VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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戦い抜け、クエストを越える為に




第三楽譜は終わりを告げて、歌声は終幕へと向かう

「とうとう、其の手に剣を取ったかい━━━━ペッパー」

 

兎の国・ラビッツ………兎御殿から街を一望出来る部屋から沈む夕陽を見、煙管を吹かすヴァイスアッシュは『己が打った鐵』の臭いを感じ取っていた。

 

「積み重ねた戦いの重さが、其の剣を抜くに値するに……至れたってェ訳だぁ」

 

墓守の御人の遺した『魂』を、最強種の一角たる夜の帝王に一矢報いた『強さ』と混ぜて、鍛えて産まれた其の『剣』。彼からすれば、未だ『赤子』の様な存在でもある。

 

其の剣は、持ち主と共に歩み。

困難を乗り越えて、強敵と凌ぎを削り。

神へと至り、七つの星を剣身に納めた時。

 

剣は初めて、本当の意味で『完成』する。

 

「何時か『大きな事を成し遂げたならァ』………託してやっても(・・・・・・・)良いかも知れねぇなぁ」

 

煙管を吹かし、煙を空に放つヴァイスアッシュ━━━━の後ろには『箱』が鎮座している。其れは遠い、永い、遥か昔に産まれた、神代の頃の『遺産』。

 

旅をして真実を知り得た兎を模倣した(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、大いなる遺産が納められた箱は、時と勇者の到来を今尚も待ち望み、唯々静かに在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「往こう━━━━━星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ!」

 

黒鞘に納められた剣の名を述べ、夜襲の刻んだ呪い(マーキング)から装備不可の力のみを吸い取り、右手に其れは握られた。蒼空を舞う勇者(ペッパー)に贈られた彼の為の剣が、劇場の中でもスポットライトに負けぬ煌めきを放ち、まるで主役の登場を引き立てる様に輝く。

 

そして空気を読んだのか、はたまた思考を更新中なのか、黒ペッパーも動かずに待機している。

 

「あーくん、其の剣何!?何で右手に装備出来てるの!?というか、此処何処なの!?」

「詳しい話は後だ!」

 

其の言葉をトリガーとして、黒ペッパーが碧千風を抜刀し、レディアント・ソルレイアにエネルギーを送り込み、再び空を駆け上がる。

 

「大盤振る舞い……往くッぜぇ!!!!」

 

温存していたバフを全て起動し、空中に跳躍したペッパーが黒ペッパーの後を追う。相手が窮速走覇(トップガン)を使った時、ペッパーは一部のスキルを温存して、攻撃を耐え忍んだ。何よりも自分のスキル達は強力であるが故に、長い再使用時間(リキャストタイム)を抱えているのを、ペッパーはよく知っている。

 

「窮速走覇の残り時間は一分くらいだろう?」

 

黒ペッパーが聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)を使った時の加速は、烈風轟破(れっぷうごうは)による加速で無かったのをペッパーは感じた。だからこそ確信出来る━━━━━━此の戦いは、自分が窮速走覇を使えていたなら(・・・・・・・)、相手が勝利を掴み取っていたと。

 

「だが俺は其の一分を逃げて、やり過ごすつもりは毛頭無い!生前奏だ、決着を着けようぜ!」

 

全身全霊、全力全開の己をぶつける。其れが黒ペッパーへ、影法師への礼儀だと、ペッパーは信じているから。グランシャリオを逆手に持ち、インベントリから碧千風を取り出して、左手で鞘から抜き放つ。

 

リュカオーンと戦い、右手が呪いにより封じられ、あの日から出来なくなった二刀流。今こそ、思う存分に暴れよう。

 

「勝負!」

 

黒い双星が流星となって、劇場の空にぶつかった。幾度の激突による火花を散らし合い、命を燃やして爆ぜる様に剣と刀の、鉄と鉄の鍔競り合うシンフォニーが奏でられる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

『━━━━━━━━━━━━━━!!!!!!』

 

武器が砕けてしまうのでは無いかと思われる程に、激しく荒々しく刃がぶつかり合う。そして二つの流星の攻撃は首筋を狙い、鳩尾を貫かんと振るわれる。かと思えば空中で脚が薙ぎ、刃だけの戦いではないと言っているかの様にも見えて。

 

そしてペッパーは予感する。此の戦いは先に、致命の一撃を当てた方が勝つと。自分を元にして現れた黒ペッパーなら、自分と同じ思考をしている筈だと。手数は刀と剣の二刀流によってペッパーが有利、対して一撃の威力と速度ならば両手を使って刀を振るえる黒ペッパーが有利。

 

刃が、籠脚(ガンドレッグ)が、身体を掠める度に、ポリゴンが散り。ペッパーの握るグランシャリオが横一文字で、黒ペッパーの左脚前太腿を切り裂いた瞬間━━━━━声が劇場に響き渡る。

 

幻想曲(ファンタジア)は、終幕(フィナーレ)へ向かう………。勇者は巨大なる機械を斬り倒す……。風雷迸り……天を駆け、………月を割るは、秘奥の一撃………』

「!━━━━倒したモンスターは『同じ』でも、其の時の倒し方は『同じじゃない』パターンも有るって事か!上等だ、やってやんよ!」

 

二度目に戦った時の自分を出され、最初に倒した時の再現を要求する。此れを仕掛けてくるユニークモンスターを作った人間は、相当性格の良さと趣味の悪さが混同していると思われる。

 

「うおおおおおおお!頑張れ、俺の両腕とシナプスぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

剣と刀を握り振るう両腕と、其れを動かし続ける脳が悲鳴を上げているが、此処で決めきれなくては勝ちの目が無くなってしまう。

 

黒ペッパーの刺突に対し、グランシャリオで剣道で言うところの小手返しを使って体勢を崩し、スキル『刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)】』を起動。

 

渾身の切り上げが黒ペッパーの身体を━━━━━━━『すり抜ける』。

 

「……やられた━━━━━━━」

 

黒ペッパーは小手返しの瞬間に、此処まで使わなかったウツロウミカガミを使い、レディアント・ソルレイアのブーストを掛けて、ペッパーの死角に回り込んでいた。

 

黒ペッパーの真なるフィニッシュムーヴは、サキガケルミゴコロとウツロウミカガミの併用による、ペッパーの意識が完全に目の前に集中しきる瞬間を狙っての『十傑斬覇(じゅうけつざんは)』。此れ「と思っていたか?」

 

其の刹那、斬り掛かろうとした黒ペッパーの目の前で、突如『膨大な威力の竜巻』が至近距離で発生。レディアント・ソルレイアを装備していた為に風を吸い込み、直接的な被害を被る事は無かったが、突風発生で僅かに『数秒間』黒ペッパーの動きが止まり。其の数秒で己の身体を二十の翡翠の迅が走り、ポリゴンが撒き散らされる。

 

刀系統武器スキルで、斬撃を当てて次の斬撃を当てれば其の分だけ攻撃間隔が短縮される『刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)】』。

斬撃スキルであり、一定以上のスピードでの攻撃時にスタミナ減少を抑制し、クリティカル補正を増大させる『スラッシング・ファンファーレ』。

そして刀系武器スキルで、二十連続の鱠斬りを放つ『連刀二十刃(れんとうはだち)』のスキルコンボ。

 

「楽しい戦いを、ありがとうございました」

 

タチキリワカチの一閃が、滅多斬りにされた胴体を文字通り『断ち斬って別ち』、真っ二つ。其れがトリガーとなってか、劇場が崩壊を始めて。ふとVIP席を見れば、アイトゥイルとポポンガを抱えて、レッドカーペットの滑り台からステージへ降り、観客席に走ってくるペンシルゴンの姿が在った。

 

其れと同時に劇場で響く歌声が、此の場に居る全ての者に聞こえてきた。

 

『勇者は三度、其の力を示した。………光を、輝きを、そして強さを。影は貴方を見ています……どうか、どうか………最後にもう一度。貴方の魂の歌を……奏でて、繋いで………』

 

直後、襲い掛かるは強烈な眠気と気だるさ。ペンシルゴン達が抗おうとするも、遂には眠りに落ち。そしてペッパーの前にはリザルト画面が表示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は影法師の試練を越えた』

『魂の音色は紡ぎ、終わりへと向かう………』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

『全ての歌を歌う時、影法師の愉快合羽は己の身より離れる』

『残された歌は━━━━━━━一つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 






影法師の唄は、遂に最後へ






???『グルルル………!』

???『嗚呼……不快だワ……。男ト、ウサギ、そして犬が混ジッた、不快ナ臭い………』

???『ハハハ!クハハハハハ!面白い、実に面白いぞ……!クックック………!』

???『遺志は………受け継がれる………』




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