VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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兎御殿にて、食事を楽しめ




味・覚・開・眼

「よっし、上手く逃げ切ったぞ!あのステルスアタッカー、何れ御礼参りしてやる!」

 

サードレマの街並みの空を駆け、夜闇の裏路地に逃げ込み。アイトゥイルが開いたゲートに滑り込んだペッパーは、公式戦でハットトリックを決めたサッカー選手の如く、高らかに吠えた。

 

「ペッパーはん、どうしたのさ!?さっきの疾走も何か大変そうだったのさ!?」

「黒の流星じゃったのぉ…ペッパーよぅ。あやつ、姿も気配も消しておったか」

 

安全圏に来るまでに何があったかと慌てるアイトゥイルに、事の顛末を理解しているポポンガが、コートの中から出て来て各々言葉を放つ。

 

「正体が見えない敵と戦うのは、何時だって不毛って事さ……。というかポポンガさん、見えていたんですか?」

「いんや?ペッパーの発言と、ちょいとコートの中から覗き見した情報から予測を立てただけじゃよい」

 

長い時間を生きているからか、僅かな見聞きで状況把握が出来ているポポンガ。自らのレベルを落とそうが、此れくらいならば問題無しと言っているようである。

 

「さて……襲撃者から無事逃げ切れたし、約束通りティークさんの所で奢りますよ」

「やったのさ!」

「酒が飲めるわい」

 

兎御殿晩酌膳なる食は如何なる物か、期待に胸踊らせてペッパー達一行はティークの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃ………って誰やぁ!?」

「まぁ、そういう反応するのさ」

「当然じゃな」

「あはは………」

 

影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)が外せず、其のまま兎御殿の食事処を訪れたペッパーを出迎えた料理長のティークは、見知らぬ存在に声を上げる。

 

「ティークさん、俺です。ペッパーです」

 

フードを捲り、顔を露にした事でティークは落ち着き。ペッパーは早速、本題を切り出す。

 

「ティークさん、兎御殿晩酌膳(うさぎごてんばんしゃくぜん)を3つお願い出来ますかね?」

 

ペッパーからの注文に、ティークは満面の笑みを浮かべて言った。

 

「ペッパー。おめぇさん、良いもん頼んだなぁ?」

「ウェザエモン・天津気さんとの激戦を終えたので、其の戦勝祝いにと。おいくらですか?」

「ハハハ、迷い無しか!良いねぇ、チャキチャキやないかい!兎御殿晩酌膳、一膳につき『10万マーニ』や!」

 

一膳10万マーニするとは、如何なる料理なのか。そんな期待を胸に代金を支払い、待つ事およそ1時間。

 

「御待ちやぁ!オイの特製、兎御殿晩酌膳じゃあ!」

 

ティークが運んで、各々の目の前に出されたは、抹茶蕎麦・通常の蕎麦・胡桃蕎麦と思われる、三色蕎麦に蕎麦汁と、葱・ワザビ・海苔の三種薬味。

 

小鉢には酒盗を思わす和え物に、野菜や魚の五種類の天婦羅と共に岩塩が小皿に添えられ。卵焼きと合鴨焼きらしき物に、赤身と白身の鮮度抜群の刺身、冷やされた果物が甘味として食卓を彩り。

 

そして晩酌の主役(メイン)たる酒は、日本人には馴染み深く熱燗で用いられる、陶器と猪口と共に提供され、注ぎ口からほんのりと漂う暖かく、そしてまろやかで鼻に程好く残る甘く良い香りがする。

 

「おぉ……THE・和食って感じですね」

「さぁさぁ、ペッパーはん。食べましょ!」

「そうじゃなぁ、熱燗も温い内に飲むのが一番じゃよ」

 

アイトゥイルとポポンガの催促もあり、ペッパーは皆と手を合わせて『いただきます』と合掌。先ずは蕎麦の風味その物を味わうべく、三種各々を一度ずつ其のまま食し。次に蕎麦汁に着けて、最後に薬味を加えてもう一度ずつ口に運んでいった。

 

すると、ペッパーの眼前でリザルト画面が表示される。

 

 

 

『称号【美食舌】を獲得しました』

 

 

 

(美食舌?………あれ、何だ?気のせいか、蕎麦の風味が凄く『濃く』なってない!?)

 

称号【美食舌】。シャンフロではプレイ開始時点から、味覚に制限が掛けられており、高級な食事を取っていく事によって、味覚の制限が解除されていくシステムと成っている。

 

そうして味覚制限が『完全に取り払われる事』により、初めて手にする称号こそが『美食舌』で、此れが有るか無いかではシャンフロの食事其の物の、楽しみに影響を与える程だ。

 

「美味しい…!」

「そうやろ、ペッパーはん。ティークの作る料理は普通に旨いけど、此の晩酌膳は特に酒との相性が良いのさ」

「カハハ…!いやぁ、久し振りにティークのボンの選んだ熱燗を飲んだが、やはり美味じゃのぉ」

 

熱燗として提供された陶器を慎重に手に取り、先ずは香りを嗅ぎ。悪酔いをしないよう猪口に一杯取って、口に含みゆっくりと飲む。

 

数年の熟成を経て居るだろう酒は、温められた事により『辛口』ではあるのだが、単なる辛さとは違う『美味くて辛い』の其れで。喉を通る度に身体が暖まり、酒の香りと味が口と鼻に広がり、他の料理が『欲しくなる』のだ。

 

食し、飲み、また食し。まるでカレーライスを食べているかのような、腹一杯になるまで止まらない、まるで『無限ループ』に突入して。

 

「…………はっ!?」

 

そうして気付いた時には、ペッパーは兎御殿晩酌膳を完食しており。アイトゥイルとポポンガは、其の速さに唖然としていた。

 

「もう食べ終わったのさ、ペッパーはん!?」

「おやおや、ティークのボンが作った料理と熱燗の相性は、そりゃあ抜群じゃからなぁ……。少しでも自身を制御出来んと、何時の間にか食べ終わってまうんじゃよ」

「な、成程……」

 

美食舌による称号で、味覚開眼が此処まで影響を与えるとは、ペッパー自身も思わなかった。他の料理も食べてみたい気持ちも有ったが、必要な時にマーニを残して起きたいので、今回は我慢し。

 

アイトゥイルとポポンガが食べ終わった所で、一旦休憩を挟んでくると二人に告げ、兎御殿の休憩室に移動。シャンフロからログアウトしたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……夕食は『焼きおにぎり』にしようかね?」

 

午後七時過ぎ。シャンフロからログアウトし、現実世界へ意識が戻った梓は、夕食の支度に取り掛かる。蕎麦を食べたからか、無性に和食が。麺類を食べたら、米が食べたくなるのも必然で。

 

小型炊飯器の中に余った白米を、全部取り出しボールに入れ。醤油・味醂でタレを作り、白米を投入からの混ぜ合わせて形を整え、ゴマ油を敷いたフライパンに投入。こんがりと両面と側面を焼き上げ、仕上げに薄く味噌を塗ってゴマを振り掛け。最後に余り物の沢庵や野菜のぬか漬けを添えて、コップ一杯の牛乳を用意すれば、夕食は完成した。

 

「うん、良い香りだ……」

 

スマフォで写真撮影して、温かい内に頬張る。こんがりと焼いた表面が、咀嚼する度にバリッボリッと音を鳴らし、内側のふっくらした軟らかさがクセになる。

 

「美味しい。本日も良く出来ました………と」

 

御馳走様でしたと合掌と一礼、食器と調理器具を洗浄して片付けて、歯磨きとシャワーを浴びて寝巻き姿に着替えた時、Eメールアプリに3件のメールが届いていた。

 

 

 

 

件名:A-Z、今何処に居る?

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

おーい、A-Z。クラン・旅狼のメンバーとして、リーダーのお前と早急に合流して、確認したい案件が有るんだが

 

 

 

件名:あーくんに相談

from:鉛筆

to:胡椒

 

やぁやぁ、あーくん。ペンシルゴンお姉さんだよー。単刀直入に聞くけど、何処に居るかな?旅狼(ヴォルフガング)のクランリーダーたる、あーくんと直接会って話をしたいの

 

 

 

件名:リーダーとして頑張れ

from:サンラク

to:ペッパー

 

おう、ペッパー。ペンシルゴンとカッツォが、お前を探してたぞ。其れは其れとして、今何処に居るよ?サードレマで激渋ボイスエセ魔法少女キョージュに出会って、フレ申されたんだけどよ。ついでにペッパーに出会ったら、エイドルトに来てくれって伝言受けたわ

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ………」

 

クランリーダー決めで負けたツケが、此処に来て皺寄せとなって襲い掛かってきた。オイカッツォとペンシルゴン、サンラクの全員がクラン:旅狼のオーナーとしての仕事を、要求しているようだ。

 

「えっと……『実は此方も此方で厄介な事が起きて、明日なら大丈夫だけど其れでも良いですか?』………と。送信」

 

罠である可能性も否めないが、影法師の愉快合羽の問題を解決して、装備切り替えを可能にしないといけない。送信後に布団を敷いて就寝準備をしていると、Eメールアプリにメールが届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

件名:いやマジで直ぐ来て欲しいんだが???

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

目ェ血走らせたヤベー連中が、ペッパーに合わせてくれとか、ユニーク小鎚を見せてくれとか、黒毛のヴォーパルバニーと握手したいとか、俺一切関係無いんだけど?

お前を生け贄に捧げて、快適なシャンフロライフを送るんだから、とっととログインすべし

 

 

 

 

件名:実はそうもいかないんだよねぇ

from:鉛筆

to:胡椒

 

いやね、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の団長さんが最大火力に加えて、園長さんと武器狂いを連れて来ちゃって、収拾付かなくなりつつ有るんだよ

京極ちゃんも他のプレイヤーに絡まれて困ってるんで、あーくんがビシッと決めてくれなきゃ、悪化の一途を辿りそうなんで頑張って?

其れとクラン同士の会談になった場合、あーくんに他のクランへクラン連盟の打診をして欲しいんだ

 

 

 

 

件名:面倒な事になるぞ………

from:サンラク

to:ペッパー

 

まだ深夜帯じゃないし、早急に対応して自由になった方が良いぞぉ~ペッパァ………。あぁ、其れと規格外エーテルリアクターの修理見込みだが、ビィラックを育成して古匠にする事で解決しそうだわ

ペンシルゴン曰く、オハナシはエイドルトでやるそうだとさ

 

 

 

 

 

 

「コイツ等め………」

 

どうやら事は思った以上に深刻な様であり、他のクランメンバーも対応に難色を示しているらしい。クランリーダーとして、一人安全圏でぬくぬくと過ごすのもどうかと思い、梓は全員へ━━━━━

 

『今からログインしてエイドルトに向かうので、全員逃げずに来るように。尚、此れはクランリーダー命令なので、全員に拒否権は有りません。そして交渉事に成ったら、ペンシルゴンに其処等辺は任せたいので、よろしくお願いします』

 

━━━━━と、メールを送信。

 

気の滅入りそうな夜に想いを馳せ、梓はペッパーとなって再びシャンフロの世界へ飛び込むのだった………。

 

 

 

 






美味なる食が味覚の上限を取り払い、然れど新たな問題が来る




兎御殿晩酌膳(うさぎごてんばんしゃくぜん)

食王ティークが作り出す、夜の時間帯では最高級の食事メニュー。シャングリラ・フロンティアの中でも稀少な『和』の食事であり、厳しき自然界を生きた食材の力を注いで作った料理は、食す者に更なる力を与えるだろう。

此の料理を食べた場合、初回ならば『称号【美食舌】』を確定で入手出来る。二回目以降に食した場合、体力・MP・スタミナ・空腹度がMAXまで回復し、食事後から1時間の間ステータスを、ランダムに2つを2倍にする。




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