ファイヴァルを目指して
「…………………ん」
ユニーククエストEXにおける戦いを越え、黒ペッパーを倒して意識がブラックアウトしていたペッパーだったが、数瞬の内に目が覚めて。気付けば地面に引き摺り込まれる前の、サードレマの裏路地に帰ってきていた。
「ペッパーはん、やっぱりアレは夢じゃなくて現実みたいなのさ……」
「そうだな、アイトゥイル。俺もアレが俄然気になってきた」
中世の劇場、黒い影を模したプレイヤーの再現、歌声が攻略のヒント……
(昨日、そして今日。時間は『午後五時から六時の間』、裏路地へ足を踏み入れた瞬間に発生した。……つまり『
そして何より厄介なのは、プレイヤーに対して『当時の戦いを再現させる』事であり、万が一にも対応するスキルがリキャストタイム中で使えなかったり、対応可能な武器を修理に出していた場合、戦闘『そのもの』に影響が及ぶだろうな……)
普通の戦闘ならまだ良いが、状況を完全再現するとなれば、いざと言う時に備えて武器の耐久値やスキルの再使用時間にも気を遣わなくてはならず、マルチタスク処理能力が求められそうだ。
「ポポンガさん、昨日今日で体験した『アレ』は何なんでしょうね?」
「ワシにも解らん。が、おそらくヴァッシュなら、あるいは………」
「先生かぁ……」
ユニークモンスターを模倣、もしくは由来となる神代の大いなる鎧達。仮にそんな事が可能なユニークモンスターが、もし『今の自分を数割程強くして、スキルや武器の諸々も再現し、其れ等全ての扱い方が己以上であったなら』。
「………どうやって攻略するんだろ」
何時か戦わなければならないなら、避けられない時が訪れたなら、全力で戦って勝利する以外に道はない。だが、其れを考えるのは
「ちょっとしたハプニングは有ったけれど……気を取り直して、ファイヴァルへ向かおう!」
勇者は黒を纏いて走り出す。目指すはファイヴァル、
サードレマから栄古斉衰の死火口湖に続くゲートを越えた時、ペッパーの前にリザルト画面が表示される。
『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』
『条件達成まで、残り━━━五つ』
レディアントシリーズを甦らせる三つの要素探し&ヴァンラッシュブレイカー生産の為、訪れた死火山に久し振りに来訪したペッパーは、其の脚で山肌を駆け上がって行く。
『ギョエー!?ギョエー!?』
『ギョエー!?ギョエー!?』
そして喧しくとも懐かしい、青い羽毛のペリカン駝鳥ことブルックスランバー達の、騒がしい鳴き声とリュカオーンの
「いやぁ洞窟通らなくて済むのは、本当にリュカオーン様々だね」
「フホホ……クロ助の気配は生半可な奴等にゃあ、ちと刺激が強いからなのぉ」
「相変わらず、綺麗なターンで逃げていくのさ」
と、アイトゥイルの耳に『何か』が聞こえた。
「ん?ペッパーはん、ペッパーはん。何か聞こえないのさ?」
「え?何が?」
「此の声………ワイは聞き覚えが有るのさ。声色は『女』なのさ」
アイトゥイルの聞き覚えた女性の声ともなれば、数はそう多くはない筈。では一体誰の声なのか?そう思考している内に、彼女はトレンチロングコートから飛び出し、頭の上に乗っかるや単眼望遠鏡を手に取り、辺りを注意深く観察して発見する。
「居たのさ!ペッパーはん、10時の方角で誰かがブルックスランバーと戦闘してるのさ!」
「取り敢えず行ってみよう!アイトゥイル、ポポンガさん!しっかり掴まってて下さい!」
自身の敏捷を高めるだけでなく、一定以上のスピードで走っている場合に『自身の前に空気の層を纏い』、敵や障害物との接触ダメージを減らす『ソニック・アサルト』。自身の敏捷が何らかのスキルやバフ、デバフ等で『変動』したならば、其の変動分だけ敏捷を高める『シャイニングムーヴ』。そしてデュアルリンクとトルクチャージで補強しつつ、ペッパーは駆け出し。
そうして数秒で到着した彼の視界に飛び込み写るは、無数のブルックスランバーと、一際大きなブルックスランバーの
「えっ!?名無し!?」
「おい、京極。俺はペッパー…だぁっ!?」
「わわっ!?ちょ、ペッパー邪魔しに来たの!?」
「違うよ!此方のユニーク関係で、ファイヴァル目指して登山してただけだよ!?」
最速走者の中腰による爆走突進、リュカオーンの呪いによる気配で通常種達は逃走の大混乱。ペッパーと京極は己の身を守るべく、背中合わせとなる形で状況整理に入る。
「最速走者が居るな………もしかして、あの時からずっと狙ってたのか?」
「………そうだよ。
あの日、自分が教えた窮速走破を求め続けて。けれど、通常種達により機会を逃し続けてきた京極は、決して諦める事をしなかった。
「ペッパー。君の右手に刻まれてる、リュカオーンの呪いの力。窮速走破を獲得する為に、僕に貸して欲しい。其の……報酬は「良いぞ」………へ?えっ、其処は普通何か求めるんじゃないの?」
エクゾーディナリー、ましてや窮速走破相手に、見返りを求める事も無く、無償で協力するとはどういう事か。京極………いや他の者にとっても、無償の善意という物は一番とは嬉しい物であり、同時に怖い物だ。
「ある『ヒーロー』は言っていた━━━『私は見返りを求めて、戦っているのでは無い。助けを求める、どんな小さな声も聞き逃さない。そんなヒーローに成る為に戦っているんだ』、と」
ヒーロー物レトロゲームにて、三つのルートの一つたる王道のライトロードルートの主人公に言った、とある売れないヒーローの台詞である。其の売れないヒーローはモブのような存在であったが、其の台詞はとても印象的で、ヒーローとは何たるかをよく理解している
「ブルックスランバーの通常種達は、俺がリュカオーンの呪いで追っ払っておく。京極は其の間に、最速走者を叩っ斬れ。油断するなよ」
「………解った。ただし、ラストアタックは持ってかないでね?」
「しねーよ、そんなハイエナプレイは」
息を大きく吸い込み、吐いて、京極は刀を構え直す。最速走者もまた片足で地面をなぞり、中腰姿勢で突進の構えを取る。
影法師の愉快合羽を纏うペッパーが立ち会い、邪魔鳥が居なくなった山肌にて、人斬りの異名を持ちし京極は、気高き王鳥との
切札足り得る力、