VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ペンシルゴンとペッパーのオハナシ





鉛筆は憚り、胡椒は咳き込み、兎が扉を開く

天音(あまね) 永遠(とわ)。現在、カリスマモデルとしての地位を確固たる物にし、雑誌や記事でも引っ張りだこの女性。

 

あらゆる不意打ちの撮影でさえ、どこから撮ったとしても『ベストショット』にしてしまう圧倒的な美貌と顔立ちは、ファンの間で彼女を『神格化』する熱狂的な連中もいる程。

 

「ファッションに困ったら天音 永遠がモデルの雑誌で紹介されている服を買えば間違いない」と言われ、特に10代女性からの爆発的で絶大な人気を受けている。

 

だが、そんな彼女等を全員纏めて敵に回したとしても、俺は自分を曲げずに言ってやろう――――お前達の目は随分節穴なのだな、と。

 

幼稚園年長組の頃、俺の隣近所に家族で引っ越して来たのが、永遠と弟を含めた四人家族の天音家だった。まぁ最初の頃は年上の女の子って感じで、まぁまぁ仲良くはしていたよ。レトロゲームで遊んだり、自転車で河川敷を全力疾走したり、かくれんぼや鬼ごっことかもしたかな。

 

で、そんなある日。永遠が犬に襲われていて、俺が其処に助けに割り込んだ事が在ったらしい。もう既に昔の記憶だから、全く覚えてはいないが。

 

其の事件がある意味『ハジマリ』で、俺が永遠を嫌いになる『キッカケ』だった。

 

ある時は、案内された先で俺が落とし穴に綺麗に落っこちる様を平気で笑い転げたり。

 

またある時は、俺が犬に追われて噛まれそうになったりするのをゲラゲラ笑ったり。

 

特に堪えたのは、頑張って全クリしたゲームの最強装備(2回目以降の入手の場合は滅茶苦茶条件が厳しい)、其れもパーティー全員分を、本人が居る目の前で売却したり。

 

兎に角、人の不幸を笑える『ド畜生』だった。

 

しかも此れを自分で考え、用意して、入念な準備をし、上手いこと口達者に行うのだから、余計にタチが悪い。マジで性根が歪んでるなと思う程に。

 

俺は程無くして家に籠り、兎に角アイツとは会わないようにし続けた。理由を作る名目で色んな昔のゲームをプレイして時間を潰しまくり、アイツと遊ぶ時間を作らせないよう心掛けた。其のお陰が、自分でもかなりプレイスキルは磨き研かれたとは思っている。俺が永遠に感謝してるのは、其れだけしかない。

 

まぁそれでもアイツは、此方の僅かな隙を狙っては、俺を外に連れ出して無茶苦茶しまくり、俺は嫌々ながらも永遠の企みに乗ってはやったが、本当に嫌な思い出ばかりが積もっていった。

 

そんなある日、俺は父親の仕事の関係で別の場所に引っ越す事になり、最後の日に永遠へ「やっと顔を見なくて済むよじゃあな」と言い放ってやった。此迄の怨み辛みやら、纏めて全部吐き捨てる形で。

 

だが何故か、永遠は大泣きし始めて、俺に何かを言って走り去ってしまったのだが、其れを今も思い出せないでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり~。あーくん随分大きくなったねー」

「俺は二度と逢いたくなかったがな…」

 

頭をよしよしと撫でようとしてきたペンシルゴンに、ペッパーは何とか対抗しようとしたが、レベル差の影響で抵抗虚しく撫で撫でされる羽目に。

 

「で…………天下のカリスマ殺人鬼モデル様が、こんな辺境の地で採掘してる一般市民に如何様な御用件で?まさかスカウト?喜んで御断りするけど」

「あらら、スカウトしようとしたら先に断られちゃった♪お姉さんはとってもかなしいな~えーんえーん」

 

棒読み嘘泣きのバーゲンセールかと言わんばかりの演技、明らかに此方をおちょくっている。

 

「まぁ…スカウト自体は本当だけど」

「殺人鬼集団とランデブーとかイヤだが?」

「ははは!君ならそう言うと思った!」

 

コイツの『こういう所』が嫌いだ。本心を隠し、言葉巧みに誑かし、あらゆる物・人を其の全てさえも使いこなし、気付いた時には『掌の上』で、誰も彼もが踊らされている。

 

天音 永遠の本質は『黒幕』――――全てを操り、瞬間瞬間を生き、愉悦に嗤うのだ。

 

「あ~…ハハハ、たのしー。やっぱりあーくん弄ると生きてる実感するわ~♪」

「この女悪魔め…!」

 

思い出したくもない事を思い出して、コイツに心を掻き乱されてムシャクシャしてくる。此の憤り、採掘にぶつけて晴らさで措くべきか…そんな気持ちにペッパーがなり始めた時、ペンシルゴンはこう言ってきた。

 

「まぁ、わざわざフィフティシアから此処まで来たのは、小鎚を解放したユニーク保持者探しが目的で、其れがあーくんだったのは意外だったなー」

「俺で悪いかよ」

「……ううん。寧ろ『君で良かった』って思う」

 

君で良かったというペンシルゴン、其の頬はほんの僅かに赤かったが、ペッパーは気付かない。

 

「ねぇ、あーくん。私と『取引』しない?」

「……取引?何を?」

「なぁに、とっても簡単な話だよ。君が私『個人』に、君の持ってるクエストの情報を売って欲しいってだけ」

 

相変わらず何を企んでいるのか、彼にはペンシルゴンの考えが分からない。だが、彼女はペッパーの予想の斜め上を行く、とんでもない爆弾発言をぶん投げてきたのである。

 

「もし、其の情報が充分な価値有りだと判断出来たなら。『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン』、其の攻略に一枚噛ませてあげる」

「おい永遠、今お前なんて言った?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニークモンスター。シャンフロの世界では、ペッパーが対峙した『夜襲のリュカオーン』を含む『最強種』と呼ばれる存在が居る。

 

どんな種族で、何処で出逢え、何体居るのか。其れ等の情報は極めて少なく、名前そのものが判明しているのも極僅かという、謎が謎を呼ぶモンスター達だ。

そしてそんな最強種達は、全員例外なく『理不尽な強さ』を誇っている。

 

曰く、夜襲のリュカオーン相手に挑んだ最強クランの精鋭達が、ボウリングのピンみたく吹っ飛ばされて総崩れ。

 

曰く、真っ昼間の空から金色の龍が降りてきて、とんでもないブレスで焼き払い、野良パーティーは全員纏めてガメオベラ。

 

3000万人のユーザーがプレイしながら、現在に至るまでユニークモンスターは『1体たりとも』討伐されていない理由が、其の理不尽な強さに在るのだという。

 

「墓守のウェザエモン…だと?」

「そ。私の所属してるクラン『阿修羅会』が直隠しにしてるユニークモンスター。因みに他のプレイヤーは知らなーい、と~っても貴重な情報だよ~?」

 

ニヤニヤしているペンシルゴン、普通のプレイヤーならば喜んで賛同するだろうが、此方は其れで何度も痛い目を見てきた。

 

見えてるぞ、お前の『狙い』は――――!

 

「永遠………相変わらず何企んで、何考えてるか分かりゃしねぇが、此の話を聞いた時点でどっち道『協力』するしか、俺の生き残る道ねーじゃねーか」

 

阿修羅会がどんな集まりなのかは知らないが、プレイヤーキラーのペンシルゴンが所属している事から察するに、プレイヤーキラークランである筈だ。

 

仮にコイツの要求を断った場合『他プレイヤーにウェザエモンの情報知られて、掲示板で拡散されましたー』なんて言われようものなら、間違いなく追われる身にされる。

 

リスポンキルすら生温い地獄が確実に俺を待っているだろう。故に俺を断らせない為に、コイツは先んじて逃げ道を塞ぎにきやがった訳だ。

 

「ほほぅ、存外直ぐに状況把握が出来たじゃない。そんな優秀あーくんには、ペンシルゴンお姉さんとフレンドを結ぶ権利をプレゼントしちゃうぞー。泣いて喜びたまえ♪」

「喜んで突っ跳ねたいがな。……はぁ、フレンドは結んでやるよ。どうせ結ばないって言ったら、また色々やりそうだし」

「あ、バレた?」

「マジで何しようとしたんだよ……」

 

考えるだけでもゾッとした。まぁコイツならやりかねないし、想像するだけロクな事にならないだろう。送られてきたフレンド申請画面のOKボタンをクリックし、俺のシャンフロ初のフレンドは、因縁浅からぬアーサー・ペンシルゴンになった。

 

「……しゃあない。約束通り俺の持ってるクエスト、教えてやるから傾聴しな」

「よっ、待ってました♪」

「先ずは此のユニーク武器・ロックオンブレイカーだが……特殊クエストの一番最初をクリアした事で『秘伝書』と一緒に貰った。で、其の秘伝書は『PK強奪不可能』と『破棄不可能』が付いてて、俺以外閲覧する事すら出来ない」

 

永遠が俺の発言に目を丸くする。此処まで散々振り回してきたんだ。当然、振り回される覚悟も出来てるよな?

 

「要するに…あーくんに素材を渡して、生産を依頼するしかないって事?」

「あぁ。で、今受けてる依頼でマッドフロッグの皮が200枚必要になってて、おそらくだが『複数の段取り』が待ってる。多分流れは収集→実験→戦闘…だとは思う」

 

此の依頼に関しては、ほぼ当てずっぽうだが今までプレイしてきたゲームにも、此のタイプの依頼が有ったので、可能性としては高い。

 

「そしておそらく。此の特殊クエストは『段階式解放型クエスト』――――クエストが1つ終わる毎に新しいクエストの発生と、シャングリラ・フロンティアのゲームをプレイするユーザー達に『様々な恩恵』を与える、とんでもないクエストだと俺は考えてる」

 

世界の情景、其処に住む人やモンスターにさえ影響を及ぼし、あまつさえ変えていく大スケールのクエスト。世界を変えると言う訳ではないが、其れでも此のクエストは進めていくだけの価値は、十二分にあると俺は思っている。

 

「うん…私の予想以上のクエストだね。良いよ、約束通りウェザエモン攻略、あーくんも参加させるね」

「取引成立だな」

 

リュカオーンに噛まれ、呪いが刻み込まれている右手ではなく、ロックオンブレイカーをインベントリに仕舞った左手で握手を交わす。

 

「ところでずっと気になってたんだけど…何で右腕マントで隠してるの?」

「知らないのか?今、シャンフロ初心者の間じゃ流行りのファッション『片腕マント隠しスタイル』なんだぜ?」

 

嘘である。リュカオーンと接触して実力認められた上に、マーキングを付けられたなんて、コイツに言ったら更に面倒事になるのがオチだ。隠せる武器は隠しておくに限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サードレマに着いたら、伝書鳥で報告お願いね~』と言い残して、アーサー・ペンシルゴンはサードレマの方面に帰って行った。

 

「はぁぁぁぁぁぁ……やっと終わったぁ~………」

 

四駆八駆の沼荒野からセカンディルに戻り、色々な意味で束縛を解かれたペッパーは、街の人気の無い裏路地に逃げ込み、大きな溜息を吐き捨てる。

 

「あぁ、くっそ。まさかアイツが、シャンフロやってるなんて予想外にも程がある…。というかキャラメイクに気合入れ過ぎだわ、作り込みが半端じゃねぇ」

 

まるで鏡写しのようなアバターに、彼女自身相当な想いを込めてビルドしたのは間違いない。最も其れは『天音 永遠を語る不届き者』を『本人自ら演じる』という性根の悪さが滲み出ているだろうが。

 

「マーキングもあるし、悪目立ちしそうだし、どうやってマッドフロッグの皮を集め………ん?」

 

行き詰まった状況の打開策を考えていた時、不意に目の前を『黒い兎』が通り過ぎる。視線を送ってみると、此方に気付いた黒兎は、手招きをして街角へと消える。

 

「え、ちょ!?待て待て待て待て待て!!?」

 

見失わないようにスキル:アクセルを使用し、黒兎の跡を追い掛けるペッパー。そうして裏路地の行き止まりに差し掛かった所で、黒兎は壁に『扉』を作り出す。

 

「は!??!何それは!?」

 

魔法の一環なのかと聞きたかったが、黒兎は扉を開けて中に入り、ペッパーに手招きをして扉を閉めた。

 

 

『ユニークシナリオ・兎の国からの招待』

 

 

扉にはそう書かれている。

 

「ユニークシナリオ…!?」

 

まさかの事態だ。特殊クエストを進めていたら、未知のユニークモンスターの存在を知り、其の矢先に今度はユニークシナリオまでもが、自分の元に転がり込んできた。情報の大洪水で頭の許容量が限界点になりそうだが、今は其れもどうでも良い事で。

 

「へっ…兎が出るか、蛇が出るか。確かめてやろうじゃないの!」

 

未知を求め、世界を拓く。其れが開拓者。なれば此の未知、楽しまずして開拓者は名乗れはしない。ペッパーは扉を開き、其の中へと飛び込んでいく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、此の時の彼は知らなかった。

 

このユニークシナリオは『推奨レベル80以上』という、化物シナリオであると。

 

そして彼が、現在進行形で受けている特殊クエストとも相まり、シャングリラ・フロンティアは其の大きなうねりを受け、世界を止め続ける歯車が、確実に破壊されようとしていることに……。

 

 

 






ユニークはユニークを呼び、そしてユニークは連鎖する
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