VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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サードレマに着きまして




乗し掛かる時間は、疾走を縛りて止める

「おーい……ペンシルゴ~ン?」

「……………ウフフ」

「……駄目だコリャ」

 

此れで通算十九回目(・・・・)のペンシルゴンの無反応に、ペッパーは小さく「はぁ…」と溜息を付く。お姫様抱っこ+全速ダッシュでサードレマの入口に来たまでは良かったのだが、其の後が問題だった。

 

クラン:旅狼(ヴォルフガング)の外道参謀、或いは黒幕魔王ことアーサー・ペンシルゴン。ペッパーのお姫様抱っこによって、現在高級日本酒でも飲んだような、ぽわぽわとした幸福に満ち充ちたニッコリ笑顔の上の空。

 

其の状態のペンシルゴンは、此方の声に全く反応しておらず、建造物の壁やNPCに激突し掛けてしまい、此れでは不味いと、ペッパーが彼女の手を引きながら歩く。そして当然だが其れなりに名が知られているペンシルゴンが、そんな顔をして歩こうものなら他のプレイヤーにNPCの注目を集めるのは当然で。

 

「おい、あれ……」

「わ、廃人狩りじゃん……ってか何だあの顔」

「手を引いてるのNPC…なのか?」

「真っ黒コート格好良いなぁ……」

「いや、名無しのコート着けて歩いてたのペッパーって情報有ったし……」

「廃人狩りと一緒って事は……いやまさかな?」

 

嵐を巻き起こすペッパーが、名前隠しのコートを装備している情報は出回っている様で、前回の事件からもしかすると、ペッパー本人が変装しているのでは?とも考える。が、やはりペンシルゴンが居るからか、話し掛ける事が出来ずに、通り過ぎるのを見ている事しか出来なかった。

 

此のままではペンシルゴンが使い物にならない為、ペッパーは上の空で幸せ笑顔の彼女を連れて、サードレマの裏路地へと入る。そして周りに誰も居ない事を確認しつつ、彼女を壁に寄り添わせ……━━━━━。

 

「トワ、おーいトワ~」

「ん~?あーくん、どうしたの~?」

「そろそろ戻ってこーい。お前の表情が他のプレイヤーに見られてたぞ~」

 

ぽわぽわの彼女の肩を軽く叩き、此処までの事を包み隠さず話すと、彼女は思いっきり真っ赤な顔をして、後ろ向きで建物の壁を殴り始める。

 

「うぐぐ……!ペンシルゴン………シャンフロ人生、一生の不覚……!」

「誰にだって、ミスや失敗の一つや二つ有るよ。同じ過ちを繰り返さなきゃ良いだけの話だ」

「うぅ~……!其れやったの、あーくんじゃん!」

「解った、解った。悪かったって」

 

恥ずかしさ故か、振り返るやペッパーの胴をポカポカと叩くペンシルゴンに、彼もまた謝る。

 

「む~……ちょっとあーくん、おねーさんに対する誠意が成って無いんじゃなぁい?」

「じゃあ………どうしろと?」

「其のコートのフード外しと、手を繋いで大通りを一緒に歩いて貰おうかなぁ?」

「ごめんなさいごめんなさい、其れしたら此方が死ぬので止めて下さい御願いします」

 

「ウフフ…ジョーダンだよ♪」と笑うペンシルゴンだが、其の目は冗談で言って居らず、寧ろやらせる気満々だっただろうといった表情。どうやら何時ものペンシルゴンのペースに戻ったようである。

 

「まぁ、私としてもあーくんの『意外な一面』が見れたから、貴重な経験が出来た感じではあるねぇ」

「今日一日で出来るだけ、フィフティシアに近付きたいからな。成るべく足を止めたく無いんだ」

 

時間は限られているからこそ、有効に扱わなくてはならない。特に今回は叶うならフィフティシアまで、そうでなければイレベンタルまで向かいたい所である。

 

「ん~まぁそうだねぇ。でも、あーくんって結構速く走れるんだね。色々スキルを使ってるの?」

「あぁ、窮速走破(トップガン)無しでも其れなりに速く走れるよう、ダッシュスキルに強化(バフ)スキルの補強と、再使用時間(リキャストタイム)短縮スキルを使ってる感じ」

 

スキル名:トルクチャージ。ウェザエモン戦の後に新規習得のスキルとして加わった其れは、重ね掛けて使用したスキル達を、其の熟達具合に応じて再使用時間を短縮するという、有用なスキルである。

 

「再使用時間短縮スキル有るの?」

「多分『複数の同系統スキルを重ね掛けて使う』と、習得出来る可能性が高いね。実際使ってみたが、再使用時間が減ってた。レベルアップしていけば、もっと短縮可能になるとは思う」

 

でもなぁ……と、ペッパーは裏路地から見える空を見上げ呟く。

 

「出来る事なら其のスキル以外で、もう少し『スキルの再使用時間を減らしたい』とは考えてる。切札級のスキルともなると再使用時間が長くて、外せないプレッシャーの中で戦わないと行けないんだよね……」

 

致命魂の首輪と致命魂の腕輪によってもたらされた、スキル達の凄まじい成長は、強力な手札となってペッパーに恐るべき『力』をもたらした。しかし其の代償として、強力になったスキル達は再使用時間の長さという、相応の『対価』をペッパーに与えている。

 

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)に、冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)、そして聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)等を初めとした、今も自分を支えている手札の中には、強過ぎるが故に再使用時間に『1~2時間』、長いものになると『数時間』を要求する物が在る程だ。

 

「まぁ、シャンフロがスキルゲーである以上は、避けて通れないもんだと割り切るさ」

「そうだね、用いる手札を何処で何を切るか……。PKerしてた時は、其の『緊張感』が堪らなかったんだよねぇ……」

 

対人戦の醍醐味は其処(・・)だろう。自身と相手の持つ手札、装備の種類に持っている武器、最新の情報と現在の情報による化かし合い。一手一手の取捨選択と刹那の判断、其れが勝敗に直結するスリルは何物にも代え難い。

 

他のプレイヤーと力を比べたい、己の実力を格上の相手に試したい……そんな想いを宿すが故に、PKer達は消えないのだろう。だがPKによって積み上げたものを、全てを失う危険(スリル)と、代償(リスク)を抱えたとしても、其れでも試したいと願う者が居る限り、PKは無くならないのだろう。

 

「まぁ万が一にも、あーくんの所にPKerが来たら京極(キョウアルティメット)ちゃんを差し向けたり、私直々にブッ飛ばしに行ってあげるから……安心してネ?」

「アハハ……頼りにしてるわ……」

 

やっぱり、ペンシルゴンだけは絶対敵にしたくない……そう改めて胸に刻んだペッパー。そして二人と一羽と一匹は、裏路地を上手く使いこなして神代の鐵遺跡へ続くゲートを潜り抜け、目的地を目指して走って行ったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって………ペッパーさん、かな?」

 

其の後を追い掛け始めたのは、青い魔術師の衣服を纏って致命の錫杖(ヴォーパル.ロッド)を抱えて走る『レーザーカジキ』。

 

「………ほぉーん?あの(・・)ペンシルゴンがねぇ……」

「サンラクさん、また悪い顔してますわ……」

「トモダチが良い顔してる(弄り甲斐有る)んなら、其れを確かめたいのは『当然の事』なんだよなぁ……」

 

祭衣・打倒者の長頭巾(フェスタ・メジェ・カフィエ)にエムルを隠した『サンラク』が、ペッパーとペンシルゴンのやり取りを見届け。更にはオイカッツォへのメールを送って、其の後を追い掛ける。

 

状況はペッパー達の予想とは思わぬ形に転じ始めたのだった………。

 

 

 

 






次なる場所は、鐵遺跡

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