VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

23 / 1074


ペッパー、ラビッツに上陸す。

*読者様からの指摘をいただき、アイリスをアイトゥイルに修正します。教えてくださりありがとうございました


香辛料は兎達の夢を見るか

どうも皆さん、こんにちわ。ペッパーです。俺は今、シャングリラ・フロンティアのユニークシナリオに挑戦しています。

 

セカンディルの裏路地で黒兎を追い掛けて、開かれた扉を潜った先には――――――――兎の国が在りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『兎の国ツアー』という初心者推奨シナリオが、シャングリラ・フロンティアにはある。

 

ヴォーパルの名を関する武器を装備し、レベル以上のエネミーを倒すことにより、シャンフロの各街で『特殊なヴォーパルバニー』が現れるようになり、導かれた先の扉を潜る事で辿り着くのが、ヴォーパルバニーの故郷とも呼ぶべき場所『兎の国ラビッツ』である。

 

其の国でヴォーパルバニーを襲う『兎食の大蛇』を倒す事で、自身よりもレベルの高い相手に対しての、クリティカル補正が掛かる魔法【エンチャント・ヴォーパル】を獲得出来る。

 

なお、獲得後はラビッツから弾き出されてしまうため、スクリーンショットをお忘れなく。其れが後に梓が知った『兎の国ツアー』の内容である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁにここ」とペッパーは呟く。扉を開いた先は大樹の上に出来た木の階段と、壮大な造りを成す大御殿が鎮座している。

 

下には見渡す限り、兎を模した建物が並び、ヴォーパルバニー達が皆平和に暮らしていて、ケモナー…もといウサギ好きにはたまらない天国であろう。

 

「とんでもない所に来たのか…俺は……」

「やぁやぁ、よぅ来ましたなぁ。ペッパーはん」

 

そんな折、自分を呼ぶ声がした。彼が視線を向けると、黒い毛並みと細目と丸い唐笠を被り、薙刀と柄先に桃燈をぶら下げて、ヤクザ物でよくある着物と晒を着付ける、右側の袖を捲り捨てた如何にも剣格たる黒兎…否、黒い和装のヴォーパルバニーが居たのだ。

 

「うぉえあ!?どちら様です!?」

 

驚きで後退るペッパーに、其の黒いヴォーパルバニーは語り出す。

 

「いやはや、今ラビッツではペッパーはんの噂で持ちきりな。夜の帝王たる『夜襲』相手に後衛ながら果敢に挑む覚悟と、怒濤の攻撃を見切って夜襲の瞳を切り裂いてみせた技術。ほんまペッパーはん『ヴォーパル魂』の塊やんね~」

 

ほわほわのオーラを纏いながら、口から出るのは解説者特有の事細かな説明だ。其れより気になったのは、此の黒兎が最後に言った『ヴォーパル魂』なるワード。所謂、強敵に挑む心意気のような物なのだろうか?

 

「あぁ、そいえば自己紹介まだやったわ。ワイは『アイトゥイル』っちゅう名前なのさ。よろしゅうな、ペッパーはん」

「あっはい。ペッパーです、よろしくお願いします」

 

小さな掌を優しく握り、ペッパーはアイトゥイルと握手を交わす。

 

「今こうしてペッパーはんをラビッツに連れてきたんは、ワイのおと…じゃなかったわ。『オカシラ』が、アンタに会いたいっちゅう事で、ワイが派遣された訳さ。それにな、ラビッツには沢山人間は来るんやけんど、此の『兎御殿』に来たんわ、ペッパーはんが『初めて』なんよ」

「え、そうなの?」

「せやで。人間として『初来殿』っちゅうこっちゃね」

 

予想以上にとんでもない事態になってきたペッパーは、頭の中が情報でこんがらがりながらも、何とか平静を保つ。此処で逃げたら、せっかく招いてくれたオカシラに失礼極まりない。

 

「ささ、上がってな~」

「お……お、お邪魔します…!」

 

兎御殿に上がらせて貰ったペッパーは、靴を脱いでリュカオーンの呪いをマントで隠した右手で持ち、屋敷に足を踏み入れた。

 

荘厳な造りと和風テイストに満ちた殿内を、アイトゥイルと名乗ったヴォーパルバニーに連れられ、オカシラ……つまりはヴォーパルバニー達の長が居るという、部屋へと案内される。

 

廊下の床や棚に置物等、高級旅館を彷彿とさせる味わいと趣が漂い、屏風や襖に描かれた水墨画達は、まるで生きているかのような躍動感を持ち、緊張から背中はピシッと伸びた。

 

(ヴォーパルバニーのオカシラか。一体どんなんだろう…意外と小さかったりするのか…?)

 

アイトゥイルの身長から同じくらいなのかと考えるペッパー。そしてアイトゥイルの足が、如何にも偉い者が居るであろう大部屋の襖の前で止まる。

 

「オカシラ~、ヴォーパル魂の人間はんを連れて来ましたっせ~」

「おぅ、アイトゥイル。ご苦労だったな」

 

開かれた襖の先、畳が敷かれ、戦国時代で言う城主が家臣を集め、号令を出したりする、謂わば謁見の間の様な空間に『彼』は居た。

 

人間と同じくらいの背丈に、極道物の長が着る着物と袴を確り着付け、細い人参を模した如何にも年代物の煙管を蒸かしている。周りには小さな雌兎を従え、此れがハーレムだと言わんばかりに主張し。

 

其の身を覆うは、白くゴワゴワしながらも艶の有る毛並み。纏う気迫は、幾千の死線を越えてきたであろう、真なる強者の覇気と圧。

 

右目は戦いの中で潰れたであろう傷痕が在り、ドスと深みが聞いた声もラスボスというか、アニメなんかでいう最重要ポジションに席を置いた人物の其れで、威圧感と愛嬌が超高次元で融合したキャラクター。

 

ハッキリと解る、クリエイターと製作陣の情熱と愛情の深さ、其れを一身に受けた存在だと。

 

「おぅ、よく来たなぁ…待ってたぜ」

 

声が本当に強い。ペッパーは緊張で言葉が詰まり、声が出せずにいた。

 

「おめぇさんかい。あのワンコロの眼ェ切り裂いて、マーキング(ションベン)掛けられたっつう人間は。中々ヴォーパル魂が在るじゃねぇの」

 

兎は本来草食動物だが、時に自らの腹を痛めて産んだ子兎を喰い殺す一面も持っている。だが此の大兎の微笑み……此方に向けられた顔は、そんじょそこらの肉食獣の比ではない。

 

下手をしたら━━━━『殺される』。

 

「おめぇ等は直ぐに強くなっちまって、ヴォーパル魂を無くしちまって気に食わなかったんだが、おめぇさんみたいな見所の有る有望な奴も居るもんだなぁ」

 

煙管の煙が漂い、オカシラ大兎は口から煙を吐いて、ペッパーに言う。

 

俺等(おいら)ァは『ヴァイスアッシュ』っていうんだ。もし、おめぇさんが時間を預けるってんなら、俺直々に鍛えてやる事も出来るが………どうだい、やるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペッパーは緊張していた。其れは今現在も同じであり、其れ故に殆ど話が頭に入って来なかった。

 

「――――――おめぇさんを鍛えてやる事も出来るが……どうだい、やるかい?」

 

ハッとなって気付いた時には、もう既にヴァイスアッシュの話の大半は終わっており、答えを問われていたのである。

 

(ヤバいどうしよう!?緊張してて話の殆ど聞けなかった!?鍛える!?え、どゆこと!??!いや落ち着け、落ち着くんだ俺!!スキップ早送りでテキストを読めなかった時の選択肢で重要なのは『雰囲気』!そして答えるべきは『此の大兎の呼び方』だ!)

 

ギャルゲー等でも経験した『複数選択肢よりの選択画面』が、ペッパーの脳内に即座に形作られる。彼の中に現在存在する選択肢は、『親父』『兄貴』『先生』の3つ。

 

(極道物のゲームは『普通』なら親父と呼ぶが、今回のコレは『地雷』の臭いしかしない!下手な回答は絶対駄目!だって一歩間違えたら、ケジメで指全部持ってかれるもん!絶対此の兎やりそうだもん!!

 

つまりッ!!!選択肢は…!!)

 

ペッパーは旅人のマントを外し、靴を右側に置き、両膝を畳に着き、右手から左手を付け、日本人の世界に誇る礼儀作法の構えを取り━━━━━

 

「よろしくお願い致します━━━━━『先生』」

 

頭を下げ、そう答えた。

 

「……………………………」

「……………………………」

 

(…………あっるぇ!?此処『兄貴』って答えるハズだったよね!?コントローラーとかマウス操作でボタンの押し間違えるアレか!?ヤッバイぞ選択ミスったか!?)

 

本来の答え『兄貴』と答えるべき所が、まさかの『先生』と言ってしまったペッパーは、内心で焦りに焦りまくり、脳内はサイレンが鳴りまくっていた。

 

室内には沈黙が満ち、ヴァイスアッシュが静かに立ち上がり、一歩また一歩とペッパーへ歩み寄って。

 

そして――――――――――――

 

 

 

 

 

彼の大きく、優しい掌が、ペッパーの頭の上に乗っていた。

 

 

 

 

「そうか、先生…か。成程なァ…先の者より教えを乞う以上は、おめぇさんは弟子か。気に入ったぜ…其の心意気」

 

そう言ったヴァイスアッシュの瞳は、ペッパーの覚悟を見定め、其の覚悟に答えんとする先達者としての眼だった。

 

彼は自分の懐から、1枚の赤い布を取り出して宙に放り投げると、まるで命を得たように布はペッパーの首に巻き付く。

 

「おめぇさんにコイツを授ける。強さに至りたくば、尋常成らざる苦難と覚悟が必要だァ。其の身に宿ったヴォーパル魂、決して忘れるべからず。………それとアイトゥイル。コイツの世話は任せたぜ」

「任せてぇな~オカシラ~。ペッパーはん行きましょか~」

 

アイトゥイルがペッパーの袖を引っ張るが、彼は全く反応しない。ペッパーは『気絶』していたのだ、ヴァイスアッシュが手を頭に置こうとした瞬間、此迄に積み重なった情報量に脳がパンクして、自身を守るセーフティが発動。

 

お辞儀をしたまま、ピタリと動かなくなったのである。

 

「ふふふ…オカシラの慈悲に感極まってまったんやろなぁ~。まぁええ、運んであげましょか」

 

アイトゥイルは動かないペッパーを「よっこいしょ」と持ち上げて、軽々と自分の部屋へ運んでいく。

 

此れがペッパーと、ヴァイスアッシュとの出逢いであり。そして其の子供の1人にして、彼の相棒として付き合う事になる黒いヴォーパルバニー・アイトゥイルとの、始まりでもあったのだ。

 

 

 






大御殿で頭は一杯
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。