十年振りの顔合わせ
「あ、アズサ兄……!?マジかよ……!」
「やぁ、クオン。久し振りだ、元気にしてたか?」
片や驚愕、片や微笑み。クランオーナーだった者と、クランオーナーをしている者が、樹海窟にて相対す。
「んふふ……ペッパー君も気付いてると思うけど、オルスロット君は家の愚弟なんだよねぇ~」
「おいクソ姉御!?愚は余計だろうが、愚は!!」
「クソは余計じゃないかなぁ~?悪い口は此処かぁ~!此処かーーーーー!!!」
「やめ、やめろォ!?クソ姉御がああああああ!!!」
オルスロットに組み付いて、後ろから両頬を引っ張ってぐいーんぐいんと伸ばすペンシルゴンに、オルスロット渾身の叫びが響く。
「えっ…えっ、ペッパーさん……。阿修羅会のリーダーと知り合い……だったんですか?」
そんな中、レーザーカジキがペッパーに問い掛ける。悪名高き阿修羅会の話を、彼は自身の姉であるAnimaliaから聞かされている。
「いや、リアルで会った事が有っただけで、阿修羅会のリーダーだったんは俺知らないよ?」
「へ?そうなんですか?」
「うん」
事実である。父親の仕事の都合で引っ越す前の久遠は、幼稚園の年長組くらいの年齢であり、十年も経てば人間も少なからず成長する。だが引っ越す前にやっていたレトロゲームで、久遠が中々勝てずにいる状態を見てアドバイスを送ったが、未だに改善出来ていないのを見て、人は変われない部分も有るのだと改めて認識したのだが。
「しかしまぁ……二人のやり取りを見てると、昔を思い出すな。よく弄られてたっけか懐かしい………いや悪い思い出しか無いわ」
「其れはどーゆー意味かなぁぁぁぁ???ペッパーくぅぅぅぅん???」
「おわあああああああ!!!???」
染々と思い出せば、ロクな事が無かった事に気付いたペッパー。其れをトリガーにしてか、両頬を弄くり倒して伸びているオルスロットに変わり、両頬を弄り倒しに掛かるペンシルゴンに彼の悲鳴が上がる。
「うごごご……クソ、姉御がぁ………」
「あ、あの……」
「アァ??」
倒れ伏すオルスロットが見上げれば、其処にはレーザーカジキと頭に乗っかったアイトゥイルが居り。レーザーカジキは睨み付けるオルスロットに対し、己の身を屈ませながら勇気を出して問い掛ける。
「えっ……と、オルスロット……さんは、ペンシルゴンさんの弟さんで…しょうか……?
「…………そうだが」
「その……お姉さんの事……『嫌い』……ですか?」
「…………は?」
レーザーカジキにもAnimaliaという姉が居て、無茶振りを吹っ掛けてきたり、姉特権と年上権限を行使して振り回された経験が有り、其れで喧嘩をした事も有ったりもした。だが其れでも、Animaliaはレーザーカジキを大切な家族として接し、愛情を持っている。
オルスロットは気付いていないだけだが、ペッパー……五条 梓は天音 永遠と共に過ごした数年間で、天音 久遠に対して見下しては居るものの、家族として大事に思っている様に感じていた。
ゲームでも自分の思い通りにいかなくては直ぐに辞めてしまう彼を、此の世界━━━神ゲーたるシャンフロでは辞めて欲しく無いと、何とか引き留めようとしたのではないのか…………と。
「僕は……Animaliaさんの弟、です……」
レーザーカジキの唐突なカミングアウトに、オルスロットは目を丸くする。Animalia━━━━シャンフロの中でも最強クラスの呪術師にして、ゲーム内トップクランの一つ・SF-Zooを率いるクランオーナーだ。
「今も時々、知り合いから……姉と比べられたり、して……。嫌な……思いを味わった、り……します。」
オルスロットの目に写るレーザーカジキは、所謂オーソドックスな魔法使い。手に握る
最高クラスの呪術師と比べるまでもない、木っ端の様な存在。だというのに、そんなレーザーカジキの瞳は真っ直ぐに自分に注がれている。
「でも……そんな時は何時も、自分に言い聞かせている言葉が……有ります。…………『辞めない、諦めない。続けている限り、必ずチャンスは平等に訪れる』………って」
キラキラと曇り無い光の眼が、オルスロットを見つめている。そして彼は、憧れた人が倒れ伏した人へ何を伝えようとしたのかを、己の思考で導き出した答えを言葉に乗せて伝えたのだ。
「ペッパーさん…の、言葉は……きっと……『もっと周りを見て、相手が何を考えているのかを考えてみて』と……言ってる様に、思い……ます」
「………大正解だ、レーザーカジキ。凄いな」
頭に乗っていたアイトゥイルがペッパーの腕を伝って彼の肩に移る中、ペッパーがレーザーカジキの頭を撫でながら、膝を付いて身を屈めるや、オルスロットに向けて言った。
「オルスロット。君のキャラビルドはどんな配分だ?」
「はぁ?何で其れを聴く」
「愚弟、ペッパー君の質問に答えて」
有無を言わさぬペンシルゴンの一声に、オルスロットは彼女を睨みつつも、渋々『敵との斬り合いを前提にしたビルド』とだけ答える。
「答えてくれてありがとう、オルスロット。其れじゃあ相手にダメージを与える為にはどうすれば良い?」
「………レベルを上げて、ステータスを上げて、スペックで押し潰す」
「其れも『答え』だね。悪く無いよオルスロット。寧ろ自分が『どうしたいか』や、自分が『どうなりたい』かが、明確に定まっているだけでも大きい」
相手のプレイスタイルや考え方を頭ごなしに否定せず、聞き届けて一定の『理解』を示す。レトロゲーマーたるペッパーは、オルスロットに次なる質問をぶつける。
「そう言えば阿修羅会ってPKクランだったんだよな?」
「……あぁ、そうだ。……勝ったり負けたりしながら、運営が罰則強化に動くまでは、普通に楽しくやってただけだ。なのに、リスクから安定を取った瞬間から『他のメンバーが離れて行ったのか』……今も解らねぇんだ」
何でだ……と頭を掻き毟り、出ぬ答えを絞り出さんとするオルスロットだが、ペッパーは此処で答えに辿り着く。
(成程な……久遠はPKによって得られる『結果』を求めたのに対し、所属していたメンバーは『過程』や『戦いのやり取り』を求めていた………と)
元メンバーであるペンシルゴンや
危険を避け、安寧を取る………其れをペッパーは、悪い事とは思わない。シャンフロのPKerに対するリスクはとてつもなく重く、ペンシルゴン程のプレイヤーでも敗北して、借金5億マーニという罪状を背負った。
負ければ全てを失うという、圧倒的なハイリスク。しかしPVPとは駆け引きこそが『醍醐味』であり、其のリスクを許容して己の全てを懸けて勝ちに行く事こそが『本懐』である。
「なぁ、オルスロット。斬り合い前提のビルドって何を以て『真髄』としていると思う?」
「何って………そりゃ相手を『倒す』為だろう。相手を倒して圧倒する、其れが俺の『答え』だ」
「そうか……なら、相手が自分よりも『強く』て、そして『狡猾』で、自分のゴリ押しが『通用しない』相手なら━━━━どうやって『勝ちに行く』?」
自分のやりたい事が解っているなら、何がしたいかをビルドとして構築出来ているなら、必ず答えに辿り着ける。其処に気付ければ、オルスロット━━━天音 久遠は変われると
「どうやって勝ちに行く……?そりゃ………どうやって?」
「俺は昔に、こんなアドバイスをしたぜ。━━━━『対戦型ゲームは、スペックだけじゃ決まらない』ってな」
ゆっくりと立ち上がり、レーザーカジキの護衛として彼の頭にアイトゥイルを乗せて。ペンシルゴンも状況を理解してか、オルスロットに言った。
「ねぇ、元クランオーナー。昔、私はアンタに『オフラインゲームが御似合い』って言ったと思うけど。其の答えは、ペッパー君の質問の意味が解ったら、アンタでも
頑張りなさいな━━━━━━そう言い残し、ペッパー達一向は双皇樹付近を後にして、フォスフォシエに向かって歩いて行く。
背を向け歩いて行く一向に、オルスロットは復讐への好機と思うも、ペッパーとペンシルゴンが何故自分に対し、問いを投げ掛けたのかを『考え』。そしてレーザーカジキの言葉から、変わる為のチャンスを『与えられた』と思い、其の意味を考え始めたのだった………。
「良かったの?ペッパー君」
オルスロットの襲撃に逢いながらも、歩みを進めるペッパーは、ペンシルゴンから声を掛けられる。
「ん?何が?」
「何って……そりゃ家の愚弟が、ペッパー君を襲った事だよ。下手したらアイツ、ケジメ案件にしてやろうかと思ったんだけど」
「ケジメ……御頭もケジメは大事だって言ってたのさ」
相変わらず恐ろしい事此の上無しなのだが、ペッパーは言う。
「『誰でも等しく変われるチャンスが有る』………レーザーカジキはそう言っていた。其れはクオンも━━━オルスロットも同じで、要するに『気付けるか否か』さ。ゲームでなら『成りたい自分に成れる』ように、レベルダウンビルドで幾らでも『変わる事が出来る』んだからな」
そうして歩き続けた先に、全員が一度攻略したクラウンスパイダーの縄張りとする、巨木が見えてきて。ペッパーはペンシルゴン・レーザーカジキ・アイトゥイルに向けて、宣言する。
「此処は俺が。1分でクラウンスパイダーを真上の巣から、地上に叩き落としてみせる」
━━━━━━と。
ゲーマーとして送る、再起へのアドバイス