずかしい想いをする。だがスキルを使わずとも、肌身に感じる殺気は静電気の様に、己に敵の居場所を教えてくれていた。

 

「気配と姿を消すスキルか魔法かな?生憎、其の手の攻撃をしてくるタイプは、幾つかのレトロゲームで体験済みさ」

 

此の襲撃者はおそらく『一撃必殺型ビルド』。文字通り暗殺者の様に一撃で敵を仕留めて、勝負を決めに行くスタイル。つまり初撃で仕留め損ねた時点で、勝負は着いている。

 

(ワケ解んない!?何で解ったの!?スキルに穴があったの!?とゆーかレトロゲーム!?何なのコイツ!?)

 

ヒイラギが戸惑う最中、彼はセルタレイト・ケルネイアー、鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)、エクステンド・オーレイズより進化を遂げて体力・MP・スタミナ以外にも回復・強化アイテムを捧げられる様になった『全身全霊(フルドレイズ)』。

 

トーテンタンツの上昇数値が強化された『マシニクル・リブラ』で、己のMPを全て捧げて『自身の体重』を軽くし。其れ等を更に窮速走破(トップガン)を点火・強化させ、其の身は軽々と真上へ跳躍。

 

(あッ!?しまっ━━━━)

 

迷った僅かな瞬間を突かれ、ヒイラギが見上げた時にはもう遅く。ホップスウイングからの進化で、スタミナを一定数値消費する事により、スタミナが尽きぬ限り擬似的な『無限ジャンプ』を可能とする『天空神の加護(レプライ・ウーラノス)』の点火により空中を踏み締め、大通りの方角を眼差しながら、空中での姿勢制御や視角及び効果時間補強のヴィールシャーレと、破天爽駆(はてんそうく)による空中ダッシュ。

 

シャンフロの魔法の1つ、瞬間移動(アポート)じみた挙動をスキルで可能にする『オーバーラップ・アクセラレート』と、疾風連紲(しっぷうれんせつ)の効果時間と速度調整が更なる強化を受けた『烈風轟破(れっぷうごうは)』の速度調整ステップで軌道を描き、夕闇染まるサードレマの街並みをまるで流星の如く、ペッパーは駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此の日、サードレマには『新たな都市伝説が産まれた』。1つは『サードレマの白布お化け』、もう1つが『サードレマの黒い流星』。そして其の時の光景を見たプレイヤーの一人が、反射的にビデオ撮影を行って掲示板にアップした事により、新たな話題を呼び込む事になる……。

 

 

 

 

 

 

 






己の道は、己が作る


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