オープニングの説明文が流れ終わり、目の前が真っ暗になった後。梓…もといペッパーの耳に小鳥の囀りが聞こえてくる。
ゆっくりと恐る恐る目を開けば、視界に飛び込んできたのは青々と繁る草原と、遠くに聳える山々が織り成す広大な世界だった。
「おぉ…!此処が、シャンフロの世界か。すげぇ、自分の身体みたいに動く」
電脳世界に構築された自分の身体を見渡し、ペッパーは呟く。掌、指先、脚や胴と自分が動かしたいと思う場所が、思うように動く事に感動していた。
「取り敢えず、ステータスの確認をしておかないとだな。RPGでも自分が操作するキャラクターや味方の状態把握は大事だし」
VRゲームは初心者であれど、昔やっていたRPGゲームのセオリーに従って、ペッパーは自身のステータスを開く。
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PN:ペッパー
レベル:1
職業:バックパッカー
体力 10 魔力 10
スタミナ 30
筋力 20 敏捷 20
器用 10 技量 10
耐久力 10 幸運 10
装備
左:無し 右:護身用ナイフ
頭:皮の帽子
胴:皮の服
腰:皮のベルト
脚:皮の靴
3000マーニ
スキル
・スラッシュ
・刺突
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職業説明文に書いてあった通り、バックパッカーは物資を運搬する職業なだけあり、筋力と敏捷、スタミナが高い数値になっている。
「技量が武器の使い方で、器用が多分武器の扱い方…なのかな?幸運は謂わずもがな運に関係あるだろう…。まぁ後衛職だし、戦闘になったら一先ず距離を取って逃げられるようにしておこう」
「で、だ」とペッパーが次に注目したのは現在自分が保有しているスキル。スラッシュと刺突についてだ。
「いきなり実戦ってなったら確実にパニクる自信しかないし、何事も試してみなくちゃな」
右手に護身用ナイフを逆手持ちで装備し、「スラッシュ!」とスキル名を唱えつつナイフを振るう。
「次は、刺突!」と真っ直ぐにナイフの切っ先を突き出す。敵は居ないが、どういう挙動をするのかを身体を通して頭に知識として取り入れていく。
「ふむふむ、こんな感じで動くんだな……っておや?」
スキルを使った後、ペッパーが見たのはスキルのクールタイムが進行している場面だった。
「…成る程。スキルにはクールタイムがあって、強力なスキルは相応の代償があるって訳か。覚えなきゃ行けない事が沢山あるなぁ…」
何事も試して知識を深め、戦うならば万全の準備を行うべし。RPGで学んで得た格言を胸に、ペッパーは探索エリアを歩き始めた。
「木の棒、木の棒、石ころ、木の実やら色々手に入ったが……うーむ、敵と遭遇しない」
ゲーム開始から1時間。探索エリアを歩きながら、ペッパーは道中で入手したアイテムを確認しつつ、簡易の地図で位置情報を確認していた。
最初のエリアは一通り歩き回り、自身の出身である探検家の子の恩智が影響を及ぼすか確かめたが、変化を感じられずにいる。
「やっぱりアイテムドロップには、幸運も影響してるのかな?……まぁ、ファステイアに行けば色々分かるか」
簡易の地図では此処から『ファステイア』という町が近いらしい。ファーストを捩っている事から、おそらく最初の町である事が予測出来る。
最初の町は基本、冒険者にとってのチュートリアルレクチャーだったり、基本的なアイテムや武器防具を買い揃えられると相場が決まっているのだ。
「町に着くまで敵とエンカウントしない訳じゃないし、油断せずに行こう」
右手に護身用ナイフを装備し、左手に拾った石ころを投擲用にアイテムインベントリから出して、周囲を警戒しつつ抜き足差し足気味に動く。
木の後ろや茂み付近は特に気を付け、首を降って周囲を確認しながら、町へ1歩ずつ足を進めていた。
と、其の時。ペッパーの右後ろの木が僅かにガサガサと揺れ、振り返った視界が一瞬黒に染まる。
マズイ――そんな直感が脳裏を走ったペッパーは直ぐ様その場からダッシュ。直後、地面に力任せにぶつかり、ヒビが走った場所に何かが居る。
「ギャギャ!」
「グレムリン……じゃなさそう」
葉っぱのような耳に、昔のホラー映画で見た怪物に似た其れは、ボロ雑巾の衣服と右手に石と木を縄で巻いた手製の斧を持っていた。
「ギャギギギッ!」
「おわっ!!」
小さな体躯にも関わらず、俊敏な動きで斧を縦に振るってきたモンスターに、ペッパーは思わずバックステップで回避する。
「……切り換えろ。相手はモンスターだ、流石に初心者が倒せない様には出来ていない、はず!」
「ギャギギギャア!」
再び大振りに殴り付けんとするモンスターに、ペッパーは左手に持っていた石ころを、頭目掛けてぶん投げた。初期ではあるものの、スタミナに次いで高く敏捷と同じ値から繰り出された筋力による投石攻撃は、モンスターの額を僅かに外れ――――右耳にぶち当たった。
「ギギァ!?」
耳に当たり、振りかぶった手斧がすっぽ抜け、地面に激突。投げた石ころは耐久を失ったのか砕け散り、ポリゴンと化して消滅。そしてペッパーは護身用ナイフを翳し、スキルの刺突をモンスターの左目にブッ刺して。
「せいっ!」
トドメとばかりに思いっきり抉って、モンスターを葬った。モンスターは其の身体をポリゴンへと変わって消滅、入れ替わるようにパパーンのSEが鳴り響き、ペッパーのレベルが1つ上がった事を告げる。
「おっ、レベルアップか!やったぜ」
レベルアップを喜んでいると、ペッパーの近くには先程倒したモンスターが落としたであろう、アイテムが幾つか落ちていた。
「ドロップアイテムか~。なになに…ゴブリンの手斧、あれゴブリンなのか」
グレムリンと思ったモンスターがゴブリンだったと知り、ペッパーは少し驚く。他にもボロい腹巻きが落ちていたが、とりわけ驚いたドロップアイテムがある。
「………………」
ゴブリンの目玉という、短剣系統の武器でトドメを刺した場合にしか出ないという、ちょっぴりレアなアイテム。
しかし問題は其の目玉が『人間の死体から取り出した眼球のような、造形があまりにもリアル過ぎた』事で。
「……封印安定だな」
ペッパー自身も誰かに見せてはいけないと、インベントリの奥底へ突っ込み、記憶を忘却の果てへと消し去ることにしたのだった。
其の後ペッパーは道中で、他のモンスターとの遭遇を警戒しつつ歩みを進め。
漸く最初の町ファステイアへと辿り着いたのであった。
先ずは一歩、されど一歩