VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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サンラク vs 金色蠍

※3連続更新の第1陣です





衝動は力となり、怒号は魔人の如く在れ

作戦名(オペレーション):蠍落とし(スコーピオンフォール)

 

ところてん作戦という別の名前も考えたが、ダサ過ぎたのでカッコいい方にした其れは、水晶群蠍(クリスタルスコーピオン)の特性と生態、そしてAIを利用しなくては完遂出来なかった方法である。

 

「何にせよ、だ。レベル100オーバーの水晶群蠍の討伐で、相当な経験値が入ったんじゃないか?」

 

水晶に突き立てた、湖沼の短剣を使って登り、ステータスを確認したサンラク。しかし、自身のレベルは1たりとも変化していない。

 

「?妙だな……レベルが上がってない?蠍共はもう地面に落ちた筈………」

 

シャンフロの経験値上昇のシステムは、モンスターとの『戦闘終了』と同時に処理が行われる。例えばプレイヤーが百体のモンスターと相対し、九十九体のモンスターを落下死や同士討ち、毒殺謀殺落下死等の諸々によって討伐したとしても、最後の一体を殺るか殺られるかしない限り、経験値は入らないシステムだ。

 

「つまり、まだ『戦闘が終わっていない』…?」

 

サンラクが結論に至った直後、背後から水晶を砕き割り現れる三匹の蠍達。此れはまた大量に集めて、谷底へ叩き落としてやろうと考え。しかし其の思考は、新たに現れた『乱入者』によって塗り替えられる。

 

「まだ居たか、もう一回谷底……ん!?」

 

一匹は胴体を鯖折りに、一匹は頸を断ち斬られ、一匹は乗し掛かりで圧殺されている。其れを行ったのは水晶群蠍………否。パラサイト隕石の中に有る、黒黄金色の成分と同じ色で全身を染め上げた、一匹の『金色の水晶群蠍』だった。

 

其れ(・・)はサンラクをじっと見つめ。徐に自分の手で始末した水晶群蠍の一匹をぶん投げてきた。

 

「うおっ、金色の蠍!?いやカラーリングは似てるが、アイツとは『鋏や針の形状が違う』…!何より他の蠍達を従えてたが、コイツは逆に蠍達を『狩ってやがる』!」

 

大質量の投擲を回避し、同時にシステムによるアナウンス。其所に記されるは『金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)』。昨日死ぬ直前にアナウンスが報せた存在と同じでは有るが、自分を殺した金蠍の名には『皇金世代(ゴールデンエイジ)』と続いていた。

 

(皇金世代(キンイロソード)が他の蠍を従わせる存在なら、コイツはある意味『一匹狼(トランジェント)』ってか。其れにしても、あの硬度を誇る蠍の甲殻を破壊するって、どんだけ馬力が有るんだよ…!)

 

インベントリアに引き籠り、戦闘を回避するという選択肢もある。しかし、サンラクはクソゲーマーであると同時に、一人のゲーマーなのだ。目の前に現れた明らかに『レアエネミー』と見て差し支えない、此の金色の蠍━━━金晶独蠍への挑戦権が与えられたのならば、彼が取る行動は最早一択。

 

「良いぜ、金晶独蠍。俺も今は一匹狼(トランジェント)だ……一対一の勝負(タイマン)と行こうか!」

 

おそらく周りの水晶群蠍は、金晶独蠍が始末した影響が有ってか出現していない。視野を広く以て見れば、およそ半径20m以内が『安全圏』であり、同時に金晶独蠍との『バトルフィールド』だ。

 

孤高の餓狼(トランジェント)雄々しき狼魂(ベイオヴルフ)の同時起動。半裸の鳥頭は周りに転がる、水晶群蠍の残骸から採れるアイテムと、向こう岸で落下死させた分の経験値と、此の近辺で採掘出来る鉱石と宝石を求めて、金晶独蠍に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水晶地帯に轟音は響き、打ち鳴らされる金属同士の激突音。半裸故に肌身に犇々と感じる、濃密な死の気配と全身を押し潰さん圧力に、サンラクの身体を嫌な汗が伝う。

 

(久々だぜ『此の感覚』はよ…!)

 

夜襲のリュカオーンとの初遭遇、墓守のウェザエモンとの激闘………其れ等に近しい、強敵との戦いに似た感覚。耐久に優れた、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)湖沼(こしょう)小鎚(こづち)を振るい、何倍もの大きさを誇る敵の攻撃をパリィし、サンラクの脳内では戦闘中に得られた、金晶独蠍の情報が猛スピードで精査され、チャートが編み出されていく。

 

先ずは金晶独蠍の『両鋏』、通常種が侵入者を『質量で叩き潰す』事に重きを置いているのに対し、此方の鋏は叩き潰すだけでなく、敵を『断ち斬り裂いて殺す』事にもリソースを捧げた、攻防一体どころか攻防特化の大鋏だ。

 

次に全身に纏う『金水晶の甲殻』は、通常種程の硬度(・・)は無かったものの、其の硬度を代償として通常種以上の『機動力(スピード)』を獲得している。おまけに其の甲殻も『合金』で出来たような硬さがあり、素直に喜べる情報ではない。

 

そして蠍型モンスターのシンボルたる『針』もまた、厄介な攻撃手段を備えていた。何より金晶独蠍は、其の針先から毒液を『単発』・『レーザー』・『散弾』の三種類の型を用いた遠距離攻撃(・・・・・)を仕掛けると言う、蠍ながら多芸者な一面を披露してくる。

 

特に散弾型は限られたフィールド内、投擲スキルに乏しく近接系統・移動系統スキルが殆どを占めるサンラクは、致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】では躱わしきれず、インベントリアエスケープを使わざるを得ない。

 

戦闘中に獲得した情報を整理し、彼は金晶独蠍を水晶群蠍の『突然変異個体』であると同時に、其の能力を研ぎ澄まし鍛え上げた『戦闘特化個体』だと結論付けた。

 

(だがこうして戦い続ければ、見えてくる物も多い…!)

 

先ず金晶独蠍本体は水晶群蠍よりも、耐久力が低いと言う事。攻撃・破壊力・機動力を上げる為に、本体其の物の耐久を削ったので致命的な一撃が入れば、一気にペースを奪い取れるだろう。

 

では、此の金蠍を相手に其のペースを奪うにはどうするかだが、根気強く攻撃を続けたサンラクは、金晶独蠍の機動力を上昇させる甲殻の随所に在る、僅かな隙間(・・)を発見したのだ。

 

「狩りゲーの基本!先ずは敵の遠距離攻撃を奪う!」

 

クソゲーだろうが、良ゲーだろうが。神ゲーだろうが存在する、狩りゲーの基礎中の基礎と共に、振り翳される巨大な前鋏の斬刃(ざんば)を切り抜けたサンラクが、攻撃後の僅かな隙を縫って尻尾の付け根、針の根元に出来た隙間を狙い定め、斬打二刀流スキル『ストランダイトバンカー』を使用。

 

湖沼の短剣を隙間に突き刺し、湖沼の小鎚の鉄面を思いっきり叩き付けて、淡い碧色の刃を押し込むと同時に、掌に伝わるクリティカルの感触。

そして金晶独蠍の針の根元からは、ミギャリ!と金属の破砕音と生物の肉が圧砕する音が混じった、形容し難い嫌音が鳴り響いて、薄い水晶が破損する。

 

「おっしゃあ、良い感じだぜェ!此のペースで━━━」

 

が、此処でサンラクが予想だにしなかった行動(アクション)を、金晶独蠍は取った。其の巨体は己の真後ろに立つ、一際巨大な水晶の頂上へと飛び上がり、着地するや否や頭上に浮かぶ月を見上げ、己の前鋏を広げてポーズをしたのである。

 

「おいおい、何だ其の逃げ腰は?金晶独蠍なんて大した名前で、やってる事はみみっ……!?」

 

サンラクが目撃し、予想だにしなかった金蠍の行動。月の光を浴びた其の身体は、全身に金色の光を帯びていき、同時にストランダイトバンカーで傷付いた水晶の隙間へ、周りの水晶達が這っていって穴を塞ぐという物で。

 

「な、マジかコイツ!?よりによって『再生能力』持ちだと!?」

 

戦闘特化に加え、新たに示された再生能力。クソゲーマーの脳内で金晶独蠍の存在は、新たに『完全無欠』にアップデートが成され、急ピッチで攻略チャートの再構成を行い始め。サンラクは鳥面に隠れた口角は『笑った』のだ。

 

「……良いね、金晶独蠍!リュカオーンを倒す為にも、皇金世代(ゴールデンエイジ)を倒す為にも!オマエは俺が!必ず『ブッ倒して』やる!」

 

自分の全ての手札を出し切って、此の敵を打ち倒すと心に強く決意。アイテムインベントリから取り出すは、ヴァイスアッシュが真化(しんか)によって鍛えた、もう一つの『兎月』の名を持つ武器。

 

「ウェザエモンの時には出番が無かったが、蠍相手にゃ斬撃よりも打撃が効くのは解ってる!思いっきりブチ噛まそうぜ━━━兎月(とつき)煌枹(こうばち)】!!」

 

黒く、黒く。熱を求める黒い枹を握り締め、サンラクは金晶独蠍に立ち向かったのだった。

 

 

 

 

 






戦闘特化、唯一無二、完全無欠の金蠍


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