VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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加速する戦い




放たれる窮速、勇者は星の剣を掲げる

「ん……………ふうっん………んんん?」

 

ふと目を覚ませば、見知らぬ天井が在った。━━━━なんて、数十年前の二次創作小説の導入なんかで良くある光景を、此の日私は体験した。

 

気が付いた、と言うより━━━━『トリップ』。幸せで心が充たされて、頭は思考のネジが取れてしまった……そう言った方が良いのだろうか?

 

意識が戻った私が見たのは、垂れ幕が掛かった舞台裏の様な場所。背中に感じるのは、複数の斜めに並んだ高級な椅子の感触。

 

起き上がって周囲を見渡せば、其処に在ったのは中世ヨーロッパの劇場めいた場所で、舞台が出来そうなステージと灯された多数のスポットライト、そして無数の観客席と私が居る複数のVIP席。

 

観客席の背凭れに登って、必死に目で何かを追っているアイトゥイルちゃんとポポンガのNPC達、其の視線を向けた先に在ったのは。

 

「ペッパー流……断風(たちかぜ)ェアッ!」

 

レディアント・ソルレイアを着け、空中で頑固者のウェザエモンが代名詞、神速の抜刀居合をエフェクトを纏って放ち。黒く染まった『あーくん』の胴体を切り裂く『あーくん』の姿が在って。

 

二人のあーくんが劇場で戦う、あまりにも理解不能な状況に、私はありのままの言葉を込めて言い放った。

 

 

「何これ」

 

 

━━━━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕留められていない。

 

翡翠の太刀を納刀し、直ぐ様イーディスに切り替えたペッパーは、そんな直感を抱いていた。自己流の断風、あの盤面は神律燼風(しんりつじんふう)単体ではなく、速刃(そくじん)雲払(くもばらい)】も加えて斬るべきだったと思ったが、黒ペッパーがペッパーの模倣体である以上、余計な一手は確実に気取られるとペッパーは思考。

 

故に自身が反応出来ないスピードで、サマーソルトキックからの防御姿勢の僅かな隙を狙い、相手を切り裂く『神速の抜刀居合』を選択したのだ。結果として見れば、黒ペッパーの着る愉快合羽の上から、裂傷付与の斬撃を刻み付けられたが、果たして其の選択が正しかったかは自分にも解らない。

 

だが其れでも、一つだけ朗報が有るとするなら。黒ペッパーが全身にエフェクトを纏い、明らかに自身を強化しているように見える、という事か。

 

「ふっ、上等!」

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル):窮速走覇(トップガン)は五分の間に限り、現在(・・)の敏捷数値を三倍&スタミナの減少を無効にするスキルである。単体でも使えば凄まじいが、やはり其の真髄は『複数の敏捷強化(スピードバフ)スキルを乗せて起動する』事。

 

現時点での敏捷数値を三倍にするので、重ね掛けしたバフが切れてもスピードは其の分だけしか落ちない。だからこそ、此処からの五分間は一番『厳しい』戦い━━━或いは『山場』、或いは『分岐点』とも取れる五分間になる。

 

黒ペッパーがバフスキルの重ね掛ける様に、ペッパーもまたバフスキルを小分けしながら重ねていき。其の直後、空中を駆けた黒ペッパーが此の場面で更に加速(・・・・)。前回自分が影法師相手にやった、聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)・ドロップキックを仕掛け。

 

其れを半分直感じみた反射的な行動(アクション)と共に、イーディスの差し込み(インターセプト)で防いだペッパーが、ステージ奥まで吹っ飛んで壁に叩き付けられた。

 

「ぐへっ!?だぁあ!?」

『━━━━━━━━』

 

窮速走覇━━━━━対人戦なのか、対モンスター戦なのか解らない影法師との戦い。実際に使われると、こうも違って見えるのか。単純に相手の方が速い、レディアント・ソルレイアのブーストに空中ダッシュ、そして無限のスタミナによる無限ジャンプで、黒ペッパーが劇場内を縦横無尽に飛んで跳ねて駆け回り、ペッパーも其の速度の中で生き残るべく必死に抗う。

 

「ぐあっ…なろ!?やっぱり『解って』やってるな………っう!」

 

脇腹を攻撃が掠め、ダメージが発生。盾を構えた位置を避け、ガードが出来ないor間に合わない位置を狙って、黒ペッパーが攻撃を当ててくる。しかも嫌らしい事に繰り出し当てる攻撃が『コンパクト』だ、速さは自身が上であるアドバンテージを大いに利用して、直前で攻撃の軌道を変えながら、確実に削りに来てるのが嫌らしい。

 

「うおっ、ぶね!?」

 

そして何より嫌らしいのが、黒ペッパーが扱いが難しい『ライダメイズブレイカー』を、完璧に近い形で使いこなしている事実。コンパクトに二度当てるだけでもDOTが発生する特性を利用した、謂わば『攻めのヒット&アウェイ作戦』。

 

黒ペッパーの攻撃を凌ぎ、イーディスからライダメイズブレイカーにチェンジ。同じ箇所に打撃を軽く打ち込み、毒性として働く箇所を活性で中和する。そして黒ペッパーのライダメイズブレイカーが、凄まじいエフェクトを帯びる。使ったのは間違いなく冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)、食らえば大ダメージは避けられない。

 

だがペッパーは此の盤面では(・・・・・・)動かず、ギリギリの瞬間まで黒ペッパーの動きを追いながら、スキルを点火する。

 

全身全霊(フルドレイズ)より進化して体力やMPにスタミナを『残り5%になるまで削り』、其の減少数値分を自身の様々なステータスに加える『奮魂絶闘(オーバード・ソウル)』。

 

自傷によって強化されるスキルを使った場合、其の上昇数値をより高める『マシニクル・リブラ』。

 

『自身の体力・MP・スタミナが僅かな状態』であり、尚且つ『自身が追い詰められている程』、バフの数値と補正が上がる『窮戦剋意(きゅうせんこくい)』。

 

其れ等をイクス・トリクォスにマーシフルチャージャーを加えて、動体視力を強化。今までは目で負うので精一杯であった、窮速走覇によって加速した黒ペッパーの動きを、ペッパーは完全に捉えることが可能に成ったのだ。

 

「見えるぜ……!」

 

ライダメイズブレイカーを逆手にスイッチ、振り翳される一撃を同じ威力で相殺するスキル『同力相殺(シンクロ・ダウトラス)』で迎え撃たんとした矢先、黒ペッパーの姿が目の前から『忽然と消えて』。

 

「あーくん、後ろ!」

 

ペンシルゴンの声が劇場に響くと同時、ペッパーもまた忽然と姿を消して、黒ペッパーの背後を取る。対する黒ペッパーもまた消えて、ペッパーの横を取りながら殴り掛かる。

 

其れはまるで、瞬間転移(アポート)による移動を繰り広げながら、現れては消え、また現れての繰り返し。瞬間転移じみた挙動を可能にするステップスキル『オーバーラップ・アクセラレート』の回数が増えた『レーアドライヴ・アクセラレート』を持つ者同士による読み合いだ。

 

(だが、此の勝負には決定的な()が生まれている!先に出したのは彼方さん(黒ペッパー)で、此方()は後に出した!つまり『一回分』多く動ける!)

 

レーアドライヴ・アクセラレートを使いつつ、黒ペッパーの全身を黙視しながら、其の瞬間を待ち続け。そして其の時はやって来た。黒ペッパー()レーアドライヴ・アクセラレートが、効果終了となったのである。

 

(此のチャンス、逃しはしない!)

 

英雄疾走(ヒーローダッシュ)起動、巨悪に苦しむ人々の声に応じて颯爽と登場するが如く、レディアント・ソルレイアのブーストで宙を駆けて、ライダメイズブレイカーをヴァンラッシュブレイカーに変更。抜鎚の如く、名に冠された通り『対城規模の敵の装甲』を破る為のスキル『フォートレスブレイカー』を繰り出す。

 

が、ペッパーは此処で黒ペッパーの武器がライダメイズブレイカーから、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)に変わったのを目撃。其の狙いが『逆手による斬撃で、自身の首を狙っている事』に気付く。

 

死神の斬撃(デス・マサカー)』と呼ばれるスキルがある。『短剣・短刀・大鎌武器時のみに対応』、『逆手持ちで発動可能』、『首への攻撃でクリティカルを出す』と言う、面倒な前提条件を持つ。

 

だが、ヒットすれば━━━━━━ユニークモンスターと一部の敵を除き、其の他多くに対して『100秒後に問答無用の即死判定が下される』、恐るべきスキルなのだ。

 

攻撃モーションに入った以上、キャンセルは出来ない。迫り来る刃がスローモーションに見える。まさに死神が刃を突き立てる様であり。

 

「いっっっっま、ダァアッ!!!」

 

残り一回、レーアドライヴ・アクセラレート。目の前で消えて振り終えた右側に、煌軌一閃(こうきいっせん)で飛ばした可能性も想定し、屈みながら出現。即座に巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)で右脇腹をぶん殴り、其の勢いでステージ奥まで吹き飛ばす。

 

黒ペッパーがステージ奥へ飛んで行き、爆砕音が鳴り響く中、ペッパーはレディアント・ソルレイアのブーストを調整。観客席の通路に降りて、肺に溜まった二酸化炭素を息に込めて吐く。

 

「はぁぁぁぁぁぁ~~!!っ………くっそ、マジできっつい………!このまま長期戦になったら、間違いなくジリ貧して負ける………!」

 

戦闘が始まってから、そう時間は経過していない筈であるのに、疲労感が生半可なレベルでは無い。ステージを見れば、黒ペッパーが起き上がってくる。あまり時間は掛けられない、此処からは速攻で決めるしか道がない。

 

「大丈夫かな………?」

 

ペッパーは遂に『ある武器』を使う事にし、インベントリから『武器』を、手にした時から使えなかった『剣』を取り出す。黒鞘に納められ、必要なステータスを振っても『歴戦値』が足らず、インベントリの中で眠っていた『聖剣』を。

 

「装備は……イケる」

 

嗚呼━━━━俺は今、ある意味で幸運(・・)であり、同時に不運(・・)だ。

 

幸運は影法師を相手に、此の武器を振るうに相応しい状況(シチュエーション)だという事。

 

不運は我等が外道、アーサー・ペンシルゴンが此の戦いを見ているという事。

 

だが、そんなのは知った事じゃない。

 

「往くぞ……………!」

 

黒鞘を呪いが刻まれた右手に当てると同時、呪いから滲み出た黒靄が黒鞘に吸収されて。ペッパーはクルリと剣の柄を回して、右手で力強く握り締めて━━━抜剣。

 

黒く……黒く………尚黒い。ブラックホールの様に黒い鞘より剣が右手によって引き抜かれ、劇場に其の御姿は示された。

 

其の剣は銀と空色と僅かな黒が彩り、スポットライトの光に灯され煌めき、七つの穴が空いた剣身は、誰の目にも異質に映る。

 

七つ星の意味を名付けられた、其の剣は。

 

 

 

 

「━━━━『星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ』!!!」

 

 

 

 

死闘の最中、『夜襲』の瞳に傷を刻み。

 

激闘を越えて、『墓守』の魂を受け継ぎ。

 

『不滅』の鍛冶師が、彼の為に打った其の刃。

 

黒ペッパーを、影法師の試練を越えるべく、遂に戦闘へ投入されたのであった。

 

 

 

 






其れは、蒼天(ソラ)を舞う勇者の剣


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