VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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復讐を始めよう




半裸の鳥頭は水晶の滝にて、強大なる蠍を落とす

「マジかよ………」

 

水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の初見殺しの技に殺られ、情報を確かめるべく一旦ログアウトした楽郎(らくろう)は、タブレットでシャングリラ・フロンティア公式HPをチェックし、苦虫を噛み潰した顔をした。

 

其処には確かに『モンスターの一部挙動を修正しました』と書かれており、身を以て体感したサンラクは其のモンスターが誰なのかに心当たりが有る。

 

「アイツ等の(AI)は其処まで高性能じゃなかったし、何なら同士討ちも視野に入れてた矢先にコレかよ、チクショウ………!金策や経験値稼ぎに持ってこいだと思ったんだがな……」

 

何れ修正が来ると見込んで大量に稼いだのは不幸中の幸いであり、もし稼ぎ途中で修正が入っていたら発狂不可避になっていただろう。

 

椅子に凭れ掛かりタブレットを操作しながら、楽郎は修正によって挙動が変わった水晶群蠍の攻略法を考え始める。

 

「巨体の突撃……大多数……ドロップアイテム……ウムム」

 

アクティブ状態での潜伏奇襲という、新たな戦法を運営()から与えられた蠍達は、前にも増して侵入者に容赦無く牙を剥くだろう。水晶巣崖(あそこ)のレア物の鉱石に宝石達ならば、仮に水晶群蠍の素材が手に入らなくても十分な対価と金策になる。

 

問題は従来の方法での、格納空間エスケープが通用しない事だ。アレが出来たとしても、せいぜい己の寿命を僅かに延命させる事しか叶わないのだから。

 

と、思考を蠍達に持っていかれていた影響で、まだ開けていないエナジードリンクの缶が、楽朗の手の甲に『押されて』。『重力という名の物理エンジンに従い、床へ向かって落下』。

 

「うおっ、危ッ……!」

 

其れを慌てて彼が掴んだ瞬間、彼の脳内に電力が迸り、アイデアのスーパーノヴァが発生した。

 

「…物理エンジン、蠍のAI………特性に…重力…!そうか、此の方法ならイケる!水晶群蠍達(アイツ等)を倒せるぞ!」

 

水晶巣崖の場所と立地、水晶群蠍の思考と特性、待ち伏せという新たな武器を手にした彼等は、侵入者を一体何処まで追い掛ける(・・・・・・・・・・・)

 

「必要スキルは、有る………!リキャストタイムとの兼ね合い、大丈夫だ………!フハハハハハハハハ!運営め、修正で俺の闘志を消せると思ったか?残念だったな、こんくらいじゃヘコタレの内にも入らねぇんだよなァッ!」

 

クソゲーマー・陽務(ひづとめ) 楽郎(らくろう)。今宵彼が行うのは『逃走』に有らず。

 

 

 

 

 

「あ、サンラクさん。戻ってくるなり眠ってしまって、心配だったんですわ」

 

シャンフロに再ログインし、兎御殿の休憩室にて目覚めたサンラクは、休憩室に在る小さな腰掛けに座るエムルに声を掛けられた。

 

「おぅ、エムル。早速だが、エイドルトまでゲートを開いてくれ」

「………はぁ、また『オトモダチ』のお家に遊びに行くのですわ?」

 

サンラクが一方的に水晶群蠍達を『ダチ』と呼び、水晶巣崖で鉱石や素材を掻き集め、荒稼ぎをしているのを知っているエムルは深い溜息を溢し、そして言う。

 

「また兎御殿待機ですわ?」

「いや、エムル。今回は『エイドルトの裏路地』で、深夜に此の裏路地へ迎えに来てくれ」

 

他者に見付かるリスクもあるが、今回サンラクは死に戻りをする為に、水晶巣崖という『死地』に赴く訳ではない。言い換えるならば非常に『ヴォーパル的』な事━━━━━━即ち水晶群蠍達を討伐しに行く事(・・・・・・・)なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャングリラ・フロンティアというゲームは、何世代も先のシステム━━━━通称『シャンフロシステム』により、現実世界と遜色の無い『物理エンジン』が搭載されている。

 

背中を押せば人やモンスターは前に倒れ、木に成った林檎は重力に従って地面に落ちる。現実世界での当たり前に働く力を、ゲームに妥協する事無く細部に渡って落とし込んだ事で、大衆から『神ゲー』として認知され、世界記録にも其の名を刻んだのだ。

 

「覚悟しろよ、水晶群蠍。オマエ等は此のゲームの『当たり前』で、殺される事に成るんだからな」

 

己が身一つで崖を登り、夜空と見慣れた水晶輝く危険地帯に辿り着いたサンラクは、足下に転がる掌サイズの水晶片を拾い上げて、高く高く放り投げる。重力という物理エンジンにより、投げられた水晶片は軈て上昇から下降へと転じ落下。近くの水晶柱にぶつかり、数秒の振動を経て水晶群蠍が数匹程、擬態を解除するやサンラク目掛けて突貫してくる。

 

「さぁ、行くぜ!初っぱなからフルスロットルだ!」

 

自分一人がヘイトを受けている場合に、自身が空腹かつ体力残量が少ない程、筋力・敏捷・耐久に強化を入れる『孤高の餓狼(トランジェント)』。

孤高の餓狼と同じ条件で、敏捷・筋力・幸運を高める『雄々しき狼魂(ベイオヴルフ)』。

一対多数もしくは多数対一である時に、視覚・筋力・敏捷に補正を加える『戦火の瞳(ウォーアイズ)』。

スキルや魔法等で自身の敏捷が上がる度に、走行時限定ながら加速と速度が大幅に上昇する『メルニッション・ダッシュ』。

 

其所に包囲先見(ほういせんけん)血戦主義(けっせんしゅぎ)、ニトロゲインにイグニッション、更にはアサイラムサインとクライマックスブースト、最後はトルクチャージで使用した機動系スキルの全使用、並びに再使用時間短縮を行い、サンラクは水晶地帯を爆走する。

 

「ハハハハハハハ!起きろ、起きろ!寝坊助蠍共!祭の時間だあああああ!」

 

スキルによって体力を削りに削った為、掠っただけで死が確定する緊張感と、背後より伝わる濃密な死の気配に押されながらも、半裸の鳥頭は止まる事無く其の両足で水晶地帯を進み続け、そんな侵入者のけたたましい声が喧騒を呼び、眠りを妨げられた蠍達は無機質故に表情は解らずとも、纏う気配から御立腹の様子だ。

 

迫る煌美やかな死の津波が、駆け続けるサンラクの背を追い掛け、既に50体は居るだろう軍勢として押し潰しに来る。

 

「物量で俺はオマエ等にゃあ、逆立ちしても勝てやしねぇ。だから………自分達で死んでくれ」

 

谷間に伸びる巨大水晶の穂先より、サンラクは恐れる事無く跳躍。水晶群蠍達も、目の前に道が無くなった事に漸く気付いたが、時既に遅し。

 

急ブレーキを掛けるものの、後ろからの同族達の巨体に圧されて、抵抗虚しく物理エンジンに従い、前へ前へと押し出され、十数匹の蠍達が水晶の崖から真っ逆さまに、谷底へと落ちていく。

 

古今東西、重力と高所が存在するゲームに置いて、プレイヤーにNPC、そして敵やモンスターに等しく適応され、対処無しならば例外も漏れも無く殺す、物理エンジンからの死刑宣告━━━━━『落下死』である。

 

「だが俺は。其の物理法則に反逆する『術』を手にして、此処に来た!」

 

遮那王憑(しゃなおうつ)きと共に点火するは、ペッパーも手にした『二段ジャンプ』。空中を踏み締め、蹴り上げ。一度限りの跳躍を条件として、死刑宣告を回避する『奥義』。

 

「スカイウォーカー!」

 

ボォン!と空気の入った風船を足で潰し割った様な音と共に、サンラクの身体がもう一段階跳躍。谷間の中腹まで飛んでいた己の身体は、飛行距離を更に伸ばして水晶巣崖の反対側まで飛び越えた。

 

そして後ろをチラリと見れば、水晶群蠍達が瘴気で満ち充ちる谷底へと落ちていく様子であり。

 

作戦名(オペレーション):蠍落とし(スコーピオンフォール)。大量の水晶群蠍、討伐完了だ!」

 

取り出した湖沼(こしょう)短剣(たんけん)を、水晶に突き立てぶら下がり、サンラクは此処に勝利を宣言したのであった。

 

 

 

 

 






作戦名(オペレーション):蠍落とし(スコーピオンフォール)

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